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前世は器用貧乏でした

 何かにつけて、私は器用貧乏だった。

 何でもそつなくこなすが、死ぬほど努力をしても何かの天才にはなれない。

 退屈さを感じながら故郷から離れた大学に入学し、そこで出会った突出した才を持つ三人の友人達と在学中に会社を立ち上げ、私の人生は退屈とは無縁のものに変わった。


 どこぞの御曹司で既に莫大な個人資産と数多の人脈を持ち、天性の人タラシな木之内。

 神絵師NABAと呼ばれ、日本はおろか世界中に信徒を自称するファンがいる那波。

 魔法のように自在に目的のシステムを作り上げる、天才プログラマーの小玉。

 彼らに誘われてシナリオ担当者となり、私達はゲームを作った。


 カリスマなのに商業誌とは契約を結ばない那波の絵は最初から注目を浴び、人タラシな木之内の営業力と人脈も物を言い、ユーザーがストレスを感じない確かなシステムを提供する小玉の力量も好評で、そつのない私のシナリオを回すゲーム達は、売れに売れまくった。


 私達四人は何の問題も無く、日々楽しく仕事に邁進していた。

 木之内はゲイ。那波は自分で描いた二次元の女の子にしか勃たない。小玉の恋愛対象はコード表の文字列。

 色恋に発展する可能性ゼロの友人関係は居心地が良く快適だった。

 ファンタジー、エロゲ、ギャルゲ、シミュレーション。作る自分達が遊びたいゲームを、ジャンルを問わず作っていた。

 そんなある日、困った顔で木之内が一冊のラノベを持って来た。


「悪いけど、コレ、仕事だと思って我慢して読んでくれる?」


 妙なことを言うと思ったけど、我慢して読み切って意味が分かった。

 仕事だと思わなければ読むのが辛いほど面白くない。

 表紙は人気絵師の美麗なイラスト。裏表紙には、楽しい冒険ファンタジーなラブコメだと誤認させるあらすじ。帯にはハッピーエンドに向かうかのような煽り文句。

 中の話は、語彙だけは豊富で会話部分だけは軽妙、登場人物は全てタイプの違う美形。

 美少女ヒロインが、これでもかと言うくらい毎ページ胸糞悪い不幸に見舞われ、最終的にヒーローを他の女に奪われて死ぬだけの日記のような文章。


「これ、どんな手段で出版まで持って行ったのかな」


 普段あまり意見を言わない小玉も思わず批評する酷さだ。

 汚物のように本を摘み上げていた那波が、「あっ!」と目を剥いてソレを放り出した。


「思い出した! コイツ、俺のストーカーだ」

「神絵師NABAの信徒か」

「信徒はヤメロ。コイツ、自分は天才作家だから俺の絵を挿れるに相応しいとか言って追い回してたんだ。最近見ないと思ったらプロデビューしたのか」

「那波の信徒か。事情が読めたよ」


 木之内が疲れたように言って状況を説明した。

 木之内は祖父に呼び出され、コレの作者をうちの会社のシナリオライターとして入社させて欲しいと脅されたそうだ。

 断るなら、今すぐ私と結婚しろ、と。

 ゲイの木之内は、身内にはカミングアウトしていたが、立場上大っぴらには出来ないから、表向きは私が恋人ということにしていた。

 彼の祖父は知っているのに、一族の最高権力者としてそんな脅しをかけて来たらしい。


 才能があるならば脅しを受け入れて収めることも考えられるが、これはあまりに酷い。

 木之内は抵抗する祖父に音読して聞かせ、仮採用で試用期間3ヶ月、その間に結果を出せなければ本採用しない。というところまで妥協させた。


「でも那波のストーカーか。どうしよう。俺と結婚する? 生活の保証はするけど」

「ヤメロ。俺のせいで人生狂わすな」


 木之内が私に提案すると那波が声を荒げた。


「こんなくだらない奴のために二人が戸籍汚すこと無いよ。給料さえ払うならゲーム一本くらい作るよ」


 小玉が言うと那波も頷いた。私も同意した。


「給料も必要経費もたっぷり出す。3ヶ月、全力で遊んでくれ」


 社長の木之内が方針を決め、3ヶ月後には楽しい日常が戻ると思っていた。


 自称天才の那波の信徒に出したテーマは『乙女ゲーム』。

 信徒は不満そうだったが、設定やシナリオを書き上げた。

 私は小玉や那波の補佐をしつつ、木之内の秘書業務をやっていた。シナリオには関わらなかったのは、乙女ゲームだから唯一の女性社員の私がテストプレイするため。

 それだけだった。


 3ヶ月後。

 突っ込みどころ満載の自称乙女ゲームのテストプレイは苦行だった。

 ヒロインは設定上『美人でもブスでもない平凡な容姿』。女性が自分を投影してプレイすることも多いジャンルのゲームで、実は美人でした設定も無くラストまで平凡な容姿。

 モブの女性キャラは全員美人だから、ヒロインの立場になりたいと思えない。

 更に、容姿を補う要素も無い。

 商店街の抽選で貴族しか入れない学院に入る権利が当たり、勉強もスポーツも平凡で、上を目指す努力をするわけでもなく、剣と魔法のファンタジー的な世界なのに魔法もほとんど使えない。ラストまでそのまんま。

 どうやってイケメン達との好感度を上げるかと言うと、『神様に愛されてるからラッキーの連続』で上がるらしい。

 王子様の婚約者の国一番の美少女が、双子の弟が殺されたショックで自殺したから、自暴自棄になった王子様に手を出されて責任取る形で新しい婚約者になり溺愛される、とか。

 他の攻略キャラも全部、攻略キャラの周囲で不幸が起きて自暴自棄になりヒロインに手を出し以下略な感じ。


「商品化は無理。プレイが苦痛なレベルで酷い。うちの信用に関わる」


 一応全ルートのエンディングを見て私は評価を下した。

 木之内も小玉も、当然、那波も、私と同じ意見だった。

 本採用することなくお帰り願い、ようやく戻った日常を満喫していたら。


「シナリオは神だ! 俺が神の世界で絶望に塗れ不幸になれ!」


 人気の途絶えた帰り道、私は那波の信徒に刺された。

 左胸、ではなく、正確に心臓を抉られて。

 ファンタジー系のゲームに出てくる儀式用の短剣みたい。

 そいつが握る武器を眺めている内に、私の命はこの世界から消えた。

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