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転生チート令嬢は究極に料理が出来ない。  作者: 亜野朱
第1章 転生チート令嬢は普通じゃない。
12/29

意地悪されても仕方ない。

 誕生日会の後、私はお父様お母様から正式な誕生日祝いとして護身用の小さなナイフを頂いた。

 刃渡り12センチほどの小さなナイフで、ルビーを埋め込んだ装飾された銀色のナイフだ。

 護身用と言っても、どちらかと言うと習わし的な意味合いが強い。

 15歳になり大人の仲間入りをしたということは、それなりに発言権を持ち、行動にも責任を持たなければならない。領主の娘としていざと言う時は命を持って償う覚悟で行動しなさいということだ。

 まあ、実際に切腹しろって話じゃないからほとんど玩具みたいなナイフ。

 前世じゃこういうのペーパーナイフって呼んでいた気がするんだけど。


 そんな誕生日を終えた私は1週間缶詰生活を過ごすことになった。誕生日会にお見えにならずプレゼントや手紙を贈ってくださった方へお礼の手紙を書いていたら1週間もかかったのだ。プレゼントをくださったお会いしたことのない遠くの領の方、商人の方だけだったらこんなにもかからなかったと思う。でもね、この間のガムサキ村の子ども一人一人の可愛い手紙を見ちゃったら全部の手紙に返事書かなきゃ、って思っちゃって……気が付いたらこの有り様でした。警備団の人達からも手紙来てたし、うちの村にも来てくださいって領内の村の子達からも来てたし……前世でいうアイドルのファンレターみたいな感じ。

 最初は可愛いお手紙だからお返し書こうとか、この言葉嬉しかったからお返事書こうとか、ああ苦労してるみたいだし励ましのお返事書こう位だったのに。

 お父様お母様からナイフ貰う前だったら迷わず挫折を選択するところだったわ。


 1週間ぶりに屋外に出た私は、思いっきり伸びをして空気をいっぱい吸い込んだ。

 ああ、生きてるって感じがする。

 鳥の囀り、葉が風で擦れる音、花の匂い、焚火の匂い……


 ん?


 焚火?


 何故屋敷で焚火?まさか放火?


 気になった私は匂いのする方へ足を向かわせた。

 匂いは屋敷建物から離れ裏庭の花壇の外れに続いていった。良かった、放火ではないみたいね。じゃあ、この匂いの元は一体なんだろう?

 気になるその匂いの元にいたのはラスだった。


「ラス?何やってるの?」

「落ち葉燃やしてんの」

 ああ、そうか。落ち葉掃除で燃やしているのね。よくよく見たら花壇周りが掃除されて綺麗になっていたわ。


「感心感心」

「どうも」

 そう言ってラスは使っていた竹箒を横に置き、焚き火の前に座り込んだ。

 ありゃ。冗談のつもりで偉そうにしてみたけれど、反応冷たくない?思っていた反応と違うわ。


 ラスは私に興味なさそうに火を見つめる。そして、暫くしてから腰に付けた道具袋から鉄串を取り出し、自分のポケットから出したマシュマロに突き刺した。

(こ、これは……もしや)、

 ラスは私の期待通り、マシュマロの付いた鉄串を焚き火に近づけた。火に直接当っているわけではないのに、火に面した部分が焦げて甘い香りを立ち上らせる。


「ラスこれって……」

「マシュマロ。お前の誕生日で残ったってやつを貰っておいたんだよ」

 名称は知ってるのよ。見れば分かる。そうじゃなくて、これってよくキャンプとかでやるやつじゃない。前世でも一度だけ学校のキャンプの時にやった覚えがあるのよね。焼けたマシュマロの口当たりと、その中の甘く溶けた部分。随分昔のことのようだけど、思い出すなあ。

「ねえ、頂戴!」

「はあ?1週間も前のマシュマロだぞ?お前もっといい物食ってるだろうが。この間の誕生日だっていい物貰ってるだろうし」

 ラスはそう言って焼いたマシュマロを私の前でこれ見よがしに食べた。


 何?

 関係ある?ラスってば羨ましいの?ラスも私の誕生日会で美味しいもの食べたかったって事?

「じゃあ私が貰ったお菓子とか後であげるから」

「いらねーよ、お前が貰ったもんなんて」

「あ。まだお前って言う。この間ちゃんと名前で呼ぶって言ったのにー」

 ラスは言葉を詰まらせたように顔を引きつらせた。そして誤魔化すようにして舌打ちし、私にマシュマロを一つ差し出してくれた。

 ふふーん、分かればよろしい。


「あ、串も貸してよ」

「そのくらい自分でなんとかしろよ」

 ラスは私に背中を向けるようにして鉄串にマシュマロをつけ焼き始める。


 あ、これ意地悪のつもりだ。

 ラスの鉄串を奪い取ってやろうかとも思ったけれど、それは逆に私がいじめっ子になっちゃうものね。

 仕方ない。マシュマロ貰えただけでいいとしますか。

 私は近くに適当な木の枝がないかを確認したが、見つける事が出来なかった。そりゃそうよね、ラスが綺麗に掃除してくれたんだから。

 あ、そうだ。私いいもの持っていたわ。

 私はスカートの裾をたくし上げ、太ももを露わにする。

「わっ、馬鹿!お前なにっ!?」

 背中を向けていたはずのラスが真っ赤になった顔を両腕で隠し叫んだ。

「お父様とお母様から丁度良い物貰ったのよね」

 私は太ももに括り付けていた護身用のナイフを取り出した。どうやって日頃持ち歩こうかと考えたんだけど、この持ち方が一番格好いい気がするのよね。なんだか漫画やアニメで見るスパイみたいじゃない。

 私はナイフにマシュマロを付け、ラスの横でそれを焼き始めた。

 赤いルビーが装飾された銀色のナイフにマシュマロってなんだかちょっとギャップがあってそれはそれで有りな気がする。


 遠火で焼かれたマシュマロは直ぐに甘い香りを立たせた。

 私がナイフの刃に気をつけながらマシュマロを歯で千切ると、ナイフにマシュマロのトロリとした粘りが残った。

 うん、美味しい。前世で食べた焼きマシュマロもこんな感じだったと思う。


「なんか、お前の顔見てると悩んでいる俺馬鹿みてー」

 頬杖をついて私を見ていたラスが小声で呟く。ん?私は聞き逃しませんよ?

「あ。またお前って言ったー」

「はいはい、悪かったよ。リノ」

 今度は顔を背けず、ラスは私を見つめたまま笑う。

 その顔が、その言葉が、なんだか私にはくすぐったくて、思わずドキっとしてしまう。

 な、なんだ。言えるんじゃない。これでラスともお友達として一歩前進した気がする。うん、きっとそう。


「ん?チェシルが呼んでるぞ」

「本当?」

 背筋を伸ばし屋敷建物の方を見るラスに併せて、私も振り返る。確かにチェシルが私を呼ぶ声が聞こえる。廊下を早足で歩いてきょろきょろと私を探している姿が窓越しに見える。


「チェシルーどうしたのー?」

 その場で手を大きく振り声を上げるとチェシルがそれに気付き、近くの窓を開け庭にいる私に声をかけた。

「お嬢様ー、お客様がお見えになられておりますー。マーガル様が応接室に来るようにと仰っておりますー」

 丁寧な言葉なのに声を張り上げちゃって、なんて可愛いのかしら。

 私はラスにマシュマロのお礼を言い応接室に向かうことにした。


 あれ?そういえばラス『悩んでいる』って言ってた?

 何を悩んでいたのかしら?また後で聞いてみようっと。


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