03 美妖女
態度がでかい美幼女の正体は
「ヴァーヴェリナ様 その、お言葉遣いがいささか…。また、そのしぐさも麗しくはありません。」
脇に控えていた怪しからん系… いや、茶髪美少女は、眉をひそめてヴァーヴェリナと呼んだ幼女の耳元に近づき、そっと、たしなめた。
同時に氷系美女は、長いまつ毛の下に隠れた銀色の瞳で俺をにらみつつ、剣の柄に右手をかけて体を前に乗り出した。
「控えろ 無礼者めが。ヴァーヴェリナ様に向かってなんという不遜な態度。不敬者!」
俺は美女に怒鳴られびくっとした。
「ああ、エデナ。見苦しい所作を見せた。あまりに予想外で阿保な行動を見てしまい、つい本音…いや、動揺してしまった。
それと、アナ。良い。ひびきを許してやってくれ。
ひびきは、身分差がほとんどない、お前では考えられぬ世界から連れてきたのだ。今のこいつに、私の高貴さが解るはずもない。」
美幼女は慌てることなく、二人の従者に話し後、コホンと咳払いをして俺を見た。
そして、両手を俺に広げて向けてむけて、口に笑みを浮かべて言った。
『ひびきや♡ びっくりさせてごめんね。みっちゃんおばあちゃんだよ♡ わしも会いたかったよ♡。泣かないでおくれ♡ 可愛い私の孫よ♡』」
ぞぞぞぞわっ!!
足の先から頭の先まで、何かが這い上がってくるような悪寒を感じ、肩をすくめ、両手で自分を抱え込み、俺は固まってしまった。
- なんだこいつ!
顔は可愛い。確かに可愛いい。だが、目は笑っていない。
それにその口調。幼女にそんなこと言われて、喜ぶやつは絶対いない。
てか、いるとしたら、そいつは危ない奴だ。
「な…なに……を…。」
「ひ♡び♡きいっ♡ さあっ! 抱っこしてあげるから、お膝においで!」
皇女は、自分の膝を両方の手のひらでポンポンと叩いて、俺を呼んだ。
「うわあぁ。何考えてるんだ、お前!」
「お前だなんて言うと、アナちゃんにまた叱られちゃうわよ♡ おばあちゃんが抱っこしてあげるよって言っているのに? おいでなさいなっ。」
「初めて会ったガキに、いきなりばあちゃんだと言われて『はいそうですか。』って信じるやつがどこにいる!」
「まあっ!あんなに可愛がってあげたのに、私のことがわからないの?!」
皇女は ううっと口に手を当て、視線を斜め下におろし肩を震わせた。
…。どう見てもわざとらしい。
泣いていると言うより、笑っているのを誤魔化してる。
「誤解を受けそうなことを言うな!!幼女に可愛がってもらった覚えなんてない!!
ばあちゃんは、今日逝ってしまったんだ。大体、『ばあちゃん』というのは俺らより、かなり歳上の生き物だ。間違っても幼女じゃい。変な冗談やめろ!」
「だ、か、らぁ!『来世』なのよ。つまり、『転生』したって先ほど言ったでしょ。 ひっびっきぃ♡」
「語尾に♡つけるのやめろ! 転生なんて、あるものか。」
「おまえ先ほど『来世がないだと!あんまりじゃないか!』と私に怒鳴っただろうに。 ううっ。 ばあちゃん哀しい。」
「怒鳴ったのは、お前が悪い! 来世って、おれだって頭っから信じあちゃいないよ。あってほしいと思ってるけど。
本当に来世に転生したとしても、今日見送ったばかりのばあちゃんが、幼女になっていきなり現れるなんて、あり得ないだろ! ばあちゃんだって言い張るなら、何か証拠を見せろよ!!」
「証拠ねぇ…。めんどくさい子ねぇ。転生者が証拠なんて持ってこられるわけないでしょうが。あ、そうだ。」
皇女はポンと両の手を叩いた。
「♡といえば、私のお尻の右側にちっちゃな♡型のあざがあったの覚えてる?あれねぇ、転生した今も、同じものがあるのよ。」
そういうと幼女は椅子からトンっと飛び降りたかと思うと俺に背中を見せて、するするとドレスの裾を捲し上げ始めた。
