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転生チート令嬢は究極に料理が出来ない。  作者: 亜野朱
第1章 転生チート令嬢は普通じゃない。
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幕間・ウォースト領

 ワオディレス・ウォーストはウォースト領で一番大きい街で職務をこなしていた。

 執務室の机に山積みにされた書類は文字がぎっしりと書き込まれているが、流れるようにその一枚一枚に目を通し、サインを入れていく。


「そうか、ジオと息子が来ていたか。……野蛮だな」

「はい、父上」


 仕事を続けるワオディレスの前で、レングランド領の娘の誕生日会の一通りの報告を終えたウォースト家次男シオン・ウォーストが返事する。

 シオンが父から受けてた任務は『レングランド領内の治安と発展性の可否』『レングランド領と関係する商工の動き』そして『噂のレングランド領の令嬢について』だった。


「マーガルの娘は噂ではかなり強力な魔法や回復を使うという話だったが、お前はどう感じた」

 そう問うワオディレスの視線はやはり書類の文字を追ったまま。時折白い長髪が揺れるだけで、ほとんど姿勢は変わらない。

「今回の会では直接魔法や回復の能力を拝見する機会はありませんでしたが、一見した感じは高い能力があるようには見受けられませんでした。魔法に秀でた知力があるとは認められませんでした」

 シオンの報告にそうかと一言だけ答える。

 かつて三大騎士と言われた三人の中で、最も若く、賢く、容姿が良いと言われたワオディレスは、今は大きな街の増えたウォースト領の統治と発展に力を入れている。

 あまりに急速に発展したため領内での商業や流通は過多となっているが、シオンの兄であるウォースト領次期領主とともに、領内の暴動等なくなんとか治めている状況だ。

 強いて言えば、過多となった商業の流通箇所を他領に求めたいと考えていた。


「美しいという話も聞いたな」

 思い出したかのようにワオディレスが呟く。

「はい。噂の為か、予想以上の客人が集まっていましたが、噂に背かぬ美しさでした」

「ふ。お前の口からそんな言葉が出るほどか」

 シオンの答えにワオディレスは珍しく鼻で笑った。


「美しさは大事だ。ただ正しい事を言っても民の耳はこちらに向かない。協力は得られない。民が従うための象徴が必要なのだよ」

「承知しております、父上」

 シオンはそう言って頭を下げる。

 だからこそ眉目秀麗な父上はこのウォースト領をここまで大きくすることが出来た、それを何度もシオンは聞かされていた。


「向こうが一人娘でなければお前でなく、次期領主の后に迎え入れたものを」

 淡々とした口調のワオディレスのその言葉に、シオンは一瞬顔を歪ませた。

(なんでも兄さん優先か……次男故にウォースト領次期領主の座は元より無い物とは理解していたが……)

 ワオディレスが何かの意図を持ってそう言ったわけではないことはシオンも分かっていた。しかし、それを何故かただ聞き逃すことが出来なかった。


「ご冗談を。兄弟で女性を取り合って殺し合いをさせたいのでしたら止めませんが」

 今日この場で初めてシオンが微笑む。

 言葉の豹変ぶりに、ワオディレスも思わず書類から目を離しシオンを見つめた。

「珍しいな」

 年功序列を、自分の立場や地位を、十分理解しているはずのシオンの口から出た言葉は、ワオディレスの想定を遥かに超えるものだったのだ。

 

「どういう心の変化だ?」

「そうですねえ。……所謂一目惚れというやつです」

 それが真意かどうかはワオディレスが知ったことではなかった。。

 ただ、シオンの言葉の奥に、領主の座への執念や悪意があるとは思えないことだけ感じ取れる。


 知将と呼ばれたワオディレスは、家庭においても正しき事に重きをおいてきた。妻と2人の息子に対して、いかに正しき事が重要であるか、いかに自分達は正しくあるべきかを説いてきた。特に次期領主となる長男、そして次期領主に成り得ることのない次男に対して、その道の正しさを教え込んできた。

 特に次男のシオンは、ワオディレスの考える『領主に成り得ないが領主のために尽くす次男』という像そのものに成長した。

 領主より目立つことはないが、領主に変わる知識も領主並のカリスマ性もある人物。必ず領主を立て領主が正しいと言える人物。シオンはそうワオディレスの教えのとおりの人格を形成したと思っていた。



「……まあいい。このウォースト領に今必要なのは象徴ではなく、交易のできる金のなる優秀な領だ。お前がマーガルの娘と婚約し、次期レングランド領主になればそれが可能となる」


 ウォースト領の過多となった商工を次男が治める領へと流す。それを手始めにクラスターのようにして他の領へと派生させる。自ずとウォースト領の商工を欲するようになれば、それが更なる商工の発展に繋がる。

 複雑な経済発展の仕組みがワオディレスの頭の中にはあった。

 全てはウォースト領発展のため。

 ウォースト領の交易と自分の利欲のため。


 シオンもそのことはよく知っている。

「はい、承知しております。父上」


 ワオディレスに頭を下げてそう言ったものの、シオンの頭に浮かんだのは一人の亜麻色の髪の少女であった。


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