13 イメチェン
異世界生活2日目
朝食を食べている最中に、エデナがやってきた。
「おはようございます。ひびき様。昨夜はよくお休みいただけましたか?」
「おはようございます。実は、熟睡できなくて。」
「あら、ご気分がすぐれませんか?」
「いえ、実は…。」
寝つきの悪い理由はわかっている。 ベッドのせいだ。
高級品なのはわかるが、庶民な俺にはあんなフカフカすぎるベッドはしんどい。できれば、枕ももっと固いのがよい。
更に言えば部屋が広すぎて落ち着かない。高待遇は嬉しいが、人にはお育ちと、好みというものがある。
俺は遠慮がちにベッドと部屋の話をした。
できればもっと質素なベッドや部屋にしてほしい。さらに言えば、ベッドは壁にくっつけてほしい。と
「そうすると、客室ではなく私どもと同じような部屋になりますが。」
「それでお願いします。客室に泊まるような『技術者』って、どんなすごい技術を持っているかと期待されると、つらい。」
「いえ、そんなことはございません。ひびき様は素晴らしい技術をお持ちですもの。」
と冗談を言った後、エデナはミーナにベッドをお願いしますね。と言った。
その後エデナが右手を軽いく上げると、控えていたミーナとエルシャは頭を下げて部屋から出て行った。
俺はエデナに席につくよう促した。
「こんな早くから、どうしたんですか?」
「お食事中に申し訳ありません。ひびき様は少しでも早く、部屋から出たいのではないかと思いまして。
昨日おっしゃっていた件につきまして、ヴァーヴェリナ様に ご相談してきました。」
過保護監禁生活の件か。
「ありがとうございます。で、どうでした?」
「条件付きですが、了解いただきました。 一つ目は、この離宮内壁から出ないこと。」
内壁?どこだそれ?
「離宮からでちゃダメってことですか?市場とか、冒険者のギルドとか、森とか行ってはだめですか?」
「貴族は市場やギルド、魔物や妖精がいる森には行きませんわ。用があるときはこちらに招致します。」
貴族の買い物や商談は、全て相手を出向かせるのだという。そりゃそうか。デパートの外商みたいなものだな
『それ、全部包んで頂戴。』とか『はーっははは。この店俺が買い占めた!』とやるのはお貴族様でなく、成金か。
また、森に行くには行くが、趣味・社交のための狩りを直轄領で行う場合だけらしい。しかも狩りに行く前には魔術師に結界を張らせ、小隊を配備したり、冒険者を雇って警備させているらしい。
金持ちめ。
付け加えると、首都近辺にもいる魔物や妖精は、ほとんどが初歩~中級ランクの冒険者か、分隊~小隊規模で倒せる程度の普通の魔物や、LowからMiddleクラスの護符を持っていれば回避できる程度の普通の妖精ぐらいだそうな。
普通の魔物、普通の妖精 ねぇ。
俺にとっては両方ともいないのが普通だ。
「俺、設定的には貴族かもしれないけど、せっかくの異世界なんで、色々見てみたいんです。危なくない程度に素材集めや冒険には行ってみたいんですが、駄目ですか?」
「まあ、そう慌てなくてもいいじゃないですか。ここの生活に少し慣れたら、まずは市民の生活している場所に行けるよう、私からもお願いしてみますから。」
それもそうか。どんな魔物がいるかわかも分からずに、出かけるのは無謀だな。
「わかりました。お願いします。 で、もう一つの条件は?」
「今から、イメチェンしていただきます。」
「イメチェン?」
なんでも、黒髪、黒い瞳は、この国の者はほとんど持っていないのでかなり目立つそうだ。
瞳の色は変えられないので、髪の毛だけでも茶色く染めてもらいますと言った。
― 茶髪かぁ。高校卒業してすぐ染めてみたっけ。似合わなくてやめたっけ。
この過保護監禁生活が解除されるなら似合わなくても染めますよ。
と言ったらエデナはくすっと笑った。
朝食後、早速、ミーナとエルシャに髪を染めてもらった。
エナインディという植物の粉をペースト状にして髪にべっとりと塗り、タオルで巻いて1時間。
部屋でお流ししますという二人の言葉をよそに、俺はバスタブに頭を突っ込み、お湯を何杯かかけてもらい洗い流した。シャワーないと、めんどいな。ファンタジー生活というか、昔々の生活だ。
タオルでゴシゴシ吹いてみると、鏡の中には少し緑がかった茶髪の俺が映っていた。
「なんか変だなぁ」
「いえ、お似合いですよ。」
鏡を見ながらつぶやいた俺に、髪をとかしてくれていたエルシャが言った。
「黒の髪を持つひびき様は、近寄り難かったのですが、今のほうが、親しみやすいいですよ。」
「?」
「ひびき様のような黒髪に黒い瞳を持つ方は、わたし、初めてお目にかかりました。エデナ様に、事前にお話しを伺っていなければ、もっと驚いたかもしれません。」
「なにが?」
エルシャは俺に近づき、少し小声で言った。
「ここだけのお話ですよ。ひびき様のお国ではどうかは存じませんが、この国では黒は闇の神の色であり、黒髪、黒い瞳の人間は強い魔力を持つと言われてるんです。
だから、はじめひびき様にお目にかかった時、黒髪、黒い瞳のお客様だと聞いていましたが、私、緊張しちゃって。」
え、そうなんだ。俺は暗黒神か。
「いや、俺、魔力まったくないから。」
「え、そうなんですか?私、魔力のことは良くわかりません。でもひびき様がほかのお客様と違って、面白い方だということだけはわかります。」
面白い?俺が?と言うと、エルシャは貴族のお客様は侍女に話かけてくれないし、敬語なしで話してなんて、言いません。
それに、自分で髪をゴシゴシ洗う方は初めて見ましたと、笑われ俺も笑ってごまかした。
貴族らしい振舞ってどんなだ?
設定に無理がある・・・。