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初対面イベント

 式典が終了し、私達は顔見知りの令息令嬢達と和やかに言葉を交わしていた。

 と、そこに闖入者が。


「フェリクス! あたし来たよ! 会いたかった!」


 場の空気が凍りついた。

 そりゃあそうだろう。

 奴が口頭で補足した「フェリクスは入学前からヒロインに興味を持っていて会えるのを心待ちにしていた」なんて話は、この世界に反映されていないのだから。

 今のリナは、初対面で自国の次期国王を呼び捨てした頭のおかしい女だ。


 フェルが私を庇うように抱き寄せて、側近達が私とフェルを守るように立ちはだかる。

 学院内の帯剣は禁じられているが、王族とその側近は身を守るために武器の携行を認められている。

 カイル、ルーク、ハイドはそれぞれの武器に手を掛けていた。


 殺気を向ける彼らに気付いていないのか、リナは更に発言する。


「ルーク、ニール、ユアン、カイル、レイ、ハイドも! 入学おめでとう!」


 あ、やっぱり逆ハー狙ってるのか。

 攻略対象が固まってたから一気に初対面イベントをクリアする気だ。

 初対面で名乗ってすらいないのに、許可なく愛称呼びされた彼らは別の意味で固まっている。

 攻略対象じゃないフラウは眼中に無いらしい。


 本来なら、武器の携行も認められているし、斬り捨て御免で構わない状況なんだけど。

 リナは、国王が王妃に贈った慈善活動の結果なので、誰も斬り捨てることが出来ない。

 ここにいるのは、全員『国王の臣下』だから。

 これは、『国王の威を借りて傍若無人に振る舞う平民の図』だよなぁ。

 卒業後のリナの命が危ないだけでなく、国王の評価まで下がってしまう。


「国王様は慈悲深いお方です。きっとこのようにおっしゃるでしょう。『知らぬことは罪ではない。知らぬ者には教えを授ければよい』と」


 私が静かな声音で言うと、凍りついた空気が徐々に溶け始めた。

 カイル達が武器に掛けていた手を下ろした隙に、リナ付きの福祉局職員が我々に頭を下げ、慌てて彼女を引きずって行った。


「ちょっと! まだ全員終わってない!」


 引きずられながら喚いているけど。

 一応、口調はヒロインらしくして来たんだね。


「スノウ、大丈夫?」


 フェルに抱き寄せられたままの私を心配そうにフラウが覗き込む。


「うん。平気」


 私が怯えていたのは、『頭のおかしい女に婚約者が絡まれた』からではなく、黒いタキシードのヒーロー達に囲まれたリナの『処刑エンド』がチラつくからだ。


「何なんだ? アレは。ルーク、あの女のクラスは何処だ?」


 カイルに訊かれ、ルークは困り顔で答える。


「フェルと同じだ。父の話だと王命らしい。各クラスの身分の平均を同じようにするには仕方ないと」


 そうだった。

 学院内で一番身分の高いフェルと婚約者の私は同じクラスだ。

 私が筆頭公爵の娘だから、フェルの在席するクラスの身分の平均が釣り上がる。

 それを均すために平民のリナを同じクラスにするという話は分かる。

 けど、理屈は分かっても、側近としては納得できないだろう。


「その理屈だと、フェルは三年間あの女と同じクラスになるね」


 ユアンが悩ましげに言う。

 一番身分の高い学生と、一番身分の低い学生は、他の学年でも三年間同じクラスになっている。

 嫌だというだけの理由でリナのクラスを移動させれば、フェルが我儘王子の誹りを受ける。


「無礼なだけでは、魔力無しの平民の孤児だから教育を受けたことが無い、と憐れまれるだけだからな」


 ニールが顎に片手を添えて思案げに言って、フラウと頷き合った。


「ユアン、情報を集めてほしい。あの女が物を知らないから見逃せる以上の問題を起こせば、こちらも対応できる」

「僕、あの女と言葉を交わすのは嫌だよ?」

「頭のおかしい女と直接話しても情報は得られないだろう」


 呆れたようにニールに言われて、ユアンはホッと息を吐く。


「なら、女の子達から話を聞いてみる。あの女は、男性の前と女性の前で態度を変えるタイプに見えるから」


 ユアン、鋭い。

 リナがヒロインとして学院生活を送るなら、女生徒は眼中に無いか邪魔な障害物だ。

 そして、学院に入ったユアンが女の子とよく一緒に居ることになる理由は、ヒロインの奇行が原因だったのか。


「スノウ、絶対に一人で行動してはいけないよ? 何かされたら、遠慮なく魔法で処分していいからね。後始末は僕と父上でするから」


 子供の頃からシスコン気味だったフラウは、今や私が絡むとかなり物騒な『次期血塗れ公爵』になっていた。


「魔力無しの子を魔法でどうにかするのは、ちょっと」


 魔力無しで魔法が使えなければ、魔法に対する防御力も皆無だ。

 魔力のある人間が、反射的に展開する防御もできないから、こちらが軽く制圧するだけのつもりでも、再起不能の体になって死ぬかもしれない。


「物理的に制圧するには、あの女に触らないとならないでしょ? スノウの手や足が汚れてしまう」


 いや、別に汚れはしない。

 入学前に、ちゃんと福祉局の職員達に清潔にしてもらっているし。

 でも、フラウは本気だ。


「分かった。一人にならないから。皆も彼女に魔法攻撃はしないで?」


 私は自分に攻撃魔法の封印をかけているけど、他の皆は凄腕の攻撃魔法使いだ。

 魔力無しのリナが食らえば、最弱に出力を抑えても消し炭になる未来しか見えない。


「スノウは優しいなぁ」


 いや、全然優しさじゃないんだけど。

 前世で普通に暮らしていた記憶を持つリナが、既にもう存分に悲惨な目に遭って来たのに惨殺されたら寝覚めが悪いだけだから。


 今日は授業も無いから、他の学生達は寮に向かったようだ。

 私も皆に促されて、守るように周りを囲まれながら移動する。

 リナが現れたからなんだろうけど、フェルがずっと私を抱き寄せたままなのが落ち着かない。

 態度変わり過ぎだよ、小玉。

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