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転生チート令嬢は究極に料理が出来ない。  作者: 亜野朱
第1章 転生チート令嬢は普通じゃない。
7/29

誕生日会では大人の対応しなきゃいけない。

 誕生日会当日。

 チェシルを始めメイド達に髪をハーフアップに結って貰い、色々な生地が重なるピンク色のドレスを身に纏った私は、自分で見ても童話か何かのお姫様のようだった。

 そして一歩パーティーの会場に足を踏み入れると、たちまち私は挨拶に追われた。 


 当初予定していた参加者は領内の村長や代表、レングランド領に関係する商人やお父様お母様の知り合いだけだったにも関わらず、この数日で出席を希望する貴族が増えてしまった。

 ラスの言うとおりだったわ。他の領どころか、国王貴族まで来るものだから、もう朝から屋敷はひっくり返ったかの騒ぎだった。レンタルDVD返すついでにコンビニ寄るみたいなノリで人の誕生日会に来ないで欲しいわ。

 村長とか商人だけだったら立食パーティーでその場で終わるから大広間だけで済んだものを、お偉いさんが来たら人数分控え室の準備をしなきゃいけないから大変なのよ。ただでさえ、レングランド家は大きな屋敷の造りをしているわけじゃないんだし、臨時で雇うメイドの人数だって知れてるわ。


 結局会場も大広間だけでは人が多くて不便だというので、庭へと繋がる扉を開錠して、半分野外パーティーのような会場になった。

 おかげで夜風が吹き抜ける涼しい空間にはなったのだけれど。


「リノ様、お誕生日おめでとうございます。お噂どおりお綺麗なお嬢様ですね」

 あはは。

「この度はおめでとうございます。噂はお聞きしましたよ。かなりの魔法の使い手とか」

 あははは。

「リノ様はメニーダ様と同じく治癒の心得がおありとか、今後はやはり治癒の勉強を専門にされるんですか?」

 あはははは。


 自分で蒔いた種とはいえ、もう見事なまでの噂の広がり方だわ。まさか、他領や国にまで話が広がるとは思っていなかった。まあ、警備団の中に他領の冒険者がいたり、武器の販売や修理に他領の商人がいたらしいし、ガムサキ村滞在中の見物客もいたわけだし、こうやって広まるのは仕方ないか。

 とはいえ、『リノ様フィーバー』は村だけで終わって欲しかったわ。


 私は会う人会う人に挨拶をしてお礼の言葉を伝えていく。前世ではクラスメイトの顔と名前を覚えるのってそんなに苦手な方じゃなかったと思うのだけれど、こうもお客様が多いとちょっと自信なくなってくるわ。

 ただ、沢山お客様が来るということは沢山ご祝儀が貰えるということでもある。装飾品や高級な食べ物、金品が別室に山積みになっていく。大きな宝石の原石とかもあったけど、正直こんな置物を齢15歳の女の子の誕生日に送る人の顔が見てみたい。まあ、これらのものは私を思って贈ってくださったものばかりではないことは承知している。メイド達が話していたのを聞いたけれど、このお祝いの品は素直に私の誕生日プレゼントというわけではないらしい。レングランド家に恩を売りたい者、レングランド領になんらかの権利を求める者が名刺代わりに置いていくのだという。更に今回は私の魔法の力を利用したいと企む者まで追加されているらしい。あー、ヤダヤダ。みんな強欲なんだから。

 でも、お金に罪はありません。これらお祝いの品はお父様と事前に話をして、最終的に領内の村に配分することにした。正直こんなにお祝いの品があっても邪魔なだけだし、領に還元してこそ、領の皆様あっての私達レングランド家ですもの。


「リノ、ちょっといいかい」

 私は少し離れたところで挨拶をしていたお父様に呼ばれて人混みを抜けていく。

 お父様の横には他の貴族よりも高価で繊細な装飾がされた服を着た40代くらいの男性が立っていた。

「リノ、こちらは国王都市で王立学園の理事をされているショーム・タダナギ公爵だ」

「はじめまして。リノ・レングランドと申します」

「はじめまして。ショーム・タダナギです。この度はおめでとうございます」

 公爵ってことは国王一族の方じゃない。お父様が三大騎士だったからとはいえ、こんな辺鄙な領の辺鄙な屋敷までわざわざお越し頂いて有難いやら申し訳ないやら……

 ちなみに、王立学園は国王都市に所在する学校で、剣技や魔法、治癒等あらゆる勉学を行っている。後から話に加わったお母様も、若い頃に王立学園で回復魔法を習い、一度は宮廷看護師になったと聞いたことがある。

