転移したばかりなのに、子供にナイフを突きつけられた件
2XXX年 東京 冬
帽子を深く被り、コートを羽織ったスーツ姿のとある男。
端からみたら只の会社員だと思われるだろう。
だが、この男 殺し屋 である。
男は先ほど任務を終え、帰路を辿っていた。
殺し屋「家に帰って早く寝なければ」
殺し屋の頭はそのことで一杯だった。
『あと50m』信号が青になるのを待ちながらそんなことを考えていた瞬間だった。
高校生くらいだろうか。その男が急に、赤信号にも関わらず車が往来する道路に飛び出したのだ!
殺し屋の身体はとっさに動いていた。動いた後に後悔した。
殺し屋は男を前に突飛ばし車に引かれた。あまりにもあっけない最期だった。
殺し屋「こんなんで俺の人生は終わるのか… まぁあの人みたいに人を助けて死ねるなら… 悪くないかも…な なぁ◯◯さん…」
―――――――――――
重いまぶたを開けるとそこには薄暗い森が広がっていた。
少し戸惑って首を傾げた。 自分がなぜここにいるのか あのとき自分は確実に車に引かれたはずだ。
なのに目の前に広がっているのはどこまでも広がる木々。空は木々で覆われており、太陽は確認できなかったが、辺りの葉に水滴があることを見るに恐らく朝だ。
頬をつねり、夢ではないことを確認し、戸惑いながらも周りを見回す
辺りには自分の持ち物が散乱していた。1つずつ思い出しながら拾い集めていき、持ち物を確認した。
~殺し屋さんの持ち物だよ~
愛用のリボルバー 弾6発入り
煙玉
仕込み指輪 2つ
ロープ
サイフ
スマホ 事故った影響か何故か電源がつかない
ナイフ2本
そして一番大事なチュッパチャプヌ(飴)7本入り
殺し屋『とりあえず全部あるな……?』
持ち物をコートにしまおうとした瞬間自分の後ろに本が落ちていることに気づいた。
殺し屋「なんだこれ?」
本は古ぼけており、見たこともない文字が表紙には描かれている。
不思議に思いつつも中身を見る。
そこには俺の顔写真が とはいってもかなり画質が粗く、本人の俺でなければまずわからないであろうものが貼り付けられていた。
驚いたのはその先で、身長 体重 使う武器 俺の個人情報が全てその本には載っていた。
普通殺し屋は自分の本当の情報がばれないように全て嘘の情報で世の中を渡り歩く。自分の情報がばれることは命を危険にさらすことになるからである。
それはこの俺でも例外ではない。
焦るべきではあるが、俺は未だに自分が生きていると実感できていなかったため、先を読み進めた。
すると下の方に奇妙なことが書いてあった。
能力
Go my way
移動した過程をとばすことができる
技術者
視認した道具の詳細がわかる。
殺し屋「Go… my…way……?」
訳がわからない。俺の個人情報が細部まで書かれているかと思えば今度はマンガの世界のような能力とやらが書かれており、馬鹿馬鹿しくなって読むのをやめた
がこのGo my wayという能力の下の説明に書かれていた『移動した過程をとばす』 つまり瞬間移動だ。
これが仮にできるのであれば家に帰れるはずである。早速頭に自宅を思い浮かべ呟いた。
殺し屋「Go my way…」
何も起きない
スカイツリーや国会議事堂など有名なところを一通り思い浮かべてみたが結果は変わらなかった。
普通なら誰かのいたずらだと認識できるが俺の頭には2つの仮説が生まれていた。
1つ目は海などに囲まれて移動する手段がなく、この能力が使えない。
2つ目 そもそもこの世界に俺の家が存在しない。
1つ目ならまだいいが、仮に2つ目だった場合、大事である。
自分はどちらかというとオカルトを信じる方であり、存在しないなら自分は『過去か未来にタイムスリップあるいは必ずあるといわれている平行世界』に来てしまったことになる。
殺し屋「とりあえず水の確保だな」
ここがどんなところかもわからない以上無闇に歩いて街を探すよりも、辺りの地形から川を探し水を確保したほうが生存の確率が高いと判断したからである。
俺は辺りを見渡しながら歩き始めた。
―――――――――――
あれから少し歩いた所で、俺はこの世界に来て初めて安心した。
小屋だ。かなり傷んでいるが、辺りには人の足跡がありこの世界にも人がいるということを確信した。
安心しすぎて川を探すことを忘れた俺かわ駆け寄り、ドアに手をかけようとした瞬間だった。
左から子供が叫びながら突進してきた。
子供「やめろー!!」
言語が通じる!日本語、しかも標準語だ!!。
子供はひどく興奮しており、手にはナイフを持っていた。
俺は子供の動きをよく見てひらりとかわす。
子供は勢い余って近くの茂みに激突した。
殺し屋「いきなりどうした小僧?」
子供「姉ちゃんに!姉ちゃんに!手を出すな!!」
