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転生チート令嬢は究極に料理が出来ない。  作者: 亜野朱
第1章 転生チート令嬢は普通じゃない。
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火力半端ない。

「きょ、狂暴化の魔物が出るぞ!」

 皮鎧を着た男が突然洞窟の中から飛び出してきた。

 頭からはおびただしいほどの血が流れ、手に持ったレイピアは先端が折れ曲がっている。


「この間出たばかりじゃないか!」

「戦える者は入口を囲め!」

「誰か村へ応援を要請しろ!」


 男達は吠えるように叫び、テントから剣や槍を持って飛び出してくる。

 って言っても、ほとんどが包帯巻いていたり足引きずったりしてるじゃないの。狂暴化の魔物がどの程度のモノが知らないけれど、私でも分かるわ、これ絶対ダメなやつ。


「領主様、リノ様。ここは危険ですので一度村へ……」

 カンデ村長が私達に戻るよう慌てて促す。

「いや、非常事態であろう?私も参戦しよう」

 お父様はそう言ってカンデ村長の提言を断り、腰に差していた長剣を取り出した。装飾された長剣は三大騎士として国に仕えていた頃に国王陛下から受け賜わったものだと聞いたことがある。宝石が散りばめられた装飾ではあるけれど、決して玩具なんかじゃない。たぶん、見る限りこの場にある武器の中で一番優秀な武器だと思う。

「リノは下がっていなさい」

 そう言って洞窟の柵へと近づくお父様の足は、普段と同じで引きずるようにして歩いている。怪我が元で三大騎士を辞めて、この村の警備団の団長も辞めたっていうのに、どうにかなるっていうの?三大騎士次代の実力とか知らないけれど、本当無茶しないでほしい。

 周りの男たちは元三大騎士が一緒に戦ってくれると言うのでかなり士気が高まっているけれど、今のお父様がこの過度な期待に答えられるとは思えないのよね……


 私は先ほど洞窟から飛び出し伝達してくれた男に近づき肩を支えた。

「大丈夫ですか?」

 男はかなりびっくりした顔をしていた。それよりも顔色が悪い事の方が気になる。頭からの出血の量が多いんだわ。

「リノ様!……お、おいお前、こちらはレングランド領領主様のご令嬢リノ様だぞ」

「お、お嬢様?……だ、大丈夫です。お洋服が汚れてしまいます」

 男はカンデ村長から私の紹介を聞くと、私から離れるようにして後ずさりするが、そのまま急に後ろにひっくり返りそうになった。

 もう!なにが大丈夫よ!だから出血多くて倒れそうになってるじゃない!


「気にしないで。それより、簡単だけれど私回復魔法が使えるから」

 私はそう言って男の体に両手を翳す。私の両手から淡い緑色の光が沸き上がり、男の体を包んでいく。

「お嬢様は回復魔法をお使いになられるのですか……」

「お母様譲りの回復魔法だからそんなに期待しないでね」

 はい、嘘付きました。

 正確にはお母様譲りって言うよりは女神から貰ったおまけスキルだと思うんだけどね。

 おまけスキルの割にはお母様が扱う下位の回復魔法よりも上位の回復魔法まで使えるし、面倒くさいからお母様譲りってことにしている。過大なスキルは渡せないって女神が言っていた割には強力っぽいのよね、これもマイナススキル2枚が他のスキルや潜在能力を上げた結果なのかな。


 男の怪我はあっという間に直り、綺麗になった顔が相変わらず驚いた表情をしていた。

 そりゃそうよね。大怪我だったもん。

 周りで見ていたカンデ村長もおおっと感嘆の声を上げたが、すぐに洞窟から出てきたソレに意識を集中させることになった。


 3mはあろう洞窟の穴を窮屈そうに潜るようにして出てきたのは、ジャイアントオークキングと呼ばれる魔物だった。

 大きな鼻と口から伸びた牙、緑がかった灰色の荒れた肌、墨がかかったような目、手に持った大きな棍棒、話し合いが出来る相手ではないのは見るからに十分だった。魔物だからそもそも話し合いなんて出来ないんだけど。


 ジャイアントオークキングは洞窟から出ると、持っていたその大きな棍棒を一振りした。そして、ちょうどその円周上にあった柵が粉々壊されていく。うわぉー、破壊力抜群じゃない。


「これじゃ近付けない……」

 ジャイアントオークキングのリーチのある腕、そして棍棒の長さを考えたら近づく前に柵と同じ状況になるでしょうね。

 ならば、と後方から矢や石が飛ぶ。しかし、それらはジャイアントオークキングの皮膚に傷をつけることなく地面に落ちる。うーん、性能が悪いんだろうなあ。この村、この領の財政力ってそんなもんか。

 続けて、後方から火炎球や風刃の魔法がジャイアントオークキングに放たれる。これはジャイアントオークキングの動きを止めることが出来た。ただ、ちらほらと放たれる下位魔法じゃジャイアントオークキングの巨体を完全に停止させるほどの効果があるとは言えない。

 だって暫くするともう、あちらさん全然気にせず棍棒振り回してるんだもん。


 仕方ない。


「お父様、私も火炎球で援護してみます!何か指示があったらください!!」

 ジャイアントオークキングのリーチにたじろいでいたお父様始め前衛の皆さんに後ろから大声で呼びかける。

 みんな顔はジャイアントオークキングを向きながら、視線だけを私に集めた。いや、その視線が物語っているわ、なに言ってんの?って……

 ですよね、こんな小娘が回復魔法使うだけでも驚きなのに火炎球まで使うなんて言ったらびっくりしますよね。それに、さっきの警備団の皆さんの火炎球も致命傷には程遠いのに、私なんかの火炎球で何か出来るわけないですよね。

 でも、この状況を放ってはおけないじゃない。私にも何かできそうならやらなきゃって思うじゃない。

 とりあえず、私の実力を見て貰って、どう活かすかはお父様にお任せしよう。


 私は左手をジャイアントオークキングに向ける。

 私の左の掌からは炎が現れ、真っ直ぐにジャイアントオークキングに向かっていく。前世で見た刑事ドラマとかで言うところのピストル並のスピードで。かなりの衝撃だったから私の体も少し後ろに飛ばされ、亜麻色の髪が前に靡いた。


 そして私の放った火炎球はと言うと、ジャイアントオークキングの全身を火達磨にするほど火力で、あっという間に真っ黒なジャイアントオークキングの焼死体が出来上がった。


 あ。

 やっちゃった。

 何が『指示があったらください』だ。何もあったもんじゃない。


 私の火炎球も女神からのおまけスキルだと思っている。『料理が出来ない』のマイナススキルが火炎球のスキルの効果を上げたか、たっだ火力調整ができない火炎球なのかは私には解らない。だって、火炎球なんて炎攻撃系魔法の中でも下位の魔法なのに、この威力はヤバいって。

 以前、お父様の書斎にあった『魔法入門』の本に載っていたこの火炎球。

 この頃はまだ女神のおまけスキルがヤバいなんて知らなかったから、『ちょっと試してみようかな』『私にも出来るかな』って感じで庭で火炎球だしたら大爆発になってびっくりしたのよねえ。

 あれから火炎球は封印しておいたのだけれど、相変わらずヤバいって再認識したわ。


 はっ!

 思い出に浸っている場合じゃない……


 ジャイアントオークキングを倒したことよりも、そんな魔法を使った私にお父様も警備団のみんなも驚いてるのが解る。


 どうして誤魔化そう……

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