侵攻
サンラジャールの首都イテナヤの北に広がる大平原に、各地から兵が続々と集結し始めていた。その数およそ11万。
総大将ドラゴは、幹部たちを前にして、
「野蛮なる西方諸国より、度重なる侵略にて蹂躙されてきたわれられもついに立ち上がり、神の法を示す時がきた。まず手始めにラニアグラトを攻略する」
サンラジャール軍は、北方ルート、西方ルート、南方ルートの三方に分かれて進む。それぞれのルート上にラニアグラトの支城があり、おのおの500前後の兵士がいるものと思われる。また、7つの砦があるがこちらは100名未満の兵士しかいないものと思われる。
まず、4万ずつの部隊が、北方ルート、南方ルートより侵攻を開始した。すぐにラニアグラト軍へ情報が伝達される。
ラニアグラトは町全体が高い城壁に囲まれており、5万人程が暮らしている。このうち兵士は5千人程だが、徴兵により8千人は確保できるので総勢1万3千の兵士となる。野戦では敵わないが籠城であれば10万で攻めてきても容易には落とせない。このため、籠城している間に他国への援軍を要請することにした。
北方ルート、南方ルートに分かれたサンラジャール軍は、各々ラニアグラトの支城前に2千の兵を残してラニアグラトへ進む、2千の兵は支城兵が援軍としてラニアグラトへ向かうのを防ぐために支城に対峙して布陣している。
一日遅れで3万の兵が西方ルートよりラニアグラトへ向けて出発した。
三日後、三つの部隊は、ラニアグラトの周囲を取り囲み兵糧攻めに入った。サンラジャール側の事前工作として、数週間前より、城壁内で食糧を大量に買い付けて城外に持ち出しを行っている。また、1週間前からは夜盗を編成して、ラニアグラトへ搬入する商人を襲って荷物を奪っていたので、城壁内の食料は不足していた。
このため三日と持たずに城壁内市場の食料は底をつき、城内備蓄食料の配給が始まった。5万人を養う食料は節約しても3週間が限度と思われる。
そして、3週間が経過し、節約していた城内の食料はいよいよ底をついてきた。
その頃、ラニアグラトの西の森で動きがあった。ラニアグラトの隣国エラナスの援軍が到着したのだった。エラナスの人口は、ラニアグラトより多い6万人程だが、総兵力は1万強だと思われる。この森には兵の大半7千余りが集結していた。
エラナス軍は到着して敵の多さに驚いた。
エラナス軍の指揮官が作戦を伝える。
「敵はこちらの何倍もいるようだ、まともに戦っても勝てないだろう。また、敵の主力である騎馬兵に草原での戦いを挑んでも不利だ。この森に引き込んで戦う事にする」
エラナス軍の騎馬兵、800余りが森を出て、ラニアグラトの西門を囲んでいる兵に攻撃を仕掛ける。背後からの攻撃を想定していなかったサンラジャール軍の歩兵に混乱が広がったが、すぐに部隊を反転させ、エラナス軍の騎馬兵と相対した。しかし、エラナス軍の騎馬兵に押されサンラジャール兵が次々に倒されていく。これを見ていたラニアグラト軍は西門を開いた。2千程の兵が出てきてサンラジャール兵を挟み撃ちにする。
挟み撃ちにされたサンラジャールの兵は次々に倒されていった。やがて、サンラジャールの騎馬兵が援軍に来ると、エラナス軍の騎馬兵は反転し森を目指して撤退する。西門から出てきたラニアグラト軍も城に戻り西門を閉じる。サンラジャールの騎馬兵は、エラナス軍の騎馬兵を追いかけて森の中に入ると、あちこちに配置された馬防柵に阻まれ、立ち往生したところに矢が浴びせかけられた。
この最初の戦いで、サンラジャール軍の死傷者は千人近くになったが、ラニアグラト、エラナス軍に被害はほとんど無かった。
エラナス軍の次の攻撃は、騎馬だけでなく歩兵も加わって西門前のサンラジャール軍を攻めた。騎馬はサンラジャールが強いが、白兵戦では体格に勝るラニアグラト、エラナス軍の方が強い。2回目の攻撃でもラニアグラト、エラナス軍の圧勝になった。
二度の攻撃で自信を持ったエラナス軍は、ラニアグラトに一刻も早く食料を届けるため、次は総攻撃をかけて血路を開き食料の荷馬車を城に搬入する事とした。
