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#6 連盟の星

知らなかった……魔女は連盟行きを禁止されていたのか。でも、なぜ?


混乱する僕らの前で、オーレリアの身分証をスキャンし終えるマイルズ艦長。そして、身分証をオーレリアに返す。


「はぁ~……」


そのスキャン結果を眺めながら、意味深なため息をつくマイルズ艦長。

まさかそんな決まりがあるだなんて、知らなかった……今、そう応えるしか術はない。実際、僕は本当に知らなかった。オーレリアも多分、知らなかったのだろう。そして、マイルズ艦長が口を開く。


「……よし、これで臨検は終わりだ。」


そう宣言するマイルズ艦長。それを聞いて、僕は思わず聞き返す。


「お、終わり……ですか?」

「ああ、終わりだ。なんだ、まだ続けたいのか?」

「い、いえ、別に……」


そのやりとりを見ていたカシュパルが、マイルズ艦長に尋ねる。


「一つ、教えていただけませんか?」

「何をだ?」

「魔女が渡航禁止っていう、その理由をですよ。」


寝た子を起こすようなことをこの場でするか、カシュパルよ。当然、マイルズ艦長が少し不機嫌気味な顔で応える。


「おい、そんなことを聞いて、どうするつもりだ!まさか、魔女を連れ出そうと考えていたのではあるまいな!?」


ああ、今そんなこと、聞かなければよかったのに……かといって、僕はこの緊迫した2人の間に割って入る勇気もない。今は、カシュパルの巧みな口裁きに全て委ねる他はない。


「この船の荷物、見ていただけましたよね?ほら、魔女グッズがたくさん載ってます。あれは、いいんですか?」

「ああ、あれのことか。あんなもの運んでどうするのかと思っていたが……いや、グッズ自体には問題ない。だが、魔女本人はダメだ。」

「なぜですか?」

「魔女の力そのものが、軍事技術へ転用される恐れがあるからだ。」


思いがけない答えが返ってきた。魔女が、軍事技術?どう言うことだ?


「えっ!?魔女が軍事技術?どういう事です?」

「詳しくは話せない。が、すでに連盟側は魔女の価値を知っている。事実、これまでに幾度か、連盟側に拉致されかけた魔女がいるからな。その度に我々は奪還作戦を行ってきた。そういうことだ。」

「えっ!?それじゃあ、この星に魔女がいるってことは、こっち側には既に知られているんですか……参ったなぁ、じゃあこれ、全然、新鮮味がないグッズじゃないですか。商売になるかと思って大量に買い込んだのに……」

「今まで、連盟の奴らが魔女グッズを持ち帰ったと言う話は聞いたことがないからな。売れないんじゃないか、多分。」


(おど)けてみせるカシュパル。そんなカシュパルに、呆れた表情で応えるマイルズ艦長。


「ともかくだ。臨検の結果、特に問題なし。結果は以上だ。さっさとこの宙域から離脱しろ。さもないと、別の連合艦艇がお前らにまた臨検を迫ってくるぞ。」

「いやあ、臨検はもうたくさんです。では、これで。」

「ああ。航海の無事を祈る。今回は、威嚇砲撃はなしにしておいてやる。以上。」


そう言って立ち去るマイルズ艦長。部下の兵士も、すごすごと通路の方に戻っていく。

が、ミレイユさんはモップにまたがると、オーレリアの前に近づいてくる。


「がんばってね。」


ポンと肩を叩くと、そのまま艦長の後ろへ飛んでいくミレイユさん。不機嫌の元凶から突然、励まされて戸惑うオーレリア。

扉が閉められ、ガタンと言う音と共に、通路が外される。


「それじゃあ、行こうか。」


カシュパルが僕とオーレリアに言う。3人はそれぞれ、席につく。

窓の外を見ると、あの灰色の大きな駆逐艦が離れていく。4つの噴出口から青い光を漏らしながら、徐々に小さくなる連合の艦艇。


「両舷前進いっぱい!全速で、現宙域を離脱する!」


カシュパルが叫ぶ。僕は、目一杯スロットルを引く。


「両舷前進、いっぱーい!」


ババババッとけたたましい機関音が鳴り響く。この全長40メートルの小さな民間船は、地球(アース)513へと進路を向ける。


「ところでさ、オーレリア。」

「……なんですか?」

「さっきの身分証のことだけど……どうして、魔女だってバレなかったのかな?」


カシュパルがオーレリアに尋ねる。これは、確かに僕も気になる。


「……私ね、魔女登録してないの。」

「魔女登録?」

「ほら、この星でも最近、魔女を保護するために、登録制度を設けたって話、したでしょう?」

「ああ、聞いた。」

「保護政策を受けるためにはね、魔女として登録しなきゃいけないの。当然、身分証にもそのことが記録されるはずよ。」

「そうだろうね……だけど、それじゃあなぜ登録しなかったの?」

「私ね、ああいうのが大っ嫌いなの!役所から、お前は魔女だから、特別にお情けをかけてやる!そう言われているようなものでしょう!?そういうのなんだか、頭に来ちゃう!」


