金欲の町
「今度は金欲の町だ、ここでも同様に一人救って来い。また、出口で待っている。」
今度の町は前よりも明るく建物もそんなに汚れていない。しかし、安っぽい感じがする。各家には低い塀があって庭があるが、庭には草木一本生えていないのでみすぼらしいし、赤く塗られた壁に、金色の窓枠。隣の家の壁の色は緑と、各家がてんでバラバラで調和していない。
また通りを歩いているやつを捕まえて案内させようと思ったが、誰も歩いていない。
仕方ないのでしばらく歩いていると庭掃除している女がいる。近づいて行くと向こうから声をかけてきた。
「こんにちは、見かけない方ですね、どちらから来られましたか」
「こんにちは、遠くの町から今日やってきました。ここは人が少ないようですね」
「みなさん働きに行っていないのです。この町の人は働きものですから」
「皆さんどんなお仕事をされているのですか」
「それは様々ですよ、でも多いのは市場ですね」
市場の場所を聞いたので、フリストは行ってみる事にした。
教えられた場所に行ってみるとレンガの壁が見えてきた。幅100mぐらいはありそうだ、入口らしきところから入ってみると、レンガの壁に四方を囲まれた広い空間の中に、10人位が座れそうなテーブルが、20~30ほどあるが椅子はない。テーブルの周りには人が立っており、大声を出しながら手で合図を送っている。そのテーブルの人たちを囲んで周りに柵があり、一般人は柵の中へは入れないようだ。そして周囲の壁には文字と数字が書かれており、数字はテーブルの人の合図を見ながら書き変えている。
フリストは、近くにいる男に声をかけてみた。
「何をやってるんだ」
「お前ここは初めてか、教えてやろうここは商品を売買する市場だ。仕組みは単純で、安く物を買って高く売るか、先に高く売って安く買う事が出来ればその差額が儲けだ。逆ならば損になる。簡単だろ」
「儲かったかい」
「今日は、87K儲かったぞ」
「Kというのは」
「Kは金貨のKだ、金貨87枚分だ」
「そりゃ凄いね、それ何に使うんだ」
「俺は儲かっても普段は使わないんだが、今日は気分がいいので特別に使っているところを見せてやろう。ついてこい」
男について、フリストは市場を出た。
「まずは飯だ」
そう言って近くのレストランに入ると男は、料理や、ワインを注文した。
「肉体がないので、食べる必要ないだろ、そもそも味がしないんじゃないか」
フリストが聞くが男は笑っている。
料理が運ばれてきた、見た目はうまそうな料理が並んだが香りがしない。食べてみようとするが、影見たいなのもので食べられない。飲み物もそうだ。男は、ナイフとフォークで食べる真似をしている。
「これに何の意味があるんだ」
「金持ちになったらうまいものを食う、そういうものだからだ」
よし次は、カジノに行くぞ
「カジノってなんだ」
「お前カジノも知らないのか、金をかけて遊ぶところさ」
カジノに着くと男は、カードゲームをし始めた。フリストはルールを知らないので横で見ていた。男は楽しそうにしている。
しばらくして、カジノを出る。
「今日の仕上げは女を買って寝ることだ。いくぞ」
「まて、もういい、おれは女のところには行かない。どうせ行ったって楽しくないからな。それより、他に金の使い道はないのか」
「そりゃたくさんあるさ、家を買ってもいいし、家具を買ってもいい」
「家を買ってどうする。寝る必要も、飯を食う必要も無いのに」
「そういうもんだからだ」
「金なくてもいいんじゃないか」
「今日何を見てきた、金がなければ何にもできないじゃないか」
「お前そんなことを繰り返していて空しくならないか」
「なんだお前、おれのやる事にケチをつけるのか、お前の飯まで奢ってやったのに恩知らずが」
男は怒って行ってしまった。
フリストはもう一度市場に戻って、別の男に声をかけてみた。
「あんた儲かったかい」
男は嬉しそうににやりと笑って、
「シッ、こっちへ来な」
男はフリストを市場の門の近くまで連れて行くと、
「誰が聞いているか分からないからな、ゆだんならねえ。もう連戦連勝で勝ちまくってるよ」
「どのくらい勝ったんだ」
「この数日で200Kは下らんな」
「あんた凄いな、ちなみにあんたはその金何に使うんだ」
「金は使わない貯めるだけさ」
「貯めるだけじゃあ儲けた意味がないだろ」
「お前は何にも分かっちゃいない、特別に教えてやるから家まで来い」
フリストは男について、男の自宅に来た。玄関の扉に鍵が3つ付いている。扉を開けて入ると中からも厳重に鍵をする。その先に頑丈な扉がありそこのカギを開けて入ると窓のない部屋があり、奥に金庫の様な扉がある。そのカギを開けると中は、2m四方ほどの大きさがあり、大量の硬貨らしきものが積まれていた。形は硬貨だが金属の光を放っていない。よく見ると緑青に覆われた銅貨や、形は硬貨だが、土器のようなものなどが、とにかくたくさんある。
