フェルの中のフェル
寮の前で、私達は二手に分かれた。
フェルと私とフラウは、警備の厳重な王族専用の寮に入るためだ。
魔法で確実に親子鑑定ができるからなのか、この国では純潔でなければ結婚できないということも無いし、悪しき伝統として全寮制の学院には暗黙の了解で夜這い文化もある。
とは言え、王族やその婚約者が夜這いをされるのは問題だ。
フラウは、『妖精に溺愛される双子』として良い人にも悪い人にも大人気なので王族専用寮に入る。
フラウには公爵家からリックもついて来た。
もうフラウの方が強いんだけど、「猫の手くらいにはなる」と言って、フラウの身の回りの世話に励むらしい。
それにしても。
これは予想してなかったな。
「どうしたの? スノウ」
不思議そうにコテン、と首を傾げるフェル。
「えーと。問題、無いの?」
「何が?」
心底分からないという表情だけど、絶対、私の言いたいことは分かってるよね?
「私とスノウが同室で何か問題でも? 成人した正式な婚約者同士で、私は王族だよ?」
この世界の常識的には問題無いよ?
成人してるし正式に婚約してるし、婚前交渉ウェルカムな間柄だろう。
婚約から結婚までが長いから、成人したら既成事実を作るのは、褒められこそすれ非難はされない。
更に王族ともなれば、子を成すのが義務だから、結婚前に婚約者との間に子供が出来たら祝日になるくらい喜ばれる。
でも、それは、この世界の一般論。
フェルの体を動かしているのは人間相手じゃ欲情できない小玉じゃないか!
フェルが私をムチャクチャ好きなら、成人した男性の体で好きな異性と同室なのに手は出せないとか生殺し地獄だろうが!
「何考えてるの、小玉?」
私がジトッとフェルを見て問うと、彼はまたコテン、と首を傾げた。
「スノウ、私ではなくて小玉と話したい?」
「は?」
え? どういうこと?
そう言えば、もう二人きりなのに、フェルは自分のこと「私」って。
え?
え?
「えええええ!?」
ニッコリ笑ったフェルが距離を詰めて来る。
思わず後退りすると壁際まで追い詰められて。
壁ドン。
「フェル?」
「うん?」
「小玉、元の世界に帰ったの?」
「私の中にいるよ。まだ小玉の知識は必要だから。消したわけではない」
「中で、どうなってるの?」
「私の中から出て行く術を見つけるまでは、ゆっくり考えていると思うよ」
ニッコリ。
元の性質がそうだったのか、10歳から小玉を内に棲ませていたせいか分からないけど。
フェルと小玉は同類だ。
他人に容赦が無い!
「どうしてフェルの意思は体を取り戻せたの?」
「スノウのおかげかな」
ふわっとフェルは私を抱き上げて、私がワタワタしている内に、私を膝に乗せてソファに座った。
「完全に主導権を取り戻せたのは、スノウが婚約を了承してくれたから。私の想いが爆発するのと小玉が気を抜いたタイミングが合ったから体を返してもらった」
「ずっと機会を覗ってたの?」
「そうだね。私はずっとスノウに触れたかったから」
小玉は人前で必要な時以外には私に触れなかったもんね。
まぁ、私と小玉の関係で必要以上に触れたらおかしいんだけど。
「小玉に主導権を握られたままでは、スノウを他の男に奪われるかもしれないと思ったから。以前から小玉が消耗した時には出て来ていたよ」
「知らなかった!」
「スノウが大人になるまでは待とうと思って」
エメラルドの瞳を楽しげに三日月に細める。
会話している意思は小玉じゃなくて本物のフェルなんだけど、あまり初めて感が無いような。
知らない内に、結構フェルと話してたのかな?
「これからは、スノウを守るために体を使うのも、小玉の知識を使ってスノウを助けるのも、私がするから」
「小玉はいずれ、無事に元の世界に返したい」
「分かった。私が小玉を消す手段を見つけても、返す方を優先する」
散々フェルの想いを殺して来た小玉の自業自得ではあるけれど。
笑顔で消すとか言われてるよ。
「あれ? そう言えば」
ふと気づく。
今のフェルの話だと、私が婚約に頷いた直後にはフェルはフェルだった?
「ピアス、似合っているね。スノウ、愛してるよ」
ニコッと耳朶に口づけられて、今朝のフラウの言葉の意味が分かった。
これ、ただの固定魔法じゃないんだろうな。




