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ジョヴァンカ

 タルシェフ村での三日目の朝が来た。波塁の部屋に朝日が差し込んでいる。今日はやっと晴れだ。

 波塁は朝日のまぶしさに目を覚ました。

(昨日はよく働いたので今日は寝すぎたな)

 山での修業の日々が随分前のように感じる。あのころは、きつい山歩きを行っても翌日は必ず4時には起きていた。

(ずいぶんと気分がだらけているな、完全に出家する前に戻っている感じがする)

 この二日間は、いろんなことがあって混乱しているが、もう種はまいてしまった。

(なるようにしかならないな、神の導きに従うのみ)

 波塁は、そのようなことを考えながら食堂に向かうと、ハンナと、イレナが朝食の準備をしていた。

「おはようございます、波塁様」

〈おはようございます、波塁様〉

 ハンナは言葉で、イレナは思念で挨拶をしてきた。

 波塁も、

「おはようございます。どうです、うまいでしょ」と挨拶を返した。

 イレナは驚いて、

「波塁様、言葉が喋れるようになったのですか」

「昨晩お願いして、叶えられたのです」

 こんなでたらめなことも、ハンナとイレナは、一昨日からの奇跡を見せられていた後なので、そんなもんか程度にしか思わなかった。


 やがて子どのたちも入ってきた。あの病気の4人も一緒だ。

「波塁様、おはようございます」

「波塁様、おはようございます」子供たちが元気よく挨拶をしてきた。

 回復した三人が、前に出てきて、

「波塁様、ありがとうございました」と礼を言ってきた。

 最も重症であったカミルが、話しかけてきた。

「おとといの夜、夢の中にアルテミシアさまが現れ、手を差し出し、何か語りかけてくれました。それから体が楽になりました、あれはなんだったのでしょうか、残念ながら何をお話になられていたのか覚えていないのですが」

「さあ、私にもわかりません、しかし、夢に現れた方がアルテミシア様だとなぜわかったのですか」

「礼拝堂にかかっているアルテミシア様の肖像画のイメージが夢の中に現れたのでしょう」

 ハンナが代わりに答えた。


 朝食が終わった後、子どのたちのいなくなった食堂で、これからのことを話し合うことにした。

 波塁が話を切り出した。

「皆さんにお願いがあります。聞いていただけますでしょうか」

 一昨日からの奇跡を目の当たりにして、ヤクブは波塁に絶対的な信頼を置き、きっとこの方は預言者に違いないと思っていた。ハンナとイレナも同様の気持ちを抱いていたので、

「何なりと仰ってください、なんでもやります」

 とヤクブが答えた時に、二人とも頷いたのであった。

「奇跡によって人を助けられることがわかりました。これからも引き続き病人の治療を続けようと思います。あと数日で、この村での仕事は終るでしょう。その後のことですが、奇跡を目の当たりにした人たちは、私を預言者の様に考え、教えを乞いに来るでしょう。しかし、私には教義のことはわかりませんので、教会に来られた方には、ヤクブさんが灰の森教会の教義に沿って今まで通りに対応していただきたいのです。」