「久しぶりですわね、ショーム様」

「メニーダ様もお変わりなく。リノ様もメニーダ様によく似てとても美しくあられますね」

 どうやら2人は王立学園の同級生らしい。いいな、同級生。いいな、友達。

 私も本当だったら前世で高校生活エンジョイしていたはずなのよね。部活入ったり、新しいクラスメイトと出かけたり、遊んだり……

 はあ、こんなはずじゃなかったのに。


「リノ様が魔法や回復といった素質がかなり高いというお話を聞きましてね、王立学園に迎え入れてはどうかと理事会内部で話がでております」

 なんと!学校?私学校行けるの?友達と楽しい楽しい学園生活なんて送れちゃうわけ?

 箱入り娘からかなりの昇格じゃない!

 死んで1度は諦めた学園生活が、今ここに蘇るわけですね。

 行く気満々の私の横で、お父様とお母様は困ったような顔を見合わせていた。……あ。察し。


「とても有難いお言葉ですが、レングランド領は民と共にある領であり、王立学園に貢献できるほどのものはございませんの」

 王立学園と言えば国王一族、裕福な領主や商人の子どもが通う学校。所謂献上金、学費的なものはかなりの高額のはず。そういえば前世でも『うちはお金がないから私立なんて行けないよ』と言われて公立受験したんだっけ。確かに、そんなお金があるならもっと領内の人々の暮らしをよくする方を今の私なら選ぶわ。

「それに私も不自由な身体ですので、娘には悪いですが出来る限り領内の管理を手伝って欲しいと考えています」

 お母様お父様の言葉に、ショーム公爵はそうですか、と残念そうな顔を見せた。

 両親のすまなそうな目に私が映る。

 安心して、お父様お母様。私も育ててくれた2人のため、領のために生きることは苦ではないから。

「領内の管理も学ぶ学科もありますし、役に立たないということはないとは思うのですが……」

 ショーム公爵はふうっと息を吐いて続けた。


「リノ様ほどの実力があるお方なら、特待生として学園に来ることも可能かと思ったのです。それに、ここだけの話ですが、現国王の第一皇子クロス様がリノ様と年齢も近く、学園での成績を見てからにはなりますが、お妃選び候補のお一人としても内部では考えておいでです」

 ここだけの話と小声で話すショーム公爵の言葉に、お母様はあんぐり開けた口元を片手で隠した。


 え?

 お妃?

 いやいや、それは全然惹かれない。寧ろ退くわ。私は友達と楽しい学園生活を過ごしたかったのであって、お妃に選ばれるとか勘弁だわ。

 それに、よく考えて。私の実力って貴方が見たわけじゃないじゃない。特待生とやらに慣れなかったら貧乏領どころか、領民に顔向けできなくなるじゃない。

 あ、それ以前に相手が私見て幻滅する可能性だってあるわよね?


「リノ様はいかが考えていらっしゃいますか?」 

 ショーム公爵は私に向き直り笑顔で聞いてくる。お妃というパワーワードで私の気を惹けると思ったのかしら?逆効果だけどね!

 私は……

「私は先日までこの屋敷、敷地から出たことがありませんでした。ですから、外の世界で多くの物を見て、知り、学びたいとは考えております。ただ、それ以上にお父様お母様、レングランド領の民のために尽くしたいとも思っております」

 


「大変有難いご提案ではございますが、今はまだ世間知らず故、今後領内の生活を見てから考えさせていただければと思います」

 ドレスを摘まみ、低い姿勢で礼をする。


 本当はきっぱり断っちゃいたかったけれど、お父様お母様の手前、公爵様相手にそんなこと出来ないしね。


「そうですか。では他の理事達にはリノ様のお考えを話しておきます。また、お時間のある時にでも学園の見学にいらしてください」

 ショーム公爵も丁寧にお辞儀し、お父様お母様に会釈し「このことは内密に」とだけ口止めしてお帰りになられた。


 うーん、やっぱり早まったかなあ。学校生活はしてみたかったなあ。この世界に安い学校ってないのかしら?



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