#5 検問
「ぷはぁ~っ!おいひ~!」
豪快にドリンクを飲み干し、膨れたお腹を摩りながら、満足そうな顔でシートにもたれかかっている。
が、僕とカシュパルはといえば、彼女のその姿を驚愕の眼差しで見ている。
と言うのも、彼女のその満足を得るために、僕とカシュパルの2人分を合わせた量を上回る食べ物が必要だったからだ。
オーレリアは身長は140センチ程度、体重は39キロ。華奢な体に、華奢な腕、胸が少し大きいくらいだ。そんな身体のどこに、あれだけの食べ物が入るのか?
「いやあ、久しぶりにいっぱい食べたぁ!もう満足ぅ!」
彼女が教えてくれたこの店は、お世辞にも良い店とは言えない。なんていうか、雑な料理が多い。ただその代わり、安い。
具の載せ方が乱雑なピザ、畑から直接ちぎって皿に盛ったんじゃないのかと疑われるサラダ、魚はそのまま姿焼きで出され、フルーツは皮付きがデフォルトだ。
手間がかからない分、安いようだが、よくまあこんな食材で満足できるものだ。その分、たくさん食べるのだが。
この店、恐ろしいことに、頼めばキャベツの芯でも出してくれる。さらに恐ろしいことに、この魔女はそれを美味しそうに食べる。
食材は選ばないってことか……しかし、見ている方はたまらない。何というか、勢いに負けて、食欲を無くしそうだ。
そんな下劣……いや、安い食事を終えて、ショッピングモールに買い出しに向かう。我々の食べる食材と共に、彼女専用の食材も大量に買い込む。
いや、あれは食材と言えるのか……魚の頭や尾、キャベツやレタスの芯、大根の葉、肉の脂身……これらは本来、捨てるべきものだから、どこもタダで提供してくれる。しかし、普通に食材に混じってそんなものを積み上げるものだから、周りの目を引く。
結果、重さにして700キロを超える食糧を買い込んでしまった。それをオーレリアは軽々と持ち上げ、宇宙港へと向かう。途中、通関所に立ち寄るが、そのおぞましい食材に、職員は眉をひそめる。
が、いくら下品な食材とはいえ、禁止物資はひとつも含まれていない。難なく通過し、それらを船に載せる。
いよいよ出航……という段になっても、すんなりと出向させてもらえないのはやはり敵地ゆえだ。たくさんの警備員がやってきて、荷物を検められる。そして、彼らはあの大量の下劣な食材に眉をひそめる。
そして当然だが、オーレリアが乗船することに物言いがついた。事もあろうに連盟の船に、地球760の人間を乗せるのは何事か、と。だが、本人が希望していることが分かると、彼女の身分証の確認した後、すんなりと認められる。確かに、民間人が連盟に行ってはいけないという条約はない。
こうして、すったもんだの末に、ようやく出航できることになった。
「ヘルディナ号より管制塔、出発準備完了!出航許可を!」
『管制塔よりヘルディナ号、出航許可了承。高度4万まで上昇し、その場で指示を待て。』
「こちらヘルディナ号、了解!」
やっと、出航許可が下りた。この小型船の機関を始動する。ヒィーンという甲高い音と共に、この小さな船の心臓部が動き出す。
そして上昇を開始するヘルディナ号。オーレリアといえば、徐々に遠ざかる街を窓から眺めている。
「さらば、わが故郷、モンテルイユよ!もう二度と会うことはないだろう!」
まるで今生の別れのようなセリフで、自分の住む街に別れを告げる怪力魔女。一方、僕らは初めて足を踏み入れた敵地からの別れである。
連合の連中は、血も涙もない冷血な集団、だからいずれ、滅ぼさねばならない。そう教えられて僕は今まで生きてきたが、実際にそこに生きる人々は、僕らの住む星と何ら変わりがなかった。
いや、もちろん、僕らの星にはないものがある。魔女の存在だ。
そんな魔女が、僕のすぐ横で興奮気味に、窓の外を眺めてはしゃいでいる。一見すると僕らと変わりない彼女だが、僕らにはない優れた能力を持っている。
だが、その特殊な能力を除けば、至って普通の娘にしか見えない。
