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転生チート令嬢は究極に料理が出来ない。  作者: 亜野朱
第1章 転生チート令嬢は普通じゃない。
1/29

死んで転生なんて聞いてない。

 私、リノ・レングランドは料理が出来ない。

 いやいや、いいのよ。だって私、このレングランド領の領主マーガル・レングランドの一人娘だし、ご飯は料理長やメイド達が作ってくれるわけだし、お母様であるメニーダ・レングランドも料理なんてしないし。

 料理が出来なくても生きていけるわけよ。

 ちなみに『料理が出来ない』レベルとしては、味がしないとか塩辛いとか、火加減が下手で焦げちゃうとか中身が生だったとか、材料が切れてなくて繋がってるとか、そんな生優しいものじゃない。

 私が作る料理は全て『猛毒』になるのだ。

 もちろん、ワザと毒を入れているわけではない。

 ちゃんとした食材や調味料を使っても、私が触れた途端に猛毒になる。


 よくメイド喫茶なんかで


『美味しくなぁ~れ♪美味しくなぁ~れ♪まぜまぜニャン!』

『うひぃー、メイドさんに混ぜて貰った紅茶は格別ですぞ』


とか、新婚夫婦が


『今日もお仕事お疲れさま。お夕飯はカレーよ』

『うん、君の作ったカレーは愛情のスパイスが効いていて美味しいよ』


みたいな。

 その毒バージョンが私の料理なわけです。

 あ、ただ違うのは、私は毒を作ろうと思っているわけでも、料理に恨みや嫉みを込めているわけでもないってことね。

 なんでそんなことになっているかと言うと、それは私が転生者であるという事が関係している。



******************


 遡ること、5年前。私がリノ・レングランドではなかった頃の話。

 不運にも事故で命を落とし、霊体となった私の前に女神と名乗る人物銀色の長髪を揺らしながら現れたのだ。


「おめでとうございます!貴方は私が担当する100万人目の転生者です!」


 死んで『おめでとう』なんて言われるとは思っていなかったのでかなり驚いたのを覚えているわ。

 だって目の前にはまだ事故にあって血の海と化した道路に突っ伏している私の実体がまだあったからね。


「100万人!いやー長かったわー、女神になってもうすぐ1年!私の同級生なんて1週間も立たないうちに100万人達成しちゃうんだもん。焦った焦った」


 あの女神のハイテンションっぷりっていったらないわー。


「私が担当する人って悪い人が多くて転生に向かなかったり、即時転生を遠慮して自然転生を希望する人が多かったりで、本当ここまで長かったのよねー。この間のスズメバチの集団なんて3週間も説得したのに全員自然転生を希望したのよ?これだから虫って嫌いなのよ。」

「あ。えーっと」

「ん?ああ、即時転生っていうのは今すぐに他の場所の他の人に転生するってことね。自然転生っていうのは自然の理に任せて、記憶がなくなった頃に再び赤ちゃんとして転生するってことね」


 こういう話聞かないマシンガントークのおばちゃんが近所にいたなあ。きっと私が死んだことも尾びれ付けて長々色んな人にいっぱい話すんだろうなあ。


「そういうことじゃなくて、私やっぱり死んだってことですか」

「見りゃわかるじゃん」


 女神が救急車で運ばれていく私を顎だけ動かして指した。なにその扱い。なにその態度。


「あ!でも落ち込まないで!さっきも言ったけど、貴方即時転生できるのよ!私が転生させてあげる!」

 目をキラキラと輝かせながら私の両肩を掴む女神。うっざ。

「しかも!100万人記念ってことで特殊スキルを2つもプレゼントするわ」

 どや顔で説明されてもいまいちピンと来ない。

 せめてもうちょっと死んだことに対する悲しさとか、寂しさとか、両親へのお詫びとか、そんな感情に浸っていたいんですけど。

 自然転生っていったっけ?ゆっくりと記憶を失ってから次に繋げる方が今の私には合ってる気がする。


「自然転生じゃだめですか?」

 私のそこ言葉を聞いた時に女神のゲスでも見るかの顔は忘れない。

「駄目よ!私貴方に会うまで1年かかったのよ!?ここで貴方を逃して今日明日にまた上手く転生できる人に会えると思う?思わないわよね?1年立っても100万人達成できない女神は女神の称号剥奪されて見習いからやり直しになっちゃのよ!?」

 いや、知らんがな。

 え?神様とかってそんな自分達の都合で私達を扱っていたわけ?


「とりあえず!とりあえずでいいから特殊スキル2つひいてみてよ!絶対転生したくなっちゃうから!」

 そういって、女神が30センチ平方の箱をどこからともなく取り出した。

 箱の上には腕が通るくらいの穴が開いている。

 お店のおまけとかで引くくじ引きみたいな感じだわ。どうせだったら、福引きとかの抽選器で用意して欲しかったわ。


「大魔導師スキルとか、ドラゴンの相棒とか色々あるから!さっきも話したけれど、それが今ならなんと2枚も引けちゃう!!空くじなしだから!」

 あ、くじって言ったわ、この女神。

 箱を乱暴に振りながら詰め寄ってくる。こういう強引な商売って駄目って聞いたことあるんだけど。

 女神が降り続ける箱からはなんかもうすごい沢山紙が入っている音がする。


「じゃあ、とりあえずですよ?」

 私は女神が差し出す箱に手を入れた。もう大量になんかの紙が入っているの見えたし、怖くもない。怖いと言えば、果たしてこの紙になんて書いてあるのかって事くらいだけど……。

 大量の紙の中から私は一枚の紙切れを取りだした。

 藁半紙のような紙が三角形に折られた紙。いや、もっとそれっぽい綺麗な紙で用意するとかなかったもんかね。

 どう見ても担任の先生が即席で作ったクラスの席替えのくじ引きじゃん。


「さあ、ではスキルはーっと」

 女神が紙を受取り、鼻歌交じりに広げて読み上げる。

「『料理が出来ない』」


 は?