「しかし、奇跡のことを聞かれたら、どう答えたらいいのか分かりません」

「灰の森教会で熱心に信仰したことで、治癒の能力を手に入れた。ということにしましょう。いずれにしろ私にも説明は出ないのです」

 波塁にできるのは、奇跡の発現だけなので、病気を治すことで信仰に目を向けさせる。その上で、ヤクブが中心となって教義を説いていくことに決まった。

 その後、波塁とヤクブは新たな病人を癒すため村へ出て行った。


 教会を出てしばらく進むと、前から紫の上着に赤のスカートの女の人が歩いてくるのが見えた。こちらをじっと見ながら、近づいてくる。

 ヤクブが嫌そうな顔をして視線を避け、女の人を避けるように波塁を道路の端の方へ誘導した。それでも、その女の人は近付いて、ヤクブの方を覗きこみ声をかけてきた。

「ヤクブ元気そうだね、目が治ったっていうのは本当なんだね、それに若返ったんじゃないか」

「やあ、ジョヴァンカ何の用ですか」ヤクブが聞いた。

 次に、波塁の方を見ながら、

「あんたの目を治したのはこの人かい」

 見た目は、30~50才くらい。年齢不詳だ。ヤクブよりだいぶ年下のようだが、上から目線の物言いで、ヤクブも苦手そうだ。

「そうです、この方が直してくれました」

 ジョヴァンカは波塁に向かって、

「どんな魔法を使ったんだい、魔法で病気を治すのは難しくてね、痛みを抑えるようなことはできるけれども、ほとんどの病気は治せない」

「たぶん魔法じゃないと思います、奇跡を使いました」波塁は答えた。

「ハハハ、奇跡だって、いい加減なことを言うもんじゃないよ。奇跡とかいうのは神話の中の話で、今まで見たことも聞いたこともないよ」

 ジョヴァンカはあり得ないと思っていた。

「まあいいや、ちょっと家によっていきな、いろいろ聞きたいことがある。私は魔法を研究しててね、もし病気が直せるならこれは魔法学にとっての快挙だね」

 波塁も少し興味が出てきて、

「あなたは、魔法が使えるのですか」と聞いた。

「いままで使ってみた魔法は、1000くらいはあるな、ただよく使うのは20種類ぐらいなものだが。いいかい、魔法というのは、科学だ、水が高いところから低いところへ流れるように、原理、原則に従っている。奇跡のような根拠がないものとは違うんだよ。まあ、家に来ればいろいろ教えてやれるだろう、早くついてこい」と催促した。


 ヤクブは、

「今から病人の治療に向かうところです、日を改めてお伺いさせていただければと思います」

 と断ったのだが、

「わかった、では病人の治療が終わった後でいい。私もその治療についていく」

 ジョヴァンカはそう言ってきかない。

 さらにヤクブは、

「今から、4軒回るのですがよろしいですか」

 とも言ったが、構わないとジョヴァンカに言われ、仕方なく同行することを了解した。

 歩きながら、ヤクブは波塁に、

「あの人はこのあたりでは有名な魔法使いで、私は今年で67才になりますが、私が子供のころからジョヴァンカの見た目は変わっていません。北の森に住んでいて、場所はよくわかりません。あの人が家に人を招待したことなど聞いたことがありませんので、少し興味はありますが」

 波塁も、魔法には興味がある。昔ゲームで魔物を殺しまくった。

(炎の魔法、風の魔法など使えるのかなあ)などと考えていた。


 一軒目は、若い男であった。男は、やはり湿疹が出て、汗をかいて息苦しそうな呼吸をしている。波塁は、いつものように左手を額にかざすと。

「この者に神のご加護を」

 とだけ祈りの言葉を発した。

 すると、波塁の手のひらが光を放って男を照らした。しかし、男の見た目には変化はなかった。

 3人は部屋を出て、家族に終わったことを告げその家を出て行った。

 ジョヴァンカは、様子を見ていた。波塁がたった一言だけ発し、手のひらから光が出ていたことを。特に容体に変化は見られなかったが、必ず治ると直感した。

 ジョヴァンカは、波塁が祈りの言葉を発した後、部屋の雰囲気(空気?)が変わったの感じていた。例えれば、濁った池に清らかなる水が流れ込み少しずつ池の水が透き通っていくような、そんな感じであった。

 確かに魔法では考えにくい、魔法を実施するためには、図に描かれた術式を用意し、順番通り正確に呪文を唱える事で発動する。高度な魔法では、呪文の間に体内の気を集中させて魔力の流れをコントロールしなければならない、また、複数人でないとできないものもある。

 基本的に、難しい魔法ほど時間がかかるものだ。

 それをあんなに簡単に


 残り三軒も同様に、簡単な祈りで終わった。

 ジョヴァンカは、だんだん無口になっていった。

 魔法の虜になり、寿命を延ばす魔法まで使って長年研究を続けていたが、こんなのは初めて見た。集中して観察していたが理解不能。まさか本当に奇跡?

 ジョヴァンカは、ワクワクした。何十年振りだろうこんな気持ちは、少し文献などで調査してみよう。

(久しぶりに、町の図書館などを回ってみるか)

「家に招待することはやめにする。日を改めて教会に行くことにしよう」

それだけ言うとジョヴァンカは去って行った。

 ヤクブと波塁は、ジョヴァンカの家に少し興味を抱いていたので、少し残念に思いながら教会へ帰って行った。


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