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錬金術師への強制力

 ユアンが瞬間記憶している錬金術師の姿を描く間に、キースに魔王の記憶の中から使える情報を思い出してもらう。


「コレは作品名は無い。奴は『花びら』とだけ呼んでいた」


 錬金術師が残した造花の薔薇の花びらを見せると、キースは記憶を探って言った。


「多分、依代みたいなモンだろう。錬金術師の姿を取って喋るし魔法も使う。見聞きしたことも奴に伝わる。だが、ダメージを与えると逃げる」


 あれは逃げだったのか。かなり嫌な捨て台詞を残されたけど。


「錬金術師がアイリスの手に渡るようにしそうなブツは、ティーポットじゃねぇかなぁ」

「私達が見てない『作品』が他にもあるの?」


 複数の中から選択したような口振りに問うと、キースは頭を振る。


「いや、ゲームを見た人間なら見てる。悲劇イベントのスチルじゃなくて、マジただの背景だから俺も忘れてた」

「どういうこと?」

「キースの中の魔王の記憶が膨大で、中々全部は掘り起こせないんだが。錬金術師の工房で見た『作品』がスチルの背景にあった」


 事件に関わる小物とかだけじゃなく、背景まで私は錬金術師の影響下で描いたのか?


「お前さぁ、背景にフザケて思いっきり和風な鉄瓶描いただろ?」

「ヘ? あ、うん。それなら覚えてる」

「ソレ、魔王の記憶だと錬金術師の『作品』だ。作品名は、『嘆きのティーポット』。効果は『絶望のドン底で嘆き悲しむ運命入りの美味しいお茶が淹れられる』だ」


 この世界の茶器は、ごく普通の陶器のティーセットだ。

 背景に描いたせいか鉄瓶自体は存在するけど、私はソレを『ティーポット』のつもりでは描いていない。

 ソレを錬金術師は『ティーポット』として『作品』にしている。


「キース、他に何でもいいから錬金術師の『作品』で記憶にあるの描いてみて」


 仮説が頭を巡り、キースに求めた。

 もし錬金術師の『作品』が全てスチルに描いたものならば。


「作品名と効果は思い出すのに時間をくれ。魔王の記憶の工房の風景だけとりあえず描く」


 見事な筆致で描き上げられて行く工房の風景には、私にとっては見覚えのあるモノが存在している。

 私がスチルの背景を埋めるために適当に描いた、『私が自作したモノ達』。

 ただし、『本来の用途以外の目的』で全部作った。

 鉄瓶も私は『花瓶』にするために作って前世の自宅にある。


 スチルに描いたものは、この世界に存在する。

 ただし、特に説明が無ければ形状から常識的に用途を決められている。

 この世界で鉄瓶の形状に近いのはティーポットだ。

 でもね。


 この世界の人間は、鉄瓶を『花瓶』として使っている。


 この世界はスチルに影響されている。

 私が『モデルに描いたモノの本質』までが影響を及ぼしている。

 この世界の常識では、『鉄瓶』は『ティーポット』ではなく『花瓶』。

 錬金術師は、それを知らない。

 何故そうなのかも。


「この世界の常識的に、鉄瓶て何?」

「花瓶だ」


 私が問うとルークが即答した。


「じゃあ、この絵に描かれた台の上のモノの用途は?」

「虫除け。美容器具。メモ帳」

「キース、てか那波。あっちの常識だと何?」

「羊のぬいぐるみ。豪華で怪しい仮面。卓上カレンダー」


 羊のぬいぐるみは、除虫効果のあるハーブを入れて、飾れる虫除けにするために作った。

 豪華で怪しい仮面は、美容パックを押さえる面白グッズが欲しくて作った。

 卓上カレンダー風のメモ帳は、机上スペースを確保するためにメモ帳をスタンドに立てたついでに遊びで作った。


「お前、この世界に一体何したワケ?」


 呆れ顔のキースに、作品名を思い出したか訊くと。


「羊のは『悪夢の抱き人形』。仮面が『熱情の仮面』。卓上カレンダーが『消え行く暦』だ。この世界の常識的用途と照らし合わせると、錬金術師が哀れになるほどコッパズカシイ命名だな」


 虫除けを『悪夢の抱き人形』。

 美容器具を『熱情の仮面』。

 メモ帳を『消え行く暦』。


 いやぁ。何処の中学二年生かしら。

 自分なら、のたうち回るほど恥ずかしいわ。


「鉄瓶も羊も仮面も卓上カレンダー風メモ帳も、全部私が前世で自作したものだよ。見た目と違う用途でね。用途が明確な個体を描いた場合、その外観に引きずられない正確な用途がこの世界では再現されている」


 思案していたヨアヒムとキースが顔を見合わせる。


「錬金術師は、この世界の常識を把握していない。自分の常識が正しいと思ってる。そして、あのゲームのために私達に描かれたモノしか『存在するモノ』に出来ない」

「それだと遺跡から発掘された短剣と薬瓶はどうなる?」

「設定資料の表紙の落書き」


 私は前世が終わる瞬間まで眺めていた短剣を思い出す。

 ファンタジー系のゲームに出て来そうと思ったのは当然だ。

 あのゲームの設定資料の表紙に描いたのは、次に作る予定だった『ファンタジー系のゲームに出す宝箱の中身』だ。


「錬金術師は自由でも万能でもない。時を超え、世界を渡る能力を持つけど、『錬金術師』として造り出せる『作品』は、自分自身のオリジナルじゃない。奴には『創造する力』は無い」


 それと、もう一つ。


「錬金術師は、この世界の存在ではないし、私が前世で生きた世界の存在でもない」


 この世界の存在ではないと思うのは、薔薇の花びらを使うことと、この世界の常識を知らなすぎることから。

 前世の世界の存在ではないと思うのは、錬金術師もあの世界の存在なら、もっと自由にこの世界を弄り回せるはずだから。


 スノウが死ぬ運命を削除されたことを「忌々しい」と言った錬金術師は、あの世界では魔法も使えないんだろう。

 削除されたプログラムを書き直すことも出来ないんだから。


「できたよ。こんな感じかな」


 ユアンが描き終えた錬金術師の姿は、写真のように正確だった。

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