転生しました
赤ん坊の泣き声。自由に動かない体。
器用貧乏な自分の前世を覚えてるということは、あの自称乙女ゲームの世界に転生したんだろう。
私を刺殺した犯人が認識する不幸になる人物に転生したとすると、とりあえず身分と容姿は保証されるな。
なにしろ人物は全部、那波が描いたから。
ヒロイン以外なら誰になっても『一度はなってみたい美形』だ。
あ、ヒロインだったら絶望するかも。
ヒロインだけは絶対イヤだな。
「スノウ様、フラウ様、なんてお可愛らしい」
よっしゃ! ディアマンテ公爵家の双子の姉弟!
どっちに転生してても設定上この世で一番美しい!
いかにもゲームな世界観で、有り得ないカラフルな髪や目の色のモブが闊歩するけど、この双子は銀髪に青い瞳。
鏡を見る度に目の痛い配色じゃないはず。
学院に入るのが16歳。2学年で弟のフラウが暴漢に襲われて殺され、3学年の始めに姉のスノウが悲嘆に暮れて自殺する。ということになっていた。
でもね、シナリオを書いた俺が神とかほざいてたけど、あいつがゲームの強制力を効かせられると思えないんだよね。
コレ、タイトルすら付いてない試作品だし。
こんな、社の信用に関わる危険物を流出されるわけにいかないから、奴に持ち出されないように厳重に管理したし。
この世界は奴の手の中には無いと思うんだよね。
それと、私が呑気に構えていられる理由はもう一つあって。
この世界に『神』という概念は無いのだ。
シナリオ書いた奴はヒロインのチートを『神に愛されてるからラッキーの連続』とか言ってたけど。
奴が口頭で言っただけで、設定にも表示される台詞にも反映していない。
やたら神扱いされる那波が嫌がったせいもあるけど、設定にもストーリーにも神殿とか聖職者とか出て来なかったからね。
平民が王侯貴族と結ばれるシンデレラストーリーに定番の聖女設定も無し。
てことで、神の強制力で双子の死が回避出来ないということは無いと思う。
妖精の中で最も美しいと言われる雪の妖精のような麗しい双子。
筆頭公爵のディアマンテ家。財力も権力も申し分無い。
たしか、死んだ時の悲劇性を煽るために、双子のどちらでも能力チートで人々に慕われるカリスマ性もあったはず。
この双子、弟が殺されなければ、絶望に塗れて不幸になることは無い気がする。
むしろ、恵まれ過ぎてて不幸になる未来が見えない。
誰かに抱き上げられる感覚。
まだよく見えない目の近くで、私に語りかける気配がする。
「スノウ。どんなに美しいレディになるだろうね。愛しているよ。笑っておくれ」
私は姉のスノウらしい。
やれることは色々ありそうだ。
前世は器用貧乏だったから、能力チートなら全力で努力したらどこまで才能が伸びるのか試してみたい。
「おお! スノウが笑ったぞ!」
この先が楽しみで口角が上がる。
父親らしき人物も喜んでるし、良かった良かった。