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28 食欲最強

わくわく クッキングです。

「ここのクッキー、固いな。」


 こういう無神経な奴らはほっておこう。

 俺は気持ちを切り替え、お茶を飲みながら、クッキーを口に入れた。

 噛むと、歯が折れそうなほど固い。


 そう。この国の食事が質素なのは前にも思ったが、その中でも特にどうかと思うのは、菓子類だ。

 正直美味しくない。何て言うか、こう、生地の段階で、練りすぎて、固いし、甘いだけで、バターが強くて、こう、何というか…。


 つまり、まずい。


 お抱えのシェフが居るはずのお貴族様なのに、こんなまずいものを食べているのか?




「何を言う。娑婆でもクッキーは木づちで割って、口に含んで少し柔らかくなってから食べていただろ? お前は気が短いな。」


「いや、それは固焼きじゃない?」


 それって、忍者の携行食だから、わざわざ固く焼いているはずだし、そもそもクッキーじゃない。せんべいだ。


「クッキーって、もっと、サクサクっとして口の中でほどけるし。」


「これはヴァーヴェリナ様がシェフに伝え、シェフはそのとおりに作ったものですよ。

 皇国でも昔からクッキーは食べていましたが、この様に甘く、砂糖を使ったお菓子を作れるようになったのは、皇女様が『サトウダイコン』を教えてくださって、砂糖が国産できるようになった最近であり、今、お出ししているクッキーは、今ある中で最高級品で、以前のものよりずっとおいしいですよ。」


「いや、これが最高級品? どんなレシピ? それ。」


「皇女様? どういう事ですか?」


 と、イネスがヴァーヴェリナの顔をジッ見るが、彼女はあえて視線を合わせない様だった。



「いや、作ってる途中で生地を練りすぎだと思うよ。それに生地を寝かさずすぐに焼いていない? 粉っぽいと言うか、口当たりが悪すぎる。」


「ひびき。お前はクッキー作れるのか?」


と、ばーさまが俺の方を見た。



「ああ。 おふくろに教えてもらったし。ばあちゃんにも作ってあげたけど、覚えない?」


「んー。…。おお、そうだ。そういえば、お前、厨房で色々作っていたな。」


ばーさまは記憶を探り、思い出した様に言った。


「先ほども言ったが、わしにある道子の記憶は、映像を見ているようなものだ。

 道子は『饅頭』とか『ケーキ』とかいう菓子を、毎日うまそうに食べていたのは知っている。


 だが、彼女が作っている様子を見たことが無い。いつも商人から買ってきていたので、どうやって作られていたかは、わしには全くわからん。


 だが、記憶の中に『やだこれ、こんなにバターと砂糖使ってるの? 太るじゃない。』と言っていたのを思い出し、それを元にパンの様に作れと、シェフに作らせてみたのだ。」



 そっか。ばあちゃんは、料理あまり上手じゃあなかったな、そういえば。


 和食はよく作ってくれたけど、レパートリーがあまりなかった。得意なのは肉じゃが、おでんとかの煮物で、自分が得意だからと、そればっかり作ってくれた。


 そのため、俺は今でも男性が食べたい家庭の味ナンバーワンと言われる肉じゃがが、あまり好きではない。


 お菓子とかは…。おふくろが得意で、よく俺も一緒に作ってはいたが、ばあちゃんが菓子を作った記憶がない。



「わしは、道子やお前たちが美味そうに食べているのを見てだな、どうしても『娑婆』の菓子が食べたくてたまらなかった。


 だが、この国には甘いものと言えば蜂蜜ぐらいで、砂糖などなかった。わしは真剣に道子の記憶を探って『サトウダイコン』とやらを見つけ、有名冒険者と軍を総動員して精鋭を組織して、魔の森に探しに行かせて、苦難の末、代替となるものを手に入れたが、砂糖をどうやって作っていたかが分からない。


 様々な分野から人を集めて研究し、粉状の砂糖を作るのがやっと出来た。そしてだな、砂糖を植物研究者を総動員して、農地で栽培できる様に…」


 ばーさまは、ぐっと手を握り、砂糖を手に入れた経緯を、熱く語っている。



 いや、そんな理由で冒険者や軍隊、研究者を総動員するの?

