入学式
晴れ渡る青空。
満開の桜と柳の新緑が優しい色合いで混じり合う春。
今年の4月1日から来年の3月31日までの間に16歳になる貴族の子女は、この国のしきたり通りに『フォレスタリア貴族学院』に入学する。
今年は次期国王であるフェリクス王子が入学するということで、在学生も色めき立っている。
学院入学、すなわち成人と同時に、フェリクス王子の側近候補者は全員、正式に『次期国王の側近』となった。
私、スノウは今朝一番で、婚約者候補から正式に『次期国王の婚約者』になった。
正式にフェルの婚約者になることが分かると、王宮中の人間が、涙ぐんで王子を祝福した。
「無邪気な妖精姫に、やっと男性として見てもらえたのですね」
「長い片想いでしたね、王子」
「夜会のデビュタント前に捕まえることができて本当に良うございました」
などとフェリクス王子が労われていた。
皆さん、私が鈍いという認識だったの?
それにフェル以外まで捕獲扱い?
「分かってはいたけど、すごい執着」
朝、顔を合わせたフラウが私の耳朶のピアスを見て開口一番そう言った。
自分の瞳の色のアクセサリーを恋人に贈るのは一般的なはずだけど?
他の側近の皆も、「やっぱりな」とか「ようやくか」みたいな顔で祝福してくれた。
本当に気付いてないのは私だけだったらしい。
今年の学院の入学式は、次期国王と婚約者、そして側近達が入学するという以外にも、大きく注目を集めていた。
昨年の王妃の誕生祝いに国王が贈った『歴史上類を見ない』慈善活動。
恵まれない子供に夢を与えるために、王都の城下町で『特注の魔力無しでも回せる抽選機』による抽選会が行われ、見事当選した魔力の無い平民の少女が、貴族のみが入学を許される学院に『特例』として入学するのだ。
「国王様も思い切ったよね」
「王妃が予想もつかないプレゼントを贈りたかったらしい」
「サプライズ的な?」
学院に向かう馬車の中で、私とフェルは会話する。
今日は私は王家の馬車にフェルと同乗している。
正式に婚約者になったのでこの扱いらしいけど。何故か周りの人々の目が生温い気がする。
私が全力で好みに描き上げた学院が実体化している様に感動しつつ、入学式が行われる会場に着いた。
席は通常は身分順になっているが、フェルと私がトップで隣同士、その後は側近が固められるように用意されている。
ヒロインは、遠く離れた一番後ろだ。
差別と言うより、貴族の中に放り込まれた平民のヒロインへの福祉的な配慮だ。
入学前に、「これだけは必要」という常識は教えているらしいが、既にお茶会などの社交で『全員顔見知り』の貴族の中にポツンと置いても却って辛い思いをするだろうと、理事会で話し合われたらしい。
ヒロインの名前は『リナ』というそうだ。
思ったより普通の名前だな、と感想を抱いたけど、私の知らないところで一悶着あったようだ。
ヒロインは学院に入学する権利を得て名前を尋ねられた時に。
「エカテリーナ・ディアマンテ」
と名乗ったそうだ。
お父様とフラウが私の耳に入れないように騒ぎを収めていた。
平民が持つ名前ではないし、魔法で判定してディアマンテ公爵家とは縁も所縁も皆無であることは証明されている。
戸籍を調べると、商家の生まれだったが親にも捨てられて家名は無く、現在はただの『リナ』として裏町で寝起きするストリートチルドレンだった。
リナを捨てた後、彼女の両親と兄弟は逃げるように国外ヘ出たらしい。
色んな意味で注目されているヒロイン、リナは、生活の全てを国王の私財で賄われて、三年間この学院で生活する。
魔力の無い彼女の生活をサポートする福祉局の職員も、交代で学院に出勤することになり、かなり大掛かりなプロジェクトと言える。
国王の私財だから誰も文句は言わないが、国費を用いていたら大変な反発が起こりそうだ。
学院には、まだ出会っていないヒーローが三人いる。
新任教師のキース。
留学生のヨアヒム。
女子留学生のアリス。
アリスは隠しキャラで、身分と性別を偽っている。全寮制だけど寮が男女混合でよかったね。男女別だったら身分と性別がバレた後に国際問題だったよ。
那波と木之内が入っているのは誰だろう?
式典中に振り返ることはできないから、留学生の様子は覗えない。
教師席を見ると、キースが私をキラッキラした目で穴の開くほど見つめていた。
うん。分かった。
キースには那波が入ってる。
スノウは那波が描いた最高傑作の美少女だもんね。
自分が描いた女の子にしか勃たない那波にとって、今のスノウはリアルに存在する至高の性愛対象だ。
幾ばくか身の危険を感じてゲンナリしていると、隣のフェルがギュッと手を握って来た。
驚いて視線を向けるとニッコリされる。
え? 小玉が私の手を握るとは思えないんだけど。
フェルの体を動かしているのは、小玉の意思だよね?
入学生代表の挨拶は、理事長の息子であるルークが堂々と行なった。
昨夜、ニールに駄目出しされながら練習した成果は上々で、入学生のご令嬢達から色めいた溜め息が洩れていた。
式典は滞り無く終了したけど、オープニングの入学式が終わったら、ゲームスタートなんだよね。