まあ、彼女の場合、大量の食べ物を平らげるという別の能力も持っているが、初めて宇宙に出る喜びを全身で表しているところなどは、ごく普通の反応だろう。僕だって宇宙に初めて出たときは、ひどく興奮したものだ。
あれは、小学生の時の話だ。僕の学校の修学旅行の行き先が、宇宙だった。
けたたましい機関音を立てながら勢いよく宇宙に飛び出した中型の宇宙船の窓から、僕は外を眺める。青い地球の姿にも感動したが、僕が本当に心奪われたのは、その後に現れた月だ。
大気圏を離脱し、ものの数分で、いつも見上げている月がすぐそばに見えてきた。その月の表面に開いた無数のクレーターを見て、僕は興奮した。
地上からは、親指で隠れるほどの大きさしかないその月の表面には、僕の家、いや、僕の学校の校庭すら上回る広さのクレーターが、数え切れないほど開いている。その光景に僕は、なぜか衝撃を受けた。
自分は、何と小さな世界しか知らなかったのだろうか。そして宇宙は、これほどまでに広い世界だった……
気づけば、宇宙に出ることは大したことではなくなってしまった。まるで隣り街に車で出かけるような気分で、僕は宇宙に出るようになってしまった。
だが、オーレリアは宇宙に出るのが初めてだという。だからまるで小学生の頃の僕のように、興奮がおさまらない。
「地球513 ヘルディナ号よりモンテルイユ宇宙港管制塔!高度4万メートルに到達!指示を乞う!」
『モンテルイユ管制塔より、地球513 ヘルディナ号。方位0、0、7へ加速せよ。300万キロ圏内に、障害物なし。』
「了解、方位0、0、7へ加速する!」
管制塔から大気圏離脱許可が下りた。僕とカシュパルは、大気圏離脱の準備をする。
「各種センサー最終点検!赤外線センサー、よし!レーダー、よし!」
「核融合炉、正常運転!重力子エンジン、よし!」
「各部正常!加速準備よし!ハヴェルト、最大加速だ!」
「了解、機関出力最大、両舷前進いっぱーい!」
僕はぐっとスロットルレバーを引く。その次の瞬間、ババババッとけたたましい機関音が鳴り響く。
「な、なに!?なんの音!?」
それまで無邪気に窓の外を眺めていたオーレリアは、狭い操縦室内でけたたましく鳴り響くこの音を聞いて動揺する。
それだけではない。勢いよく加速するヘルディナ号の窓の外では、青い地表面が勢いよく後ろに流れていく。しかし慣性制御のおかげで、身体は加速を感じない。この感覚の不一致が脳内で処理しきれず、乗り物酔いにつながることもある。オーレリアはまさにこの「離脱酔い」にかかったようで、窓の外を見てふらついている。
「オーレリア、そこに座ってて!」
「はえ~っ!」
ダメだこりゃ、すっかり酔っている……大気圏離脱は、船にとって一番の大仕事だ。軍用だろうが民用だろうが、機関を目一杯回し、星の重力を振り切って外宇宙に飛び出す。だからこの時が一番、機関が忙しい。この機関の奏でる音と感覚不一致の洗礼を受けたオーレリア。後ろの席で耳を押さえたまま、目を回して座り込んでいる。
だが、外はすぐに真っ暗になる。やかましい機関音だけが残る。それから3分ほどの間、ヘルディナ号は加速を続ける。
ようやく巡航速度に達する。期間は巡航出力に切り替えられ、船内は幾分か静かになる。目を回しているオーレリアの肩を叩き、大気圏離脱が終わったことを伝える。
「オーレリア、もう終わったよ。」
「ふ、ふわぁい……」
ダメだな。これじゃしばらく、使い物にならないな……などと心配したのも束の間、カシュパルの次の一言を、オーレリアは聞き逃さなかった。
「おい、今のうちに夕食だ。この後すぐ、臨検だからな。今のうちに食べておこう。」
「えっ!?夕食!?」
つい今まで目を回していたオーレリアが、食事と聞いて立ち上がる。
「あの、オーレリア。もう大丈夫なのかい?」
「大丈夫!ではお料理、作るね!」
そう言い残すと、彼女はこの船にある小さな厨房に向かう。どうやら彼女は、胃袋を中心に生きているのだろうか?立ち直り方が尋常ではない。
