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王の使者

 ブリュンヒルデは、自室で二人の司祭と向き合って座っている。その司祭とは先日アルテミ教会に一緒に行った二名だ。ブリュンヒルデは今年で35才になるが、二人の司祭もほぼ同年代と若い。一名はカールといい身長が高くて痩せている。彼は他の教会に所属していたが、数年前にアストリウス正教会へやってきた異色の経歴だ。もう一名はローレンツ、神学校を優秀な成績で卒業し、順調にこの地位まで上り詰めた秀才だ。

 カールが口を開く

「アルテミ教会は活気がありますね、元倉庫というのもあるでしょうが、気軽な感じが訪問しやすい雰囲気を作っていて、順調に信者を獲得しているのではないでしょうか。我々の信者も宗旨替えしているかもしれませんね」

「信者は増えているでしょうが、我々とは、信者層が被っていないので、収入に影響はないでしょうね、影響があるとすれば、セレル教会の方でしょう」ローレンツが答える。

 アルテミ教会は一般市民が主な信者となっている。それに対し、アストリウス正教会は、権力者や富裕層を押さえているためである。

「しかしこれで良いのでしょうか、世の中が発展するにつれて、富はますます富裕層に集中し、それを信者とする当教会も繁栄しますが、一方で貧しいものは貧しいままです」

 カールがそう言うと

「それは政治の問題でしょう、信者が自分に合った宗教を選び、信者を幸せに導くのが我々の仕事です。そうして適切に運用できているからこそ、病院などを通じて貧しいものへの救済も行えるのです」ローレンツが答える。

「しかし、豪華な教会、華美な祝祭、上層部は貴族のような生活をしております。もっと質素にして、その分弱者救済を行うべきではないでしょうか」

「おっしゃることは分りますが、それは他の教会の仕事ですね、国を跨いでこのように大きくなった当教会の権威は侮れません。各国は自国の統治に教会の権威を利用しているのです」

 二人のやり取りを聞いていたブリュンヒルデがカールに対して、

「アストリウス正教会は、大きくなりすぎました、小国に対しては国家として承認を与えるような立場ですらあります。権威ばかり大きくなりすぎてもはや宗教ではないのかもしれません」


 そんなとき、カシムと鵜電が帰ってきた。まずはお互い現状を把握するため情報収集を行う。鵜電は引き続きカシムを手伝いサンラジャールで情報収集を行い、波塁は西方諸国の状況を調査することとした。


 季節は真夏だ、日本の夏と比べると過ごしやすい、セミも鳴いていない。しかし、蚊の多さには参ってしまう。現地の人は平気そうだが。

 さすがに大都会だけあってアルテミ教会を訪れる人は多い。チラシの第2号にアレシュが取り掛かっているが、あまり急ぐ必要がないかもしれない。

 情報収集ということで、波塁は、クラウスのもとを訪ねた。

「おはようございます、クラウス院長。こちらよろしければどうぞ」

 波塁は、先日の薬草茶をクラウスが気に入っていたことを覚えていてお土産に持参した。

「ありがとうございます、早速いただきましょう。ところで、本日はどのようなご用件で」

「ご存知の範囲でお伺いしたいのですが、サンラジャールとの戦争の件です。きっかけや、経緯はどのようなものでしょう」

「わかりました、知っている範囲でお答えしましょう、今から20年ほど前に突然、サンラジャールが東から攻め込んで来たのです。あの辺りには、ヴォルツホーヘンとの同盟関係にある小国がたくさんあるのですが、何カ国か侵略されました。そこで、ヴォルツホーヘンおよびその周辺国が派兵し、戦争がはじまったのです。最初の10年で5カ国が侵略されましたが、その後10年は一進一退を繰り返している状況です」

「きっかけは、西方諸国が、東方へ侵略を行ったことが、原因ではないのですか」

「先方の目線でいえばそうなるでしょう、もっと昔から、何度も諍いはありました。しかしその当時は、この地域自体も小国が領土争いしていた混沌の時代でしたから。現在の宗教的な対立という見方をすれば始まりは20年前です」

「ヴォルツホーヘン対サンラジャールという構図でよろしいでしょうか」

「その通りですが、ヴォルツホーヘンを支援する国があります。それは、ヴォルツホーヘンと、西の大国バーヌ、南の大国ラファリの、三国同盟を中心に西方諸国連合として成り立っております。地域的にサンラジャールと相対するヴォルツホーヘンより東の地域が出兵し、他の同盟国は後方支援をしております。それに加えて、大聖教会連合の騎士も参戦しております」

