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05 おとぎ話

「ヴァーヴェリナ様。お話し中のところを大変失礼いたします。」


 エデナがヴァーヴェリナ皇女のカップにお茶を注いでいると、斜め後ろに控えていたアナが右手を胸にあてて頭を下げ、皇女にが声をかけた。


「差し出がましいことを申しますが、夜も更けてまいりました。

 ひびき様は、突然のことで混乱なさっていらっしゃると思いますし、お疲れのご様子ですので、お話の続きは明日になさってはいかがでしょうか。」


 良かった。常識人がいた。

 心底、ほっとした。


「あの、すみません。アナさんとおっしゃいましたね。

お気遣をいいただきありがとうございます。

 ですが、俺はこの状況では、寝ることが出来ないと思うのです。」

 俺はアナにお礼を言って会釈した。


 そんな俺を見て、皇女は私に対する態度は なっていないくせに、なぜアナにはそんな態度がとれるんだと ブツブツ文句を言っていた。


 当たり前だろ。俺の対人対応の基本は鏡対応だ。

 相手がとった態度を、そのまま相手に返すだけだ。


「ヴァーヴェリナ様もお疲れのことと存じます。今はお越しいただいた理由を手短にお話して、お二人ともお休みいただいたほうが良いかと存じます。」


 アナはしっかりとしたは口調で話した。


 ヴァーヴェリナ皇女は口をきゅっと結んで椅子に背を持たせ、床に届かない両足を揺らしながら俺を見た。

 お気に入りのおもちゃで遊ぶことを止められた子供のようだ。 実際、子供だが。


「そうだな。睡眠が不足するとお肌に悪い。それにわしも今日は疲れたからさっさと休みたい。お前がここにいる理由を教えてやろう。」



 幼女のくせにお肌を気にするのかこいつ。突っ込みたいが、もういい。早く本題に入ってくれ。



「端的に言おう。ひびき。お前を呼んだのは『孝行』してもらうためだ。」


「は?」


「前世、いよいよ生を終えようとするわしにの手を握って『ばあちゃん。俺はまだばあちゃんに恩を返せていない。ばあちゃん孝行ができていない。だから逝かないでくれ。』って言っただろう。」


「確かに言った気もするが、、、。」


「私は、心配した。お前のことだから、孝行できなかったのを悔やんで夜も眠れないだろう。

 だからお前の心残りを少しでも軽くしてあげたくて、ばあちゃん孝行をさせてやろうとこの地に召喚してやったのだ。ありがたいと思え。」


 ヴァーヴェリナ皇女は顎を少し上げて目を細め、俺を見下したように話した。




「そんな理由!そんな理由で召喚!孝行しろってなんだよ! 肩でも もめってのか?!」


「それもいいな。新しい法を創り、施行するため最近ずっと図書室に閉じ籠りっぱなしだったから肩こりがひどい。ほれ、ひびき もんでおくれ。」


 ヴァーヴェリナ皇女は肩に手を置き、首を左右に振ってコキコキと骨を鳴らせるような仕草をした。


 ぐぐっ!

 俺は文句を言いたいのをこらえて席を立ち、皇女の後ろに回ってその小さな肩をもみ始めた。


「おお、うまいぞひびき。気持ちいい♡」

「肩を揉まれて喜ぶ幼女がどこにいる。」

「ここじゃ。」


 ヴァーヴェリナ皇女は満足そうに目をつぶって軽くうつむいた。

 そして首の根元を抑えろだ、付け根を揉めだの注文を付けた。この、ロリババアめ。


 だが、ばあちゃんも肩をもんであげたとき、同じようなところを揉んでほしいと言ったっけ。

 それに目をつぶって下を向くしぐさは、ばあちゃんとおんなじだ。




 俺が黙って肩をもんでいると、ヴァーヴェリナ皇女が話を始めた。


「さて、肩もみも良いが、そんなことのためだけに、お前を召喚したのではない。うすうすわかっていると思うが、ここはお前が暮らしてていた世界ではない。前世の世界の過去でもなければ、未来でもない。まったく違う世界だ。」


「異世界ってこと?」


「そうだ。わしの前世の記憶とは違う形態で進化し、歴史を紡いでいる。文化も生物もな。」


 ヴァーヴェリナ皇女は右手を軽く上げ、肩もみはもうよい。席に戻れと言った。


 俺が席に着いたのを見ると、ふっとため息を漏らし、椅子に背をもたせ、腿の上で両手を軽く合わせて話しを始めた。



「そしてここは前世の世界―ああ、めんどくさい。「娑婆(しゃば)」とでもでも言おうかの。ここは娑婆の常識とはかけ離れた、おとぎ話の世界だ。

 簡単に説明すると、娑婆の歴史にある産業革命、いやルネッサンス前の中世ヨーロッパのようだ。

 王様、お姫様がいて、貴族、騎士がいる。教会があって、平民である商人、職人ギルド、農民がいる。奴隷もな。」


娑婆(しゃば)・・・。」


 ヴァーヴェリナ皇女は俺を無視して話し続けた。


「娑婆と大きく違うのは、この世界には簡単に言うと『魔力』という力が存在し、それを『魔法』とか『魔術』という形で使うことが出来る人間…が存在する…」



 はい。きました!

 王道の異世界転生物語!


 俺は見られないように机の下でグッと右手を握ってガッツポーズをとった。



 転生したのはばあちゃんだが、間違いなく異世界物語の始まりだ。俺は召喚者。


 この流れで行くと、異世界を渡る際に何か特殊スキルを得た勇者か!?

 それとも異世界の知識を生かした賢者か!?



「なら、人間以外の種族もいるのか?」


「ああ…。ドラゴンに スライムなどの魔物と呼ばれる者た…ち、ドワーフ・ニンフなど妖精と…いわれる者たち…、サル以外の生物から……進化したと思われ…人間がいる……。」


「亜人?どんな?」


「…細かいことはエデナから聞いてくれ…。 

 ふわっ…  眠…くなってきた。わしはもう寝る。」

 

 ロリばあちゃん いや、ヴァーヴェリナ皇女は大きなあくびをした。


「いや、ちょっと待って。今、やっと本題に入ったとこだろ?」


「…わしは娑婆での生を終わらせた後、気が付いたらこの地で赤子になっていた…。前世で…わ しはかなりの善行を積んだ…だな……こう女さまだ… …す…いだろう…」


「ああ。ばあちゃんは頑張ったから、きっと神様が皇女様にしてくれたんだろうね。」


「… … ん。 どん…なばつ…げ… …」


「え、何?なにいってんの?」


 最後のほうは何を言っているのかさっぱりわからくなってしまった。

 ヴァーヴェリナ皇女は椅子に背を持たせたままスース―と寝息を立て始めた。


「え、ちょっと待って。召喚した理由だけ教えてよ!」


 俺はあわてて机に両手をついて立ち上がり叫んだが、皇女は完全に寝落ちしてしまい、俺の問いはむなしく響いた。


ひびき:

ばあちゃん…。

『おとぎ話』ではなく、『ファンタジー』と言ってほしい。

日本昔ばなしじゃないんだよ。たのむょ…。


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