ルークと飛竜
ルークの家に到着して、フラウが学院前で不審者が騒ぎを起こしていたと告げると、不在の父親に代わりルークが調査を手配した。
「スノウ。恐ろしい目に遭ったね。やはり私が出向けばよかった」
私より少し背の高いルークに心配そうに屈んで視線を合わせてもらい、首を横に振って笑ってみせた。
「大丈夫。フラウもリックもいるし。それに、学院を見てみたかったもの」
「そう。学院は気に入った?」
「うん。入学するのが楽しみ」
「よかった。私も楽しみだよ」
安心したようにルークも笑ってくれた。
ルークの後ろには小さな男の子と女の子。5歳下の弟と4歳下の妹らしい。
弟はあまり体が丈夫ではなく、妹は元気過ぎて生意気だとルークは言うが、弟妹を見遣る彼の目は慈愛に満ちていて、優しく頼りになる兄が二人とも大好きなようだった。
ルーク。学院理事長の息子。ヒロインと同い年。ツンデレ眼鏡。
と、設定にはあったが、弟妹にまとわりつかれて世話を焼くルークは属性ならば世話焼きオカンに見える。
私とフラウに対しても気遣いが細やかだ。王子の側近としても、その性質はフェルを助けることだろう。
で、実在のルークだが。
本名ルークスター・シェンワード。シェンワード侯爵家嫡男。
水色の髪、濃い銀の右眼と透き通るような金の左眼の、黙っていれば彫刻のような美少年。
結構表情が豊かだし、弟妹に髪とかほっぺとか引っ張られているから、クールだとか冷酷だとか氷の貴公子だとか。奴が口頭で言ってた設定は記憶の彼方に流れて行った。
特技は家具製作と空中戦。見た目通りの頭脳派かと思ったら、高いところが大好きで、自分の飛竜も持ってるし、竜騎士隊で修行中だとか。
家具製作は、修行の一環で切り倒した木の有効活用を模索する内にプロ級の腕前になったそうだ。
趣味は読書と飛竜の世話。
読書は見た目通りかな、と思ったら、読んでいるのが飛竜に関する本と武器や戦闘術に関する本ばかりだった。
実際のルークは、飛竜マニアの武闘派らしい。
そんなルークにシナリオで降りかかる不幸は。
ある日、学院理事長の父親が汚職(内容は出て来ない)の濡れ衣を着せられ、追い詰められて学院の寮のルークの部屋で首吊り自殺(ここを死に場所に選んだ理由は出て来ない)する。
父を追い詰めたのは、ルークが想いを寄せていたボンキュッボンで口元にホクロのある妖艶美女の彼の家庭教師(侯爵を追い詰める力を持つ美女が何者かは謎のまま。そして成人後に家庭教師がいるのはおかしい)だった。
想う女性が父の仇敵というだけでも辛いのに、彼女は父の愛人だったと告白(真偽不明)。だからルークの母親が憎いと、父の死体がぶら下がる部屋で(まだ片付けてない)、フタナリの彼女(何でも有りだな)自らルークの母親を犯して(また犯すのか。母親どこから出した)惨殺。
愛していた彼女(マジで?)を自分の手で殺めてしまったルークは、辛い記憶しかない部屋で暮らす(部屋移れよ)内に心を壊し、救いを求めるようにヒロインを探して学院を彷徨うのだった。
テストプレイでは、ルークのルートは胸糞悪い成分より、理解不能が酷くて死んだ目をしてエンディングまで頑張った。
寮のルークの部屋、いつか見に行こう。
現実にそんな事件の舞台になったら、部屋は捜査のために封鎖されるし、捜査終了後は下手したら寮ごと取り壊しだろう。
ルークの事件は、3学年の春と夏の中間だけど、あまりに現実味が無くて戸惑う。
もしシナリオ通りにルークの人生が展開したら、どう辻褄を合わせるんだろう?
シェンワード侯爵邸の図書室で、フラウがルークに、私はルークの弟と妹に勉強を教えながら、ふと考える。
そういえば、学院が全寮制なのは不評だったな、と。
シナリオの話じゃなく、現実的にこの国の貴族達に不評。
当たり前なんだよね。だって、貴族の子女しか入学しないんだから、皆、王都に屋敷がある。
しかも学院入学で成人なのに全員まだ独身。
その上、ヒロインがヒーローとイチャコラしやすいように、設定でしっかりと寮は男女混合にされていたのだ。
親からしたら、大事な娘が傷物にされたり、息子が予定外の家の娘を孕ませて責任取らされたり、肉食系令嬢が他人の婚約者を略奪したり、横恋慕した令息だって簡単に夜這いで間違いを起こせる環境が、歓迎できるわけがない。
「ねえ、ルーク」
「何? スノウ」
「どうして学院が全寮制なのか、あなた知ってる?」
私が問いかけると、ノートから顔を上げたルークは苦笑した。
「父も困っているんだけどね。学院の創設者が貴族の子女の交流を後押しするために作った決まりで、まだ伝統だから守られているらしいよ」
学んだ歴史を思い出す。
学院創設の頃は、まだこれほど豊かではなかったこの国では、貴族と言えど貧しくて夜会には出られない者たちもいたと。
だったら、たしかに結婚相手を探す機会を平等に与える場所は必要だったかもしれない。
今の時代は夜会に出られない貴族はいないし、全寮制には不満も不安もあるだろうけど。
「フェリクス王子が卒業したら、伝統とは言え規則を見直すと理事会で話は出ているそうだよ」
「そうなんだ?」
「王子は側近達と共同生活する機会を設けた方がいいだろう、と。でも時代錯誤だから、今の王子で最後にしましょう。らしいよ」
なるほど。シナリオ的に一応ヒロイン卒業まで全寮制は維持される都合は付く訳か。
ちびっ子達が飛竜の絵を描き始める。
二人とも、水色の髪の少年が剣を振りかざしながら乗る飛竜を金色に塗っていく。
え? もしかして?
「ルークの飛竜って、何色?」
「金色だよ」
私とフラウは勢い良く顔を見合わせた。
「見せてもらっていい!?」
「うん。どうしたの? 二人とも」
竜舎に案内してもらい、見せてもらった飛竜はカイルの飛竜と同じ金色で。
「男の子だ!」
「そうだったのか。じゃあお嫁さんを探さないとな」
ルークもアッサリ私達の言葉を信じてくれる。
「お嫁さんの心当たりがあるの。お見合いしない?」
ふふふ、と詰め寄ると、ルークは目をぱちくりしながらコクリと頷いた。




