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名前の謎から分かったこと

 王都の公爵邸に帰宅して、私が王子の婚約者候補、フラウが側近候補になったと報告すると、お父様はいつも以上にデレデレになった。

 これでも『血塗れ宰相』という恥ずかしい二つ名を持ち恐れられているんだけどね。設定ではなく、ただの現実。

 設定ではお父様は名前すら出て来てないし。

 アレクサンダー・ディアマンテ公爵。夫人はパトリシア。

 この世界で生まれて生きているんだから、当然名前はある。


 前世の記憶を持ってスノウ・ディアマンテとして生まれた時には興奮した。

 公爵領から出ずに、外の世界のことは書物だけで学んでいた頃は、能力チート最高と純粋に思えた。

 でも、王都から学者を呼んで学ぶ頃には、この世界が奴のシナリオという考えは、半信半疑になっていた。

 私が悪ノリで描いた背景が、まんま世界に反映されていたり、人物がどう見ても那波の作画だったから、半分よりもう少しは信じていたけど。


 半信半疑になった理由は、この世界の常識を学ぶに連れ、フェリクス王子以外の攻略対象キャラが実在すると思えなくなったから。

 自分が住む国に、フェリクスという名前の同い年の王子がいることは確実だったけど。

 他の攻略対象キャラは、設定でもスチルの台詞でも家名が出て来なかったので、親の役職からしか辿れなかった。

 貴族名鑑には社交可能年齢前の子供は載っていないのだけど。

 それ以前に、『この世界の貴族が攻略対象キャラみたいな短い名前のはずがない』という常識があるんだよね。


 この世界では、名前の長さで平民か貴族か判別できる。

 平民は三文字以上の名前を持てないから。戸籍を登録しようとしても役場で拒否される。

 三文字以上の名前を持てるのは、生まれた時に貴族籍を王宮で登録する貴族だけ。


 私とフラウの名前は短いけど、これはお母様が私達を身籠った時に妖精のお告げがあったからだそうだ。

 男の子と女の子の双子が生まれること。

 男の子はフラウ、女の子はスノウと名付け、決して引き離すことなく一緒に育てるように。

 というお告げだったらしい。

 実際に男の子と女の子の双子が生まれたから、国内だけでなく諸外国まで大騒ぎになったと聞いている。

 妖精のお告げ自体は偶にあるらしいが、名前まで授けることは大変珍しい。

 それもあって、私とフラウが美しさだけでなく才能の面でも知れ渡るようになった時、『妖精に溺愛されている』と言われたのだ。


 そんな理由で、私とフラウが三文字しかない名前を持っていても両親が非難されることは無いが。

 王子の側近になるような貴族令息が、あの攻略対象キャラみたいに短い名前をつけられていたら、親は虐待を疑われる。

 貴族の子供が三文字以下の名前をつけられるということは、『いらない子供だから、いずれ勘当して平民に落とす』と宣言しているようなものだ。

 実際、妾腹の子供には短い名前をつける貴族もいる。

 短い名前をつけられると、貴族の家には婿入りも嫁入りも出来ないし、将来的に爵位を持つのが前提の職にも就けない。もちろん爵位も継げない。


 だから、攻略対象キャラは存在しないのかなと思ってた。

 今日までは。

 まぁ、フェリクスが小玉として話していたから、そこで半信半疑は終わってはいたけど。

 じゃあ攻略対象キャラの名前はどうなるのかという疑問はあった。


 種を明かせば、攻略対象キャラの名前になっていたのは、全て彼らの愛称だった。

 今日、初対面で全員私に愛称呼びを要求して来たから呼ばせてもらってるけどさ。

 私もこの世界の貴族令嬢としての常識にとらわれていたから、まさかそう来るとは思わなかった。

 だってそれだと、ヒロインは溺愛が始まる前から愛称を呼び捨てしていることになるから!

 有り得ないよ!