 冒険者とかを総動員するって、もっと、こう、秘薬の原料とか、ドラゴン退治とか金のリンゴとか探しに行ってくれない?




「んで、幾多の苦難の末にできた砂糖で作ったお菓子が、これか。そうか。皇女様は、ばあちゃんの記憶があっても、味や、口当たりがわからないんだよな。」


 まだ、砂糖を手に入れるための苦労話を延々と続けるばーさまの話を遮って、話しかけた。。


「そう言う事だ。『娑婆』のクッキーとは、これより美味いのだな。」


「うん。別物。」


 てか、これで旨いとは、この国の味覚、おかしすぎる。



 そう聞いたばーさまは、机に両肘をつき手を組んでその上に顎を乗せ、鋭い目で俺を睨んだ。


「よし。 ひびき。最優先命令だ! お前は今から迅速に厨房へいき、クッキーを作ってこい!」


「かっこつけて何言ってるんだよ! それに今、夕食の準備中の時間だから、厨房は使えないし。そもそも、分量を覚えていないから作るのは無理だよ。」


「そうだな。イネス。晩さん会用の厨房にひびきを連れて行き、作らせろ。」

「承知しました。 誰か…。」

「おーい。二人とも聞いてるー? 分量覚えていないってば。」

 無駄な抵抗とは分かっているが、一応言ってみる。


 やはり誰も聞いてくれない。イネスが呼んだ侍女に、俺は厨房へと連行された。




 広い厨房に案内された俺は、当然だが困った。


 まず、道具が違う。

 金属のボールではなく、どんぶりみたいな陶器でできたボール。泡だて器はないのかな? オーブンの火力は薪だ。当然温度表示もない。秤は理科室にある様な分銅を使う形だ。使い方が分からない。

