日本へ
二人が移動した場所は、幅5m程の石が敷き詰められた道の上で、道の両側には、白砂に立派な松が何本も植えてある。その道を進んだ先には石で出来た大きな鳥居があり、さらにその先に神社が見えた。
「あれは神社ですね、なぜここに」
波塁が歩きながら尋ねる。
「日本では、神社を通じて霊界と繋がるという独特な仕組みがあります。地上と霊界で相対した神社があり、地上で祈った願いをここの祭霊が願いを叶えるか検討して、問題なければ願いを叶えます」
「そうなんですね、正直なところ生前では、願いを聞いてもらえるなんて思っていませんでした。なんというか、初詣とか、行事的な」
「ははは、そうですよね、現代の日本では神社の意味も、役割も薄れてきてますからね」
「願いを叶える基準のようなものはありますか」
「本人のためになるかに尽きますね、例えば宝くじが当たりますように、などというのは難しいと思います。ほとんどの人の人生の目的は、霊性レベルを上げてより神に近い階層へ進むことですから、もし大金を手に入れて努力をしなくなる恐れがあるのなら、叶えない事が本人のためになります」
「そうですね、理にかなっています」
鳥居をくぐるとそこには美しい日本庭園があった。小さな滝と池、みずみずしい苔に覆われた地面に石が配置され、松や、モミジなどが植えられている。生前見たどの庭よりも美しかった。
「おー見事ですね、やはりこちらの方が地上より格段に美しいですね」
「こちらではイメージしたものが忠実に再現できますので、とてもいいものが出来ます」
庭をじっと見つめている背の低い男がいるので才慶が声をかけた。
「失礼ですが、何をしていらっしゃるのですか」
男は、振り返って二人の方を見る。藍色の作務衣のようなものを着ている。
「私はずいぶん前にこの庭を作ったのですが、その後、自分自身のレベルがアップすることで、気に入らないところが目についてきました。そのため、修正を加えているのです」
「私たちには、完璧に見えますが改善すべき点があるのですね」
「石の位置が1cmずれるだけで随分印象が変わります。奥が深いですね」
「地上と違って、霊界ではどこまでも理想が追求できるので楽しいのではないですか」
「そうですね、地上では味わえない満足感が得られます。しかし、美しいのには違いないのですが、変化がないので面白みに欠けるところはあります。地上の場合、風雨にさらされて風化する石や、予期せぬ方向に曲がった松の枝など、意図しない変化によって、予想外の発見や、美しさを見ることもあります」
「なるほど、日本の侘び寂びの文化なども、完璧でないものに美しさを見出したりしますから、偶然の不完全を愛でることは叶いませんね」
さらに進むと本殿がある。本殿の作りは簡素であるが地上のものよりかなり大きい。むしろ木造校舎と言った方がしっくりくるかもしれない。
才慶は、拝礼をすることも無く、入口を開けて入ると、受付に巫女の格好をした女性が座っていた。
「私は、才慶と言います。少し主祭霊様にお話をお伺いしたいのですが、お取次ぎ願えますか」
「分りました、少々お待ち下さい」
女性は奥に引っ込んだ。
波塁が才慶に聞く、
「なんか、地上の神社と勝手が違いますね。事務的というか、それとあの女性はなにかこの界に相応しくないような」
「ははは、ここは願い事を処理する事務所みたいなもんですからね。それと、彼女は眷属ですね、おそらく狐狸の類でしょう。神社では仕事が多いですからね、眷属もたくさん働いています」
しばらくすると、巫女のような衣裳を着た女性が現れた。千早を羽織り、金で装飾された髪飾りを着けているところは、受付にいる巫女とは格の違いを感じさせる。
落ち着いた声で、話しかけてきた。
「どのようなご用件でしょう、この神社で主祭霊を務めております、彩花と申します」
「私は才慶、こちらは波塁です。彼は第3界から、いきなり第6界へ来たので、私がこの世界を案内しているのです」
「そうですか、それであれば相当なご経験をされたんでしょうね、是非ともお聞かせ頂きたいのですが」
彩花が好奇心に満ちた目で、波塁に向かって聞いてきたので、波塁はしかたなく、彩火と見つめ合う。一対一ではどうしても気恥しい。
「へえ、面白いですね、霊界から、波塁様のためにかなりのサポートがあったようですね、ある種の実験かもしれません」
才慶も答える。
「私もそう思います。まず奇跡の供給体制、異世界への転生、竜の支援などは初めて聞きました」
それに答えて彩花が、
「他は知りませんが、竜の支援は聞いたことがあります。幕末など、歴史の節目で英雄をサポートしたようですよ」
波塁のまれな経験に話が盛り上がる。
波塁が聞く、
「よろしければ神社の仕組みなどを教えていただけますか」
「あなたのお話に比べれば退屈だと思いますが、わかりました、こちらへどうぞ」
彩花が二人を神社の中を案内しながら話をする。