 彼らより身分が上の大人だって、家族以外は本人から「是非愛称で呼んでくれ」と言われない限り呼ばないものだ。もし呼んだら、かなり相当恥ずかしい。

 言葉を覚えるより早く、勝手に愛称呼びしてはいけないという礼儀を教わるくらいの常識だ。

 本人が要求しない愛称呼びを家族以外が勝手にするのは、『お前は俺様にとって家畜以下』という意思表示であり最上級の侮辱でもある。


 たとえ平民でも貴族と接することがある仕事をしている家の子供なら、徹底して教えられる。

 最上級の侮辱を受けたら斬り捨て御免も通るからだ。

 商店街の抽選で当たりを引いて貴族しか入れない学院に入学する平民だって、入学前に、それだけは最低限叩き込まれるはず。

 要求されていない愛称呼びなんかしたら、好感度上げるどころの話ではなく命も危ない。


 私とフラウは愛称を持たないから、名前の呼び捨てを許すかどうかが傍から見た親しさの判断になる。

 フェリクスが私をスノウと呼ぶのは、『もうこんなに親しくなったよ宣言』みたいなものだ。

 私もフェリクスを「フェル」と愛称呼びするように言われている。


 今日会った側近候補達とは互いに愛称と呼び捨てで呼び合うことになったが、公爵領を出るまでは、私とフラウを呼び捨てにするのは家族の他はリックだけだった。

 ディアマンテ公爵家は完全実力主義なので、リックの父親、うちの騎士団長であるギル・シェードは平民だ。お父様の暗殺部隊長も兼任しているけど、リックがそれを継ぐかは実力と本人の意思次第らしい。

 フラウにも愛称と呼び捨てで呼び合える友人がたくさんできて、姉として嬉しい。


 それにしても、期限を切ってシナリオの提出を要求したから名前を考える時間が無かったのかもしれないけど。

 人数の多い攻略対象キャラ全員分の、トラウマ級の不幸は考えついたんだな、あの男。

 フェリクス王子ルートの不幸、『婚約者の自殺』は削除したと小玉は言ってたけど。大体、今のスノウは婚約者じゃなく婚約者候補だし。

 他の攻略対象キャラの不幸の削除はしてないんだよね。


 今日会って話してみて、あのトラウマ級の不幸に見舞われるのを放置しておきたいような人間なんか一人もいなかった。

 そりゃあ、自暴自棄になって自分に最上級の侮辱をしていた平民の美人でもない女を手籠めにするくらいだから、ちょっとした不幸じゃ原動力として足りないだろう。

 全年齢向けで書けと言われたのに手籠めかよという突っ込みは置いておいても、あそこまで攻略対象キャラを不幸にする必然性が謎だったけど、ヒロインが愛称呼びしてたことで辻褄が合った。

 病んで心が壊れなければ、そこまで侮辱した女をわざわざ選ばない。

 ヒーロー達は、見舞われた不幸により自分自身を責めて責めて、己を憎み切って、死すら許せないから、自分に死ぬより辛い罰を与えるんだ。

 それがヒロインとの婚約と溺愛と結婚。


 攻略されたヒーローは卒業パーティーで婚約を発表し、エンディングで結婚する。

 不幸に見舞われた直後、ヒロインを探し出して押し倒し、次の日から卒業パーティーまで『今までの態度が嘘だったかのような』溺愛スチルが目白押しになる。

 そりゃあ事件前には好意が見えないだろう。ヒロインはずっと、ヒーロー達ヘ最上級の侮辱を行っているんだから。

 大体、国の要職に就く王侯貴族の跡継ぎが、一度手籠めにした平民の女を正妻にすることから有り得ない。溺愛してたとしても妾だ。

 多分、本当にシナリオ通りに人生が展開したら、ヒーロー達は全員身分を捨てるだろう。

 そんな展開、この国の公爵令嬢として、有り得るものなら叩き潰す必要がある。


 この世界は現実であり、奴のシナリオでもある。

 だけど奴には私が潰した展開を軌道修正することは出来ない。

 私が幸せな天寿を全うするために、胸糞悪い不幸の連発なんかさせない。

 よく分からないけど『妖精王の祝福』という加護もあることだし。

 きっと頑張れば何とかなるさ!

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