「20年も戦争しているのであれば、国も国民も疲弊しているのではないですか、終結させるための努力はされているのでしょうか」

「サンラジャールの侵攻を食い止めるための戦いですから仕方ないのです。もちろん、使者を送ったりして話し合いをしようとしていますがうまくいっていません」

 クラウスの秘書が、波塁の持参した薬草茶を淹れてテーブルに置いた。クラウスはそのお茶を一口飲んでから、

「ところでなぜ戦争の事を聞かれるのですか」

「戦争を終わらせることができないかと考えておりまして、為政者にはできなくても神の力をお借りすればできる事があるかもしれません」

 クラウスはとんでもない話に驚いたが、奇跡を使える波塁ならばひょっとしたら可能かもしれないというかすかな希望を抱いた。

 波塁は今までの話を聞いて、

「それでは、ヴォルツホーヘン王が戦争をやめる判断をすれば、西方諸国連合も大聖教会連合も従うと考えてよろしいのですね」

「そうです、あくまでも当事者はヴォルツホーヘンですので、他国にはあまり関係ないことなのです。そして、ヴォルツホーヘン王はどうしたら戦争を終わらせる事ができるか日々考えておられます。おそらく領土や金銭で解決できるのであれば、かなり譲歩しても良いと思われているでしょう。しかし、話し合いを行うために今まで出した使者は誰一人帰ってきていません」

 波塁は、これはチャンスだと考えた。

「私をその使者にしてもらう事は可能でしょうか、どうすればできますか」

「本気ですか、誰一人帰って来てないのですよ。あなたはもっとすべき事があるのではないですか、アルテミ教会の活動は始まったばかりでしょう。もっとたくさんの人が救えるよう布教していくことがあなたの使命ではないですか」

「もちろん死ぬつもりはありません。これが終わればまた今まで通り活動は続けようと思っています」


 それから一週間後、ブリュンヒルデの紹介で王に謁見できる事になったので、ブリュンヒルデと波塁は王城へ向かった。

 門の前に王の親衛隊が待っており、案内してくれたおかげで、謁見の間までスムーズに通行できた。謁見の間は広く豪華である、金がふんだんに使われた装飾や、絵画など。天井にも絵が描かれている。しばらくして王が現れ王座に腰を下ろした。年齢は50才前後か太っており、威厳は感じられるが、にこやかにしており暖かい印象を受ける。

「ブリュンヒルデか、久しぶりじゃの元気だったか」

「王におかれましても息災のご様子で何よりです。早速ですが、本日はサンラジャールへの新たな使者候補を連れてまいりましたので、その許可を頂戴いたしたく参りました」

「あれは、使者を送っても無駄じゃ、犬死にするだけだぞ。何か良い策でもあるのか」

「はい、ここに控えるものは、アルテミ教会の代表波塁と申します。かれらは貧民などの弱者救済を目的にして、先日旧市場の倉庫で、アルテミ教会を立ち上げましたが、大盛況でどんどん信者を増やしております。われわれ、大聖教会連合は参戦していますが、アルテミ教会は戦争にはかかわっていないため、戦争に中立という立場であれば先方も聞く耳を持つのではないでしょうか」

 王は波塁の方を見て声をかける。

「波塁とやら、今までだれ一人帰って来なかったのだぞ、それでも良いのか」

「私たちの神も彼らの神も同じです。そして等しく神の子なのですから、分かり合えないはずはありません」

 波塁は王をまっすぐ見て答えた。

「分かった、許可しよう。詳細は大臣から伝える」

 

 後日、王からの書状を受け取り、領土割譲と金銭保証の条件などを聞いた。過去の使者がどこでどのように殺されたか不明なので、最少人数で行くこととなり、国軍からは、隠密行動の出来る2名が選ばれた。

 波塁は、国軍から派遣された2名と話し合いをし、道中は別行動をして、1ヶ月後にサンラジャールの首都であるイテナヤの郊外にあるパタナム遺跡で待ち合わせる事として別れた。

 波塁は、すぐに転送で移動し彼らが到着するまでの一か月間で、サンラジャールと事前に交渉し説得しようと考えたのであった。


 波塁と結火は、イテナヤにあるアパートの一室に転送した。部屋は市内の中心に近く集合住宅が密集している地域にあり、三階建ての三階で、土壁で出来ており古い感じだが、室内は広く三部屋と食堂、風呂、トイレが付いている。

 早速、カシムと鵜電から、サンラジャールの情報を聞く。

 サンラジャールは、28の小国から成り立っており、そこから選ばれた代表がサンラジャールの名を名乗る。現在の十二代サンラジャールは、すでに25年間に亘って代表を務めており、もう60歳を過ぎているが、勇猛果敢で現在も戦争の第一線で活躍している。

 それを補佐するのが元老院で4名おり、実質この5名がすべてを決めているとのこと。しかし、現在のサンラジャールは強大な権力をもつ独裁者で、元老院であっても容易に意見することは難しいようだ。

