第6界
守護霊が、波塁に話しかける。
「第三界から、一気に第六界までやってきて戸惑う事も多いだろうから、少しこの世界を案内してやろう。飛ぶぞ」
守護霊と波塁は上空高く飛び上がり鳥のように飛んで行く。
「え、飛べるんですか」
「飛ぶのは第四界からできる。ここでは思った場所に瞬間移動もできるぞ、界を上がるにつれて出来ることも多くなる。もっと上に行けば、地球外にも行けるようになるし、同時に複数個所への出現も可能になる」
眼下には、美しい丘の緑と、黄色い花の群生が見える。濃い緑の針葉樹林、明るい緑の照葉樹林、川があって、光輝く湖がある。二人は速度を上げ、変化に富んだ美しい大地を眺めながら飛ぶ。
ポツンポツンと風景に溶け込むような美しい家が点在していたが、やがて家が密集している都市のようなものが見えてきた。町の中央に大きな建物があり、その周りに家が取り囲んでいるが、家と家の間隔は広く大きく広がっている。
「あの大きな建物はなんでしょう」
「あれは、集会所のようなものだ、あそこに集まって会議したり、講義を聞いて勉強する」
さらに飛び続ける。いくら速度を上げてもどこまでも美しい景色が続いている。
「ここはどれだけ広いんでしょうか」
「霊界の構造について説明しよう。第一界は地球の地上から、数十km上空に層のようになって広がっている。そして第二界はまたさらに数十km上空にある。このようにして地球の上空に延々と広がっている。第六界ともなると地球よりもかなり上空なので、その分面積も地上よりかなり広い」
「いったい何界まであるのですか、また守護霊様は何界におられますか」
「私は、第十界であるが、最上界が何界まであるか知らない。おそらく15、16界というところか、お前も知っていると思うがこの地球界の頂点は、イエスキリスト様である。それから完璧な階層構造をなして形成されている」
さらに飛び続けながら、守護霊は波塁に語りかける。
「そろそろこのあたりに降りてみよう。後は何をするもお前の自由だ。まずはそのあたりの人に話を聞いてみるとよい」
二人は地上に降りると、すぐに守護霊は消えてしまった。
そこは小さな村のような場所で、道路に面して、4,5軒の家が見える。いずれの家にも美しい庭があり、色とりどりの花が咲いている。
道の前方に横道から美しい女性が現れた。整った横顔、背中まである黒髪はウェーブがかかっており輝いている。ゆったりとした青味がかった白い服は、宝石で出来たボタンで留められており、紫色の宝石で出来たネックレスと金色に輝く腕輪をしている。
あまりの美人に少し気後れしながら、波塁が女性に声をかける。
「あの、少しお伺いしたい事があるのですが」
女性がこちらを向いて、波塁と目を合わせた瞬間、波塁はうろたえた。
「え、えー、待って、待って、やめてください」
波塁は動揺して女性から目を逸らした。
「ハハハハ、あなたこの世界に来たばかりですね、なるほど、以前は第三界におられたのですね、それが一気に第六界では無理もありません」
「なぜそんなことが分かるんですか」
「あなたの開いた心から垣間見えました。これがここでの普通のコミュニケーション方法です。少し説明しましょう」
霊界では思念で会話するため言語の壁はない。そのコミュニケーションを取る方法が上位界に上がるにつれて、より深化、洗練されてくる。この第六界では、その場で感じたこと、思ったこと、イメージしたものなどを直接共有する。つまり、相手に伝えたい事があった場合、言葉で説明しなくても、そのまま共有できるのでとても便利だ。
なぜこの第六界でこのコミュニケーションが可能かというと、ここには善性しか存在しないからである。この方法だと、たとえば、この人は少し苦手と思ったり、相手の裸を想像したりしてもすべて相手に伝わってしまう。つまり、心の奥をすべてさらけ出しても何もやましい事はない霊性レベルに到達しているからできることなのである。
「分りました慣れるために頑張ってみます」
「お手伝いしましょう、あなたの経験したことを順番にイメージしてください、では」
