第7種『ハカセの解説:ワールドガイド:北半球?編』
またしても説明回かつワールドガイド。今回は後半(北半球編)。ハカセとスライの質疑応答は間に合わなかったので次の話にて。
最低限、週一の更新ペースは守ります!これの積み重ね、大事。
誤字修正しました。
「うまい」
「それはなにより」
昼食後の解説だったせいか、今はちょうどデザートタイム。
もちろんこれもハカセの手作り。
グレープソルべのさっぱりした後味が舌戦? を繰り広げた俺とハカセの渇きを潤し、濃厚な赤ぶどうの甘みが世界の理解にオーバーヒート気味な俺の頭を優しく癒やしていく。
疲れていたから味の感想はシンプルイズベストになっちまったが、ハカセは嬉しかったのか微笑みで返してくれた。
「では、こちらも下げてくれ」
休憩を終え、メイドゴーレムに食器を片付けさせるハカセ。そしてパチンと指を鳴らせば、円卓に地図が再び浮かび上り、ハカセは話を再開する。
「さて、いよいよここから後半戦だよ。君のアーク球体説をここでも引き継ぎ、今度は北半球の解説といこうか。ここには3つの国がある」
さっそく、北半球1つめの国だ。
「まずはセイレーン国からいこう。バベルから2時の方向、人口は約3000万人。この国の地形は直接見た方が分かりやすいな。では」
またハカセが指を鳴らすと、円形だった部屋の壁が透明になる。そして360度のパノラマが広がる。天気は快晴、そしてここは100階建てのバベルの最上階。言わずもがな、眺めは抜群だ。
そしてハカセが指さしたかの国の方向には山が海に浮かんでるように見える巨大な島。丁度ドーナツ大陸の切れ間にあたる。
「どうかね? 富士山より俄然大きいだろう」
「高さじゃ無くて面積もな。数十倍はありそうだ」
裾野がかなりなだらかに広がっている。全体的な形としては富士山を少しつぶした感じというのが正解か。しかももう一つ特徴が。
「巨大な浜が島をぐるりと囲ってるな。てか、すげえな。海岸線全部浜だぜ」
「な、珍しいだろ。だから大量の市民を抱え込めるのさ。ここからでも見えるだろう」
ハカセに言われて目を凝らしてみると
「そういえば、山の周りに少し黒いモヤのような……って、細かい点にも見えるな。それに、島の周りの水面が波立ってるというか、こりゃあ、もしかして獣人国にいなかった水棲系と飛行系の亜人種が住んでるんだな」
「御名答。そして彼らは自らに取り込んだ魔素を練り込み発声器官を通して放出する固有技、つまり『歌』を使いこなす特殊な種族さ。これはスキルでも魔法でもない彼らだけが持ち得る技、というより特性だがね」
「人口比は?」
「水棲系たるセイレーンが約2000万人、飛行系たるハーピーが約1000万人かな。ただ、この2種族はことさら仲が悪いのさ」
「海のもん、山のもん、と、同じ『歌』という固有技を使う種族ゆえか、互いに張り合っているだけなのかもしれん。仲が悪いとはいえ、内戦というまで発展したことはないし、種族は『分かれて』暮らしてはいるが、『離れて』暮らしてはいないからな」
「けんかするほど仲がいいってことだわな」
「そこまで楽観視するのもどうかと思うがな。同族嫌悪めいたものかね……何度か一触即発の空気にはなっていたと邪神は言っていたしな」
「もう今更な気がするが、邪神の情報網パねぇな」
「まあヤツは人々の感情の中に巣くうモノだと豪語していたからね。だが、相変わらず正体は謎のまま、のらりくらりとしたヤツだからな」
俺の邪神への不気味さ、というか不信感が増し増ししたところで、北半球2つめの国の解説。
「次はドワーフ国からいこう。バベルから11時の方向、人口は約1億4000万人。この国の地形は……」
「多っ! なんだ、めちゃ多いやンっ。なしてそんなに多いの?」
いきなりえらい数の人口が出たもんだからおもわず話の途中でツッコんでしまった。なんか関西弁になっちまったし。
「ドワーフは人間と同じく発情期というモノがなく、年中発情しているようなものだ。かつ妊娠期間のスパンは短く、ポコポコ増える。そして彼らの最大の特徴というかな……土を喰う、正確には鉱石かな、で、食糧危機というモノが無い。どんな理屈かは知らんが彼らに触れた土もとい鉱石はバターのように溶け、細かくした鉱石を飴のように口の中で転がして食すという。だからほら、見たまえ」
ハカセが示した先には険しい山々が連なっている広大な土地があった。なんかテーブルマウンテンというか、南米のギアナ高地を想起するような感じだったが。
