再会
波塁に呼び掛けるものがいる。
(あれ、誰かが呼んでいるような)
アルテミシアが答える。
「誰かがあなたを呼んでいますね、場所は第5界のようですが行きますか」
「どうすれば行けるのでしょう」
「私がガイドしましょう、ついてきてください」
二人は、地面を突き抜けて下へと向かう。そしてその下の地面に降りた。
「ここは暗いですね、着いたのですか」
「波長を下げなければなりません、今のままですと第5界の人には人型の光としか見えず、誰なのか分りません」
アルテミシアが波塁に思考をリンクしてやり方を伝えると、徐々に波塁が姿を現した。
「明るくなりました、これが第5界ですか、あまり風景は変わったように思えませんが、心を満たしていた幸福感が半減したような気がします」
「上層に行くほど神に近づきますので、神の愛を多く受けます。これが向上のための最大のモチベーションです」
二人が話しているところへ、一人の女性が近づいてきた。
見るからに日本人という顔立ちで、黒髪は後ろで束ね背中の方まである。細かい柄の高級そうな和服を着ており、目が合うと丁寧にお辞儀をしてきた。波塁も慌ててお辞儀をする。
「えっと、どちらさまでしょう、初対面ですよね」
「わたしは、妙と申します。あなたの妻であった、佳奈の守護霊でございます」
「え、そ、そうですか」
「佳奈が、あなた様にお会いしたいとの事です。本来お迎えに向かうところですが、恥ずかしながら第6界へは行く事が叶いませぬので、大変失礼ながらお呼びさせていただきました」
「どうもご丁寧に、それで、佳奈はどこですか」
「佳奈は第2界におります。お手数ですがご同行願えますでしょうか」
アルテミシアとはここで別れ、妙について、波塁は下って行く。少しずつ波長を下げながら。
妙が波塁に話しかける。波塁の出家前の名前は加波貴之なので、
「加波様は、以前第3界だったはず、いきなり第6界へ進まれるとは、さぞかし素晴らしい功績を残されたのでしょう。私は佳奈を守ることもできず、大して成長しないまま帰幽させてしまいました。自分の不甲斐無さに悲しくなります」
波塁は、守護霊について質問してみた。
「守護霊の事が今一つ分かっていないのでお聞きしますが、あなたは佳奈と関係がある方なのですか」
「はい私は、佳奈の母方の先祖です。五世代前になります。守護霊は過去の縁故者が務める事が多く、守る事と、向上の道に導くことが仕事です。合わせて守護霊自身の成長も促されます」
「あなたは、第五界におられて、第二界の佳奈を守護していたわけですが、私の場合第三界なのに、第十界の守護霊様が付いていました。何か基準などはあるのでしょうか」
「なんと、そうでしたか、普通守護霊を抜くことはあり得ないので、かなり高位の守護霊様ではないかと思っておりましたが、第十界ですか、それならあり得るかもしれませんね。これだけ高位の守護霊がつくことはきわめて珍しいと思いますよ。ちなみに私自身の守護霊は第八界でいらっしゃいます」
そう言っているうちに、第二界へ着いた。
「これ佳奈、加波様がいらっしゃいましたよ」
学生時代に付き合っていたころの若々しい妻がそこにいた。
「タカちゃん会いたかったよ・・・」
佳奈はそう言うと波塁に抱きつき泣いている。波塁も佳奈を抱きしめるがどうも勝手が違う。肉体では無いので、弾力、温かみなどが感じられない。佳奈もすぐそれを感じて、波塁の方を見上げて少し離れる。
「案外早かったね、私たちみんな早死にだね」
「そういえば、結衣はどうなった」
「あの子は、まだ小さかったので、直ぐに生まれ直したよ」
ふたりは、生前の事、ここに来てからの事など、しばらく話し合った。
「ねえ、ここで一緒に暮らそうよ」
「それは難しいだろうね」
「ねえ、何で、どうして、私のこと嫌いになったの」
佳奈は食い下がってくる。
波塁は、妙に目で助けを求める。
「佳奈、それは無理です。加波様はあなたがこちらに来た後、大層な努力と、功績を収められたことで、第六界まで一気に進歩されたのです。お互い住む場所が違うのでどうしようもありません。この事は以前説明したはずですが」
「妙様はいつも厳しいことばかり仰る。夫婦の間の話なのに」
妙が波塁に話す。