そう叫びながらもう一度突進してくる。
俺は今度はかわすのではなくすんでのところで相手の直線上から消え、手からナイフを奪った。
殺し屋「落ち着け。なんでこんなことをする?」
諭すように子供に語りかける。
子供「うるせぇ!お前また姉ちゃんを拐う気だろ!!」
殺し屋「お前何を勘違いしてんだ!俺はここに来たばっかだし、ここに来て、お前以外に人と会ったことなんてないぞ!?」
子供「え……」
興奮が収まったのかさっきまでの叫びが急に消え、血の気がどんどん引いていく。
殺し屋「とりあえず落ち着いて、なにがあったか話してみろ」
―――――――――――
子供「姉ちゃんとは血が繋がってなくてさ、俺が路頭に迷って街の路地を歩いていたときに、檻に入った姉ちゃんを見かけたんだ。よくある人身売買だよ。姉ちゃんの奥の方で綺麗な服着たおっさんが他の人と話してた。俺、なんでかほっとけなくてついおっさんから檻の鍵を奪って姉ちゃんと逃げたんだ。そしたら街にいる間ずっと怖い人たちから追いかけられて、だからこうやって森で暮らしてるんだ。最近はあいつら森も捜索してるけど。」
今の話でわかったことが2つある。
1つが近くに街があること。
2つ目が俺には関係のない話だということだ。
殺し屋「そうか、大変だったんだな。 まぁがんばれよ。じゃあな」
子供「ちょ、ちょっと待ってよ!こういうのって助けてくれるもんじゃないの!?」
殺し屋「甘えるな!!誰かがいつか助けてくれると思うなよ!?追われてるならここよりも更に遠くの街やら国に行けばいいだろう!」
子供「できないんだ…姉ちゃん…森に来てから採れた食べ物はほとんど俺にくれてろくに食べないから、そのせいで体調が悪いんだ…だからこれ以上無理に移動させることができない」
そう言って小僧は顔を伏せてしまった。俺は大きくため息をつき1つの提案をした。
殺し屋「ならこうしよう。お前の姉は俺が治してやる。そのかわりお前はこの世界について知ってることを俺に話せ」
子供「そしたら姉ちゃんを治してくれるの!?」
殺し屋「あぁ約束する」
子供「絶対だからね!あ、でも先に姉ちゃんに水を飲ませなきゃ!!それに姉ちゃんの方がこの世界に詳しいしね!」
お前の姉は人身売買されてたのになんで詳しいんだと少し疑問に思ったが、子供の心底嬉しそうな笑顔に何も言えなかった。
子供「ただいまー」
小僧はそっと扉を開き俺を招き入れた。
部屋は閑散としており、敷き布団が一枚、その上に背丈からして14歳くらいの少女がぐったりと横たわっていた今は寝ているようだ。俺は静かに近づき脈拍を計って、身体の異常を調べた
殺し屋「こ、これは…」
子供「何!?姉ちゃんそんなにひどいの!?」
殺し屋「栄養失調だな…それもタンパク質・エネルギー栄養障害だ。小僧、こいつに今まで何食べさせてた?」
子供「ほとんどが木の実で本当に稀に魚だよ。俺、狩り苦手だし…」
殺し屋「狩りって…肉を手に入れることくらいはできなかったのか!?今は一刻も早く、こいつにたんぱく質を採らないと…」
子供「俺だってそうしたかったさ…でも街にはあいつらもいるし、お金だって全くないんだ!」
殺し屋「あぁ…そうだった…熱くなってすまなかった。」
さてどうするか?といってもどうもしないな。俺が街へ行って肉なり豆なり買ってくればいい。
殺し屋「なぁ1つ聞いていいか?おまえらの国の通貨とか金とかはどうなってんだ?」
子供「通貨?金貨とか銀貨のこと?」
嘘だろ…日本語が通じるから勝手にてっきり現代の日本のどこかとか考えていたがここにきて通貨が金貨、銀貨の世界とは…
本当にこの世界どうなってやがる…
それ以上に危惧すべきは俺の持ち金が使えないということだ…
殺し屋「かくなる上は…小僧、少しの間姉の看病してろ。狩りに行ってくる」
子供「おじさん、狩りできるの!?ここらへんのやつらすごく強いんだよ!?」
ぷっつーん…俺の頭の何かが切れた
殺し屋「いいか!よく聞けよ小僧!!俺はまだ20代だ!!おっさんじゃねえ!!それに俺をなめるな…狩りに関しては何度も経験がある…」
まぁ専門は人の狩りだが…
子供「ご…ごめん…でも絶対に戻ってきてよ!?逃げたら許さないからね!!」
殺し屋「わかったから…姉の看病しながら良い子にして待ってろ…」
そういって俺は扉を開き外の世界にもう一度足を踏み入れた
―――――――――――――
俺はやはり、夢を見ているんだろうか…目の前に立つイノシシ?は俺の知っている造形とは全く異なり身体に石のようなものが貼り付き、さらには額に角が生えていた…まるでゲームに出てくるイノシシのようだ
ここで俺は確信した…ここは現代でも過去でも未来でもましてや、
日本でもない…ここは平行世界…いや異世界だ!!
