レイの部屋にて
レイの部屋にデビュタント用のドレスの最終調整をしてもらいに行くと、全く同じドレスがトルソに掛けてあった。
「それはハイドの分よ」
サラリとレイに言われ、二度見する。
いくら特技が女装でも、デビュタント用のドレスは特殊だ。
一体どこで着る機会があるんだろう。
「ハイドの分は、見た目で分からないように武器や暗器を至るところに隠せるの」
「へぇ、すごい! 仕事用?」
「そうね。デビュタントではハイドはソレを着て銀色のウイッグを被ってメイクして控えてるわよ」
え? それじゃあ、まるで。
「ハイド、私の影武者をするつもりなの?」
「このデビュタントだけじゃなくて。あの子はスノウの影武者になるのよ」
たしかに私には影武者が必要だ。
次期国王の婚約者は、いずれ王妃になる。
けれど王妃の影武者は、通常は背格好の似た女性が任に就く。
成人男性が王妃と同じ体型ということは、普通ならば有り得ない。
「ハイド、もしかして、もう体は成長しないの?」
男性の体は、成長期前に無理にでも成長を止めなければ、一生女性と同じではいられない。
デビュタントの時だけでなく「スノウの影武者になる」ならば、ハイドは一生女性の私と同じ体型でいるということ。
呆然としていると、「昔話をしましょうか」とレイが手を引いてソファに座らせてくれた。
「フラウ以外の側近の子達はね、私も含めて、最初は皆、スノウをお嫁さんにしようと思っていたのよ」
「私、初めて会った時には、もうフェルの婚約者候補だったよ?」
「候補なんて、学院卒業までに解消すればいいし。それに、あの頃のフェルは皆がお嫁さんにしたいスノウを友達としてしか見ていなかったもの。これは奪える、って思っていたのよねぇ」
皆もフェルが最初は私を友人扱いしてたの見抜いてたんだ。
「でも。スノウったら究極のおニブちゃんなんですもの! 全っ然こっちの気持ちになんて気がつかないし! そりゃあもう天晴で爽快なくらいよ!」
「私、そんなに鈍い?」
「鈍さを自覚出来ないんだから究極よねぇ?」
あ、やっぱりそうなんだ。
いたたまれない。
「あまりの鈍さに、脱落者も出始めたけどね。お嫁さんにできなくても、私達スノウのこと大好きだから。自分のできるやり方で、スノウを守りたいと思ったのよ」
「それで、ハイドは影武者になろうと?」
「あの子は割と早く決意したわね。スノウより大きくなってからじゃ間に合わないから。あなたは歴代のどの王妃より注目を浴びるわ。それは、歴代のどの王妃よりも狙われるということ。女性の影武者じゃ荷が重いわよ」
ディアマンテ公爵家の有名な双子。
妖精に名を授けられ、世界一の美貌を持つ天才。
大国の王妃にならなくても、誰よりも狙われる要素がある。
「ハイドはスノウと身長が並ぶと、自分に常に身体強化の魔法をかけ続けて、筋肉や骨を固めて成長を止めたの」
「痛いよね。それ」
「バカね。好きな女の子を守るために痛みに耐えるのなんて、男にとっては栄誉だわ? 困らせたいわけでも同情されたいわけでも無いのよ」
「そうだね。ごめん」
私はホントにバカだ。
ハイドの覚悟も決意も気づかないで、知らないで。
お揃いのドレスも、形態模写も、声帯模写も、命と人生を賭けて私を守るための準備だったんだ。
「ハイドの場合は弟が生まれたのも決意を後押ししたみたいね」
「影武者は主に人生を捧げるから結婚できない」
「ええ。私にも弟がいたら、人生をスノウに捧げる決意ができたんだけどね」
泣き笑いの私の頭を、レイが大きな手でそっと撫でる。
「私は、ずっとスノウとハイドのドレスを作るわよ? あとは、王都に王妃御用達のレストランを開店するの」
「食材調達から調理までレイ?」
「王妃様が予約した時だけよ?」
「ありがとう。レイ。大好き!」
勢いよく抱きつく私を難なく抱き止めて、レイはクスクス笑いを溢した。
「ヤキモチ焼きのフェルに見られたら大変ね。まぁ、いくら外国の王女様だからってアレは触らせ過ぎだし、私の役得でいいわね。大体フェルはズルいのよ。いきなり恋心を自覚したかと思ったら、王子権限で牽制し始めて。全員蹴落として婚約ですもの」
「私、フェルの牽制とか全然気が付かなかった」
「スノウの前では猫を被ってたのよ! モーモーって!」
ブフッ。
たまらず吹き出した私を見るレイの色違いの神秘的な瞳が優しい。
「レイの瞳って、月と夜空みたい」
「あら、詩人ねぇ。ありがとう」
「私もね。大切な人達を守るために頑張りたいの」
「大切な人達に私も入るのかしら?」
「当たり前じゃない! 絶対レイを守るから。ハイドも」
他の、大切な仲間達も。
「あなたと出会えて良かったわ。大好きよ。スノウ」
綺麗な満月色の瞳と、月明かりの夜空色の瞳を優しく細める笑顔のレイと過ごす時間は、私に深い安心をくれる。
今はレイにも他の皆にも隠している、この世界に忍び寄る災禍と私の記憶。
多分、きっと。
いずれ彼らには話すだろう。