早朝にエラナス軍の攻撃は開始された。全軍が喚声をあげて西門に迫る。西門前には6千近くのサンラジャール兵が待機していたが、ほぼ同じ数のエラナス軍に押される。そして西門が開いてラニアグラト軍が参戦すると、挟み撃ちにされたサンラジャール兵は総崩れになった。
エラナス軍が進む後ろには、食糧を積んだ、荷馬車、荷車が何十台と続いて進んでいく。
その時、縦に伸びて西門に進んでいくエラナス軍の側面に、総勢一万を超えるサンラジャールの騎馬兵が襲った。騎馬兵は、エラナス軍の兵士と、荷馬車の間に入り分断して、エラナス軍の背後から攻撃を開始する。大半が歩兵のエラナス軍は、騎馬に追い立てられ西門へ向かって逃げる。そしてほとんどが城に入ってしまった。食料は放置したまま。
ドラゴは、各部隊長を集め、
「ラニアグラトには食料が不足している上に、エラナス軍まで入城した。彼らは打って出てくるか降伏するかの判断を早急に迫られるだろう。全軍攻撃に備えよ」
サンラジャール軍は、後から参戦した2万を加えて、歩兵10万、騎馬3万の戦力となっており、ラニアグラトには東西南北に四つの門があるので、歩兵を各門に2万ずつ配備し、騎兵は、1万ずつ南西、北東に配備した。残り歩兵2万、騎馬1万は本隊で待機する。
城へ逃げ込んだエラナス軍の隊長は、すぐにラニアグラト王に謁見した。
王が、エラナス軍の隊長を叱責する。
「愚か者め、敵の作戦にまんまと嵌りおって、やつらの狙いは兵糧攻めだ。食糧がほぼ尽きているというのに、食糧を持たずに入城しおって」
「ラニアグラトの王よ、しかし我々は、ほぼ無傷で入城できました。両軍合わせれば2万近い軍勢です。やつらなど蹴散らしてしまいましょう」
「ここに来て見よ」
ラニアグラト王は、エラナス軍の隊長を窓のところに呼んだ。
城の最上層にある王の間から、城壁の外に展開するサンラジャール軍が良く見えた。
一目見ただけでエラナス軍の隊長は絶望した。各門にいる兵士だけで城内の全ての兵士と同じくらいはいるだろう。また、多数の騎馬兵も見える。かれらに勝つことは容易ではない。しかも食料が無いので、短期間で勝利しなければならない。
ラニアグラト王は降伏を決意し、サンラジャール軍に使者を送った。
そして、使者はサンラジャールから降伏条件を受け取り、城に戻って王に伝える。
「ラニアグラトについては、サンラジャールの傘下に入り、サンラジャールの法に従う事さえ誓約すれば良いそうです」
「おお、それだけか、それなら問題ない」
「しかし、一つ条件があります。ラニアグラト王から、エラナス王へ降伏の説得を行い。エラナスをサンラジャールの傘下に入れること。もし出来ない場合はラニアグラトに常駐するエラナス兵を全員処刑せよとのこと。それが出来るまではこのまま包囲を続けるとのことです」
「エラナス軍を当城へ入れたのはそれが目的であったか、サンラジャールとは恐ろしい男だ。皆聞いたな、エラナス軍の武装解除を行い、監視せよ」
早速、ラニアグラト王はエラナスへ使者を送った。エラナスへは馬で二日ほどかかる。
使者の話を聞いて、エラナス王は激怒した。
「ラニアグラトへ兵の大半を派遣したものがすべて捕まって、尚且つ降伏しろとは、どういうことだ」
怒りにまかせて、剣を抜き使者を殺そうと、使者に近づくところを側近が止める。
「ご冷静に、この使者を殺すと、7千の兵士が全員殺されます」
王は剣を収め王座に座り直す。隊長、副長などの顔が目に浮かんで少し落ち着いた。
「これはもう選択の余地はないでしょう、断っても十万の軍勢が攻めてくればいずれ滅ぼされます」
エラナス王は降伏を決意した。ドラゴは、二ヶ月もたたずに二カ国を征服したのであった。
ドラゴは、ラニアグラトと、エラナスに総督府を置き、各3千の兵を残して、イテナヤへ帰国した。
帰国したドラゴへの国民の熱狂ぶりは凄かった。町の入り口から、城へ向かう大通りは人で溢れており、イテナヤ市民だけではなく他の部族からも多数集まっている。
