書き足したプログラム
自分の力に怯えなくなるまで。
私は、組み手や対戦は止め、素振りや型の訓練、走り込みを徹底し、瞑想の時間を増やした。
魔法は防御や身体強化、生活魔法を完璧に使いこなせるようにすると、攻撃魔法は覚えるだけ覚えて自分で使えないように封印した。
攻撃魔法が必要な状況を考えてみたら、『絶対に我を忘れない』と自信を持って言えなかったから。
治癒魔法に関しても、出力の上限を決めてロックをかけた。
治したい気持ちが暴走したら、私の魔力量と魔法が即動してしまう集中力だと、治癒過剰で死んでしまう。
私の封印とロックは、フラウと話し合って、フラウにしか解除できないようにした。
私と同等の魔力と集中力があって、信用できて大抵すぐ傍にいるのはフラウ以外に思い浮かばない。
攻撃魔法を封印しても、私の魔力量なら生活魔法の応用と出力調整で十分戦えるから、フラウも賛成してくれた。
久しぶりにフェルと会うために王宮ヘ行く。
フラウも他の側近候補達と勉強会があるから一緒だ。
フラウと途中で別れ、私はフェルの庭に入った。
相変わらず、日本の小学校の中庭の風景だ。そろそろ朝顔で緑のカーテンを作る時期だろうか。
「久しぶり、スノウ。少し雰囲気が変わった?」
「天才の苦労がようやく分かった」
「ああ、そういうこと」
クスリと笑って四阿の椅子を勧められ、私は静かに座った。
「邪教集団だけど。まだ存在していないのかもしれない」
フェルに調査を頼んでいたけど、情報が出て来ない、てことかな?
「まだ国外の情報は集まってないけど、国内には『邪教集団』という言葉が、そもそも存在していない」
「邪教の信仰対象がまだ発生してないとか?」
「分からないけど、今はまだ邪教集団というものが、この世界には無い」
今までの経験だと、設定とスチルで決定付けられたものは、この世界に現実として存在する。
それが、『モーモー鳴く猫』のように、どんなに馬鹿馬鹿しいものでも。
存在しないものがあるなら、不幸な事件は?
「この先のことを訊いても答えてくれる?」
「内容による」
内容によっては答えてくれるのか。
「ヒーロー達の不幸な事件は、現実に起こる?」
「フェリクス以外のヒーロー達の不幸な事件は、『起こる可能性が消せなかった』かな」
「フェリクスと彼らの違いは?」
「フラウとスノウの死は、台詞を2行削除するだけで無かったことに出来た」
逆に言えば、台詞2行で人生を終わらせられてたのか。
「他のヒーロー達の不幸は、全部改変すると、この世界の辻褄が合わなくなるくらいシステムに絡んでるから」
そう言えば、フェリクスルートのスチルに、フラウの殺害シーンとかスノウの自殺シーンは無かったもんね。
他のヒーローは目の前で事件が起こる。
その後の溺愛スチルでも、過去を回想してからヒロインに甘い言葉を囁く。
全部バッサリやると、ヒーローの過去も否定することになるのか。
それに、スチルごと削除すると、この世界に存在していた筈の物だけでなく、人間や文化や常識まで『無かったこと』になるかもしれない。
「那波と木之内は、不幸を被るかもしれないヒーローの中にいるってことだよね」
「そうだね。あの二人には苦労させることにした」
普段大人しい人が、一番怒らせちゃいけない人なんだよな。
学院に入るまで会わないヒーローは、留学生二人と教師一人だ。
誰に入ったとしても、全員かなり重い宿命を持たされている。
「今も、那波と木之内はこの世界の何処かで苦労している?」
「うん。シナリオ通りになれば、せっかく生き延びたスノウが不幸になるから死ぬ気で何とかすると思うよ」
うわあ。ニコッと笑った。
「シナリオを頭から書き換えることは不可能だったんだね」
「それをやると、この世界が強制終了になるから」
「だよね」
「俺達が君の現状を知った時には、もう君の人生というこのシナリオはスタートしてしまっていて、介入できるタイミングとキャラクターも限定されていた。その中で最適な配置をしたつもり」
ヒーローの中で最もスノウが関わりやすくて、他のヒーロー達に対しても影響力がある。
フェリクスがこの世界の事情を知っていて、全面的に協力してくれるのは。
シナリオ通りの未来が起こる可能性が自然消滅しないのが確定なら。
絶望の手前で戦う光になる。
とにかく、システム上、放置すればヒロインの行動如何で、ヒーロー達の誰かにとんでもない不幸が降りかかるのは確定なんだな。
起こる『かもしれない』から可能性を潰す。
ではなく、シナリオの行方を知っているヒロインが行動しないはずがないから。
誰かには『確実に』起こる悲劇的な未来だ。
それに、大まかなシナリオとシステムが変わってないということは、逆ハールートという恐ろしいものもある。
逆ハールートに入ると、次から次ヘと全ヒーローの不幸スチルが展開することになる。
あのヒロインなら、狙うだろうな。逆ハールート。
「設定上、変えようの無い過去を持つキャラクターもいるけど、あのゲームのシナリオがスタートするのは学院の入学式からだよ」
「え? シナリオがスタートしてたから介入出来なかったんじゃないの?」
「スタートしてるのは、奴が君を無理矢理送り込んだこの世界に転生した君の人生」
よく分からない。どう違うんだろう。
「同じ設定とシナリオの世界ではあるんだけどね。奴は君を殺してから自分も死んで同じ世界に転生した。この世界に先に転生したのは君。そのために『シナリオ』より『この世界』に強く影響されて君は生きている。そんな君の近くにいるヒーロー達も、『ヒロインにまとわりつかれるシナリオ』の影響はまだ受けていない。
入学式から始まる『ゲームのシナリオ』では、ヒロインが『条件を満たす行動』をすれば、潰し切れなかった可能性は、『時期が来れば強制的に』発生する」
それは。
一見かなり分の悪い勝負だけど。
それぞれの事件の起こる時期は確定しているから、その時期に何も起こらないように。
準備も対策も行動もできるということ。
「どうして最初からこの話をしなかったの?」
答えは何となく分かっていたけど、私は訊いた。
「君が受けとめられるようになるまで言う気は無かった」
小玉は、おそらく、悲劇的な未来が確定されているヒーローに入った那波と木之内も、私がちゃんと戦える状態にならなかったら、全部のヒーローの人生を見捨てるつもりだったんだ。
スノウの人生だけは守って。
ディアマンテ公爵家の人間が全員無事で国が滅亡していなければ、スノウはとりあえず不自由無く生活できる。
唯一正気で残ることができるヒーロー、フェリクスが、エンディングの後で、後始末をする役なんだ。
狂ってしまったヒーロー達と、元凶のヒロインを『処理』するためには、この国の王位継承者である必要がある。
だから、小玉が自分を組み込んだのはフェリクスだったんだ。
条件は、私の成長が『ゲームのシナリオ』開始に間に合わなければ。
それが、小玉の書き足したプログラムだったのだろう。
でもさ。
君ら、友情が重いぞ。




