11 はい。喜んで。
「話は変わりますが、ひびき様のいらっしゃる世界は、どんな感じでしょうか。」
「どんな感じって…。この世界とは大分違うような気がします。まず、魔法とか魔力とか言うものは、あるかもしれないけど、俺は見たことないですね。この世界では普通にあるものなんですか?」
「ええ。全ての者が魔術を使えるわけではありません。魔術が使えるのは、現人神とされる皇族、そしてそれに連なる貴族階級です。平民の中にもごく稀ですが使えるものもおります。」
「昨日ヴァ―様が言っていましたが、本当に妖精やドラゴンなんかもいるのですか?」
「はい。おります。」
「亜人も?」
「はい。色々な動物と同じ特徴を持つ者が数多く存在します。むしろ、ひびき様の世界ではそのようなものはいないのですか?」
「おりませんね。神話の中だけです。」
エデナと俺は話を続けた。
俺はまず、この世界の魔術、魔力の話やヴァ―様の話などを聞いた。
ヴァ―様の本名は
『ヴァーヴェリナ=エンシャラー
=イーナ=ケテー=カツァー=コクマ―=リステリア』
と言う長ったらしい名前で、リステリア皇国の第1皇女ということだった。
この国の名前は本当に長ったらしい。
また、このリステリア皇国のほかにも国がいくつか国があるらしく、人間が引いた国境線以外に、精霊が支配する地域や、妖精・魔物が住む森、地域など様々なものが入り乱れており、一度の話でとても覚えきれないほど複雑な感じだった。
そして、エデナは逆に、俺にあちらの世界 - 娑婆 - に興味を持った。
移動手段や学問、仕事や、皇女が言ったように身分差がないのか、などを聞かれた。
俺は電車や、車などの移動手段の事や、学校のこと、職業の事、身分差のことなどを説明した。
こちらの世界にないものの意味 - ガソリン、電気など - が、解ってもらえないことも多く、説明に苦労したが、エデナは、まるでこちらの世界の話を聞いた俺の様に興奮していた。
エデナは今後、俺にあちらの世界のことを沢山教えてほしいと言い、俺もこちらの世界のことを教えてほしいとお願いした。
「そう言えば、エデナさんはさっき俺が来た世界を「『知の神界』と呼んだっけ。なんで?」
「『チの神界』ですか。それはですね、ヴァーヴェリナ様が転生前にいらした世界だからです。
ヴァーヴェリナ様はご幼少の頃より、ほかの子供よりもとても早くお言葉を覚え、文字を覚えられました。
そして色々な知識を身に着けられた神童です。何よりも皇女様は、他の者と着眼点や発想力が全く違うのです。」
「例えば、ひびき様が先ほど使用されていた『歯ブラシ』。あれはヴァーヴェリナ様が提唱なさったものなのです。
ブラシで歯を磨いて、歯がなくなるのを防げるなんて、初めは誰も信じなかったのですが、使ってみると存外、使用感が良かったものですから、一部の者が使用を始めました。
その後考案なさった『歯磨き粉』なる磨き粉も一緒に使うことによって、歯が白くなり、美しく見えるということから、貴族のご婦人、ご令嬢に爆発的な人気となり、それを見た男性貴族にも広がっていきました。
今では『おじい様。お口臭い!』といって、孫に嫌われていた年配の貴族にとってはなくてはならない物となっております。」
『おじいちゃん。お口臭い!』って、どこの世界でも言われるんか。
「そして、それを使っているうちに、口の病で歯を抜かなければならない者が、減ってまいりました。歯があることによって物をしっかり食べることが出来、健康増進にもつながっていると思います。」
「ひびき様は先ほど、食後に迷うことなく歯を磨いていらっしゃいましたよね。
その習慣がついているのはこの国ではまだ貴族のほんの一部だけなのです。下流貴族や平民では、歯ブラシを見ても何に使うかわからないでしょう。」
「そうなんですか。」
歯ブラシ一つでばあちゃんと出身が一緒だと推察されるとは。恐ろしい。
「ヴァーヴェリナ様がこの世界に影響をもたらしたものは数知れずございます。どうしてそのような豊かな発想を得たか、周りの者どもにはわかりません。
ですので、『皇女様は知の神の生まれ変わりだ』と皆、噂し、信じられております。」
はあ。歯ブラシでねぇ。
「ですが、ある日、ヴァーヴェリナ様は側近の中でもほんの数人に、『自分には前世の記憶がり、それをもとに新しい文化を提唱しているだけなのだ』と教えてくれました。」
これは国家機密なんですよ。とエデナはいたずらっぽく笑った。
「ですが、私どもは、それを伺っても信じられません。転生 ― 生まれ変わり ― というものはこの世界にもありますが、異世界の記憶を持った転生というのは聞いたことがありません。
ですから、それを伺った側近は今でも、ヴァーヴェリナ様は神の生まれ変わりか、神が顕現されたと皆、思っております。」
お姿も神々しいでしょ?とエデナは言った。
「わたくし自身、ヴァーヴェリナ様は『チの神界』の神が顕現されたと未だに思っておりますよ。
だから、あちらのの世界でのお孫さんでした、ひびき様も神の顕現だと思っています。」
「ええええ! そんな大げさな。そんな期待されても無理! むり!」
「ひびき様が、ヴァーヴェリナ様と同じ発想力や知識を持っていると解ると、皆、私のように、ひびき様が神ではないかと考えます。
ですので、どうか、ヴァーヴェリナ様の前世の記憶の事、ひびき様がお住まいになる『チの神界』、ええと、『娑婆』でしたっけ?のお話しは、内密にしていただけないでしょうか。」
「あ、ええ。わかりました。誰にも言いません。」
そんな、大ごとなのか。
「ひびき様は『ヴァーヴェリナ様の招致を受けて、遠方から来た貴族の技術者。
貴族の出身でないと、ヴァーヴェリナ様に拝謁できませんの。出身場所や、どんな技術をもっているかは、ひ♡み♡つ♡!』と、周りの者には伝えてあります。
そうすれば、この国の習慣を知らなくても皆納得しますので、そのように振舞ってくださいねっ。」
とエデナはそのプルンとした唇に人差し指をあてて、俺の顔を下から覗き見るように見上げた。
女の子の上目遣いは、最強兵器。
しかも、谷間…すんげえ見てえる/// 見えてる…。
「はい、喜んで!」
俺は学生の時のバイトで鍛えられた返事を、背筋を伸ばして答えていた。
エデナ:うふっ 可愛い♡