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作品に感じた違和感

 キースに渡す前に、私とユアンは『花びら』を魔法鑑定していた。

 結果は、私が『赤く染められた絹布で作成された造花の薔薇の花びら』で、ユアンが『赤い絹布の造花の花びら』だった。

 ユアンの知識の中に『薔薇』という花が無いから差が出たのだと思う。

 けど、二人とも、この『花びら』に何らかの効果は見い出せなかった。

 コレは、この世界でもお金を出せば購入できる赤い絹布を花びらの形に切り取れば、同じ物を用意できる。


 魔王の記憶でも、コレは作品名ではなく『花びら』としか呼ばれていない。

 コレに対して『依代』という言葉を使ったのは、魔王の記憶ではなく那波の記憶だ。

 でも私は、コレは『依代』と言うより『式神』ぽいと感じている。

 ちゃんとした本来の意味じゃなくて、日本の娯楽作品に出て来るような感じで。

 コレが『依代』なら、たかが指一本炭化する程度のダメージ受けたくらいで逃げる必要あるかな、と感じるんだよね。指も元通り復元されてたし。

 コレが『依代』にしろ『式神』にしろ、この世界には無い術なんだけど。

 何の効果も無いなら、やっぱりコレは『作品』ではないのかな。

 あれ? そう言えば。


「ねぇ、キース。魔王は錬金術師の工房まで行ったのに、作品を押収しなかったの?」


 作品を見た記憶があるなら、全部は無理でも一部は押収なり破壊が出来そうだけど。


「あー。それなぁ、魔王を責めないでやって欲しいんだが、どうやら精神に干渉する魔法で縛られたらしい。動けなくした魔王に錬金術師は、一つ一つ作品名と効果を発表して持ち去ったんだ」


 は? 悪趣味な。

 でも、と言うことは。


「魔王は自分で『作品』を鑑定したわけじゃない?」

「自分で鑑定してあの口調で結果が出たら嫌だな」


 たしかに。全部フザケた口調だったような。

 でも、だとすると。


「錬金術師が嘘ついてたら、正確な効果は分からないよね?」

「そうだが。スチル通りの事件が起こるなら、その効果で辻褄は合うぜ」

「私もそれがあるから納得してたんだけどね。錬金術師がもっと万能だと思ってたし」


 けど、錬金術師は思っていたほど万能ではなかった。


「キース、ヨアヒム、あと多分フェルも。魔法防御かけてれば、精神干渉魔法も効かないよね?」


 三人が頷く。

 ヨアヒムが軽く目を瞠った。


「そうか。俺達はあっちの娯楽などで『そういう魔法もある』と認識しているから、防御に無意識にその対策も組み込んでいるのか」

「だと思う。他にも、私達はゲームで使っていたような魔法や術で、この世界には存在しないものがいくつかある」

「転移、召喚、死霊術、陰陽術、魔法薬制作以外の錬金術。メジャーなものでこれくらいか」


 よく考えたら、ゲームってかなり何でもアリだったんだな。

 実際に魔法が使える世界で暮してみて、「何でもアリだなぁ」と思っていたけど、一応世の中が滅茶苦茶にならない程度の縛りはあるのだ。

 もっと何でもアリな世界に転生していたら、殺伐とし過ぎて楽しめなかったかも。


「この世界の人達が『知らないから防げない』ことを仕掛けるから、錬金術師は万能みたいに見られてきたけど、私が通常発動させている防御で防げる程度の魔法だし、鑑定まで出来た。夜会で皆を動けなくした魔法は、精神に干渉して『お前は今、動けないし魔法も使えない』と信じ込ませただけ」


 それに、『鑑定した時の自分の記憶』を、更に詳細に鑑定した結果が、錬金術師の『作品』の効果に違和感を持たせた。


「錬金術師の魔法だけど、『思ったことが都合良く何でも可能になる』ようなものじゃなかった。矛盾や不可能を組み込むと発動しない、普通の魔法だ」


 私が魔法を即動させることを得意とするのは、集中力の高さもあるけれど、習得したい魔法の組み立て方が前世のプログラミング作業に似ていて慣れているからというのもある。

 小玉が中にいるので、フェルも魔力量の範囲内では即動させた魔法をバンバン使える。

 魔法を使ってできることは多いけど、矛盾があれば発動しないし、例えば『永遠』とか不可能な条件は組み込むことが出来ない。


 錬金術師の『作品』には、矛盾のある効果のもの。矛盾を出さないためには不可能な条件が必要になるものがある。


「魔法を組み込んで効果を持たせた『作品』が矛盾を含むのは変じゃない? どうして『何でも燃やせる炎』が燭台を燃やさない? どうして『何でも消化する』のに『作品』は消化されない?」


 油断して良いわけじゃない。

 けど、私達は、錬金術師の虚像に怯えさせられてはいないだろうか。


 魔法薬だって、魔法を組み込んで効果を付与するから、ちゃんと組み立てないと服用しても効果は現れない。

 ニールの継母が所持していた錬金術師の『作品』の魔法薬も、効果は酷く悪趣味ではあるが、魔導師団の団員が鑑定出来たのだから、矛盾無く成立した魔法だったはず。


「錬金術師が万能ではないなら、奴が魔王に語った作品の効果には、疑わしい点があるんだね?」

「私は、そう思う。それに、ちゃんと組み立てた魔法なら、効果を打ち消す魔法も組み立てられると思うんだ」


 ユアンの言葉を肯定して、思いついたことも付け足す。


「この世界には存在しない精神干渉魔法を、この世界の魔法で防いで鑑定できたなら、『脳がそうなってる』から使えない精神干渉魔法じゃなければ、私の記憶や知識が認識する魔法は使えるんじゃないかと思う」

「錬金術師の『作品』の『効果を打ち消す作品』を作る気だね」

「正確な効果が分かる物なら可能な気はする」


 フェルが私のやろうとしていることを言い当てたから、力強く頷いた。


「分かった。フェリクス・レンフォード・フォレスタリアが全責任を負い協力する。存分に力を発揮して欲しい」


 私は最も身分の高い方への礼を取る。

 フェルは側近達へも『次期国王』の顔で令を下した。


「この問題は他言無用。後顧の憂いを残さぬように、我々で解決する」


 異を唱える者は、誰一人いなかった。

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