表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/48

ニールの明るい未来

 三年前、フェルから息子の素行に注視するよう言われた外務大臣のクアトロス公爵は、すぐに独自に調査を開始していたらしい。


 外面の良い息子、クアトロス伯爵が会う度に『相談』という体裁でこぼすニールについての愚痴を、忙しさにかまけて直接自分の目で確かめもせずに彼は信じてしまっていた。


 クアトロス伯爵は、自分より優秀なニールを疎ましく思い、父に気に入られて自分を通り越して公爵家を継ぐことを怖れ、ニールと公爵を会わせないように徹底して手を回した。

 外交官の職務上、自分は父と顔を合わせる機会が多い。

 その都度、如何にニールが怠惰で無能な乱暴者かを悩ましげに愚痴ってみせた。

 仕事が忙しく妻に任せきりだったせいだろうかと嘆いて、妻のことも悪印象をつけるように画策した。


 その甲斐あって、クアトロス公爵は、息子だけを自分の屋敷に招待し、孫や息子の妻を気にかけることは無かった。

 ニールが王子の側近候補に選ばれたのも、国の要職に就く父親や祖父の功績のためだろうと考えていたそうだ。


 調査を進めたクアトロス公爵は愕然とした。

 貴族社会で噂になるような高位貴族の女性を避けて、息子は実に巧みに女遊びに耽っていた。

 ニールが嫡男であることだけは動かない事実だが、あちらこちらに身分の低い隠し子まで存在していた。


 魔力が生活の全てに作用するこの世界は、前世の記憶が残る私が何の不自由も感じないくらい文明的で便利だ。

 親子関係の有無も魔法で判定できる。

 クアトロス伯爵が現在の妻を伯爵夫人として迎え入れたのは、たまたま前妻が亡くなって伯爵夫人の座が空いていたこと、腹の子供との親子関係が確実であったこと、彼女が一応は貴族家の出身で実家が金満家であったことが理由だ。


 だが、彼女には秘密があった。

 彼女の実家は商売で成功した大金持ちではあったが、祖父の代に爵位を買った、元平民の男爵家だ。

 更に、秘匿してはいたが、尚も詳しく調べると、曾祖母が妾腹の娘で、『鑑賞に耐え得る美しさ』のギフトを持つ魔力無しの血を引いていた。

 魔力無しの血が入っていることが知れると、せっかく爵位を買ったのに良縁は望めない。

 見合いで相手の家に血筋を遡って調べられたら困る。


 彼女は成人すると手当たり次第に貴族男性と関係を持ち、クアトロス伯爵の子を身籠ると、自分が妻の座に収まるために。


 ニールの母親を馬車の事故に見せかけて殺害した。


 まんまとクアトロス伯爵夫人になったが、まだ女の子一人しか産んでいないのに伯爵は家に帰って来ない。

 自分の立場を確かな物にするには、男子を産んでからニールを排除しなければならない。

 けれど伯爵は自分を抱いてくれない。

 ならば、美しいニールを誘惑して、彼の血を引く男子を産めばいい。

 そう考えた彼女は、あの手この手でニールを誘惑するが、ニールは全く靡かない。


 とうとう彼女は、外国から怪しげな『惚れ薬』を大枚叩いて取り寄せた。

 毒物の判別に長けたニールが口にすることは無かったその薬を押収してみると。


「これ、ニールのスチルの薬だ」

「ニールの母親殺害の容疑が固まり、逮捕して家探ししたら出て来たんだ」


 フェルに見せられた薬瓶は、ニールのスチルに出て来た『怪しげな外国の薬』と寸分違わぬ代物だった。


 薬の分析結果を聞いて、スチルに隠された真実が分かった。


 薬はたしかに『強力な惚れ薬』ではあった。

 服用すると、『食べてしまいたいくらい対象が欲しくなる』効果が現れる。

 効果対象は、『視界に入る、少しでも好意を持つ相手に無差別』だ。

 これは当然、魔法薬だ。

 高度な知識があれば、魔法で分析できる。


 ニールのあのスチルは、『父が母と妹を殺して食べた』ことにショックを受けたわけじゃない。

 虐げられながらも父の代わりに家を守って来たのに、殺されなかった自分は、顧みられることのなかった継母と異母妹と比べてさえ、父から『少しの好意も持たれていなかった』ことをハッキリ突き付けられたからだ。


 継母は、ニールが薬を口にしないまま全寮制の学院に入学して帰って来なくなると、クアトロス伯爵の方に薬を盛ることにするんだろう。

 そして、ニールが3学年の秋に、それに成功する。


「ニールの継母は現在、牢に入っている。生家は取り潰し。魔力無しを隠して貴族の家に血を入れようとした上に、貴族女性を計画的に殺害。貴族家の嫡男に魔法薬を盛ろうとして、その後の殺害も計画していた。いずれはクアトロス公爵家を乗っ取り意のままに操る目算もあった。民衆に公開され、死罪になる」


 公開で死罪。

 貴族女性は、大概の罪は遠隔地で幽閉、厳しくて国外追放だ。

 貴族の死罪は、自宅か王宮で賜った毒杯を呷るのが通常。

 平民でも、牢の中で刑を執行されずに公開で絞首刑に処せられるような大罪を犯す者は、この数十年いなかったはずだ。


 量刑を申し渡すのは国王だ。

 国王は、この罪を『国家を害する』に値するものと判断したのだ。


「ニールは、クアトロス公爵家に引き取られることになったよ。伯爵に隠れて公爵はニールと会い、互いの溝を埋めていったようだね」


 それで、ニールから影を感じなくなったのか。


「クアトロス公爵は、息子の廃嫡を正式に決めた。ニールはクアトロス公爵家の嫡男になった。クアトロス伯爵は、爵位を返上して外交官の職も辞し、外国ヘ行くそうだよ。話が広がれば彼の居場所は、この国の貴族社会に無いから」


 これで、ニールの悲劇の可能性は潰せたのかな。

 窺うようにフェルを見上げると、彼は私を安心させるように笑みを浮かべた。


「ニールはもう、大丈夫。君がニールの苦しみに気がついて、王子のフェルに相談してくれたから。よく頑張ったね。スノウ」


 安堵の涙がこみ上げる。

 よかった。ニールに、あの理不尽な悲劇は起こらない。


 それからしばらく経ったある日、元クアトロス伯爵がひっそり国を出ると、大罪人の公開絞首刑が執行された。


 その様子を目にして青褪めた私をフラウは気遣ってくれた。

 でもね、私が青褪めたのは絞首刑を目の当たりにしたからじゃない。


 王命を受けた『死刑執行人』の正装こそが、『黒いタキシード』だったからだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