二人は見つめあう。しばらくして、波塁が目をそらす。
「うわー、もう駄目です」
これはたとえて言えば、道で出会った見知らぬ者同士がいきなり全裸になってキスするようなものだ、そう簡単には慣れない。そもそも日本人はハグでさえ苦手だ。
「なるほど、凄い人生経験をしましたね、異世界移転というのは初めて聞きました。奇跡も面白いですが、個人的には山岳信仰の方に興味があります。山岳信仰というのは自分自身を鍛えるだけで、他者への貢献ができません。他者にどれだけ貢献するかで霊性は向上するので、この世界の人たちは個人の修行についてはあまり興味を持っていません。ところがあなたの場合、異世界での約半年間で飛躍的にレベルアップするための基礎作りとして、大いに役立ったようですね。このような方法もあるとは。これは機会を見て皆さんと共有しましょう」
女性は楽しそうにしている、今度は波塁が訪ねる。
「そういえば、あなたは、アルテミシアと仰るのですか、いろいろと縁のあるお名前ですが何か関係があるのでしょうか」
「灰の森教会とは関係ありませんが、創設者であるアルテミシア様にはいずれお会いしたいものですね」
波塁は聞きたい事がたくさんあったが、一番疑問に思っていた事について聞いた。
「異世界とはなんでしょう、同じ地球なのに別の世界でしたが」
「私にもよく分りません。この霊界はあくまでもあなたが元いた場所に対応しています。つまり、異世界で生まれ死んだ者たちはこの霊界にはいません。おそらくあの世界にはあの世界に対応した霊界があるはずです。それとおそらくですが、あなたのお話の中で、この世界に所属していると思われるのは、竜ですね、ひょっとしたら天狗もそうかもしれません」
「不思議ですね、異世界間への行き来は容易でないように思えますが」
「簡単ではないと思います。かなり上位界の力が必要でしょう。いずれにしてもこの世界は相当に複雑で、分からないことばかりです。太陽系の地球以外の惑星にも人が住んでいるようですが、遭遇しないのも異なる次元によるようです」
「他の惑星にも人が住んでいるのですか?」
「そうです、見かけや、肉体を構成する原子が異なるため、人というよりは知的生命体というべきでしょうが、すべての惑星にいるようです。しかし、決して遭遇しないように異なる次元に存在しているとのことです」
波塁は、元々宇宙に興味があったので食いついた
「面白いですね、もっと教えてもらえますか」
「いや、私はあまり詳しくないので、どうでしょう天文の専門家に話を聞いてみますか」
「ぜひお願いします」
その場所はかなり遠くにあり、飛んで行くとかなり時間がかかるため、二人は瞬間移動を行った。
美しく整えられた芝生と、正方形の大きな池があり池の中央に噴水がある。その向こうに複雑な曲線で構成された見たことも無い建物があった。建物の色は濃い青だと思っていたら、序々に色がうすくなり端の方から黄色くなっている。また、反対側からは緑色も混じってきた。目まぐるしく色が変化している。
二人は、その建物の中に入った。建物の中は広く全体が薄いベージュ色で、照明器具らしいものはないが、天井全体が柔らかな光を発していた。建物の中には、地球、太陽系や宇宙の模型などがところどころ置かれている。
そこに一人の男が現れた。三人は目を合わせ、思考を共有すると、男は頷いて説明を始めた。
「まず、ご存じとは思いますが基本的なことから説明しましょう。この宇宙は神によって創造されました。その後恒星や惑星、そしてそれを構成する銀河といった物が作られましたがそれに原初の霊たちが生命を与えて行ったのです。この世界に偶然はありません。すべて神の意図に基づき無数の霊たちの力によって各星に命が与えられました。つまり無駄なものは何もないのです」
波塁が質問する。
「私たちの目には、生命が存在するのに適さない惑星もあると思うのですが、大気が無かったり、寒む過ぎたり」
