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フェルとの交流

 フェリクス王子と婚約者候補の親睦を深める交流。という体で、私は王宮でフェルと会っている。

 伝統的なお茶会スタイルではなく、会うのは王宮図書館内の王子専用室。

 扉の外に護衛は立っているし、図書館にはフラウとリックがいるけど、完全密室で二人きりだ。


「ピクニックか。いいんじゃない? スノウは面白いこと考えるよね」


 側近候補の子達と交流してみて感じたことなどを相談して、「だから皆でピクニックしたい!」と言ったら、フェルは鷹揚に賛成の意を表してくれた。


「必要な手配はこちらでしておく。俺は王子の飛竜で参加するよ」

「王子のってことは、やっぱ希少種?」

「白」

「え!? いたの!? 黒は!? 喋れる!?」

「黒は見たこと無いかな。人語で会話できるよ」


 すごい。さすが大国の王子様だ。伝説の白竜に乗れるなんて!


「スノウ、すっかりこの世界の人間だね」


 白竜の話題に興奮していると、フェルが嬉しそうに微笑む。


「だって、もう十年も全力でこの世界に生きてるし。毎日充実しているもの」

「この世界が好き?」

「うん! 奴が書いたシナリオとか関係なく、この世界が好きだよ。だからこそ、奴の考え出した悲劇は、この世界に現したくない」


 私の言葉に、フェルが深く頷いた後、真面目な顔になって声を潜めた。


「邪教集団については、こちらで調査するからスノウは動かないで欲しい。シナリオ通りの集団だと女性は狙われる」


 ああ、私が不審死したら世界壊滅だっけ。

 迂闊な行動は慎もう。


「それから、王子は直接介入しないけど、外務大臣に息子の素行を見るよう、それとなく話しておく」

「ありがとう」

「ニールが放っておけないんだ?」

「まぁね」


 私は苦笑する。

 小玉は私の前世の事情を知っているから。ニールと私が少し似ていることに気付いている。


 前世の私は、生まれ育った片田舎では神童だった。

 何をやってもすぐに人並み以上にできる器用さと能力に人並み以上の外見。

 だけど、テレビもネットもあるあの世界で、自分は『人並み以上』に過ぎないことは、幼い時分に否応なく自覚した。

 何でもすぐにできるようになるならば、死ぬほど努力したらもっと上を目指せるかもしれない。

 そう思って、努力の癖がつくほど当たり前に頑張りまくった。

 だけど私は、ずっと器用貧乏な凡人のままだった。

 人並み以上の外見と能力に寄って来る人間は多かったけど、誰もが勝手に期待して失望する。

 私を利用することしか考えない家族には愛着を持ったことも無いのに、いつも起こした問題の後始末に奔走していた。


 自分がどれだけ頑張ってもなれなかった『天才』達に、大学で出会って声をかけてもらえなければ。

 搾取される人生に飽きた私は、何をしていたものか分からない。

 当時の私は、多分自分より能力の劣る人間を見下していた。

 私より劣るくせに私を搾取すると憎んでいた。

 彼ら『天才』が、私を認めて尊重してくれて、やっと私は世の中をハッキリ見ることができた。


 自分の生きて来た世界は狭くて、自分はまだ経験不足で若いのだと。

 世の中には色々な考えを持つたくさんの人がいて、楽しむかどうかは自分次第だと。

 ままならないことだって、案外面白いのだと。

 他人を許し、好きになることができなければ、他人からも、心を寄せてはもらえないのだと。


「スノウには、ニールも器用貧乏に見える?」

「前世の私よりは天才に近いだろうけど。自分が求める力を自分は持っていないもどかしさは、通じるかな。自分の優秀さを自覚しているところも。プライドが高くて、自分が認める天才にしか助けを求められないところも」


 ニールは、優秀ゆえに誰も信じることができないように見えた。

 だけど、物の見方が彼と同じ私やフラウならば、求める会話くらいは出来ると思って誘ったんだろう。

 いくら優秀でも彼はまだ10歳だ。

 抱える物の大きさと持てる力の均衡が取れなくても恥じる必要は無い。

 優秀な彼が心から認めることができる仲間を得ることがあれば、彼は成長して彼の望む力を手に入れる術を探すこともできるだろう。


 彼の方から私に関わって来た。

 ニールは、前世の私よりよほど柔軟だ。

 それなら、この世界では、私が彼に手を差し伸べる役でもいいんじゃないか。

 今の私は『天才』と呼ばれているし。

 前世の私より柔軟な彼は、きっと私より多くのことを受け入れられる。


「ところでさ。皆のストーリー思い出して思ったんだけど。何で奴は私をスノウに転生させたんだろう? 不幸にさせたいなら、もっと悲惨な目に遭う被害者いるよね」


 ふと私が言うと、フェルの表情が固まる。


「それに関しては、後で木之内から聞いて」

「え、どうしてまた」

「俺、木之内に対しては信徒の管理をしなかった那波以上に怒ってるから」

「え、最高権力者には逆らえないだろうし仕方無くない?」

「君が殺された後、木之内は祖父を潰した。出来るならさっさとやっておけば君は殺されずに済んだかもしれない」


 うーん。小玉、かなり怒ってるけど。

 フェルの王子様的美少年顔も、かなり怖いことになってるけど。


「可能性、だよね。殺されなかった、かもしれない。奴は那波のストーカーだったんだし、あの時に木之内が祖父の要求を退けてたって、奴は那波の周囲の人間を殺して回ったかもだし。そしたら、こんな楽しい世界に転生もできずに、ただ死んでたかも。だよね。起きてしまったことは変わらないんだし、過ぎたことの可能性で怒っても。ね?」


 私が言うと、フェルの顔が情けなくクシャリと歪んだ。

 怒りのオーラも霧散している。


「ズルいな。木之内。君が許すなら俺も怒れないじゃないか」

「小玉達に仲違いして欲しくないよ。プログラムの部分は聞いていい?」

「何?」

「どうして小玉はスノウに『妖精王の祝福』の加護を付け足したの? この世界に来る前に書き足したなら、この世界が妖精を信仰しているとか知らなかったよね?」


 疑問に思っていたことを訊くと、フェルがコテンと首を傾げた。

 美少年だと似合う仕草だな!


「言われると変かな? でも、書いてる時は何も疑問に思わなかったよ」


 うーん。思いつきが上手くマッチングした?

 でも書いた本人が疑問に思わなかったなら、これ以上突っ込んでもなぁ。


 二人でコテンと首を傾げ合っていると、交流時間の終了を知らせるノックの音が響いた。

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