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英雄サンラジャール

 十二代サンラジャール、本名ドラゴは、北の草原を治めるナイダン家に生まれた。北の草原で生きる者たちは、主に羊の放牧を生業として生活している。彼らは季節によって移動しながら生活するため、幼いころから乗馬を習い馬に慣れ親しんでいる。遊牧のための土地は広かったが、過去何度も他民族からの侵略によりその土地は次第に縮小して行った。このため、元々ばらばらで自由に暮らしていた草原の民たちをドラゴの先祖、ナイダン家がまとめ侵略に対応できるように軍として統率した。

 草原の民の戦力は馬である。馬を操ることに長けた彼らは無敵の強さを誇り、近隣の部族から恐れられる存在となっていた。そんな草原の民たちも約200年前に現れた初代サンラジャールの教えに接し、経典フォロミラを信奉する事となり現在に至る。

 ドラゴがまだ一〇代の時父が亡くなり、ナイダン家の当主となった。草原の民は、サンラジャール最強の戦力を持ちながら、野心に乏しく今までサンラジャールを輩出していなかったが、ドラゴは聡明で政治力を発揮し、若干37才の時、草原の民初のサンラジャールとなったのであった。

 そして、就任から5年後、今まで侵略されてばかりの西方諸国へ初めて戦いを挑み10年をかけて、5カ国を落とした。英雄の誕生である。


 ドラゴは焦っていた。周りからは、西方諸国を破った英雄だと思われているが、もう既に60才を過ぎてしまった。あと何年生きられるのか、小国を5カ国とったぐらいでは全然足りない。

 そのとき側近が部屋に入ってきた。

「サンラジャール様、サイカより使者参りました。お通ししてよろしいですか」

「通せ」

 サイカは東方の国である。東の国境で領土争いを行っている。

 サイカの使者が口上を述べる。

「本日は、サイカより使者として・・・」ドラゴはそれを遮って、

「降伏するのか」

 使者は一瞬ひるんだが、気を取り直して、

「休戦のために会談のお願いを・・・」

 ドラゴは使者の前に進み、使者が喋っている口に剣を突き刺した。使者は目を見開き口からは血が溢れてくる。ドラゴが剣を引き抜くと使者はうつぶせに倒れ、石で出来た床に血だまりが広がっていく。

「これが答えだ」


 別室で、4人の元老院が話をしている。

「各部族から不満の声が上がっています」

「税金の事ですね、これだけあちこちで戦争ばかりしているといずれ破たんするのではないでしょうか」

「戦争するのはいいが、勝っても収入につながらない戦いばかりじゃこうなっても仕方あるまい。この20年は西方諸国との戦いでかなりの戦力を投入しているが、一進一退するだけで戦果が上がっていない。そろそろ潮時ではないか」

「それを言ったら首が飛びますよ」

 元老院たちは沈黙する。本来元老院は強い権限を持ち、サンラジャールを含めた合議で物事を決める。ところが、民衆に絶大な支持を受ける英雄、十二代サンラジャールは絶対的な権力をもつ独裁者となっていた。彼自身も権力に酔っており、西方諸国をも支配する夢を持って、そのためならば、あらゆるものを犠牲にする覚悟で生きている。


 その日の夜、ドラゴは寝苦しさに目を覚ました。見知らぬ女がベッドの脇に立っている。

(何者!)

 声を出そうとしたが声が出ない。枕元の剣を取ろうとしたが体が動かない。

 女はベッドの横の椅子に座り、ドラゴの手を取ると目を瞑ってしばらくすると語りかけた。

〈私は神の使者です。あなたは志を誤っています。何をするためにこの世に生れて来たのか思い出して下さい。あなたの前世は、204年前フリストという名前でラニアグラトに生まれました〉


 ドラゴに前世の記憶がよみがえる。

 ラニアグラトは、人口5万人程の町で、ヴォルツホーヘンと同盟関係にある最も東の端の国である。異教徒の住む東の地域との境にあるため、軍備に力を入れており徴兵も合わせれば1万近い兵士を動員できる。さらに、アストリウス正教会所属の聖騎士も5百名近く常駐していた。