「いつもはもっと素直で、ちゃんと修行しているんですが、今日は甘えているだけですので、どうかお気になさらないように」
「ハハハ、分かっています」
「佳奈、じゃあもう行くよ」
「分かった、私も頑張る」
波塁が、第六界のアルテミシアといた場所をイメージすると、一瞬にしてその場所へ帰還した。
戻った場所に、アルテミシアはいなかったが、アルテミシアの事を思うと、しばらくして現れた。
「どうでしたか」
「地上では何とも思わなかったのですが、こちらではレベル差があるとつらいですね、話をすることも以前のように楽しくなかったです。それとこの第6界での幸福感は、もう離れたくないですね」
「ところが、第7界はもっとすごいですよ、私は以前、守護霊様に連れて行ってもらいましたが、圧倒されました。あなたもそのうち守護霊様に連れて行ってもらうといいでしょう」
波塁がアルテミシアに尋ねる。
「もっと、この第6界の事を知りたいのですが、どこか案内していただけますか」
「たくさんありますが、音楽会なんてどうです」
「ぜひお願いします」
アルテミシアは目を瞑って、音楽会の開催場所を検索する。
「あちこちでやってますが、もうすぐ開始するところがありますので、そこに行きましょう。距離は10万km以上ありますので、飛んで行くには時間がかかりすぎます。瞬間移動しますのでついてきてください」
波塁とアルテミシアは一瞬にして音楽会の開催場所に着いた。この第6界はかなり広いがどこにでも瞬間移動できるため、距離は無いも同然だ。
一面に芝生が植えてある広場を多くの人が歩いている。向かっているのは大きなすり鉢状の穴だ。直径が500mもあるだろうか、10度ぐらいの角度で傾斜しており中央は直径100mぐらいで平坦になっている。中央には演者であろうか、100名以上の男女が同じ白い服を着て集まっており、観客は、すり鉢状の傾斜の好きな所に座っている。波塁とアルテミシアも適当な所に座った。
「あの人たちが演者でしょうか、楽器などを持っていないようですが、合唱か何かですか」
「あれでもオーケストラなんです、あの人たちは生前オーケストラなどで楽器を極めた名人ばかりです。ここではイメージするだけで楽器の音が再現できますので、楽器は必要ないのです。しかも生前は自分が理想としてイメージしたものが、技量的に再現できないことも多くあったと思いますが、それも理想的な音で表現できますので、演者にとってはこの上ない喜びがあります」
やがて、演者全員が手をつなぎ輪になった。屋外なのにあたりは暗くなり、中央の演者に向かって照明が当たる。波塁は、周りを見渡したが、照明器具は見当たらなかった。
やがて観客が静かになり、演奏が始まった。
バイオリンとチェロが美しい旋律を奏でる。やがて他の楽器が加わりユニゾンになる。波塁は聞いたことのない曲であったが、今まで聞いたどの曲よりも美しく、また、素晴らしい演奏のため、我を忘れて聞き入った。
演奏が終わると観客からは拍手と歓声が上がる。
「素晴らしい曲と演奏でしたが、これは誰が作曲したのですか」
「私も知りませんが、ここで演奏されるのは地上ではなくこちらで作曲したものばかりです。先ほどの演奏と同じように作曲についても、地上ではどうしてもイメージした通りに譜面に起こせない事がありますが、こちらでは自分の思った通りに再現できるので、地上より良い曲が作成できます」
「地上で有名だった、ベートーベンやモーツァルトなども、こちらで作曲しているのでしょうか」
「さあどうなんでしょう、地上の作曲家はメロディを譜面に起こしますが、そのメロディのインスピレーションの大半は、この霊界から送られています。つまり、地上の作曲家は霊界から送られたメロディを譜面に起こす能力に長けた者だと言えます。ですから、メロディのインスピレーションを受けることがなくなれば、曲を作れない作曲家も多いのではないでしょうか」
「見えないところで随分霊界が関与しているのですね」
「それはもうほとんどと言っていいのではないでしょうか、ですから絵画なども凄いですよ。地上では技量の優れた者がもてはやされますが、こちらでは技量は必要ないので、イメージ力がある人が素晴らしい作品を作ります」
その後も、アルテミシアは波塁を、美術館、図書館などいろいろな所に案内した。