城では連日祝宴が開かれていた。各部族の代表者を前にしてドラゴは、
「神の正義が示された。彼の地で虐げられていた者たちも、これで安心して生活できるようになるだろう」
あちこちで歓声が上がり宴は盛り上がる。
一方、西方諸国の受けた衝撃は大きく、ヴォルツホーヘンを含めた諸国の同盟強化が進み、侵攻してくるサンラジャールへの備えが始まった。
それから二年間は、次の侵攻への準備と、新しくサンラジャールの勢力に加わった、ラニアグラトと、エラナス両国の統治に費やされた。サンラジャールの法に基づいて制度を変更して統治されたが、従来の租税が引き下げられた事と、経済の振興策により、両国ともに発展し、豊かになった。
しかしその反面、不満を持つ者が現れた、以前この土地に住んでいて、西方諸国へ土地を奪われた難民たちの帰国が始まったが、現在の土地所有者との調整はどうしても双方に不満が残る。また、租税を軽減したため、領主や、貴族といった者たちの収入が減り、旧支配者層も不満を持った。
そして、一番大きいのは人々の意識の問題である。従来侵略を続け領土を東に拡大していた西方民族は、東方民族を下に見ていた。よって、東方からこの町に新たにやってきた者たちは嫌われており両者には溝がある。特に成功している東方商人などは憎悪されていた。
二年後、ラニアグラトと、エラナスへ兵が集結していた。交通の要衝であるバルラン攻略のためである。バルランは人口13万で、この地域では最大の都市だ。古くから東西の貿易で賑わい、また、西方諸国にとっての戦略的な拠点としても重要だ。サンラジャール軍も今後西方諸国へ深く侵攻するに当たり、重要な軍事拠点となる。
ラニアグラトから7万、エラナスからは6万の兵がバルランへ向かって進軍した。四日後には全軍が、バルランを見渡せる丘の上を中心に布陣した。
バルランの町は、城壁に囲まれた旧市街に1万人程が暮らしているが、現在では、町の大半は城壁の外に広がっており、城壁内に籠城すれば、町の大半は破壊されてしまうため、町から東に出た草原に、バルラン軍のほぼ全勢力に当たる3万が布陣している。
また、同盟国タルルスから2万2千の兵が城の北西に布陣し、サンラジャール軍を北から睨む。そして、同盟国ハオドラから1万6千の兵が南西に布陣している。
また、ヴォルツホーヘンからの援軍4万3千と、大聖教会連合の所属騎士3千が数日中に到着する予定となっている。すべて合わせると11万を超えサンラジャール軍よりやや少ないものの互角の戦力となる。
ヴォルツホーヘンからの援軍が来る前に決着をつけようと、サンラジャール軍2万が正面のバルラン軍へ向かって進撃を開始した。しかし、城の前に何重にも設置された馬防柵に騎馬は動きを制限され、弓矢で攻められる。それに合わせて、タルルス軍とハオドラ軍が側面から攻める。序戦は、1時間もかからずにバルラン軍が撃退する形で終わったが、双方ともに大きな被害はなかった。前回の戦闘を教訓に騎馬対策をしていたために、最強の騎馬軍団を持つサンラジャールも容易には攻略できなかった。
4日ほどたって、バルラン軍へ援軍も到着し、さらに、2週間が経過したが、大規模な戦闘は起こらず睨み合いが続いていた。
こう着状態の中、サンラジャール軍の一部が、バルラン軍へ気づかれないようタルルスへ向けて進軍を開始していた。
そして深夜、サンラジャール軍約2万がタルルスへ迫った。
タルルスの町の人口は8万程で、肥沃な土地に恵まれた農業国であり、町を囲む城壁はなく小さな城を囲った城壁があるだけである。今回の戦いで、兵の大半が出撃しており、城を守る兵は千人もいない。
サンラジャール軍は略奪を固く禁じていたため、城へ続く町家には手をつけず、まっすぐ城へ向かい攻城戦に入った。城は小高い丘の上にあり、それに続く道も狭く兵の大量投入はできない。道を進むサンラジャール兵は、城壁から弓矢を浴びせられて少なからず犠牲が出たが、それにひるまず城へ向かった。