フリストは、普通の家庭に育ったが、身近に兵士を見て育った他の男の子と同様に、兵士になることに憧れていた。成績が優秀だったフリストは、23才の時、難関であるアストリウス正教会所属の聖騎士になることができた。


 ある日の夜、アストリウス正教会所属の聖騎士30あまりと、ラニアグラトの兵士50人程が小高い丘の上から村を見下ろしていた。よく晴れているが三日月のため暗く、虫の声だけが聞こえる静かな夜だ。

聖騎士の隊長が低い声で語りかける。

「今日の獲物はあの村だ」

 暗くて全体が良く見えないがほのかに漏れる明かりで、20~30戸ほどの集落のようだ。

 たいまつに火をつけると聖騎士30騎が丘を全速で下っていく。それに続いて、徒歩の兵士が走って追いかける。

 村に到着すると早い者勝ちで、家の中に入り略奪を行う。女以外は即座に殺し、女は順番に犯してから殺す。金品や食料などを奪い尽くすと家に火をかける。フリストも最初戸惑ったが、何度もしているうちにもはや何も感じなくなった。

ラニアグラトの軍隊は、分不相応な戦力を維持するため略奪することを黙認していた。また、アストリウス正教会は、異教徒は殺しても咎めない。それがいつしか、異教徒を殺すことを聖戦と呼ぶようになり、聖戦で命を落としたものは天国に行けるという間違った考えが広まっていた。


 ラニアグラト軍は異教徒には容赦せず、東方への領土拡大を行っていたが、あるとき、東方の異教徒をまとめる男が現れた。初代サンラジャールである。

 サンラジャールは、ばらばらであった東方諸国を、経典フォロミラを持ってまとめ上げ、軍隊を組織した。そして、西方諸国との国境にいくつかの砦を建設し兵を配備した。

 このため、東方への領土拡大に積極的であったラニアグラトも容易には侵攻できなくなってきた。


 その日もガダラン砦を陥落させるため、3千名のラニアグラト軍が包囲していた。しかし、籠城しておりなかなか落とせない。近づけば矢を射かけてくる。破城槌を台車に載せて門に近づいたが、近づいたところで、油をかけられ台車ごと燃やされてしまった。

 攻城戦では騎馬の出番はないのでフリストら聖騎士は静観していたが、1カ月たっても落城する様子はないので、参戦することにした。

 フリストは、包囲しているラニアグラト軍の隊長のところへ行って、

「このままですと、いつまでかかるかわかりませんね、そのうち援軍なども来れば厄介なことになるでしょう。私が中から門を開けますので、それに合わせて突入してもらえますか」

「どうやって中に入るつもりですか」

「お任せください」

 そう言って、フリストと10騎の騎士が砦に向かって駆けて行った。

 フリストたちは、砦の門の前まで行くと大声で、

「われわれは、アストリウス正教会所属の聖騎士である。この戦いには参加していない。長期に及んでお互いこう着状態にあるため、休戦の仲介をしたい。一時間後に返事を聞きに戻ってくる」

