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アイリスの行動

 本当の身分がフェル達に知られると、アイリスの態度は遠慮が無くなった。

 表面上は、申し訳なさそうに「わたくし心細くて」などと遠慮がちにしているが、実際は偶然を装いフェルにベタベタとボディタッチしまくっている。


 やはり本命はフェルだったようで、堂々とフェルに近づく権利を獲得すると、側近達への媚態は鳴りを潜めた。

 私を膝に乗せることを止め、アイリスにベタベタ触れることを許すフェルを、リナが「え? どうして!?」という顔で遠巻きに見ているのに和んでしまう。

 リナの中には政治的な思惑とか無いもんね。

 私の不幸を望んで殺して転生させたくせに、心配そうにスノウとフェルの間を高速で視線行き来させたりして。


 学院入学までの15年、生き地獄のような生活をこの世界で送って、それから生活全般の面倒をみてもらえる学院で暮らすようになって、リナは人間の心を取り戻し始めた。

 甘ったれだし、相変わらずこの世界をゲームだとしか思ってないみたいだけど。

 優しい令嬢達に勉強や常識を教えてもらったり、物語の本を読み聞かせてもらったり、福祉局の職員達に毎日三食とオヤツを食べさせてもらい、喉が渇けば水やお茶を飲めるように助けてもらえ、体を清潔にしてもらい、快適な寝床で安心して眠る日々を過ごして。


 リナは「夢を見ているみたいだ」と泣いたそうだ。

 まだこの世界を夢だと思っているようだけど、スキップ機能なんて無いから、しっかり15年分苦難を体感したのは相当に身に沁みたらしい。

 やっぱり、リナにエンディング後の悲惨な末路は用意したくないなぁ。


 最近は、面倒見の良い上の学年のお姉様方とも交流があるようで、一応ゲームのクリアは目指しているのか全攻略対象キャラに義務のように話しかけはするものの、「よっしゃノルマ終わり!」と呟いて立ち去るようだ。

 狙いは逆ハールートみたいだけど、彼らも毒気を抜かれて来ていて、黒タキシード集合の処刑エンディングは避けられるかもしれない。


 アイリスは本当の身分は公表していない。

 公表するのは都合が悪いだろう。

 フェル達がアイリスの身分を知った後、彼女も王族専用寮に住ませるように要求して来たが、「ならば王族であると公表する筋を通してほしい」と返答すると渋々引き下がった。


 いくらフォレスタリアの平民に狼藉を働かれたという被害者意識を振りかざしても、王族の婚約者でもない伯爵家の娘が、『特例』で次期国王と一つ屋根の下で寝食を共に生活するなど言語道断だ。

 王族ではないフラウのことをチラとは口にしたらしいが。

 フラウは世界に名を知られる『妖精に溺愛されている双子』の片割れで、次期国王の側近かつ筆頭公爵の嫡男だ。その上、次期国王の婚約者の実弟で現宰相の息子。この国にとっての重要度が違う。


 アイリスが伯爵家の次女として留学中ならば、「遠い国へ来て心細いから」と見目麗しい高位貴族の息子ばかりを狙ったように甘えていても、この国の貴族女性はおおらかに見守る。

 淑女の心得として、弱い者や困っている者は皆で助けて守りましょうという意識が根付いている。だからリナも虐められることは無いのだ。


 だが、王族として留学しているならば、アイリスの態度は受け入れられるものではない。

 国を背負って留学して来た王族が、「遠い国へ来て心細い」などと小さな拳を口に当ててぷるぷるしていたら、王族としての自覚も誇りも無いのかと本人が馬鹿にされるだけでは済まない。

 そんな王族しか外国に出せない人材不足を侮られ、他国から攻め入れられる切っ掛けにもなり得る。


 少し穿った見方をする者ならば、アイリスの態度と王族という身分から、すぐに何を狙っているか想像をつけるだろう。

 となれば、アイリスは同性から白い目で見られるだけでなく、異性からもフォレスタリアの敵と目されてしまう。

 フェルを籠絡して骨抜きにする前に立場が悪くなれば、目的を果たさず居場所の無くなった学院を去らねばならない。


 アイリスに嫉妬することになるんだろうかと若干身構えていたけれど。

 それよりも、笑顔をキープしているフェルが本当は心底嫌がっているのが分かるので、心配の方が強い。

 寮に帰ってから毎晩寝る前の儀式のように、


「今日も気持ち悪かった!」


 と、フェルは私に抱きついて頭をぐりぐり押し付ける。


「体ではないところに鳥肌の立つ感覚を私は初めて体感した。小玉でさえ『あれは中身が文字列でも無理』と全身に鳥肌を立てていたよ」


 フェルはそう言う。

 意思が全体的に鳥肌立つ感覚って、想像だけで気持ち悪い。

 アイリスの侍女達も只者ではないようで、まだ16歳の若者達では話を聞き出せないらしい。

 尋問ならば、やりようはあると言うが、尻尾を掴ませない外国の王女の侍女を適当な罪状で引っ張る訳にはいかない。


 紫陽花も彩る6月になっても、「スノウ様は寮では同室でらっしゃるでしょう?」と私を遠ざけて、アイリスは蕁麻疹の出るようになったフェルにベタベタしていた。

 そろそろ、デビュタントの夜会だな。

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