というか、つい数時間前に2人前を食べたばかりだというのに、まだ食べるつもりなのだろうか。一体、彼女の身体はどうなっているのだろう。
厨房で鼻歌を歌いながら、キャベツの芯やら魚の頭を鍋に突っ込んでいるオーレリア。その横で、自動調理ロボットがせっせと僕らの料理を作っている。考えてみれば、調理用ロボットにはキャベツの芯や魚の頭を料理するレシピなど、登録されてはいない。こればかりは、オーレリア自身が調理するしかない。
しかし、さっきまで目を回していた魔女は、まるで地獄の窯のようなものにレードルを突っ込んで上機嫌でかき混ぜている。そんな彼女の調理を見ていたら、窯の中で茹でられている、あの死んだ魚の目と僕の目が一瞬、合ってしまった……
その窯ごと、テーブルに持ち込むオーレリア。ほぼ廃棄食材でできた土色のスープは、もはやこの世のものではない。僕らの食事は調理ロボットが作ったものだが、オーレリアのそのスープの生々しい臭いがこちらまで漂ってくる。だから、決して他人事ではない。
「なあ、オーレリア……そのスープは……」
「えっ!?ハヴェルトさんもこれ、飲んでみる!?」
「い、いや、遠慮しておくよ……」
で、先ほど僕と目があってしまったあの魚の頭を食べ始めるオーレリア。スプーンで目をくりぬき、それを丸呑みする。頭蓋骨をスプーンで叩き割ると、その骨の間にある身を器用にかき出しては口に運んでいる。
で、魚の頭に続いて、あのキャベツの芯を取り出す。いくら煮てもあの芯はそうそう柔らかくなどならない。が、そんな硬さなど構うことなく、ボリボリとまるでウサギのようにかじる。赤毛を揺らしながら、実に幸せそうな顔で食べているが、その下の土色のスープの不気味さが、そんな微笑ましい笑顔を台無しにしてしまう。
みているこっちは正直、気分が悪くなってきた。生臭いスープに、おぞましい食材、まるで泥水のような色のスープ。見ていると食欲を削がれ、僕らの食事がなかなか進まない。
「あれぇ!?ハヴェルトさんにカシュパルさん、食べないんですか!?」
「い、いや、食べてるよ。食べてるけどさ……その、ちょっと食欲がなくて……」
「ええーっ!?もったいない、じゃあ私が少し、食べてあげましょうか!?」
「えっ!?あ、ああ、頼むよ……」
僕が応えると、彼女はあの土色スープがたっぷりついたスプーンで、ぼくのオムレツを3分の1ほど削り取る。で、それをそのまま一口で飲み込んでしまう。
あれだけ食べてもまだ入るとは……一体、どういう胃袋をしているんだろうか?いや、もしかしてこの娘、胃袋以外にも食べ物を納めるところがあるんじゃないのか……僕はふと、小さくて華奢な身体に似合わない、彼女の胸のあの2つの膨らみに目を遣る。
そんな僕の目の前に残されたのは、土色のスープがべったりと付いたオムレツだった。
うう……これを食べるしかないのか?僕は恐る恐る、そのうっすらと茶色に染まったオムレツの断面をスプーンですくう。そして、口に運ぶ。
一瞬、あの生臭さが口の中に広がる。だが、その匂いはすぐに消失し、その後に強い塩味に紛れて、旨味が下の上を襲う。これが意外と、悪くない。なんだこれは?
「ねえ、オーレリア。そのスープって一体……」
「ああ、これ?ミソって言うらしいよ。なんでも、地球001から伝わった食材で、安いし、保存も効くし、何でも合うので、私はよく使ってるの。」
一瞬、僕らには聞き捨てならないキーワードが出てきた。地球001。それは僕ら連盟側の人間にとって、最も憎悪の念を抱く星。僕ら連盟側の人間はその星を、人類の敵、地獄の使者、悪魔の巣窟などと吹き込まれ、呪い続けてきた。
これが、そんな星から伝わったというスープだという。それを聞いて僕は、戦慄を覚える。まさかオーレリアのやつは、僕らが連合を素晴らしいと錯覚させるよう洗脳するために送り込まれた、連合側の工作員なのか?
