ユアンと魔法習得
もっと待つ覚悟をしていたけど、案外早く魔導師団長の体が空いた。
丁寧な手紙で指定された時刻にユアンの家に着くと、家族総出で歓迎してくれた。
魔導師団長のお父様と魔導師のお母様。物静かな2歳上の綺麗なお姉様と、真面目そうな3歳下の弟。
とても穏やかで品の良い一家だ。和やかに微笑み合う様子は自然で取り繕う雰囲気も無い。仲が良いんだろうなと、見ているこちらも微笑みが浮かぶような家族。
ユアン。魔導師団長の息子。ヒロインと同い年。
本名ユアナイト・ディスタルク。ディスタルク公爵家嫡男。
淡いピンク色の髪に灰色の瞳の優しげな美少年。
特技は瞬間記憶と天気予報。空を眺めるのが好き。
趣味はフラワーアレンジメントと写生。芸術家ぽい。
お姉様が庭で育てた花を屋敷中に飾るのが日課だとか。そしてその後ろを無言でついて回る弟君を見て、この屋敷の使用人達は「今日も平和だ」と思うらしい。
で、ユアンに降りかかる不幸は群を抜いて胸糞悪い。閲覧注意レベルだ。
ある日、姉が邪教集団(何を信仰しているかは出て来ない)に誘拐される。
救出に向かうと祭壇に全裸で開脚し縛られる姉の姿(全年齢対象どこ行った)が。邪教集団はユアンの目の前で(何故助けない)姉を犯し(全年齢対象どこ)、姉の股間に腕を突っ込み(全年齢対象は!?)胎児を取り出し(いつ妊娠した? てか全年齢対象だってば!)食った(全年齢対象を戻せよ!!)。
姉を救えなかったユアン(拘束されてないし無傷だよね?)は、心に深い傷を負うことになる。
はい。コレ最優先で潰す。
奴の頭の中はどうなってるんだ。
絶対させない、そんなこと!!
ユアンの事件は3学年の夏休み直前。だから溺愛スチルはオール夏休みデート。
そんなもんヒロインに見せてたまるか。
私の髪を直してくれるユアンのお姉様は、近づくと香水と違ういい匂いがする。
育ててる花の香りかな。優しい香り。
幸せでいて欲しい。
「ふむ。ユアンよりも魔力量の高い子供は初めて会ったな」
ディスタルク公爵直々に魔法習得の教えを受けられるのは、とても恵まれている。
魔法習得は、師匠から『魔法の覚え方と使い方』をしっかり教わったら、あとは各自やりやすいように独学と修行を繰り返す。
覚え方と使い方さえマスターすれば、魔力を魔法に変換して出力するだけなので、どの魔法でも練習次第で使える。
この『覚え方と使い方』を効率良くやる方法を、各国心血を注いで研究しているのだ。効率が良いほど省魔力で強大な魔法を連発できるから。
ディスタルク公爵は、その研究の第一人者だ。
覚え方と使い方を身につけたら師匠の講義は終了。何度も通う必要が無いので、貴族は大金を積んで良い師匠を求める。
私とフラウは「息子の友達から金など取らない」と言われて、この国の魔導師団長から無料で教わってるけどね。
「集中力が凄まじいな。何か特別な修行でも?」
「集中力を高めるために毎日瞑想を取り入れています」
この世界では珍しい方法だったのかな?
興奮気味に瞑想のやり方を尋ねるディスタルク公爵に詳しく説明すると、魔導師団の訓練に取り入れると言われた。
「スノウとフラウはすごいな。修行を楽しむ方法を知っているんだね」
柔らかく微笑んでユアンが言う。
「瞑想は気持ちいいね。空を眺めているみたいに心が無になる」
「空、もっと近くで見てみる?」
「どうやって?」
「飛竜に乗れば空が近いよ」
「僕、飛竜は乗れない」
シュンと落ち込んだユアンにまた笑って欲しくて、私は急いで彼の手を握った。
「私の飛竜は子供二人くらい平気で乗れるよ。私が手綱を取るから一緒に乗ろう」
「スノウが乗せてくれるの?」
「うん! 安全運転するから安心して!」
「ありがとう。スノウ。嬉しい」
子供らしい満面の笑みでユアンが私の手を握り返す。
空を近くで一緒に見たら、またこんな笑顔をしてくれるかな。
師匠の教えをバッチリ物にして、ユアンがアレンジしたお花のリースをお土産にもらい、ディアマンテ公爵邸への帰路についた。