「おれは生きていた時、金がなくて本当に苦労した。ここでようやく夢を叶えたんだ。どうだい凄いだろ。金は使うんじゃなくて、こうやって眺めるためにあるんだよ」
フリストはあきれた。この男に何を言っても無駄だろう。
フリストは、今度は市場ではなく、最も金持ちそうな一番大きい家に行ってみる事にした。町の外れに大きな家が何軒かあるが、その中でもひときわ大きい家へ向かった。その家は、高い壁が延々と続き中は見えない、そして、大きな門がある。その門に2名の警備員が立っている。
「主人に会いたい、通してくれ」
「どなたですか、エンゾ様のお知合いですか」
「いや、これから知り合いになるところだ」
「なんだとふざけやがって、エンゾ様はお前なんかとお会いにならない。あっちへいけ」
無理やり通ることもできたが、フリストは、暴力は封印したので諦めて帰ろうとした。そのとき、通用口から女が出てきたので声をかけた。
「あんた、あの屋敷に住んでいるのか」
「そうです、あなた誰ですか」
「俺か、俺はそうだな天使かな、お前を救う事ができるが、どうだいついてこないか」
「からかわないで、私は用事があるんだから」
フリストは、歩いていく女についていきながら、屋敷の主人について聞いた。
屋敷の主人エンゾは、カジノのオーナーで大きな屋敷住んでおり、使用人が50名、警備員が100名ほどいる。彼らは、カジノで負けて借金を背負ったため無理やり働かされているらしい。
「別に借金なんかほっといて屋敷を出ればいいだろ」
「何を言うの、そんなことできないわ」
フリストは、エンゾに興味をもった。何とかして会う事が出来ないか考えたが良い方法が思い浮かばなかったので、カジノで負けて会う事にした。
カジノでは5K借りて、カードの勝負1回目で全て賭けて予定通り負けた。いろいろごねたりしてやっと、エンゾの部屋に通された。部屋は豪華に見えるよう装飾されているが、やはり地獄なので陳腐で汚い。大きな机があり窓を背にエンゾが座っている。周りに取りまきが4人おり、フリストを圧迫するように立っている。
「お前、借金を返すつもりはないようだな、それであればここで働いてもらう」
「そのつもりはない、それより聞きたい事がある」
取りまきが怒るのをエンゾは制して、
「なんだ、言ってみろ」
「お前は何のために金儲けをやっている。地獄じゃ金の使い道なんてないだろ」
「お前ここが地獄だと分かっているのか、面白い教えてやろう。おれは生前もカジノなどを経営して、大金持ちだったのさ。金があれば大抵の者は手に入る、うまい酒、料理、女、何でもだ。そして金のためなら悪いこともたくさんした。その結果、この金欲の地獄に落とされたのだ。確かにここでは、金儲けしても使い道はない。だが、借金をした者を支配し、好きなように使うという新しい楽しみを見出したのだ」
「つまり、罪悪感を利用して、支配しているのか。下らんお遊びだな。そこまで分かってなぜ向上の道を進まない」
「向上するという事は、神に媚びるという事。そしておれ自身の罪悪感と向き合い、長い償いの日々を送りゃなならん」
「しかし、永遠にこんなことを続けるつもりか、しかも人の罪悪感を食い物にして罪を増やし続けている」
「俺は百人以上の使用人を使っているが、彼らはしばらくすると消えていなくなるんだ。ここの使用人は、金銭欲から離れて一生懸命仕事をしている。つまり、ここでの仕事が金欲地獄からの脱出に役立っているのさ。案外、おれの罪は償われつつあるのかもしれないなと思っている。俺は、こうやって偉そうにしながら、楽々と罪を償っているのさ。ハハハハ」
「そこまで分かっているのならば、ここの生活はつまらんだろう、そろそろ向上の道に進んだらどうだ」
「お前は面白いやつだな、なぜおれを誘う」
「俺は、生前教会の名のもとに殺戮を繰り返し、その結果暴力と殺戮の地獄に落とされた。その地獄は酷いもんで、常に殺し合いをしている。教会では地獄に落ちたものは永遠の責め苦を味わうとされていたので諦めていたが、あるとき神に祈りを捧げたら守護霊様が現れて、地獄をここまで導いてくれた。どんな人間でも神はお見捨てにならない」
「そんな事は分かっている。だが・・・」
エンゾは机に目落とし、しばらく考えている。
「ハハハ、もう潮時かも知れんな、いつかはと思っていたが、最後のキッカケを待っていたのかもな。いいだろうお前について行くとしよう」
フリストとエンゾは町を出た。町の外にはやはり二人の白服の男が立っている。
「随分時間がかかったな」
「つまらん遊びでは、自分の心は騙せませんね」
そう言って、エンゾとその守護霊は去っていった。
「どうだこの町は」
「ここでは金銭は何の役にも立ちません。どうして無意味なものにこれほど執着するのでしょう」
「地上での体験は強烈だ。良い方向に行けば信じられないほど成長するが、悪い方に向くと恐ろしい程遠回りをする事になる」
二人はまた登り道を進み始めた。また数時間かけて登り切ると、遠くに小さい灯りがいくつか見える。




