第6種『ハカセの解説:ワールドガイド:南半球?編』
説明回が続きます。かつワールドガイド長引きそうなので2分割します
今回は前半(南半球編)です
遅くとも週一の更新ペースを厳守はなんとか守れた
いまだ予断許さずやけど
「ありがとう。下げてくれ」
ハカセの声音で待機していたメイド型のゴーレムが食器をテキパキと片付け、俺が食い散らかした場所も丁寧に拭き取っていく。
その精度は驚嘆に値した。つまりハカセの持つ技術力? はすげぇってこった。
「さて」と前置きして
「じゃあ解説を始めるか。異世界初心者のキミにね」
「アンタも最初は初心者だったんじゃねえか? そん時の話でもいいぜ」
ハカセはやわらかく微笑み
「まぁ、機会があればね」
はぐらかされた。やっぱこの人、会話スルースキルハンパねぇわ。まあ、気にしてもしゃあねぇわな。とりあえず気になってたことから聞いてみるか。
「そういや、『女帝』って言ってたけど、それが種付け外交の相手か?」
「そうだ。この世界には七つの国がある。彼女たちはそこのトップオブトップ、つまり国主だ。なので『女帝』とあえて括って私が君に示しているだけだ」
「えっ!? そんな相手と種付けすんのかよっ、俺っ」
「不満かね? それともビビったのかなぁ」
挑戦的な笑みを向けられて
「ちげぇよっ! 武者震いだよっ」
俺は精いっぱい虚勢を張るしか無かった。
「まぁ、いいがね。では、ワールドガイドといこうか」
パチンとハカセが指を鳴らすと、円卓に地図が灯った。
そこには中心に白い塔のある島とそれをドーナツ型に囲う大陸がある。おおっと、ドーナツの左右は途中で切れてるわ。ハカセは手を伸ばし、指先を地図の中心に持っていく。
「とりあえず私たちが今いるこの白い塔がバベル。すなわち世界の中心さ」
「バベルとはまた強気に出たな。崩れそうで怖ぇわ」
俺の皮肉に
「神をも怖れぬ所業と言いたいのかね? まぁ私は邪神の力を借りているからね。私は研究者にとって大事なのは目的のためには躊躇しないある種の『潔さ』だと思っているからね。邪神と手を組むことに『迷い』という感情さえ起こらなかったさ。そして君を錬成した」
なんか予想以上に俺が生まれた理由がドラマチックに感じて
「そこまでして俺を……」
うっかり言葉にでた。そしたらハカセは取り繕うように
「勘違いしないでくれよ。君はあくまで『ツール』だ。私が子を授かるという目的の上での通過点にすぎない」
言うもんだから、感謝の言葉を重ねてみる俺。
「それにしては待遇いいよな。うまいメシも食わしてくれるし」
「健康そのほか『ツール』の管理は研究者の最低限の義務だ。ただ、それだけだ」
間髪入れずに発言するハカセ。どこか、照れてるようにも、かんじるんだけどな。だから
「おぉ、こわ」
やれやれというポーズで煽る俺にハカセはジトッとした視線を向けた後、
「続き、いいかね?」
コホンと咳払いをし、話が再開される。
「では、位置関係だが」
ハカセはキチンと丁寧に話を進めてくれる。本で言うなら各章タイトルを挟んでから話をしてくれるイメージだろうか。
「私が座っている方向が12時の方向、すなわち北だ」
「そしてこの世界の面積だが、私たちが過去にいた地球の約4分の1かな」
「けっこう小さな世界なんだな」
「ああ、だから私はこの世界のことを箱庭もとい方舟『アーク』と呼称している」
「やはり世界は丸いのか?」
少し気になって質問してみると
「君はどこか、この世界が造りものめいた世界だと感じたことはないのかね?」
なんか核心めいた質問飛ばしてきた。たしかにスキルシステムとかもろゲームっぽいけど。でもなぁ、なんか答えてもめんどくさそうな気がするし、「それにしても」と言葉をつないで褒めてみる。
「よくそんなあっさり分かるな」
「勇者時代に調べたからね」
「よくできたな」
驚く俺にハカセはなにも特別でないという風を吹かす。
「世界を知ることは最低限必要だぞ。見も知らぬ場所に来たならなおさらな。私は周りから土台を埋めていくタイプだからね」
「ほんと、アンタって生粋の研究者だな」
「褒めても何も出ないがね」
「期待してねーし」
軽口をたたきああってお互いに笑う。この世界に来たばかりの頃は緊張していたが、数日とはいえわりと打ち解けたような気がする。この女と話しているとなんか安心する。時にさらっと重要なことをゲロするけど、そこも慣れるとなんか心地よくなってくる。こうやって解説してくれるくらいには面倒見もいいし。
「なんか理想の女性に出会えた気がする」
「うれしいね」
そうやって素直に返されるとこっちが照れるんですけどっ。
「ちなみに今現在の各国の人口とこの世界、アークの総人口も把握している。3億5000万人余だ」
「たたみ掛けるねぇ。それもアンタが?」