一方、バルランへ布陣していた2万2千のタルルス軍は、自国への攻撃の報を聞き慌てて、自国へ向かって帰り始めた。ヴォルツホーヘンからの援軍のうち1万もこれに続いて、タルルスへ向かう。バルランからタルルスへは、北に向かって二日ほどの距離だが、その間、サンラジャールの伏兵が何度も進軍を止めさせた。
そして、タルルスの町が見えるところまで近づいた時には、こちらへ向いて整然と布陣したサンラジャール軍が目に入った。すでに、タルルス城は落とされてしまっていた。
サンラジャール軍2万と、タルルス軍とヴォルツホーヘンからの援軍合わせて約3万は戦闘を開始したが、背後からサンラジャールの援軍3万に挟み撃ちにされ、タルルス軍と援軍は大敗し、バルランへ撤退したが、3万の兵のうち、バルランへたどり着いたのは、わずか4千程であった。
タルルスを落とし、意気上がるサンラジャール軍は、手薄となった北側から全軍で攻撃を開始した。しかし、騎馬対策を行っているバルラン軍に対し苦戦し、一進一退の戦いが続いていたその時、サンラジャール軍の本陣後方で動きがあった。この戦いに参加していた、以前からのラニアグラトと、エラナス兵合わせて2千余りが裏切って、サンラジャールの補給部隊を襲い、食糧や、矢、衣服などの物資を焼き払って逃げた。
食料の大半を失ったサンラジャール軍は、タルルスに3万の兵を残してやむなく撤退した。
イテナヤに戻ったドラゴは王の執務室で考えていた。
(われわれが統治を始めて、ラニアグラトと、エラナスは共に豊かになり発展している。また、犯罪も厳しく取り締まり、治安も良くなって、皆安心して暮らしている。それなのになぜ裏切る)
ドラゴの側近が、入ってきて報告する。
「裏切った者たちですが、その大半がエラナスから南西に3日ほどの距離にある漁村、ベスベナにおり、同志を募ってエラナスの奪還を目指しているようです」
「であれば、勢力が拡大する前に叩く必要があるな、よし、すぐに出撃する」
ドラゴは自ら、1万の軍勢を率いて、エラナスに向かった。エラナスに着くとすぐにエラナス常駐軍2万5千のうち、1万を加えた総勢2万の軍勢で、ベスベナ村へ向かった。
ベスベナ村もエラナスの領土内のため、ベスベナ村が裏切り者たちの拠点になっているのであれば、ベスベナ村自体も裏切り者という事になる。
ドラゴの軍勢は、森の中を進んでいた。ベスベナ村へはあと1日程で到着する。小高い丘から、進行方向を見ると所々煙が上がっている。小さな集落があるようだ。
集落に近づいてみると焦げ臭いにおいがする。いつか見た光景だ。集落の家はほとんどが焼き払われている。家の中には黒こげの遺体が見える。
(なぜ、こいつらは変わらないんだろう、サンラジャールの法に従えばみんな幸せになれるのに)
しばらく行くとまた村が襲われていた。
ここでは、死体をバラバラにして積み上げ燃やしたようだ。燃えきれなかった腕や足が絡み合っている。目の無い黒こげた顔がこちらを見ている。
ドラゴは激しい怒りを覚えた。
(こいつらはけだものだ、何を言っても無駄)
ベスベナ村近づいた時、ドラゴが命令する。
「お前たちも見ただろう、このような悲劇を繰り返さないためには、彼らは根絶やしにしなければならない。一人も生かすな皆殺しにせよ。加担した村人も同様である」
2万の兵士による総攻撃が始まったが、数や装備で圧倒的に有利なサンラジャール軍の敵では無く、もはや戦いではなく虐殺であった。
ドラゴはイテナヤに戻ると、次の戦いへの準備を始めた。
前回からの戦いから3年が過ぎ、サンラジャールは、再びバルランへの攻略へ取り掛かるにあたり、先に同盟国であるハオドラを攻める事にした。
ハオドラは、バルランの南に位置し人口6万程の国である。貿易港であるため、ここを押さえると兵站面で有利となる。海に広がる町は開放的で防御のための城壁などはない。岬の先に作られた城は小さく立派ではないが、天然の要害に守られており、城に近づくには1本道しかないため縦列で進む兵は砦からの的になる。