 それに型がない。天板は? 当然だが、クッキングシートもラップもない。



「あの、使い方が全く分かりません。誰か手助けしてくれる人をお願いしたいのですが。」


少々お待ちくださいと言って、侍女は人を手配するため、厨房を出て行った。



 材料は、調理台に置いてあるが、普段使っていたものとは、ちょっと違う。

 目の前にあるのは、三温糖みたいな色の白くない砂糖、胚芽入りの小麦粉? ライ麦粉?。

 バターは四角くなく、陶器の器に容器に入っている。卵は…。色々な色をしたもが、籠に入っていた。



 どうしよう。

 とりあえず、クッキーにこだわらずに、分量をあまり気にせず、型が無くともに作れそうなお菓子と言うと…。

 うん。これにしよう。


 俺はとりあえずバターを容器に取り分けた。



 そのうちに、侍女が側近館所属の調理人、ジル(ジルベスター)とミーナを連れてきた。

 ほかのシェフは夕食づくりで手が離せないが、側近館は俺一人しかいないので、手伝いができるそうだ。


「えと、まずオーブンの準備と、このバターと同じ重さになるように、他の材料を量ってもらえるかな?」

 俺は二人に頼んだ。


 ミーナが任せておきなと、オーブンの中に大きな薪を幾つも入れて火をつけ、温め始める。

 ジルはバターの重さを量った後、小麦粉、砂糖、卵を同じ重さになるように量りはじめた。


 二人とも手際がいいが…。でも…。


「ミーナ、やっぱりすごいね。普通、力仕事って男がやって、材料を量るのって女の人がやるイメージなのに。男らしい。」


「ひびき? 何か言った?」 

「いえ、なにも言っておりません。」

 おっと、危ない。本音が口に出てしまった。



「ははっ。ミーナは昔から、調理よりも火の番が多いよな。」

 ジルはバターを木べらで柔らかくなるよう練りながら、口を挟んだ。


「あれ、ジルとミーナは昔からの知り合い?」

「ああ、ちょっとした腐れ縁だ。」


「わたしゃあ、こんな奴との縁は、腐り落ちてほしいよ。」

「そりゃ、お互い様だ。やっと顔を見なくて済むようになったのに、また、のこのこと側近館に来やがって。」


 二人の間には、ゴゴゴゴゴという効果音が聞こえてきそうな、独特な雰囲気がある。この二人、仲が悪いのだろうか。



「まあまあ、あ、バター、白くなって来たね。そろそろ砂糖を入れてふんわりと空気を混ぜるように混ぜて。」

 俺は、話をそらせながら、ジルがバターを混ぜてっている陶器のボールに砂糖を数回に分けて入れる。


 さっきよりもふわっとしてきたが、俺としては、もう少し空気を含ませてほしい。


「結構、力がいるな。力仕事はミーナだろ?」

「何言ってんの、根性なし。」

「泡だて器があると楽なんだけどね。」


「なんだそりゃ?」

「んー。俺の国にある調理道具かな。あ、ミーナ、悪いけどオーブンに入れれる器にバターを塗って、小麦粉を薄く振りかけて。」


「そんな繊細な事はこの女にはできん。俺がやる。ミーナ変われ。」

「喧嘩売っとるんか?」

「まあまあまあまあ…。あ、ジル。そろそろ卵を少しずつまぜて。そうそう。次は小麦粉をさっくりとまぜて、練らないようにね。」


 俺は二人をなだめながら調理を進めてもらい、楕円形の型に生地を流し込んだ。

 生地が40分ぐらいで焼き色が付くようにオーブンの中での位置を変えてもらいながら焼き上げた。




「すごくい香りだね。」

「どうだ?」

「あ、いい感じ。」


 ちょうどいい感じに膨らみ、真ん中が割れて焼きあがった。竹串はないから、スプーンの柄をさしてみる。よし。何もついてこない。完成だ。

 その香りに誘われてか、侍女が何人か、厨房の入り口付近を行ったり来たりしている。


「ひびき。クッキー作るんじゃあなかったっけ?」

「うん。そう言われたけど、突然言われても細かいレシピが分からないし、クッキーは生地を作って少しの時間、冷蔵庫で休ませた方がいいから、今日はやめたんだ。

 その代わり、全ての材料が同じ重さで作る『パウンドケーキ』というのを作ってみたんだ。端を試食してみる?」


 粗熱をとってから、楕円型の陶器の型を外す。

 皇女たちに持っていく分を取り分けた後、残りを小さく一口大に切り分けて、三人で試食した。



「つっ!」

「何これ!」

 ジルとミーナは一口食べ、短く言葉を発すると、黙り込んでしまった。


 あれ? 口に合わなかった? やっぱり、この世界の人達と俺の味覚が違う?

 三温糖っぽい砂糖だし、ライ麦粉っぽい小麦粉だったので、繊細な味とは言わないが、滋味のある味わいになったと思うのだが…。


「あ、ごめん。口に合わなかった?」

「いや…、想像以上だ。口当たりもいいし、信じられん。」

「私もこんな美味しいもの初めて食べたよ。」

 二人は手にしたパウンドケーキをしげしてと眺めて、そう言った。良かった。美味かったんだ。


 厨房を覗いていた侍女たちも俺達をみて、試食させてほしいと言ってきたので、試食してもらったところ、皆、こんなおいしいもの、食べたことが無いと口々に言って、もっと食べたいとねだられた。


 いやあ、女の子達に、ねだられると、弱い。


 作り方を教えてあげようかと思ったが、ジルはイネスからレシピは漏らさないように言われているし、レシピを内緒にして作ってあげれば、彼女達に何度も会えるぜ。と、誰にも聞かれない様にこっそりと俺に言った。

 

 なるほど。女の子と仲良くなるチャンスは、そうやって作るんだ。俺にはその知恵はなかったから、この歳になっても、いい人どまりで、彼女が出来なかったんだ。


 ジルが言ったとおり、また作って持ってきてあげるから、と言うと、絶対ですよ! 他の子も連れてきますね。と盛り上がった。


 ジル、すごい。ちょい悪兄さんて感じだ。


 