「神社の説明をする前に、基本的なところからお話ししましょう。人間には必ず一人の守護霊がつきます。そして、必要に応じて何人かの指導霊がつきチームで人の一生をサポートします。これは、日本に限らず全ての国で共通です。守護霊はその名の通り、危険を回避するため助言を行っています。指導霊は専門的な助言で、例えば、医師であれば医師の指導霊がついて、診断、治療など様々な場面でインスピレーションを与えることで手助けしています。」
波塁が奇跡を使うためのチームが編成されていたが、指導霊はインスピレーションを与えるだけなので、波塁の奇跡の場合は、通常の指導霊とは異なっている。
彩花が話を続ける。
「これに加えて日本には神社があります。神社は、系統、種類が多く一言では説明できませんが、人から見た場合、産土神とそれ以外に分けられます。産土神は誕生から死までの一生に亘って、気にかけ便宜を図ってくださります。ですから、第2の守護霊という存在と思えばいいでしょう。別に神社に行かなくても、どこであっても祈りを捧げることで守護霊と、産土神には願いは伝わり、それが本人の成長にプラスとなるのであれば、叶えられるよう動いてくださいます」
それに対して波塁が聞く
「もし神社に行かなくても願い事を聞いて貰えるのであれば、神社は必要ないのではないですか」
「一言で言うと、覚悟のようなものでしょうか、身を清め、鳥居をくぐり神前に向かうまでに、集中力を高めてより強く願いを訴えるための場所、形態といえます。しかし現代では、お百度参りのように、真剣に願い事をする人はほとんどいません」
「確かにそうですね、一般の人は願い事を何が何でも聞いて戴こうというよりは、初詣に行ったり、七五三などの行事で神社を訪れることがほとんどのような気がします。それでも、日本人の心の拠り所となっているのには違いないでしょうが」
波塁が、続けて質問する。
「それでは、産土神以外の神社で祈願をした場合どうなりますか」
彩花が神社の中で書きものをしている、四人を指して、
「ここで今作業している四人が祈願した内容をまず受け取ります。どう見てもその人のためにならないと思われるものは無視して、検討の余地があるもののみ書き起こしています。たとえば、他人を貶める願いや、金持ちになりたいというような願いはここでカットされます。この四人は女性の格好をしていますが、女の天狗です」
波塁は作業している女性たちを眺めながら聞く、
「私が出会った、男の天狗は肉体派で、知性は怪しかったですが随分違いますね」
「天狗は男女で随分違っています。女は力がない代わりに知性があるのです」
天狗の一人が、顔を上げて波塁に微笑む、美しく知的な目をしている。
「ここで選別されたものを私が見て、却下するもの、願いを聞くものと、上位界へ回すものに分けます。そして一番重要なのは、本人のためになるかという事ですので、必要に応じて、守護霊、産土神との相談もおこないます」
神社の仕組みは大体理解した。さらに波塁が質問する。
「日本以外はどうなんでしょうか」
「詳しい事は分りませんが、各国、各宗教によって異なっているようです。キリスト教圏では一か所に集約しているようです」
「現代では、神に願いをしても聞いて貰えるなどと考えている者は、ほとんどいないと思いますが、やはり、願い事が不純だからですね」
「そうです、本人の霊性レベルを上げるという観点から見ると、正反対な願いばかりだからです」
三人が話をしている時、波塁に懐かしい感覚がよみがえる。
神社の入口に一人の女が立っている事に気付いた波塁は声をかける。
「結火さん、やっとお会いできましたね」
「お守りできず申し訳ありませんでした」
悲しそうな顔をして、結火が答える。
波塁は笑いながら、
「初めて、竜の修行場でお会いした時は、冷たく少し怖い印象でしたが、ずいぶん感情豊かになりましたね」
「乙姫様にも成長したといわれました」
彩花が驚いて聞き返す。
「え、竜宮城の乙姫様ですか、凄いですね、ぜひお話を・・・」
彩花が話に割って入るのを才慶が制す。
「失礼しました、どうぞお話の続きを」
波塁が結火に向かって
「あなたには本当に助けてもらいました、感謝の気持ちしかないです。そうだ、第六界のやり方で思考の共有をしましょう」
波塁と結火は見つめ合って出来事を一つ一つ振り返ると共に、お互いの知らない事とその時々の感情を共有した。
結火の頬を涙が伝う。波塁も感動して涙ぐむ。
共有が済むと、波塁が結火に声をかける。
「またいつか一緒に何かやりたいですね」
「ぜひその時はお声かけください」
晴れやかな笑顔を残して結火は消えた。
スピリチュアリズムを皆さんに知っていただきたいと思いこの小説を書きました。
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聖霊の声
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