ハオドラ軍は2万程の兵を動員できるが、城のある港は人口3万程のため、王城には4千程しかいない。後は3つの支城と4つの砦に、有事において各地から徴兵されたものが集結するようになっている。サンラジャール軍は、まずハオドラの支城と砦を落とすことに注力し、1年をかけてすべての支城と砦を落とした。残るは王城のみである。
サンラジャール軍は、2万を動員しハオドラの港を占拠し、海の物流拠点を手に入れた。そして、難攻不落の王城前に5千の兵を配備し城を封じ込めた。城を攻めるのも難しいが、城から出てくるのも難しいので、出て来るまで放っておくことにした。
そして半年後、ハオドラ王は城から出てきた。ドラゴは、後顧の憂いを断つため、王一族は女子供含め全員処刑した。
次にサンラジャールは、バルランの支城と砦の攻略に取り掛かった。そして、2年をかけて、すべての支城と砦を落とすことに成功した。
そしてすぐに、サンラジャールは7万の兵を率いて、バルラン攻略へ向かった。タルルスからは1万5千、ハオドラから1万の兵も合流し、合計9万5千の兵がバルランを取り囲んだ。対するバルラン兵は約3万、ヴォルツホーヘンからの援軍3万、計6万の軍勢が町の外で布陣している。
数に任せて、サンラジャールは力攻めを行う。2時間ほどの戦闘で、バルラン勢は崩れ市街の方に後退を始めた。
バルランの市街地は大きく、町の入り口から城まで3kmもあり、尚且つ、広い道がなく狭い道が網の目のように広がっているため、サンラジャール軍は分散して町を進んでいく。ところが道は所々行き止まりになっており、立ち往生した時を見計らって民家から矢を射かけてくる。
あらかじめ市街戦を想定した仕掛けをいくつも用意していたため、サンラジャール軍は大打撃を受け一時撤退した。この戦いで、バルラン軍の死傷者約8千に対し、サンラジャール軍は1万5千もの死傷者を出した。
市街地の攻略に手間取っている間に、後方から大聖教会連合がタルルス、ハオドラの残党や、農民など、約1万2千を率いてサンラジャールの本陣へ攻めかかってきた。寄せ集めではあるが、恨みを持つ者たちは死をおそれず向かってきたため、本陣は崩され大混乱に落ちった。
この戦いで、2万以上の兵を失い大敗したサンラジャール軍は撤退した。
イテナヤに戻ったドラゴは、考えていた。
(今まで連戦連勝した事が慢心を生んだか。この敗戦は私の責任だ)
死んで行った将兵たちの顔が目に浮かぶ、次は絶対に負けない。
ドラゴは部下に指示を出す。
「征服をしても、我らに心服していないものが殊の外多いようだ。彼らの居場所を調べろ」
ドラゴの側近が聞く、
「彼らは野蛮で、こちらの味方につけることは難しいでしょう。見つけ次第攻撃してもよろしいでしょうか」
「許可する。見つけ次第皆殺しにせよ」
「協力者も同様でよろしいですか」
「よい、任せる」
サンラジャールの部隊は、征服地の残党や、不満分子などを見つけ次第皆殺しにした。
そして1年半後、ドラゴは、三度目のバルラン攻略へ向かった。サンラジャール軍8万に対して、バルラン軍は、ヴォルツホーヘンからの援軍を合わせて、6万が向かい打った。
前回と同様に、町の外ではサンラジャール軍が優位に進め、バルラン軍は市街地に後退する。前回の反省から、サンラジャール軍はすぐに市街地に入らず、市街地の北側から火をかけた。強い北風に乗って市街地は燃えて行く。
従来サンラジャール軍は、一般市民への略奪行為や、家屋への侵入、放火などを強く戒めてきたが、正義をなすための小さな犠牲としてなりふり構わない戦い方に変えていた。
この戦いで、両軍ともに一万人以上の戦死者を出し、市街地の3分の1が焼け、三千人以上の一般市民が犠牲になった。
サンラジャールは大きな犠牲を払ったが、三度目の攻略でとうとうバルランを占領することができた。サンラジャールは、バルランに5万もの兵を常駐させ軍事拠点としたが、それを脅威と感じた西方諸国は団結し、東の大国ヴォルツホーヘンと西の大国バーヌ、南の大国ラファリの、三国同盟を結んで戦いに備えたため、これ以降一進一退を繰り返し、10年の歳月が経過して今に至っている。