「この世界に慣れてきたことですし、そろそろ、主役になってもらう時期ですね」
「どういうことでしょう」
「あなたは異世界に行くという極めてまれな体験をしました。これを他の人たちにも伝えるのです」
「なるほど、どうやって」
アルテミシアは、少し時間をくださいと言うと消えた。
しばらくすると戻ってきて、波塁を連れて瞬間移動した。
その場所は、芝生の植えてあるただの広場だった。所々生えている大きな広葉樹がアクセントになっているがそれ以外何もない。そこに人が集まってくる。
「結構人が集まると思いますよ、それから、上層界の人たちも来るようですよ」
芝生を歩く人、瞬間移動で現れる人などの他に、上空から降りてくる人がいる。おそらく上層界の人たちだろう。
その時空が一段と明るくなった。いくつかの光の塊が降りてくる。
「かなり上層の方々ですね、注目の高さがうかがえます」
光の塊は、地面に近づいてくるにつれて、光を失い人の姿が現れた。全部で5人。
服装は我々とさほど変わらないが、威厳がありつつ愛に溢れたその姿は、誰の目にも高位界の方々であることが分かった。
その中に見覚えがある顔があった、守護霊様だ。
「守護霊様ではないですか、今日はまた随分派手な登場ですね」
「フォーマルな場ではきちんとしなければな、第十界らしさを出す事も必要な時がある。後、このプロジェクトに関わったものも一緒に来た。」
波塁は、守護霊に同行してきた者へ挨拶をする。
話を聞いていたアルテミシアは、波塁の守護霊に話しかける。
「波塁様の守護霊様でしたか、であれば是非お話をお伺いしたいのですが」
「分かった、そうしよう」
広場はいつの間にか大変な数の人で埋め尽くされていた。1万人以上はいると思われる。そして、その場の人たちは手をつなぎ始めた。
「大人数で、経験を共有するためには手をつなぎます」
そう言って、波塁も、アルテミシア手をつなぐ、
「あなたの一生を最初から思い出して行って下さい」
波塁は目を瞑って、出来事を一つ一つ追って行った。肉体失って霊になったせいか、すべての出来事を鮮明に思い出せることができる。すべて終わると全員が手を離し拍手した。
集まった者達は興味深く話を聞いて、感動したり、感心したり、楽しんだりそれぞれに感じるものがあった。
奇跡について質問があったので、守護霊が答える。
「奇跡について説明しよう。奇跡は霊界側から行っていた。波塁が奇跡を起こそうと思った時、その意識を受け取ったら、専門家に依頼をして実行する。今回治療の奇跡を多く行ったが、これはまず、霊界の医師がその原因を突き止め、担当の医師に依頼して実行する。このため、医師だけでも、内科医、接骨医など5人も待機していた。また、食べ物を増やす担当もいたが、実行したのは1回だけ、水の上を歩くなどは準備していたが出番なし、その他通信なども含め常時12、3人が待機していた」
多くの人がかかわっていた事に人々は驚き、どよめきがあがる。
波塁が、守護霊に聞く。
「ひょっとして、同じような症状で、治ったり治らなかったりしたのは、待機している医師の体制が原因ですか」
守護霊に同行してきた男が答える。
「わたしはそのチームの医師でした。事前にいつやると分かっていれば、体制を整えるため十分な準備ができますが突然だと難しい、特に集団での治療は大変でした」
「そんな事も知らず、大変ご迷惑をおかけしました」
波塁は、事実を知って謝罪する。
その他いくつか質問を聞いて、波塁と守護霊がそれに答えた。
会も終わり、守護霊が去った後、一人の男が、波塁に話しかけてきた。
「素晴らしい話ありがとうございました。随分前のことですが、山岳修行は私も行いました」
「あなたも日本人でしたか」
「初めまして、私は才慶と申します、名前は出家した時のものを使っています。あなたの波塁もそうですよね。ところで日本の霊界には行かれましたか」
「今回初めて日本での人生を経験しましたので、まだ行ったことありません」
「一度行かれたらいかがですか、地上世界で文化が異なるように、霊界においても各国でかなり違いますよ、日本はまた独特なので。もしよろしければ今からご案内しましょうか」
「是非、お願いします」
日本人の男と、波塁は瞬間移動で日本霊界へ飛んだ。




