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暴力と殺戮の町

 フリストは暗闇にいた。矢を受けていたはずだが、傷が治っている。

(もしかして死んだのか、死んだら天国に行けるはず、この暗闇はどう考えても天国ではないようだが)

 自分の周囲には、土の上にごろごろとした石が転がっているだけで他に何もない。

 しばらくして暗闇に目が慣れてくると道路のようなものが見えてきた。といっても、そこだけ石が少ないという程度ではあるが。

 フリストは他にすることもないので、その道路を歩きはじめた。一時間ほど歩いただろうか、しかし風景は変わらない、誰にも出会わない、何の音もしない暗闇が広がっているだけだ。

 さらに歩き続けていると遠くに音が聞こえてくる。歩いているとどんどん音は大きくなる、人の声もするようだ。

やがて高い壁が見えてきた。どうやら、城壁のようだ。道は城壁の門へ続いている。城壁には門はあるが、扉は破壊されており衛兵もいない。フリストはそのまま門に入った。

 その時突然、暗がりから二人の男が飛びかかってきた。フリストがとっさに避けて殴りつけると逃げて行った。城壁の中は外よりは明るいが、それでも薄暗い。太い柱の立派な建物が建っているが汚れて黒ずんでおり、窓ガラスは割れている。建物はたくさん建っているが、時代や様式がばらばらで統一感がなく一様に汚れて薄汚い。街を行く人々の服装も同様で時代や、住んでいた地域の違いなどばらばらで、所々破れたりしており薄汚い。

 あちこちで怒号が聞こえ、喧嘩をしている。何度か襲ってきたがフリストが殴りつけると逃げていく。とにかく勝手がわからないので、次に飛び掛かって来た奴を捕まえ地面に顔を抑えつけて、

「おい、ここはどこだ」

「痛い、痛い、逃げないからまずは放してくれ」

 フリストは、男を起こすともう一度聞いた。

「ここはどこだ」

「旦那、来たばかりですか、ここは暴力と、殺戮の町ですよ」

「なぜ、こんな所に来たんだ」

「旦那が望んだからですよ、死んで魂だけになったら、自分のふさわしい場所に自ら望んで行くんですよ」

「ばかな、おれは、アストリウス正教会所属の聖騎士、聖職者だぞ、死んだら天国に行くと決まっている」

「ハハハハ、じゃあここは旦那にとって天国という事ですね。こりゃいいや」

 フリストは考えた。俺はあの時死んだはず、であればここはどこだ。わからない・・・

 そのとき、調子の外れたラッパの音が聞こえた。

「なんだ、あれは」

「この街を治める皇帝がやってきます。道の隅に避けましょう」

 兵士がたくさん歩いてくる。その後に50~60人が曳いた大きな台車が続く、台車は5mほどの高さがありその上に、人相の悪い男が座ってふんぞり返っている。

「あれが、皇帝です」

 そのあとにも何百人かの兵士が続き、通りを過ぎて行った。

「何のための行列だ、どこに行った」

「何でもありませんよ、他にする事も無いのでああやって町を行進しています。特に意味はありません」

「よし、街を案内しろ」

 フリストは男に町を案内させた。

「ここは娼館ですね、でも行くのは止めた方がいいですよ、肉体がないのでいくら頑張っても快楽は得られません。でも不思議なのは、肉体は無くとも痛みは以前のままなのです。これも地獄の罰なんですかねえ」

「おい待て、ここは地獄なのか」

「いやあ失礼しました、旦那には天国でしたね」

 男は馬鹿にした顔でにやりと笑う。

 フリストは腹が立ったので、剣で男の腕を切り落とした。

「ギャー、痛い、痛い」

 男は泣きわめきながら転げまわる。しかし、しばらくすると腕は元通り戻る。

「本当に痛いのか試してみた」

「勘弁して下さい、自分の腕で試してください。」

「真面目に答えろ、ここは地獄なのか」

「私にとってここは地獄です。最初に言いましたが、死んだら自ら望むところに行くんです。生前女が好きだったやつは愛欲の町へ、金に執着があったやつは金欲の町へ、ここに来るのは生前人殺しが大好きだったやつばかりですよ」

確かに人はたくさん殺したが、好んで殺しただろうか、そもそも、異教徒を殺すことは正しいことのはず。

(もしかして、教会が間違っていたという事?、そんな恐ろしいこと考えたくもない)