……いや、違うな。どう考えても、工作員とは思えない。もし工作員だったら、あんな食欲をなくすような食事をするわけがない。第一、連盟の人間相手に、いきなり地球001の名前など出すはずがない。オーレリアの性格を考えると、連盟の事情など知らずに、素直に話しているだけの気がする。
そこで僕は、敢えてその窯にスプーンを突っ込んでみた。その茶色のスープをすくい取り、口に運ぶ。一瞬、生臭さが襲うものの、その後に感じる旨味が癖になる。このスープ自体は、決して悪くない。この強烈な塩気と旨味が、あの生臭さを打ち消してくれるのだ。
「ね?いいでしょう、これ。」
「うん……悪くないね、これ。」
もしかしたら、このミソというやつを連盟に持っていけば、かなり売れるんじゃないか?そう僕は直感する。カシュパルも同じことを考えたようで、あの下劣な窯にスプーンを突っ込んで、一口だけ口に含んでいる。
「……なんというか、不思議な味だな。ボルシチよりも塩気が強いのに、辛さが嫌味に感じない。なんだ、この食材は?」
思わぬ発見だ。単なるゲテモノ料理だと思っていたら、意外にも交易品のヒントが隠されていた。そんな僕らに、素朴な笑顔で応えるオーレリア。
しかしだ、おそらく地球001の連中も、まさかこんな調理をされているとは考えまい。いくら何でも、魚の頭やキャベツの芯を突っ込むことは想定してはいないだろう。オーレリアにしても、格安の食材をどうにか食べられるように様々な食材を試した結果、これにたどり着いたといったところだろう。
「しまったな……オーレリアを連れて探した方が、もっといい品が見つかったかもしれんな……」
カシュパルも、このスープの商品性に気づいた。少し残念そうな顔でスプーンの中の土色の液体を眺めている。
「なあに、また地球760を訪れた時にでも、一緒に行けばいいさ。僕らの交易はまだ、始まったばかりだろう?」
「……そうだな。また来ればいいんだった。よし、それじゃ、地球513に向かうぞ!」
「おおーっ!」
なんていうか、オーレリアの能天気さには呆れる。地球513って星は、オーレリアにとっては敵地なんだぞ。何がおおーっだ。
そんな夕食を終える頃、僕らはすっかりこちらの防衛艦隊所属の駆逐艦10隻に囲まれていた。敵艦に囲まれたまま、僕らは進む。
そして、数時間後。
僕らはあらかじめ示し合わせた通り、ホウキ座γ星域の一角で、再び臨検を受けていた。
駆逐艦8893号艦が、ヘルヴィナ号の左側面に接近する。そして前回同様、通路を伸ばしてきた。ガタンという音とともに、あの船とつながる。そしてまた、船の扉を叩かれる。
「はーい、今出まーす。」
オーレリアが、扉を開ける。中からは銃を構えた数人の兵士と、マイルズ艦長が現れた。
「……なんだ?3人に増えてるぞ?」
眉をひそめるマイルズ艦長。カシュパルが応える。
「ええ、俺らが雇ったんです。」
「本当か!?まさか、地球760の住人を拉致したわけではあるまいな!?」
「……本人に聞いて下さいよ。彼女から雇ってくれって、僕らに言い寄ってきたんです。」
そこでマイルズ艦長は、オーレリアに尋ねる。
「今の話、本当か?」
「本当ですよ。私が雇ってくれって、頼んだんです。」
「……お前、分かってるのか?これから向かう先は連盟の星、いわば敵地だぞ。」
「ええ、分かってます。だけど、いいじゃないですか。民間人が連盟の星に行っちゃいけないってわけじゃないんでしょう?」
「まあ、それはそうだが……」
あらかじめカシュパルに教えられた通り、オーレリアは応える。この一言を聞いた艦長は、オーレリアの説得を断念する。
数人の兵士らが、船内を検める。途中、まだ洗っていないあのオーレリアスープの生臭い香りに顔をしかめる光景が見られたが、それ以外は至って順調に臨検は進む。
元々、ここには御禁制のものなどありはしない。そんなものがあれば、通関所を通過できない。だから、いくら調査したところで、何も見つかるわけがない。
と、そこにまたあの一等魔女のミレイユさんがやってくる。
「お茶を、お持ちいたしました。」
なんだろう、この人。客人を見るとお茶を出したくなるのか?しかもまたモップに乗って現れたミレイユさん。もしかしてこの人、歩くのが嫌いなのか?そんな魔女に僕は、挨拶する。
「ああ、ミレイユさん。お久しぶりです。」
「ええ、お久しぶり。元気そうね。って、あら?この船って、3人だったかしら?」
ミレイユさんは、オーレリアを見ながら、少し訝しげな顔で僕に応える。
「ええ……この船に乗せてもらったの……」
そのミレイユさんに応えるオーレリア。だが、その表情はいささか不機嫌そうだ。
「まあ、そうなの。どお、お茶でも。」
「……いただくわ。」
なんだかオーレリアの機嫌が急に悪くなった。何があったんだ?