ああ、そういうことか。それで身分証から、彼女が魔女だってことがバレなかったのか。


「なんとまあ、反骨精神旺盛なことだな……でも、おかげで助かった。もし魔女を連れ出したとなれば、俺らはそのまま、逮捕・拘禁されていたかもしれないな。」


ゾッとする話だ。だが、それを承知で、魔女を連れ出しちゃいけない理由をあの艦長に尋ねたのか?こいつの神経はやはり、どうかしている。


「さてと、何とか無事に通過できた。あとは9日間かけて、地球(アース)513に帰るだけだ。」

「うん!楽しみぃ!」


まったく、この2人はよく平気でいられるな。僕はさっきから、心臓の鼓動が早まったままだ。生きた心地がしない。この2人に付き合っていたら、寿命が少しづつ削られるようだ……やれやれ、もうあんな思いは2度としたくないものだ。

こうして僕らは、地球(アース)513への旅路についた。


この9日間は、平和そのものだった。


特に軍船に出会うこともなく、また、海賊に遭遇することもなかった。幸いというか、なんというか、オーレリアの作るあのゲテモノ創作スープの臭いにも、僕らはだんだんと慣れてきた。しかし、どうしても慣れないことが、一つある。


「うわぁ!お、オーレリア!入ってるなら、入ってると……」


この船には、風呂場が一つしかない。それで僕らは交代でその風呂場を使う。が、オーレリアは前触れもなく風呂に入ることが多い。どういうわけか、僕は風呂場から上がったばかりのオーレリアと、よく鉢合わせる。

まるで子供のような背丈のオーレリアだが、上半身のごく一部分だけは、そこらの大人顔負けのモノが付いている。それこそ、ミレイユさんにだって敵わないほどの、2つの対になった物体だ。その物体に免疫を持たない僕は、鉢合わせるたびに驚愕し、狼狽し、赤面する。


「なによ、ハヴェルトさん。もうそろそろ、見慣れたのかと思ってたけど。」


そんな僕を、毎度からかうオーレリア。まさかこの娘、わざとやってないだろうな。変な汗を出しながら、僕はオーレリアの大胆なハニートラップに脅かされる。


そんな9日間は、あっという間に過ぎる。行きに比べて、帰りはずいぶんと短く感じたな。これはやっぱり、オーレリアのおかげだろう。少なくとも彼女と一緒だと、退屈はしない。


地球(アース)513まで、あと1300万キロ。到着まで、あと3時間てとこだ。」


カシュパルがそう告げる。ちょうど横には、地球(アース)513星系の第5惑星、クラドノが見える。

真っ赤な大地のこの惑星は、鉄分を含んだ岩石が多く存在し、それゆえにたくさんの鉄鉱石の採石場がある。気温はマイナス20度で、0.5気圧しかない星。地球化政策(テラフォーミング)のおかげで、酸素濃度を高くされたおかげで、ギリギリ宇宙服なしで過ごせる星になった。そんな星の夜の領域を通り過ぎている。地上には、ポツポツと明かりが見える。


そんな星を眺めながら、僕はミレイユさんの別れ際のことを思い出していた。

ミレイユさんは、オーレリアの肩をポンと叩いて、励ましていた。今にして思えば、どうしてあんなことをしたのだろう?

僕やカシュパルには、手を振っただけだ。だが、どちらかといえば冷たい態度をとっていたオーレリアに、なぜミレイユさんは特別に励ましの言葉などかけたのだろう?

その理由を僕は、薄々気づいている。


多分、ミレイユさんはオーレリアが魔女だと見抜いていたようだ。

一等魔女に対するあからさまな嫉妬、そしてマイルズ艦長が発した、魔女の渡航禁止の旨を聞かされた時の、僕らの顔色。いや、もしかしたら魔女同士の勘というやつも働いたのかもしれない。

いずれせよ、ミレイユさんは分かっていた。十中八九、間違いない。その上で彼女は僕らを、見逃してくれたのだ。


そしてそれからしばらくすると、青い星が見えてくる。

僕らの故郷、地球(アース)513だ。


『こちら、帝都バルドゥヴィザ宇宙港管制塔。船籍ナンバー79875323、ヘルヴィナ号、応答せよ。』

「こちらヘルヴィナ号。」

『ヘルヴィナ号、高度1500で進入し、当宇宙港の第133エリアに着陸せよ。』

「こちらヘルヴィナ号、了解!」


こっちは敵地ではない。すんなりと、僕らの船を受け入れてくれる。変な臨検も、過剰な護衛……いや、監視もない。

だけど、港に着いたら、一悶着あるだろうな。なにせ載せてる荷物と、載せてる人物が問題だ。


「なあ、ハヴェルト、それにオーレリア。」

「なんだ?」

「なによ。」

「入港前にひとつ、決めておきたいことがある。」

「なんだよ。」

「オーレリアが魔女だということ、俺らは知らないことにしておくんだ。オーレリアもそれを、承知していて欲しい。」


それを聞いた僕は、突っかかる。


「なんだよそれ!オーレリアが魔女だとバレたら、知らぬ存ぜぬを貫くつもりか!?」

「いや、違う。俺とハヴェルトが知らなければ、彼女を魔女だという証拠はなくなる。彼女を連盟の実験体にしたくなければ、徹底的にシラを切るんだ。」


そしてカシュパルは、オーレリアに言う。


「オーレリア、当然だが、あの力はこの星では御法度だ。絶対に、あれを見せてはいけない。分かったね。」

「わ、分かったわ。」

「よし、それじゃあ引き締めていくぞ。いいな?」

「了解。」

「アイアイサー!」


そして僕らは、青い星に向かって、降下を開始する。

そこは、連盟の星。

僕らにとっては、故郷の星。

だが、オーレリアにとっては、敵地だ。

そんな星の表面に、僕らは降下を始めた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] "あれを見せてはいけない" 盛大にフラグ建てたよね( ´∀`)
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