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転生チート令嬢は究極に料理が出来ない。  作者: 亜野朱
第1章 転生チート令嬢は普通じゃない。
23/29

お嬢様規格の範囲に収まらない。

「で。あまりにも不甲斐ないところをお見せしたので、あまり強くは聞けないところですが……我々魔族と命がけで戦ったので、説明くらいは聞かせてもらいましょうか、リノ?」

 小さくなって座った私の前に、シオンがにこやかな表情で立っている。

 私、何か怒られることした?

 というか、今のこの状況は何?


 魔族を倒した後、私はウィードに回復魔法をかけた。ウィードはラスとは違って意識はあったし、命に関わる程の怪我ではなかったからあっと言う間だった。いや、逆に意識あったせいか、凄く混乱していた。目の前で魔族が倒されたこととか、私がラスにあれだけ回復魔法使っていたのに更に回復魔法使っていることとか、常識的に考えて有り得ないことらしい。まあ、私が常識外れだとしたら女神のせいだわ。

 ラスもあの後目を覚まし、体に怪我が残っていないことに驚いていた。今は目を覚ました5人の子ども達に声を掛けたり、遊んだりして洞窟の部屋の中を走り回っているほどだ。

 本当、子ども達に慕われているなあ。


 で。

 私はシオンとウィードを前に説明を求められているわけです、はい。

「えっと、説明ってなんの説明でしょう?」

 上目遣いでシオンとウィードを見ると、2人は堰を切ったかのようにしゃべり出す。


「魔族目の前にして俺らぼろぼろの状態で逃げないってどういうことです?」

「魔族がどれだけ危険な存在か知ってます?」

「どうやってあの魔族を倒したんですか?」

「というか、魔族の懐に入るあの反射神経はなんです?」

「そもそも回復魔法どれだけ使ってるんですか?」

「本当に魔法勉強してなくてそれですか?」

「使っていたの護身用のナイフですよね?戦闘用じゃないですよね?」

「もしかして、ここに魔族いるの知っていて我々を試しました?」


 そんな交互に聞かれたら全然答える隙ないじゃないのー。何、2人は仲良しなの?仲良しなところを見せつけたいの?


「あー、えーっと、まず。逃げなかったというか、逃げれないなあと思ったのは私一人じゃラスもウィードも子ども達も抱えて逃げるのは無理かなーって……」

「はあ?」

「普通逃げろと言ったら貴方一人で逃げるべきでしょ?」

「え?そういうことだったの?」

 じゃあそれはやっぱり出来なかったなあ。みんな置いて逃げるなんて発想なかったし。いや、一応ね。前世の知識で困った時は近くの家に駆け込むとか、大人に助けを求めるとか、110番通報するとか、そういう手段があったことは知っているよ。でも、ここ異世界じゃない。110番通報も出来ないし、近くに大人もいないじゃない。それに、もしご丁寧にもあの時シオンに『一人で逃げろ』と言われたとしても、後々後悔しそうでそんなこと出来なかっただろうし。

「リノ、まったく貴方という人は……」

 ウィードが額を押さえて苦笑する。

「まあ、そこがリノらしいというところなんでしょうね」

 シオンも仕方ないかと溜め息をつく。

 うん?悪口を言われているわけではないよね。褒められている、よね?


「ちなみに、魔族を倒したのは?」

「はい、たぶん私です」

「そうじゃなくてっ!」

 解ってる。誰が倒したかじゃなくて、どうやって倒したかってことが聞きたいのよね。はぐらかすことが出来るならはぐらしたいと思うじゃない。

 ウィードとシオンの視線が私に集中する。うう、痛い。

「えっと、お父様とお母様から護身用のナイフを頂きまして……」

「護身用のナイフって、女性が15歳の誕生日に親から送られる習わしのものですよね?あれはあくまでもお守りであって実践用のナイフではないですよね?」

 そうなんだよね。シオンの言うとおりなんだよ。ペーパーナイフみたいなものだから、魔族どころか豚肉を切るのもどうかと思うくらいのもの。そんな玩具みたいなナイフで魔族斬ったとは信じられないですよね。まあ、実際魔族斬ったと言っても本当にちょっとした切り傷程度だったけれど。

「うーん、なんと言いますか、私にしか作れない毒をちょっとだけ塗ってあったというか、くっついていたというか……」

 ごにょごにょごにょ……

「毒か……」

「しかし、古い文献では魔族に毒は効かなかったと記載されていた気がする」

 ウィードとシオンは2人とも同じように顎に手を当て考え込む。毒だとしても傷口から染みこんだのか、傷口は皮膚の表面を少し切っただけのものだがそこから毒が吸収されたと考えると即効性が高すぎる、等2人は真剣に悩んでくれております。

 そこへ子ども達と走り回っていたラスがひょっこりと顔を出す。

「難しく考えるなよ。どうせ、その規格外のお嬢様のやったことだろ?」

 そう言われて3人が私の顔を見る。

「「……確かに」」

 あ、それで片付けられちゃうんだ。どれだけ私規格外なのよ。まあ、いいけどね。


「ねえ、ラス兄ちゃん。僕おなかすいたー」

 子どもの一人がそう言うと、4人も続けて空腹を訴えた。

 そりゃそうよね、操られて連れてこられたんだったら、一昨日から何も食べていないことになる。洞窟の中だし正確な時間は解らないけれど、私達が村を出てから軽く4,5時間は立っていそうだし。