「そりゃあ地上には住んでねえわな。アリの巣的な感じか」
「言い得て妙だな。彼らが能力をフルに使っていると仮定すれば、もしかしたらアークの地底はみな、彼らの掘ったトンネルで埋め尽くされているのかもしれないね」
「……オイオイ、怖いこと言うなよ」
「安心したまえ。彼らは争い自体には興味は無いよ。それよりかは鉱石による創作物、主に刀剣の類いだがね、それにかなり執心している。彼らは産み、増え、鍛冶をし、武器を作ることに生きがいを見いだす種族だからね」
「そこら辺は俺が知るドワーフ像だわ」
「争いを知らん彼らはそれにより命を落とすことは無い。加えて鉱石が影響しているのか知らんが病気知らずでもある」
「だからこの人口なのか」
「まあな」
「でも、ドワーフに関しては珍しく情報が曖昧だな。特に生息範囲とか」
ハカセは参ったねとでも言いたげにため息一つ、語り出す。
「彼らは秘密主義なんだ。門外不出とか一子相伝とかが好きなのか実際につきあったとしてもほとんど情報は教えてくれない。邪神に様々聞いた時も『命の存在は分かるけどそれ以上はちょっとな』と珍しく顔をしかめていたしな」
「邪神の電波は地下に弱い?」
「フッ、かもしれんな」
俺たちは顔を見合わせて笑うのだった。
そして、いよいよオオトリ? の北半球3つめの国の解説。
「最後はドラゴン国だ。これは国というより住処と言った方が正しいのかもしれない。それだけ彼らは人々から畏怖されているからね。ちょうどバベルから12時の方向、真北にあたる。人口といっていいのか迷ったが、まあ、彼らの数はおおよそ10000だ。この国の地形は……まあ、実際見てみたまえ」
ハカセが指さした先には、比喩でもなんでも無く、見たまんま『天を貫く』これは山といっていいのか? があった。
「なんだこれは?軌道エレベーターか? 成層圏にいってんぞこれ。しかもよう、山というよりばかでかい太さの石柱だろ、あれ」
「まぁ、そうだね。とんでもない巨大さのビルといっても差し支えないだろうね。『天樹』と比較してみるかね」
おもむろにハカセは7時の方向を指さす。
「おっ、『天樹』もアレとどっこいどっこいだ。まさに『天柱』だな」
「アークの皆々にもそう呼ばれているよ」
てきとうに言った命名とこの世界の住人の価値観がピタッと合ったのが心地よかったのか調子に乗る俺。
「まあ、あれらに比べて100階建てで『バベル』ひゃっほうって思っていたのが、なんか恥ずかしくなってきたんですけど」
「まあ、そう言うな。大事なのは大きさでは無く『質』だ」
「かの『バベル』は無敵ってことッスか?」
ハカセは不敵に微笑み。
「まあ、そこは君の想像に任せるよ。だが龍種を侮るなかれ」
忠告してくる。
「やっぱドラゴンは強えのか」
「そうだね。アーク総人口比では少なめだが、龍種が10000もいれば、世界を軽く滅ぼすには十分かな。ほんと畏怖の象徴だね。アークの親は『天柱』から『天誅』が来る、悪いことはするな! と子を脅して教育することもあるくらいだからね」
「そんなテヘペロ的な笑顔でさらっと怖いこと言うなっ!」
ハカセの発言はいちいち爆弾的だ。サラッとヒヤッとすること言うからな、ほんと。ならついでに聞いてみるか。
「これだけ畏怖されてるドラゴンなら、随分前からいそうだよな。それこそ、さあ、創世期からとか」
いかにもな俺の質問にハカセはため息で返す。
「そう言いたいのは山々なんだが、これもデータ不足ではっきりとは言えんな」
「邪神筋の情報は?」
「言っただろう、ヤツは『新参者』なんだ。そこまで太古の情報は把握していないさ。まぁ、知っててあえて隠しているのかもしれんがね」
「当然そこのトップオブトップとも君は関係を持つことになるのだから」
「もう、胃痛、はんぱ、ないんだけど……むしろなんで教えたの」
非難めいた俺のまなざしもどこ吹く風、ハカセは勝ち誇ったように俺を射殺すような視線を放ち。
「知らないよりかはいいだろう、それに君は……」
途端、彼女の視線が俺の全身をなめ回すかのように動く。
「いきなりよりかは、じわじわとなぶられる方が好み、だろぅ?」
「俺は意外とノーマルだあぁぁぁーーーー!」
「M男がなにをいっているのかね」
俺の魂の叫びは冷静なハカセの苦言にかき消された。
もし気に入ってもらえたら、ポイント評価、ブックマーク等お願いします。
子どもたちが出てくるのは少し先になります。
ゆるゆると進行を見守ってくだされば幸いです。