「残念ながら私もそこまで万能ではないよ。これは邪神に教えてもらった情報さ」
「案外、ヤツはこの世界の全ての命と精神を同期できるのかもしれないね」
「いや、さすがにそれは冗談キツいぞ」
「あくまで仮定の話さ。それも極々限りなく低い可能性の一つだがね」
「さて、話を切り替えるぞ。私も外からアークを見たことがないのだが、君はやけにアーク球体説を推すから、その仮定でやってみようか。まずは南半球、ここには4つの国がある」
「ちなみに各国、及び種族、その他の呼称に関しては私の私見が『大いに』に交じっているので、現場ではわりと通じないからね。あまり口に出して恥をかかないように」
調子に乗った博士のスマイルを火ぶたに本格的な国解説が始まる。
まずは南半球1つめの国だ。
「まずは獣人国。この国は犬や猫、果ては虎、猿、猪など主に地上に住む動物の特徴が顕われた人類が住む場所だな」
「獣人ってなんで生まれたんだ?」
「邪神も知らないと言ってたよ。まさに人智の及ばない神話の世界かもな」
「神が獣と人の交配を解禁したとか、獣が自ら進化を果たし獣人になったとか様々に伝えられているよ」
「邪神て意外と生きてねえのか?」
「ヤツは己のことを新参者と言うが、実際どこまでホントかはわからんさ。それほど私はヤツを信用はしていない」
「手厳しいこって」
結構二人で話していると、脱線というかだべる感じになっちまう。でも不思議と心地いいんだよな。
「俺たち相性いいよな。身体だけの意味じゃなくてな」
ハカセは照れてるのかコホンと咳払いをして解説を再開する。
「気を取り直して、獣人国はバベルから9時の方向、人口は約7000万人。基本的に地上に住む獣の特徴を宿した者が集まって住んでいる。地球でいう中華風の見た目の建物が多いな。気候はサバンナと森林が半々ずつ。圧巻は国土をぐるりと囲む高さ10メートルの城壁だな。総延長約3万キロにも及ぶ」
「大層な距離だな。自衛の国だな」
「そうだ典型的な武の国だ。自分たちからは仕掛けない。自らの種族に誇りを持ち強い者を尊ぶ気質。女性は自分を打ち負かした男の子を残すことを理想とする。まさに強産主義とでも言おうか。そんな国だ」
つぎは南半球2つめの国の解説。
「続いてエルフの国。これはバベルから7時の方向。人口は約1000万人。創世記からあるとされる天を貫くほどの『天樹』を中心に形成された広範囲の森をテリトリーにしている。丁度獣人国の南東に位置する」
「平和そうないい国だな」
「いやいやここはかなりの軍事国家だ。エルフは選民思想が極めて強い。自分たちは選ばれた民だと思っているんだ。そして他の種族は劣っている者として苛烈ともいえる迫害を行う。特に人間を蔑視していて、激しく対立している」
「おっかねえな」
「まぁ、この世界の人類はとにかく戦いや争いが大好きなんだろうね」
ハカセはどこか他人事のように話を進めて行く。
そして南半球3つめと4つめの国の解説へ。
「そしてエルフの国と対立している人間の国と言いたいとこだが、この国は少し情勢が特殊でね。私の方では魔国とカテゴリ付けしている」
「どういうこった?」
「まぁ、実際は王族と貴族制によって人間が治めていて、ほぼほぼの住人は魔族のことを知らないから人間国といってもいいとも思う。だが魔族がウラで牛耳っていて、かつ王や上位貴族は魔族の伺いなしには国を運営出来てないからね。実質魔国ってことで私だけはそう呼んでるのさ。魔国はバベルから3時の方向。人口は約1億人。そのうち魔族はわずか数万人しかいない。結構退廃しているが、人口はまぁ多いからね。それでなんとか戦えるわけさ」
「ややこっしいなぁ」
「まぁ、そう言うな。して、エルフ国と魔国この二つの国の間にある鬼国もまた、面白い国だぞ。鬼国はバベルから5時の方向。人口は約11万人。スキルの扱いを極めた者達だからエルフより『段違いに』強いぞ。額に生えた角がスキル形成や操作になんか影響を与えているのかもな。彼らの体格は大小様々で地球の鬼の印象通りでは無いので、イメージは忍術を使う凄腕忍び集団ってところだな」
「ああ、だからか」
「分かったかね」
俺の納得にハカセはニヤリと笑って言葉を返す。
「エルフの国は鬼国があるせいで人間国というか魔国に手出しが出来ない」
「そういうこと。これで世界は平和だろう」
「ちげえねぇ」
ハカセの言葉にサムズアップで返す。
「でも、それにしても鬼国の人口で魔国の数の暴力に耐えられるのか?」
「ここでちょうどこの世界の南半分を解説したところだ。質疑には北半分の解説の後で答えよう」
解説はまだまだ長くなりそうだ。
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子どもたちが出てくるのは少し先になります。
ゆるゆると進行を見守ってくだされば幸いです。