07 やっと自己紹介
「そんなに大事なら、はめてくれればよかったのに。
言葉がわからなくて、どうしてよいかわからなかったんです。」
俺はエデナに言った。
「いえ、私がお付けしてはダメだったんです。ひびき様が触る前に私が触ってしまっては、指輪は持ち主を私だと認識してしまいます。
そうすると、ひびき様がはめても正常に働かなかったのです。」
「そうですか…。はめる指を右手の中差し指と指示したのは、なぜですか。?」
「指輪は、はめる位置によって、様々な意味をもつのです。」
そうなんだ。色々と細かいな。
「そうだ、まだ、ちゃんと挨拶していませんでしたね。私、鳥居ひびきと申します。」
俺は二人に頭をさげた。
ここは握手を行うのだろうか?
女性にこちらから握手を求めるのはちょっと照れる。
「ご丁寧にありがとうございます。
わたくしは、エデルナート=ムナ=ビナヒヌ=ビンケサン=オイカモネと申します。
ヴァーヴェリナ皇女の補佐官兼教育係兼色々行っています。
まあ、雑用係のようなものです。『エデナ』とお呼びいただけると幸いです。」
「アナスタシア=ムナ=オラムット=ギナ=アルシェロフと申します。ヴァーヴェリナ様の随身です。
『アナ』とお呼びください。」
エデナは、ドレスの両端を少し持ち上げ左足を後ろに引き、右ひざを軽く曲げ、体をかがめて頭を下げた。
アナは、右手を広げて胸にあて、頭を下げた。
ドラマに出てくる宮廷の女性と騎士様の様だ。
あ、握手はしないんだな。よかった。 …少し残念。
「エデナさん、アナさん。申し訳ありませんが、色々とお伺いしたいことがあります。夜も遅いようですが、少しだけお時間をいただけないでしょうか。」
俺は二人に声をかけた。
「ひびき様。お言葉を返すようで恐縮ですが、おっしゃるとおり夜も更けております。また、皇女様を寝所にお運びしたいと存じます。」
とアナが言った。
「そうでございますともひびき様。急にこのような状況になり、お聞きになりたいことが山ほどあるとは存じますが、今からお話ししても、きっと朝になっても終わらないと存じます。
また、ヴァーヴェリナ様より『世界を渡った後は反動が来ると思う。また、この世界にある『魔力』に体が順応していないはずだから、もし私が寝てしまったら、ひびきにチンキを飲ませて早めに休ませるように。』と申しつけられています。」
とエデナが付け加えた。
「反動、ですか。どうなるのでしょうか。」
「疲労感、倦怠感、眠気が来ると聞いていおります。」
「全然感じないのですが。」
「お気持ちが昂っていらっしゃるのだとご推察します。明日という日もございますわ。本日はどうかお休みになってくださいませ。」
それもそうだ。
こんな夜更けに女性を引き留めるのも不謹慎だ。
しかも二人も。
ついでに、椅子で寝ている、めんどくさい幼女を寝かしつけなければ、風邪をひく。
だが、どうしてもこれだけは、聞いておきたい。
「わかりした。おっしゃるとおりですね。詳しい話は、明日、お時間をいただきたいと思いますが、一つだけ教えていただけませんでしょうか。」
「何でございますか?」
「召喚された理由です。祖母が転生したからと言って、大した理由もなく、孫を召喚するとは思えないのです。」
「理由…ですか…。」
エデナは少し考えているような顔つきになった。
アナは黙ってうつむいている。
「大変申し上げないのですが、私どもも、はっきりとしたことは伺っておりません。」
「何となくはは聞いているのですか?」
「…。それは…。」
エデナとアナの表情が少し曇った。
「…。やはり私どもの口から伝えると、齟齬が出るのではないかと案じます。ですので、どうかヴァーヴェリナ様に直接お尋ねいただけませんでしょうか。」
二人は気まずそうな顔を浮かべた。
そうか。
家臣として、言わないほうがいいって事なのか。
俺は、彼女たちの気持ちを汲んで言った。
「わかりました。そうさせていただきます。先ほどもお願いしましたが、明日色々お伺いしたいと思いますので、お時間をいただけますでしょうか?」
「もちろんでございます。」
「それと、一つお願いがあるのですが。」
「何でございますか?」
「その…。お互いに、敬語はやめませんか。俺あまり敬語うまくなくて。」
「承知いたしました。その様でございましたね。」
エデナはクスリと笑った。
皇女とのやり取りを思い出したのだろうか。
「ひびき様がそうおっしゃってくださるのでしたら、私どもも公の場以外でしたら、普通に話をさせていただきます。」
「ありがとうございます。それに、その、ひびき『様』もやめていただけると…。」
「ヴァーヴェリナ様のお客様に向かって、敬称なしでお呼びするのは難しいです。」
『難しい』か。ダメってことだな。
『お客様』かなぁ…。違う気がするけど。まあいいか。
「ではお部屋へご案内します。アナはヴァーヴェリナ様を寝室までお連れしてください。」
「わかりました。」
「あ、女性では大変でしょうから、俺が運びます。」
「いえ、大丈夫です。」
「いえいえ。こう見えても力はあるほうですから。」
「しかし…。」
俺はそんな会話をしながら椅子で眠りこけている皇女の横に行き、膝の裏に左腕を通しし、右手を脇から背中に回してを抱えようとした。
ヴァーヴェリナ皇女はそれに気が付いたのか、
「ん・・ひび…き 」
とつぶやき、俺の首に手をまわしてきた。
こういうところは可愛いな。
俺はそのまま皇女を抱きかかえ、アナの案内で寝室へとつれていった。
エデナは脇にあったベルを鳴らし、侍女を呼んた。
ひびき:長い名前だな。一度では覚えられない・・・。