 なんですと?

 スキルって大魔導師スキルとか、ドラゴンの相棒とか色々あるんじゃなかったの?せめて料理スキルだったら解るよ?『出来ない』ってなによ。

 女神も漫画のように顔に汗を流している。こんなはずじゃなかったって顔よね。


「ひ、人には1つくらい不向きなものってあるでしょ?ほら、なんて言うんだっけ神は煮物を与えず?」

「天は二物を与えず、のこと?」

「それそれ!!」

 いや、その女神様が特殊スキル2つくれるって言ったんですけどー。二物与えてくれるって言ったんですけれどー。


「もう1つ引いてみてよ。それが今の欠点分を補ってめちゃくちゃ強大なスキルになるから!マイナススキルっていうのは他のスキルや潜在能力を上げるためのものなのよ!大魔導師スキルが大賢者スキルとか!ドラゴンの相棒2匹とか!!」

 いや、ドラゴン2匹もいらないし。

 別に料理人並の料理が出来なくても普通の料理くらいはしたいわ。そもそも今この女神『欠点』とか『マイナススキル』っていったけれど、何その欠点スキル。

 私は女神の圧に押されて仕方なくもう一枚の紙を引いた。


「さあ、今度こそ……『料理が出来ない』」


 うん?

 欠点分を補ってめちゃくちゃ強大なスキルになるのが料理が出来ない?うん?


 女神は先ほどよりも顔色悪く汗を流して小さくなっている。こんなスキル2つもはいっていたかなとか2回引いて2回ともこのスキルが出るなんてありないとかぶつぶつ言い出した。

 だめだこりゃ。

「で。2枚とも『料理が出来ない』なんですが、これってどうなるんですか?」

「う、うーん……今まで2回引いて2枚とも同じだった転生者って教科書でみた国王スキルくらいで、その人は確か国どころかそのカリスマ性から世界の神として君臨したって話は聞いたことあるんだけど……」

「『国王』2枚でカリスマ的神ねえ。じゃあ『料理が出来ない』2枚は何になるんですか?」

「そ、それは……」

「それは?」

 女神の顔色は益々悪くなっていく。


「えっと……究極に料理が出来ない?」


「やっぱり自然転生でいいです」

「いやあーー待って!私女神剥奪されちゃうー!同級生から只でさえ馬鹿にされているのー!見習いになんてなったらなんて言われるか。お願い、神様!」

 私に縋って泣き出した人が神様ご本人だと思うんですけれどね。

「別に今までも料理が趣味ってわけじゃないですけれど、何を楽しみに転生するかも判らないで、ただ料理が出来ないってことだけで知りもしない世界に転生なんてまっぴらご免だと思うんですけれど」


「そうだ!特殊スキルはあげられないけれど、基本スキルなら私の権限で渡せるから。そうね……例えば、私並とはいかないけれど、美貌とか付けちゃう!あー、運動神経も付けちゃう!ある程度お金にも困らない暮らしが必要でしょ?それもあげちゃう!あとそんなに過大なスキルは渡せないけれど、一連の魔法が使えるくらいなら渡せるから!あ、あとこれ!これいるでしょ?そうだ、この辺もいるんじゃない?」

 女神は空中から何かを掴むようにして摘まみ、あれもこれもと私へと付けていく。まるでマジシャンが何もない空中からコインを出すような手つきで。ただ、私にはそれが何なのか見えないし、何が付いているのかよく解らないけれど。


「100万人目の転生者出血大サービス!さあ、これでいってらっしゃい!」

「え?あ、ちょっと!!」

 まだ決めていない、そんな私の言葉も聞かず、スキルの大安売りをした女神が私の背中を強く叩いた。

 それが、私の転生した時のお話。



****************


 リノ・レングランドとして転生してから、私は比較的裕福な暮らしをしていた。

 父であるマーガル・レングランドはこの国の三大騎士として活躍した剣士だった。魔物との戦いで怪我を負ってから騎士としての地位を退き、今はここレングランド領の管理で忙しい。娘に甘く優しい、金髪ダンディーな格好いいお父様だ。

 母メニーダ・レングランドは下位ではあるが回復魔法が使える元宮廷看護師。下位なので国政なんかに役立つほどではないが小さなレングランド領ではその能力も貴重な癒やしの存在。亜麻色の髪と白く細い手はどこかの女神よりも女神っぽくて、私に優しい素敵なお母様。


 そんな二人から愛されて、私は何不自由ないお嬢様として育った。

 母のような亜麻色の髪にピンク色の大きな瞳。

 母のような細く白い手足。

 メイド達は私のことを絶世の美少女と囃し立てた。

 まあ、この美貌とやらは女神が勝手につけたおまけスキルみたいなものだと思うのだけれど。


 そう。

 転生したこの私は究極なマイナススキルとよくわからないスキルで構成された人間。

 無理やり転生させられてしまったから、元に戻すとかやり直すとか出来なそうだし……

 仕方ない、おまけの生活。適当に楽しく逞しく生きていきますか。

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