 波塁がカシムに聞く

「元老院のだれかと面会して、下交渉できないでしょうか」

「波塁さんは、今回正式な使者なので、まずは私が会って聞いてきましょう」


 そして五日後カシムは戻ってきた。

「元老院の中でも一番穏健そうなアゼルに会おうといろいろやってみたんですが、なかなか難しくようやくアゼルの秘書と会って話を聞くことができました」

「それで、交渉に応じてもらえそうですか」

「サンラジャールと直接交渉するのは無理です。降伏以外の交渉に来た使者はことごとく切られているようです。しかし、20年も戦争が続いているため、財政が悪化して来ているようで、元老院をはじめ、各国の代表者についても戦争を止めたいという気持ちを持っているようです。ただし、サンラジャールへ進言出来るものがいないのです」

「でも、なぜそこまで西方諸国への侵攻にこだわるのでしょう。しかも、ここ10年は一進一退と聞きました」

「どういうお考えで侵攻をしようとしているのかまではわかりません」

「では、あなたたちの経典フォロミラでは、戦争についてはどのように書かれていますか」

「フォロミラでは争いは認めていません。唯一敵から攻められたとき自分たちの身を守るという場合だけ例外的に認めています」

「経典に反したことをしているという事ですか、それでは、誰もついてこないのではないですか」

「表向きの理由は、本来サンラジャールの地であったものを西方諸国が占拠している。それを取り戻す戦いとしています。しかし、大昔から領土をめぐる戦争は続いており、どっちがどっちともいえないのです」

 波塁は思った。10年も成果が出ないのに続けているのは理に叶っていない。しかも交渉の余地すらない。何か特別な理由があるのだろうか、

 ひょっとしたら、サンラジャールは何か大きな間違いを犯しているのではないだろうか。

「結火の力で、サンラジャールの前世を調べてみましょう。そこに特別にこだわる理由があるのかもしれません」

 結火がサンラジャールの寝室に侵入し、寝ているサンラジャールから前世の記憶を読み取ってみる事にした。

 早速、ジョヴァンカと天狗6名が呼ばれた。波塁が話をする。

「サンラジャールの寝室の場所を突き止める事と、結火がそこへ辿りつける方法を考えてほしいのですが」

 ジョヴァンカが答える。

「簡単に言うけど、これは難しいよ。完全に闇に溶ける魔法を使えるのは、私と、赤烏の二人だけだからね」


 イテナヤの町の外側には城壁はないが、中央にある王城には高い城壁がある。王城は決して広くはなく、城内には、サンラジャールの住居と執政機関、親衛隊300名程が常駐しているだけである。門は3か所に限られ昼夜警備しており侵入は容易ではない。

 その日の深夜、ジョヴァンカと赤烏は、王城の門の傍の陰で姿を消して、侵入する方法を検討していた。

 門の前には2名の兵士が立っており、そして二つの篝火が周りを明るく照らしている。また、門は内側から閉じられており、外からの合図で門内の兵士が開けているようだ。

 ジョヴァンカと赤烏は、兵士の交代の時間を待って中に侵入することにしたが、闇に溶ける魔法は夜見えにくくなるが完全に消えるわけではない。篝火などに照らされると姿が見えてしまうため、篝火をどうにかしなければならない。

 しばらく様子を窺っていると動きがあった。どうやら、兵士の交代の時間のようだ。

 外側の兵士の合図で、通用口が内側から開き兵士が出てくる。その瞬間、ジョヴァンカが篝火に魔法で水をかけて消した。暗闇となり慌てた兵士がバラバラと門の外に出てくる。その隙を狙ってジョヴァンカと赤烏は門の中に入った。

 門の中に入ると二人は素早く茂みに隠れた。

 門を入ると正面に、城へ続く広い石の階段があるが、その階段には一定間隔で篝火が置かれているのでひときわ明るく、正面から進むのは難しそうだ。二人は左右に分かれそれぞれ闇の中を進むことにした。

 ジョヴァンカは左への壁沿いに進んで行く。壁沿いには木が植えてあり、また暗いため、難無く進むことができる。兵士の姿も無い。しばらく行くと明かりが見えてきた。馬の鳴き声がする、どうやら馬小屋のようだ。ここでは警備の兵士が歩いているのが見えたため、隙を見てそのわきを過ぎ裏手に出た。そこには家畜小屋があり鶏や豚などがいる。いくつか並んだ家畜小屋の中に今は使われていない壊れかけた家畜小屋を見つけ、その奥に入り床の藁などをどけて転送の魔方陣を書いて帰った。

 右手に回った赤烏は、無人となっている兵士の詰め所の横を過ぎて先に進んだ。するとその先に兵士の宿舎が見えてきた。深夜なので出入りはないようだが、衛兵が立っている。気づかれないよう慎重に暗闇を進んで、兵舎の裏手に出る。ここは厨房の入り口のようだが鍵がかかっている。その横にいくつかの倉庫が並んでいたので、施錠されていない倉庫に入り、片隅に転送の魔方陣を書いて帰った。


 次の日の深夜から天狗たち6人でサンラジャールの寝室の調査を開始し、一週間かけて王の寝室の近くに、長期間使用していないと思われる部屋を見つけ転送の魔方陣を書いた。


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