「次元が違えば環境も違いますので、例えば、大気もあって豊かな自然の中で暮らす火星人は、枯れ果てて生命の欠片すら感じられない地球を眺めて、我々だけが宇宙に存在していると考えているのかもしれません。また、木星のような岩石で構成していない星にはそれに適応した、我々の象像もつかない形態の生命が存在しています」
「今までの常識が覆る気がします。しかし、次元が異なって互いに認識できないというのが理解し難いのですが」
「初めて聞くとそうだと思います。しかし理性的に考えてください。例えば銀河系には、数千億の恒星があるといわれています。するとその恒星の周りにある惑星は一兆以上あるでしょう。それの星からなぜ通信してこないのでしょう。こんなに広い宇宙において、地球だけに生命があるのはおかしくないですか」
波塁は考えた。確かに神が宇宙を創造したとするならば、地球だけに生命があるのはおかしい。
「では、太陽系にはすべての星に知的生命体が存在し、霊界も存在するという事ですか」
「その通りです。太陽系についてもっとお話ししましょう。こちらへどうぞ」
男は、太陽系の模型の前まで、波塁とアルテミシアを案内した。太陽を中心として、水星、金星、地球と太陽系すべての惑星が、各星の軌道の輪っか上に乗っている。
「この模型はよく出来ていて、今現在の惑星位置を表しています。これを見て何か気づくことはありますか?」
波塁は模型をじっと見ながら考える。
「火星までは、太陽の周りに固まっていて、それより外側はスカスカで太陽から随分離れていますね、海王星なんか太陽の光がほとんど届かないんじゃないでしょうか」
「実はこの第6界では、位置までは公表されていないのですが、現在発見されていない惑星がどこかにあるようですよ。見えないので発見できないようですが将来科学技術が発展して、微弱な重力を観測できるようになれば、存在に気づくかもしれませんね」
「その星にもやはり生命が存在するのでしょうか」
「もちろんです。先ほども言いましたが、この宇宙に無駄なものなど何もないのです。すべてに意味があります」
男は、アルテミシアをちらっと見て、
「これは、アルテミシアさんはご存じだと思いますが、太陽系の各惑星の霊性レベルに大きな格差があります。地球は火星に次いで下から二番目の霊性の低さなんです。これは昔からの大きな課題で、様々な対策を実施しているのですがなかなか効果を表しません。イエス様が地上界に顕現されたのもこの一環と言っていいでしょう」
アルテミシアが波塁に向いて話す。
「あなたの稀有な経験もこのための試行錯誤の一つかもしれませんね」
「最後に一つだけ、太陽にも知的生命体が存在するのですよ。太陽の表面積は地球の一万倍以上ありますので、人口も一万倍かもしれません。これは、太陽系の全惑星を足した数の何十倍にもなります。つまり太陽で暮らす生命体が主流で、惑星に住む者たちは辺境に住む田舎物です。その中でもレベルが特に低いこの地球は、もっと頑張らなくてはいけません」
波塁は建物を出たところで、アルテミシアに話しかける。
「ありがとうございました、興味深い話を聞けました。まだまだ知らないことが多そうですね」
「私も初めて聞いた話がありました。もっと勉強しなくてはいけませんね」
「ところで、アルテミシアさんは、私につきあってこんな事していても良いのですか、たまたま出会っただけなのに。何か用事があって歩いていたのではないですか」
「いいんです、ここは自由なので、思ったことをいつでも何をしてもいいのです。それより、階層を上がることにより出来る事が広がるのはなぜだと思いますか。飛べるようになったり、瞬間移動できるようになったり」
波塁は少し考えてから答える。
「霊性レベルに応じた報酬のようなものでしょうか。向上のためのモチベーションになるとか」
「そういう意味もあるかもしれませんが、一番は、霊性向上の妨げになるからだと思います。例えば、子供が瞬間移動を使えるようになったとします。すると、歩く、走るという事をしなくなるでしょう。これでは基礎的な訓練ができませんので、成長が見込めなくなります。つまり、レベルに応じた能力を与えないと成長を阻害することになるのです」




