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控え室で考えた

 私と手を繋いでお茶会の会場に戻ったフェリクスは、


「スノウ以外に友達になりたい子がいなかった」


 と言って私を婚約者候補に指名し、


「スノウくらい教養が無いと話し相手にもならないから、皆勉強頑張ってね」


 と鷹揚な王子様面で宣った。

 ディアマンテ公爵家の双子は天才。その噂は10歳の令嬢達にも浸透しているようで、不満を洩らす者も無く、午前のお茶会は穏やかに解散となった。


 手を繋いだまま、王子自らディアマンテ公爵家用に割り当てられた控え室に送り届けてくれたので、リックが目を見開いて硬直したが、フラウは動じた風も無く優雅に挨拶をする。

 婚約者候補と側近候補は今後も行動を共にする機会が多いから、と、私にも午後のお茶会に参加するよう言いおいて、フェリクスは指示を出すために戻って行った。


「スノウが婚約者候補か」


 驚愕の表情で椅子に崩れ落ちるリック。


「他の子を選んだら王子の目は節穴だよ?」


 いつもの通り姉至上主義なフラウ。

 私は控え室の内装を見て若干遠い目になる。

 上品な洋風の植物模様の壁紙に、立派な掛け軸が存在を主張している。達筆でデカデカと『忍』の一文字。

 王宮の夜会での控え室のスチルで、そういえば掛け軸を描いたっけ。あれは別の文字だったから、この王宮には他にも掛け軸があるんだろうな。


 午後のお茶会の前に軽く何か食べておこうと軽食を手配して、私はヒロインのことを考えた。


 私達双子やフェリクスのように、前世の世界でも自然に有り得る配色の髪と目は、この世界では珍しい。

 リックのように、緑の髪と赤い瞳とかクリスマスツリーみたいなのの方が一般的だ。

 王宮ですれ違う人達も公爵家で働く人々も、髪の色なら赤、青、緑、紫、ピンク、紺に黄緑、水色やオレンジなどが普通。

 瞳の色は更に多岐に渡り、髪と同色の他、金や銀、黄色、灰色、左右で色が違うのも珍しくない。そして、髪や瞳の色は遺伝しないので親子でも色はバラバラ。

 ちなみに、ファンタジー系の世界でよくある『魔力属性の色を体に持つ』的な設定は無い。シナリオを書いた奴が一般常識のように口頭で言っていたが、設定にもシナリオにもその旨を盛り込まずに提出して来たので全員で無視した。


 それを踏まえて、平凡を強調するヒロインは、設定上『子供の頃から変わらない茶色のおかっぱ頭に茶色の瞳』だ。

 この世界ではかなり目立つ。


 それと、ヒロインの魔力はほぼ無くて魔法もロクに使えない、という設定になっているが、それはこの世界では生活能力皆無と言うに等しい。

 言葉が物凄く悪いが、分かりやすく言えば前世なら『重度障害者』だ。

 ものすごーい資産家に生まれて自分は何もしなくても生活の全行程を面倒見てもらえるとか、頭脳労働的な部分で国に重用されるほどの天才とか、世界中にファンを持つ芸術家とか、あとは、鑑賞に耐えうる美形なんかで保護されてなければ、どんな生活をしているのか想像もつかない。


 妖精を信仰するこの世界では、人間は妖精に分けて貰った魔力を持って生まれるのが普通であり、魔力の無い者は他の才能が妖精からギフトとして贈られて生まれると言われている。

 魔力もギフトも無い人間は、『妖精に嫌われている』と言われてしまう。

 それで迫害されるわけではないが、生活様式の全てが『魔力があること』前提なのだ。

 前世で言えば、人体の微弱電流を感知して作動する装置みたいな感じで、『魔法がバリバリ使える普通の人間』が持つ体内の魔力を感知して、この世界の物は使うことができる。魔法習得前の年齢でも魔力は生まれ持っているので問題無い。


 で、何かのスイッチとか機械的な物だけでなく、本当にあらゆる物が魔力が潤沢に有る『普通の人間』でなければ使えない。

 ドアも開け閉め出来ないし、蓋の閉まったトイレも使えない。この世界のトイレは水洗だけど、水は流せないし、トイレットペーパーだってペーパーホルダーから使用分を巻き取ることが出来ない。

 そして、お金を使うことが出来ない。金銭の授受に魔力が必要だから、働いて給金を受け取ることも出来ないし、自分で買い物も出来ない。平民の子供の定番な家業手伝いの店番も無理。

 農機具も使えないから自給自足だって不可能だ。


 ここまで徹底していると、この世界は妖精の悪戯に振り回されてる気もするが。

 これは設定にもシナリオにも無かった『この世界の常識』だから、スノウとして生活して学んで初めて知った時には、改めてヒロインに転生させられなくて良かった、と肝を冷やした。


 ヒロインも生きていれば10歳のはずだけど。

 生きているだろうか。ヒロイン。


「スノウ、どうしたの?」


 フラウに心配そうに覗き込まれてハッとした。

 とっくに軽食の用意は整っていて、使用人も下がっている。


「ごめん。何でもない。あれ?」

「スノウ?」


 コテン、とフラウが首を傾げると、一瞬蟠った違和感が霧散した。

 ヒロインのことを考えるのは、一旦忘れよう。

 ヒロインは王都の平民だけど、公爵令嬢と平民には、通常は接点が無い。

 ヒロインが学院に入学する部分はシナリオを変えていないらしいから、もしシナリオ通りに進むなら、学院に入学したら見かけるだろう。


「お腹空いたね。食べよ」


 今はスノウとして生きるために、午後のお茶会に向けて腹ごしらえが必要だ。

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