「ヴァーヴェリナ様!!おやめください!」
「おのれ!この無礼者!変質者が!!」
茶髪美少女は、慌てて幼女のドレスを止め、氷系美女は、帯刀している剣を抜いて俺に向けてきた。
「違うっ!やめろ!そんなの見せろって言ってないし、見たくもない!そもそも俺に、幼女趣味はない!!」
「だって、証拠を見せろと言ったのはひびきじゃない。」
皇女は悲しそうな声を出し、目を細めて俺を見る。
が、その口元は笑っている。こいつ、わざとやっている。絶対。
「証拠って、口で言えばいいんだよ。俺の生年月日や学校、家族の名前を言ってみろよ。」
「鳥居ひびき 27歳 性別 男 西暦199×年 5月23日 日本国生まれ 父親は余市、母親は奈津子で2つ下の妹は流々。 保育園、小中まで公立、高校は私立高校。大学は…。
て。おぬしはやはり阿保だな。家族構成や生い立ちなんて、少し調べれば誰だってわかるだろ。」
皇女はそう言うと、唇に人差し指を当てて少し考える仕草をした。
「わしにしかわからないことか…。そうだ。これならどうだ。
お前の将来の夢は戦隊ヒーローのメテオレッドだったね。保育園の卒園の時に書いた将来の夢は『ぼくは おとなになったら メテオレッドになって あくと たたかいます!!』だった。
…。ぷぷぷっ!笑っちゃっうわ。」
皇女はケラケラと声をあげて笑った。
…。ひでえ。
子供のかわいい夢を…。
「そんで、小学校に入っても真剣にヒーロー目指していたわね。修行とか言って、メテオレッドの真似をしてさ、塀から『トオッ』とかかっこつけて飛び降りて、着地に失敗。転んで頭を切ったわね。
みっちゃんが、慌てて救急車とやらを呼んで、治療に連れて行ったね。その時の傷で頭の中にX印のハゲが残っているはずだ。
その傷のせいで小学生のころのあだ名はXboxってのだったわね。 ところで Xboxって何?」
…。どうして黒歴史を?
俺のポカンとした顔を見た皇女は少し顔を曇らせ、眉間にしわを寄せて額に手を添えた。
「ああ…。こんなエピソードは、友人なら知っているやもしれぬ。私も思慮が足りない。
うむ……。 ならこれはどうだ。
お前の×××(自主規制)の裏には、ほくろが2つ並んでいるよね。おむつを替えるときに、いつも見せてもらったわ。 ふふふ…。 可愛らしいわね。まだあるのか?」
「そうそう。大事なご本の隠し場所は、本棚の一番下にある鳥図鑑のカバーの中だったわね。」
「?!」
「ただね。図鑑のカバーを外してその中に隠しても、隣に中身の図鑑を並べて置いたらすぐばれるだろう。 くっ! あ…阿保だ。 くくっ!! まぢ笑える。」
「!!!」
「でもね、それを見つけた時、みっちゃんは嬉しかったみたいだよ。『ひびきも、いつの間にか大人になったんだねぇ』と。しみじみ言ってたっけ。女の子に興味があるなら、いつか、ひ孫に会える日も来るだろう。と喜んでいたよ。」
「あ“… ああ”っ?!」
「あ、そういえばお宝のご本の女優さん。エデナとアナに似てるような気が。特に…」
皇女は首を斜め後ろにかしげ、エデナの顔を見て、次第に視線を落として、と、その… そんな目で 彼女のそこを見るなあっ!
「ぐわぁっ! やめろ! いえ、やめてください! すいませんでしたっ! 間違いありません。あなたは、みっちゃんばあちゃんです。間違いありません。どうか、やめてください!!」
「あら。やっとわかってくれたのね。ひびき♡ 冷たいんだから。」
皇女は両手を頬にあて、小首をかしげるて微笑んだ。
俺は背中に嫌な汗が流れるのを感じた。。こいつは単なるガキや小悪魔ではない。
「美幼女」じゃなく「美妖女」だ…。
『大切なご本』てなんだろう?秘伝魔術書かな。
アナは思った。