 引き続きフリストは男に案内させる。

「ここが劇場ですね」

 中に入ってみると劇をやっており、内容は凄惨なばかりでストーリー性はなくつまらないが、観客には受けていた。

 つまらないので二人はすぐに劇場を後にした。

「お前の家はどこだ」

「家なんてありません。肉体を失ってここに来れば、寝ないし、食事もしないし、疲れないので必要ありません」

「じゃあずっとこんな風に過ごすのか、何か楽しみはないのか」

「さっきの劇場とか、図書館とかありますが」

「図書館があるのか」

「もうお分かりと思いますが、残虐な内容のものだけですぐに飽きますよ」


 二人がそうやって町を歩いていると、しょっちゅう人が襲ってくる。最初は相手にしていたが、やがて睨むだけで逃げて行くようになった。しかしここは、日も暮れないし夜も開けない、眠くもならないのでどれだけ時間が経過したか分からない。数日か、一カ月か。

 そんなとき、皇帝より戦争のお触れが出た。別に強制ではないが、特にすることも無いのでみんな喜んで参加する。

 皇帝の台車が町を出ると、台車についてだらだらと兵士が続いて行く、城門を出てしばらく行くとよそからも集まってきて、戦場に着くころには,お互い数十万の軍勢となり睨みあっている。もっとも、ここは暗いので、兵士たちに全貌は分からない。

 そして戦争が始まった、みんな嬉々として戦っている。フリストも戦いとなると興奮し躍動する。指揮系統はあったが、すぐに乱戦になり勝手に殺しあっている。ところが、いったん倒してもまたすぐに生き返ってくるし、全く疲労しないのでいくらやっても決着がつかない。どのくらい戦ったであろうか、一週間、一か月、少しずつ敵の人数が減って優劣がついてきた、皇帝軍の勝利だ。

 二人は、また皇帝の町に戻ってきて、暇つぶしに娼館や劇場に行ったりして過ごした。定期的に戦争があるのでまた出かける。これを何年繰り返しただろう。いつの間にか一緒にいた男がいなくなった。


 フリストは、いなくなった男の事を考えていた、それだけではない、戦争中にも人はいなくなる。なぜだろう。

 町の外に出て一人になって考えていた。神の法を犯した者は永遠に地獄で責め苦を味わうと教えられた。ここがもし地獄だとするといなくなるのはおかしい。

なぜ天国では無くここにいるのだろう、何が間違っていたのか、教会の戒律は何一つ破っていない。ではやはり教会が間違っていたのか、恐ろしい考えたくもない。

その時ふとある考えが頭をよぎった。

 サンラジャールは、フォロミラという聖書を持って戦っていた。フォロミラも我々の聖書も元は同じではないのか、つまり、同じ神を信じているということ。ひょっとして同じ神の子を殺していたのではないか。

 フリストは戦慄し、思わず神に懺悔した。

「おお神よ、お許しください。知らない事とはいえ同じ神の子を殺してしまいました」

 フリストは神に祈りを捧げた。

 そのとき突然、響くような声が聞こえたので、フリストは思わず目を開けると、白い服を着た男が目の前に立っていた。

「お前は間違っている。フォロミラを持っていたから神の子ではない。信仰の有る無しにかかわらず、全ての人はすべて神の子である」

「それでは、教会が間違っていたのですか」

「教会の事は知らぬ、正しいかどうかは己の良心に聞け、教会のせいにするな」

 フリストは己の愚かさに打ちのめされた。正しいかどうか自分で考えることを放棄し教会に責任を負わせて好き放題やってきた。村を襲って、女を犯し、皆殺しにした光景が目に浮かぶ。命乞いをする女の首をはねてテーブルの上に置きその苦悶の表情に大笑いした。

 戦場で殺した数多くの兵士たちにも悲しむ家族がいただろう。全部自分のしたことだ、誰のせいでもない。

「私はどうすれば、救われる道はありますか」

「お前の家族がお前のしたことをされたらお前はどう思うか、そんな奴が救われることを望むだろうか」

 いつも自分のことしか考えていなかった。そのことが良く分かった。

「罪を償うことはできますか」

 フリストは、弱弱しい声でつぶやいた。

「まだお前は、お前の犯した罪を本当に理解していない。それは、レベルが低すぎるためだ。まず自身のレベルを上げ、自分のしたことに真に向き合うことだ、そうして初めて罪を償うことができる」

「どうしたらレベルアップできるのでしょう」

「本気の言葉ならば、ついてこい」

 そう言うと白い服の男は歩き始めた。フリストは慌ててついて行く。草木の生えていないつづら折りの坂を数時間登ると平地に出た。

「これで地獄も一段階上がった」

 白い服の男はそれだけ言うと再び歩き始めて、さらに数時間歩くと遠くに都市らしいものが見えてきた。


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