「……で、どうしてこんなところに、一等魔女がいるのかしら?」
お茶が注がれたカップを受け取りつつ、オーレリアはミレイユさんに尋ねる……という雰囲気じゃないな、どちらかといえば、皮肉を言ったつもりか?しかしオーレリアに、何があった?
「私、あの艦の主計科に勤務してるの。」
一触即発な雰囲気の中、ミレイユさんが応える。にわかにここの雰囲気が、険悪になる。そこで僕は、ふと考える。
もしかしてオーレリアのやつ、一等魔女のことを嫌っているのか?この2人を見ていると、僕はそう考えざるを得ない。
理由は分からないが、言葉を発する前からオーレリアのやつ、ミレイユさんに対し憎悪というか、嫉妬のようなものを感じているような表情だ。刺々しい態度からも、オーレリアがなんらかの対抗意識を燃やしているのは間違いない。
考えてみれば、魔女の呼び方が問題じゃないか。
空を飛べれば一等で、そうでないのが二等。どちらが格上か、一目瞭然な呼称だ。しかしそれは、二等魔女の側からすれば不愉快極まりない基準だろう。
ましてや、オーレリアは怪力魔女。空を飛ぶだけの魔女に比べれば、圧倒的に役立つ存在だという自負がある。そんなところに、格上だと言わんばかりにモップにまたがった一等魔女のミレイユさんが現れた。不機嫌になるのは、当然か?
ここはミレイユさんに、オーレリアのことを話しておいた方がいいか?彼女は二等魔女であり、その力は僕ら貧乏交易業者にとってはまさに救いの手となる、怪力魔女なのだ、と。そうミレイユさんに話せば、オーレリアも少しは溜飲が下がるのではないか?
「あ、あの、ミレイユさん、実は……」
僕がまさに、ミレイユさんにオーレリアのことを話そうとした、その時だ。マイルズ艦長が現れて、こんなことを言い出す。
「そうだ、カシュパル殿。一つ、調べ忘れたことがある。」
「なんですか、マイルズ艦長。」
「彼女のことだ。」
「彼女?オーレリアのことですか?」
「そうだ。彼女の身分証明書を、見せて欲しい。」
マイルズ艦長のこの突然の申し出に、少し訝しげな顔でうなずくカシュパル。そしてオーレリアに、身分証を出すよう促す。
「はい、これ。」
まだ不機嫌なオーレリアは、半ば投げやりな態度でマイルズ艦長に自身の身分証を渡す。それを受け取り、何やら読み取り機らしきものにそれを当てようとするマイルズ艦長。
「あの……彼女に、なにか?」
「いや、念のためだ。確かに、民間人の連盟行きを禁止する条約はないが、ある種の人物だけは、この地球760から連盟側への渡航が禁止されている。」
「なんですか、ある種の人物って?」
「魔女だ。」
それを聞いた瞬間、僕ら3人の間の空気が、まるで凍りついたようにピンと張り詰める。当然だがとても、ミレイユさんにオーレリアが二等魔女だなんて言い出せる雰囲気ではなくなった。
いや、その前にここで、オーレリアが魔女だってことが、バレてしまう。
そしてマイルズ艦長は、オーレリアの身分証をその読み取り機に当てた。