そんなことを考えていた矢先イノシシは俺に向かって突撃してきた。
戦闘開始!!!
体格はあまりでかくないが、イノシシの突進を人間なんかがくらえば大怪我は確実である。突進をかわせない俺ではないがな
俺が左にひらりとかわすと突如としてイノシシの牙が伸び俺の服を少し切り裂いた
殺し屋「!?」
あと数秒かわすのが遅ければ腹を切られていた…
戸惑いながらも近くの木々にピアノ線をくくりつける
ピアノ線がどこにあったかだって?ずっと持ってたぞ
仕込み指輪の中に!
即席のトラップを作っている間にイノシシは体勢を整えもう一度突進してきた。
予想していたよりも少し早いがこちらもトラップを完成しおえ、
イノシシが近づくギリギリまで待ち、先ほどより少し早く左にかわした。イノシシも先ほどと同じように目標を見失い、そのまま突っ込んでいった。ただし先ほどとは違い設置したピアノ線に足をとられて、おもいっきりズッこけた。
さて捌きますか…
ちなみにもうひとつの指輪の中にはピアノ線さえ断ち切る仕込み刃がはいっている。
―――――――――――
近くに川があったため、血抜きと内臓の処理をして、やつらのために肉を捌いていく。がやはり猪はまずかったな…かなり余ってしまった。仕方がないので自分用にと思ったが……火が、火がねぇ!
何かないかとポケットや服の中隅々まで、調べた。
すると、奇跡が起きた…コートの内側のポケットにもう少しでオイル切れのライターがでてきたのである!
早速火種になるものを探した結果よく乾燥した松ぼっくりによく似た物を手にいれた。火種としては優秀な子である。
※ここから先は殺し屋さんの食事シーンになります。読み飛ばしても本編に影響はありません。
俺は猪の肉をまた一人分捌き、鉄板がないので石の上で焼く。味は元の世界の猪によく似た少し癖のある味だったが、かなり柔らかかった。ただすごく油っこいな。そう感じた俺は木々から、これまたレモンによく似たものをもぎ取り、葉の上にのせナイフで細かくすり潰す。それを熱せば…完成!
即興果実のソースの出来上がりだ。
ちなみに毒がないことは道中鳥が食べたところを確認しているため問題ない。
ではまた、一口…
殺し屋「旨い!」
思わず声が出てしまった。ソースは酸味が強いがほんのり甘く、肉の油っこさを打ち消し、互いに旨味を引き出しあっていた。
殺し屋「ごちそうさまでした。」
食事を終え、手を合わせて感謝する。
俺は横目でちらりと未だに残っている猪を見る。。食べきれない…
少しでも減らそうと肉を、燻製にしたりと工夫したがそれでも残ってしまった。
どうしたものかと悩んでいると、後ろから殺気を感じた。振り向くと唸りながら数匹の狼が近寄ってきた。血の匂いをたどってここまでやってきたのだろう。
俺は安心して、背を見せないよう後ずさりしながらその場を離れる。俺が離れていくとわかった途端狼たちは猪を食らい始めた。
よかった。命を無下にすることは殺し屋であろうと気が引ける。
かなり時間がかかってしまった。
そう思いながら急いで着た道を引き返す。
ようやく小屋の近くまでたどり着き俺の目に飛び込んできたものは、
小僧が4人の大柄の男たちに殴られている光景だった…
もう1つの仕込み指輪にはボタンがついており、押すと小さな刃が飛び出ます。
この作品主人公はちょっと自信過剰ですが、腕は現代でも5本の指に入るという設定です。
暖かい目で見守ってあげてください。