「そうですね。そろそろ私の明かりも魔力が付きますし、ゆっくりリノの話を聞いている場合ではなかったですね」

 あ。やっぱ責められている気がしてきた。

 本当、無駄な説明がいる子でごめんなさい。

「こんなとき、ちゃちゃっと村に戻れたら良かったんだけどなー」

 ラスがポツリと呟いた言葉に、ウィードとシオンは再び顔を見合わせてから私を見た。

「あのー、リノ?一応念のために確認しますが……」

「まさかとは思うけれど、移動魔法なんていう上級魔法が使えたりはしないですよね?」

 ウィードもシオンも笑顔なのに笑ってないよ。

「上級の移動魔法?使えないよ」


 2人はほっと胸をなで下ろした。もう『ほ』の字が見えるかと思うくらい思いっきり安心して息を吐きましたね、2人とも。

 いくらなんでも上級魔法なんて使えるはずがない。私が女神に貰ったのはおまけスキルばかり。それも女神のセンスによって付けられたものだし、あの女神『過大なスキルは渡せないけれど』って言っていたしね。せいぜい私に出来ることと言えば…

「ファジャナオ村までなら移動できるかもしれないけれど」

 行ったことのある場所で、尚且つここから対して離れていない場所くらいね。小さい頃、タッセルさんを追いかけて入った屋敷の山の中で、途中迷子になっていつも移動魔法で屋敷に戻っていたくらいだもん。その程度しか使えないから、たぶんファジャナオ村が限界かなあ。

 ……

 うん?

 どうしたのかしら?

 ウィードとシオンが頭を押さえている。

「言ったろ?規格外のお嬢様だって」

 ラスの言葉に2人が何度も頷く。

「本当……貴方という人は……」

「解っていないようなので言っておきますけれど、そこまで出来れば十分上級魔法ですよ」

 そうなの?行ったことある場所しか行けないし、違う村とか町に移動は出来ないし、上級魔法っていうくらいだから軽くウィードの領とかシオンの領とか国王都市に移動できるくらいのものかと思っていたけれど。

「……リノが考えている移動魔法は王級魔法レベルですよ。そんなの国に片手程しかいないですよ」

「上級の移動魔法だって使える者は限られていますよ。俺の知っている限りでは第1騎士団、第3騎士団、第5騎士団に一人ずつ所属していると聞いたことはありますが、実際には見たこともなければどの方が使えるのかも知らないです。」

 そういうものなの?

 じゃあ何。おまけスキルに上級の移動魔法があったってこと?……本当、あの女神いい加減に私にスキル付けていたしなあ。今頃他の女神達に馬鹿にさえたり怒られていなきゃいいけれど。


「ねえねえ、おなかすいたよー」

「早く帰ろうよー」

 子ども達がそう言って私の服の裾を引っ張った。

 はいはい。

 君たちにはそんなことどうでもいいもんね。早く帰ってご飯食べたいだろうし、君たちを物凄く心配して待っている人達がいるから……

 ただ問題は全員連れて移動出来るかどうか。

「上手く出来るかどうかは判らないよ?私、自分一人の移動魔法しか使ったことないし」

「たしかに魔力が持つかどうかという問題もありますしね。リノ相手なので忘れてましたが」

 シオン君、さらっと酷いこと言ったんじゃない?

「まあ、試しにやってみるということでどうでしょう?取消護符ならありますし」

 ウィードはそういうと、上着の中から一枚の紙を私に手渡してくれた。

 取消護符?

「通常騎士団が魔法の練習の為に使用する護符です。これを貼った状態で魔法を使うと、正常に発動出来る場合はそのまま効果が発揮されますが、万が一術者の能力が劣っていたり、体力消耗が激しく正常な発動が出来ない場合はその魔法自体がキャンセルになるんです」

「魔法を使うために体力消耗は避けられないので、間違った不完全な魔法で余分な体力消耗をさせないために作られたものです。確かにこれなら、万が一リノが発動出来なかった場合でもリスクはないですね」

 これを使う位強力な魔法を練習することはほとんどないのだとウィードが教えてくれた。

 自分の身の丈にあった魔法を学び、身の丈にあった技術を習得するものなのだと。私みたいによくわからなくて魔法使っちゃうって人はいないわけですね。


 私はウィードから貰った取消護符を右腕に巻き付けた。

「それじゃあ、運が良ければ帰ろうか。…とりあえず、はぐれるといけないからみんな手を繋いで」

 私の言葉にそれぞれ手を繋いでいく。シオンが最後に今まで付けていた明かりを解除し手を繋ぐ。流石に長く魔法を発動させていて疲れたのだろう、シオンの荒い息だけが真っ暗になった洞窟内に響く。

 私達は手を繋いで1つの円を描くような隊形になった。私の右手から出た温かい気のようなものが、みんなの手を渡り再び私の左手に戻ってくるのを感じながら、私は移動魔法を発動させた。

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