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怠惰の町

「ここは怠惰の町だ、無気力なやつが多いので苦労するかもしれないが、一人で良いから向上心を目覚めさせるのだ」

 町とは言うものの、まともな家のようなものはなく、原始時代の小屋のようなものがポツリ、ポツリとある。

 近付いてみると、横になっている者、壁に寄り掛かっているものなどがいる。家の前で5,6人が話をしているようなので、そこに行って声をかける。

「中に入れてもらってもいいか」

 その中の一人が、

「ああ構わんよ、今こいつの話を聞いていた所だ、どうせ何もすることないから暇つぶしだ」

 その中の一人が生前の自分を語っていた。

「俺は、商人の家の二男として生まれた。家に金があったので、若い時は遊び呆けていたが、俺も一人前の商人になるために、うちのおやじの知り合いの家で、働きながら勉強することにしたのさ。だが、そこのおやじが悪いやつで、ちょっとでも失敗すると怒鳴りつける。それでも三カ月も我慢したんだが、とうとう頭にきて喧嘩になり家に帰った。家にいると、おやじが働けとうるさいので、それから2か所行ったんだが、こいつらもまた輪に掛けたように悪いやつらで、すぐに辞めてまた家に戻った。それからは家へずっといたんで、その後は特に話すことはない」

 話を聞いていた一人が、

「それはお前の我慢が足りなかったんじゃないか」

「俺は我慢したよ、あいつら本当に悪いやつなんだ。そんなやつを紹介したうちのおやじもとんでもないやつだ。あんなやつらのところで働かされたので、働く意欲が無くなって家にずっといるしかできなくなった。おかげでこんな所に来る羽目になった。あいつら全員許さないおれの人生を台無しにしやがって」


「次はおれの話をしようか、俺は若いころめちゃめちゃモテていたからな、何もしないでも女の方で勝手に俺を養ってくれていたんだ。凄いだろ」

「嘘つくなそんな話があるもんか」

 聞いていた男の一人がそう言うと、別の男が口をはさむ

「ここは精神だけの世界なんで、嘘をつけばすぐ分かる。これは彼の中では真実だろうな、どうせ相手は娼婦だろうが」

「お前娼婦を馬鹿にするな、健気ないい子たちだぞ、朝帰って来て疲れているのに、俺の食事の支度もするし、俺にこずかいまでくれた。俺にとっては天使のような存在だったな。そう言うお前はどんな人生だったんだ」

「俺か、俺はお前たちのように他人に迷惑をかけていない。いやむしろ人のためになることをやっていた」

「なんだと偉そうに、じゃあ何をしていたか言ってみろ」

「俺はな、毎日教会の前で人生相談に乗っていたんだ、そして相談料をもらっていた」

「どこの教会だ。アストリウス正教会か」

「いや、いろんな教会へ行った。どの教会もおれが行くと食べ物をくれるんだが、教会の前に長期間いることを許してくれないんだ、だから教会を転々としていたというわけだ」

「お前それただの物乞いだろ」

「ハハハハハハ」

 偉そうに説明していた男が、ただの物乞いだと分かるとみんな大笑いした。


 ここまでの話を聞いていたフリストが男たちに聞く

「みんな真面目に働いてこなかったようだが、働くっていうのはいいもんだぞ、どんな仕事でも誰かの役に立っている。こんなところ出て真面目に働いてみないか」

「真面目に働くぐらいなら、ここで下らん話していたほうがましだよ」

「こんな所に来るやつが、偉そうにするな。お前がそうしたいなら勝手にそうしな」

 なかなか手強い連中なので、フリストはあきらめて別の人を探すことにした。


 少し離れたところに一人でいる女がいた。身なりは修道女のようできちんとしており、無表情で座っている。他の者たちと違った雰囲気を持っているため、フリストは声をかけてみる事にした。

「あんたは、あいつらと話ししないのか」

 女は、フリストの方をちらっと見て、

「あの人たちは、人間のクズですね、話しする気にもなりません」

「俺も話を聞いてそう思った。だがあんたもここにいるという事は、同じようなものという事だろう」

「私は、若くして修道院に入り、死ぬまでこの身を神に捧げて生きて来たのです。なのになぜここにいるのか自分でも分からないのです」

 フリストは驚いた。神に祈りを捧げることで、フリストはここに来ることができた。それが修道院にいたのにどういうわけだろう。

「ここに来てからも神に祈りを捧げているのか」

「もちろんです。それぐらいしかすることがありませんから」

「不思議だな、俺は生前大勢の人を殺した罪で、暴力の地獄へ落されて苦しんでいた。ところが神に祈りを捧げたところ、守護霊様が現れてここまで導いてくれた。あんたが祈りを捧げても何にも答えていただけないのは、ひょっとして、修道院で相当悪いことをしたからじゃないのか」

「とんでもありません、悪い事は何一つしていません。これは神に誓ってそう言えます。ひょっとして、私には守護霊様がいらっしゃらないのでは、ですからいくら祈っても無駄なのではないですか」

「うーん、今までそんなことは聞いたことがないし、私の守護霊様は、信仰の有る無しにかかわらず、全ての人はすべて神の子であると仰っていた。ますます分からないな。あなたがどういう人生を送ったのか教えてくれるか」

「分りました。しかし、人にお話しできるような事は何もないのです。若くして修道院に入って、祈りの日々を送りそのまま年老いて死んだだけなのです」

「うーんなんだろう、やはり分からないね、あなたが意識していない何かに問題があったのではないだろうか。そう言えば私の守護霊様はこうも言っていた、正しいかどうかは己の良心に聞けと。自分自身に問いかけてみたらどうだろう」

「分りました自分の行動を思い出しながら、正しかったのかどうかよく考えてみます」

 そう言うと女は目を瞑って、自分のしたことに間違いがなかったか検証してみる事にした。


 朝起きて祈りを捧げる。そして朝食をとり、礼拝堂の掃除、その後昼食をとり洗濯、夕食の調理。そして夕食、祈りを捧げて一日が終わる。だいたいこんな日常を繰り返していた。そうして一年が過ぎ、十年が過ぎ何事も無く平穏な日々を積み重ねてやがて寿命を迎えた。

(あれ、私の人生に何か意味があったのかな)

 突然、不安な気持ちに襲われた。

(誰かの役に立ったわけでもないし、自分の成長につながったわけでもない。ひょっとして時間を無駄に過ごしただけ?)

 女は目を開けると、悲しそうな顔をしてフリストに語りかける。

「私は死んで天国に行くことを目的に修道女となり、日々神に媚を売り続けていたのです。しかし、人生で何も成し遂げなかったものに、そのような幸福が訪れるはずがありませんね。やっとわかりました」

 フリストは感心した。神はなんと公平なのだろう。うわべでは無く本当の姿を見ていらっしゃる。

「では、この町を出て、もう一度やり直そうか」

「分りました、連れて行って下さい」

 二人は町を出て行った。町の出口にはフリストの守護霊の他に、この女の守護霊だろう女性の守護霊が待っていた。その女性の守護霊がフリストに対して、

「ありがとうございました、やっと気づくことができました。これは自分で気づかないと、もう一度人生を始めてもまた同じことを繰り返すことになりますから」

 女は、自分の守護霊に対して、

「人生に立ち向かう勇気が欠けていたように思います」

 そう言うと二人は去って行った。

 フリストと守護霊は次の坂をのぼりはじめた。ここまで来ると大分明るいし、坂の勾配も緩やかだ。そして数時間歩くと坂を登り切った。


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