 その後、焼けたケーキを侍女に持ってもらい、俺はばーさまの執務室に入った。


「待ちかねたぞ。ひびき!」

 ばーさまは俺を見ると席から飛び降りてきた。


 侍女が持っているパウンドケーキを見たところ、クッキーではないことに、ブツブツ文句を言った。

 だが、ケーキを一口食べると、途端にご機嫌が直り、お代わりが欲しいと、ケーキに手を伸ばした。


「皇女様。夕食前にお菓子の食べすぎはお控えください。」

 そう言うイネスは、2つ目をすでに食べ始めている。


「いや、物は美味しく食べられるうちに食べておいた方がよい。」


「あ、焼きたても美味しいけど、もう1日ぐらい置いてからだと、さらに味がなじむし、お酒をシロップで薄めて塗っておくと、さらに美味しいよ。」


「わかった。ひびき。今すぐ明日の準備に取り掛かれ!」

「もう夕食時だし。時間外労働はお断りしますね。」

「ぐぬぬぬぬ。」


 皇女は真剣に悩んで、3つ目に手を出そうとするイネスから、これは食ってはならんとケーキの皿をを取り上げた。



「ひびき。明日からお前の仕事は、お菓子のレシピを思い出し、私のおやつを作ることだ。分かったな。」

「いや、それはシェフの仕事でしょう?」


「皇国の者は、こういう菓子を作れない。こんな菓子を食べたことがあるのは、ここではお前だけだ。。」 

 だから、明日もこのお菓子を作ってくれと、俺をほめたり、脅したりしながら必死にお願いするばーさまを見て、俺はいいことを思いついた。



「そうだな。さっきかけた変な呪いを解いてくれたら、明日は作ってやってもいいけど。」

「変な呪いとはなんだ。私が寝ずに考えた、お前のためだけの高等魔術なのに。」


 いや、寝ないでそんな事考えても、自慢にはならない。



「皇女様。すぐに呪いは解くべきです。人道にもとる行為です。」

「イネス、さっきお前はわしの術を、べた褒めしていただろう。たらいが欲しくないのか?」

「たらいも大事ですが、皇女様のせいで、私がお菓子を食べられなくなるじゃあないですか。」

「お前ら、根本的に間違っていないか?」


 ともかく、呪いを説いてくれなければお菓子は作らないと言い張る俺と、変な発音を直すための親心だし、こんな高等魔術をお前のためだけに考えたのだと主張する皇女と、たらいも必要だが、自分がお菓子を食べたいが為だけに呪いを解けと主張するイネスとの、何ともあほらしい話い合いがしばらく続いたが、最終的には、俺が「ばーさま」と発音したときだけ、たらいを落とす呪いに変えることで妥協することになった。



 阿保らしい話し合いに時間をとられたため、夕食の時間に少し遅くなって側近館に戻ったところ、お菓子を作っていた分、遅くなったので食事の準備がまだできていない、すまんが、少し待っててくれ、とジルから言われた。


 それなら手伝うし、わざわざ食堂に運んでもらう必要はない。


 何より、一人だけで食べるのも寂しいからと言って、厨房に入ってキールとミーナと四人でワイワイと食事を作って、使用人の食堂で、食事を食べはじめた。


 やっぱりみんなで会話しながら、食べる食事は美味しい。



「あ、ジル。そういえば洗濯場のたらいが壊れててね。明日、木工職人呼んどくれ。」

「お前、また、馬鹿力で壊したな。」

「たらいが脆いのさ。」

 

 これは…。フラグ…?


「じつはさ、さっき俺、…」

 皇女にかけられた呪いの話をし、ミーナにお願いして、今から俺が呪文を言うと、たらいが降ってくるから受け止めてもらうようお願いした。


 皆、空中からたらいが表れる魔術なんて聞いたことが無いと、半信半疑だったが、物は試しとやってみることになった。


「ばーさま。」

 そうつぶやくと、俺の頭上1mぐらいのところの空間が、急にぐにゃりとゆがみ、ポッとたらいが空中に出現した。


 

 皆啞然とし、ミーナはたらいの出現に一瞬たじろきはしたものの、俺に当たりそうだと解ると、『ふん!! 』と言いながら、反射的にグーパンで殴って飛ばしてくれた。

 

 たらいは10mぐらい先の壁に思いっきり当たって、ベコベコにへこんで、ボトッと音をたてて床に落ちた。いや、殴った辺りにも、拳の形が付いているんだけど…。


「あら、()()()造りね。」

 とミーナは壁際まで歩いて行き、元はたらいだった塊を、持ち上げた。


「でも、確かに軽そう。使いやすいわね。」

 そう言いながら、素手でたらいの形を戻し始めた。たらいは不格好ではあるが、次第に形を取り戻して行く。


 …。怖っ。


 俺達3人は、黙ってそれを見守った。


書いていたらパウンドケーキを食べたくなって、焼いていて、投稿遅くなりました…。

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