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鷹がトンビを産んだ一例


「おい、お前!!」


 あの騒動から1ヵ月が経った頃、馬鹿王子事ブルクハルト・クノープロッホが私の前に立ちはだかった。


「はい?」

「……」

「……」

「……何か言ったらどうなんだ!!!!!」


 人の掌の上で転がる芸でも持っているのではというほどの転がりっぷりである。曲芸師いらず。


「御用がおありなのは殿下でしょう?何か?」

「挨拶もまともに出来ないとは、これだから平民は。まあいい。アーデルトラウトはどこにいる」

「知りません」

「知りませんじゃないだろ!!!」


 王子の大声は廊下どころか各教室にも響いたようで、窓を開けてこちらを窺う野次馬の人数が増えた。

 私はあまりに理不尽な怒声にちょっとビビりながらも殿下の話に付き合わなければいけない。階級社会もそうだが、こういう時聖職者であることが本当に嫌になる。


「そう申されましても、虚言を吐くわけにもいかないでしょう」

「俺が物事を尋ねたらその答えを持ち帰るまで返事をすることは許されん!!!そんな事も知らないのか、全く。そのような頭の出来でこの学校に在籍するとは、豚に真珠だな」

「では使用人にお尋ねになればよろしいのでは?殿下のいう常識を兼ね揃えた方ですよね」

「俺が命令する相手は俺が決める!図々しい奴め!王家の抱える使用人をお前が使おうとは何事だ!!!仕置きが必要だな、こい」

「嫌です」

「嫌ですじゃない!!!」


 この学校は平等を謳っているんですよ?ともう耳にタコが出来そうなほど聞いたはずの言葉を言おうとして飲み込んだ。礼の騒動の後、全校集会でその話は散々していたし、きっと殿下の謹慎中にも賢王と名高いお父様からも聞いているはず。


「国王陛下から態度を改めるようにお話はなかったんですか?」


 ビクッと反応してから馬鹿王子の身体がどんどん丸まっていく。


「そうだ、お前のせいで酷い目にあった。今もあっている。アーデルトラウトが行うはずの職務が全て俺の元に流れてきた。俺は、国王になる男なのに!!あんな雑務俺の仕事じゃない!!!」

「雑務と仰るなら処理自体は出来るのですよね?それで国王陛下のお怒りが収まるなら謹んでお受けするのがよろしいかと」

「国の仕事はお前が考えるより複雑なんだ!!知ったような口をきくな!!」

「なるほど、リリエンルローン様は本当に優秀であらせらてたのですね」

「アーデルトラウトはどこだ!!!」

「殿下、被害者と加害者を対面させるにはいくつもの手続きが必要です。あなたは自分のしたことをきちんと理解するべきです」

「黙れ!!おいお前ら!この女を黙らせろ!!!」


 大分追い詰められているようだ。自分の騎士や使用人ではなく生徒に向かって怒鳴り散らしている。もちろんその命令に従うものはいなかった。


「殿下、善良な生徒をいじめるのはやめてください」

「何っ?!」

「ここは平等を謳う学園です。学生同士の身分を笠に着た発言は禁止されています。なにより私は聖人としての立場を持っているので、この捕縛が不当なものだった場合、教会が黙ってはいないでしょう。……これ前にも話しましたよ?」

「知るか!!!俺の為に命を捧げる訓練をしているのがここの生徒だろうが!!!」

「あーらら」


 ちらりと彼の後ろに立つ王家使用人の目が死んでいる。プロでもこうなのだから生徒の動揺は計り知れないだろう。ざわざわとまわりの話し声が自分を非難するものだと気付くと殿下は周りに怒鳴り散らしながらこの場を去っていった。


「あ、殿下ー!ご忠告です!リリエンルローン様と11人の被害者の方には結界を張っているので、迂闊に触れないでくださいね!バチッとしますよー」


 その日の昼休み、ある教室から物凄く情けない悲鳴が響き、出て来た殿下の爪は1つ完全に剥げていたらしい。どんだけ強く腕を握ろうとしたんだろうか。でも王宮には教会に所属していない神官がいるというし、大丈夫だろう。


 予想外だったのは、国王命令で殿下の治癒が許可されなかった事だ。加えて、利き手の怪我を理由に職務の代理をたてる事を望んだが許されなかったらしく、羽ペンを血で染めながら毎日泣いていると風のうわさで耳にした。


 一番怖いのは陛下を怒らせた殿下の末路ではなく、王宮での、しかも殿下の執務室での内容が学園内に筒抜けな事だ。忠誠心を裏切られた有能な使用人が口を滑らしているという事実が何より恐ろしいのだが、私はその事に気付いていないふりを決め込んだ。私の管轄ではないのでね。



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