 フリストは隊長のところに戻ってくると、

「一時間後に、休戦の仲介として中に入り、中から門を開けます」

「それは無茶でしょう、武器は携行できないでしょうし中に入れるのは一人か二人」

「われわれ聖騎士には神のご加護がありますので」

 フリストは自信に満ちた目で隊長の方を見る。

「正面の部隊に伝令を送れ、門が開き次第突入するよう準備を整えておくように」

 隊長は部下に指示を出した。


 一時間後、フリストと10騎の騎士は、砦の門のところへ戻ってきた。

 フリストたちが砦の壁の上を見上げていると、大きな声で、

「休戦の協議に応じよう。代表者は中に入れ」

 砦側としても食料が底をつきつつあったので、今回の申し出は渡りに船でもあった。

 フリストと10名の騎士は馬を降り、武器を置いてから門に向かって歩きはじめた。

「中に入るのは一名だけだ」

 フリストたちは歩みを止めて見上げる。

「交渉内容を正確に伝えるため一人では無理だ、それであれば交渉は終了だ」

 フリストたちは踵を返して、馬の方へ向かい始めた。

「待て、三名ならば認めてやろう」

 フリストは、二人の騎士と目線を合わせて頷き、振り返って

「いいだろう」と答えた。

 フリストと二名の騎士は門の中に入った。


 門の中に入ると、フリストと二名の騎士は兵士に囲まれた。三名の兵士に続いて三人は進む。背後に槍を持った兵士三名、左右に一名ずつ。

 フリストは、2名の騎士に目で合図を送ると、三人は同時に振り返って後ろの三名の兵士に、懐の中に入れておいた砂を眼つぶしに投げる。ひるんだ所で剣を奪って、三人の兵士を倒す。

「お前たちは門を開けろ、おれはここで食い止める」

 二人の騎士は門の方に向かい、フリストは一人で敵と対峙する。

 前にいた3人の兵士が驚いて振り向いたところ、フリストは首に切りつける。血が噴き出し兵士は倒れる。横にいた2名が槍でフリストを突く、フリストは、避けながら地面に転がって兵士のアキレス腱を切り裂き、兵士はその場に倒れ込む。起き上がりざまに、鎧の隙間を狙って、脇腹へ剣を突き刺す。

 フリストの頭は冴えわたっていた。敵の刃がゆっくりと見え的確に弱点を突く。奥の方から、10人ほどの新手がやってくる。しかし焦りはない、戦いの快感に酔いしれていた。

 やがて門が開き、味方の兵士が入ってきたが、フリストは止まらない。ひとりで砦の中を進み砦の守備隊長を倒してようやく動きを止めた。


 この砦でのフリストの活躍はすぐに敵味方に伝わった。しかし、フリストたち聖騎士の真骨頂は野戦だ。少数の騎馬で戦場を駆けまわり敵の歩兵を蹂躙する。

 ラニアグラト軍とフリスト率いる聖騎士は、数年のうちにいくつかの砦や城を落とし、この日も敵の町近くで敵の防衛隊と対峙していた。

 敵は総勢2千程で丘の上に陣を構えている。味方は千5百。だが、フリストたち聖騎士が100名ほどおり楽勝ムードが漂っていた。

 いつものように、フリストたち聖騎士が先陣を切り前線の歩兵を切り崩す。それに歩兵が続いていく。騎馬は歩兵の守りを突破し、丘の上に上がったが本隊がいない。

「ム、罠か」

 フリストはそう言ったが、焦りはなく逆ににやりと笑った。

その時向こうから騎馬が二列縦隊で向かってくるのが見えた。

「続け!」

 フリストはそう言うと、敵の騎馬に向かって駆けだした。残りの者たちもそれに続き敵の騎馬に向かう。フリストたちは騎馬戦でも負けたことはなかった。

 フリストたちの騎馬が近づくと、二列縦隊の騎馬は左右に分かれ、一定の距離で取り囲むように移動する。小さめの馬に乗った男たちは、防具を着けていない。数は同じくらいか。

 敵の騎馬は、5,6騎単位で一定の距離をとりながら巧みに馬を操り、矢を射かけてくる。フリストは馬上で矢を射るのを初めて見た。槍や剣で戦うには近づかなければならないが、敵の機動力の方が上で近づけない。フリストたちは、あらゆる方向から飛んでくる矢に翻弄され混乱して隊列が乱れた。一騎、また一騎と倒され、気づけば半数ほどに減っている。初めて敗北を感じたフリストは、

「撤退、陣へ戻れ」

 そう言うと、馬を自陣に向け駆けだした。

そのとき馬が矢を受けたためバランスを崩し、フリストは地面にたたきつけられた。背中を強く打ち呼吸ができない。何とか立ち上がり剣を構えたが、フリストを恐れてか誰も近づいてこないで、遠目から矢を射かけてくる。防具を付けているのですぐに致命傷にはならないが、流れ出る血がやがてフリストの息の根を止めた。


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