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タルシェフ村

 イレナは隣村からタルシェフ村への帰り道を急いでいた。彼女はタルシェフ村の教会に住み込み、孤児の世話をしている。タルシェフ村の人口は3000人程で隣村はその半分程度の小さな村だ。

 毎年春になると、食糧事情は悪化するのだが、今年はとくに戦争や、疫病などの影響で節約に節約を重ねた食料も底をついてしまった。そのためイレナは、隣村へ食べ物の寄付のお願いに行ったのだった。家々を訪問しその帰りであったが、表情は暗かった。

(どうしよう、いただいたのは親指の先ほどの小さなじゃがいもがほんの少し。子供たちの一食分にもならないわ)

 教会には、21人の孤児と3人の大人が住んでいる。


 隣村からタルシェフ村まではいくつかのルートがある。イレナは、馬車は通れないが最短距離の森を抜ける道を通っている。曇り空からは今にも雪が降り出しそうで、森の中は少しずつ暗くなり始めており、自然と急ぎ足となった。

 そろそろ教会が見えてくるといったところで、白い服を着た人が倒れているのが目に入った。


 誰かの呼び掛ける声が聞こえる。

 女の人のようだが、何を言っているのかわからない。英語、ドイツ語?

 土と、草のにおい。目を開けると地面の上に倒れていることが分かった。踏み固められた土の地面ではなく、草が生えている柔らかい地面だ。そして寒い。

(なぜ、こんなところに?)

 波塁は抱き起こされ、日本語で話しかけたが理解していないようであった。

 顔はフードでよく見えないが、黄色く輝く目、美しい鼻筋、透き通るような白い肌など、日本人でないことは明らかである。まだ若い20代か、かなりの美人だが、服装からすると修道女か

〈私の話すことが理解できますか?〉

 突然心の中に声が響いた。

〈あなたの心に直接話しかけています、聞こえたら返事をしてください〉

〈き、聞こえます〉寒さに震えながら波塁は答えた。

〈よかった、わたしは、イレナともうします。あなたは?〉

〈わたしは、波塁。・・・ハルイです〉

 イレナは、薄着で寒そうにしている波塁を立つように促し、自分のショールを波塁に掛けてやった。

〈もうすぐ日が暮れます、すぐそこに教会がありますので、とりあえずそこまでおいでください〉

 イレナについて、森の中の小道を通り5分ほど歩くと、教会のような建物が見えてきた。

〈私はここに住んでいます〉

 礼拝堂と思われる建物のわきを通り、レンガ造りの別の建物のドアをあけた。中はなかなか広く、20人程が座れるテーブルが二つある食堂のようであった。

 建物は古くあまり立派な感じはしなかったが、きれいに掃除されていたおり、テーブルは黒光りしていた。

 建物の中は薄暗く冷えていたので、イレナは、手早く暖炉に火をいれ、いくつかの燭台に火を灯した。そして椅子を暖炉の前へ持って行き、波塁へ座るよう促した。

〈そんな薄着で、あんなところで一体何を〉

 イレナはそう言いながら、波塁に毛布を掛けてやった。

〈助けていただいてありがとうございます。私も混乱してよくわからないのです〉

 波塁は、山を駆けていたこと、タスケヨとの言葉を聞いていたことなどはっきり覚えていたが、今話すべきでないと考えそう答えた。

〈ここには、教主様の父上と、私を含め二人の教士と、21人の子供が暮らしています。今日はここへお泊りください。しかし、食べ物はないのですが・・・〉

 イレナはテーブルの上に置かれた芋の入った袋を見ながら答えた。

〈教主、教士というのは〉

〈教主、教士共に神に仕え、教会の教えを広め、人々を導く仕事をしております。そして、この教会の代表が教主です〉

〈教主様はご不在ですか〉

〈ええ、戦争に出かけています。辺境にあるこの村も、領主さまが戦争をなさるときに招集がかかるのです〉

〈神に仕える者も戦うのですか〉

 イレナは、苦笑しながら、

〈教主は、戦死者を天国に送ることが仕事です、教主がいればこそ皆本気で戦えるのです。また、多くの場合異教徒を討つ戦いであり、私たちは聖戦と呼んでいます〉

(人を殺すことが、本当に神のみ心にかなっているのでしょうか)

 イレナは心の中でそう思いながら答えた。

〈ここは、私が以前住んでいた所とはずいぶん違うようだ、言葉がわからないし。そして、思念で会話できるとは・・・、こちらでは当たり前のことなのですか〉

〈思念で会話できるのは一部のもののみです、10人のうち1人から2人ではないでしょうか、この世界には多くの種族が暮らしており、言葉が通じない、または言葉を持たないものがいますので思念での会話が必要となることもあるのです〉

〈言葉を持たないものがいるとは・・・〉

(前の世界とは随分違うな)


 突然ドアが開き、舞い込む雪とともに一人の人物のシルエットが目に映った。

「ただいまかえりました」

「おかえりなさい、ハンナ」

「あれ、お客様?」ハンナはイレナに聞いた。

「隣村に行って帰ってくる途中、裏の森に倒れていたので連れてきたの」

 ハンナは波塁の前まで歩いて行き、

「わたしは、ハンナと言います、ここで子どのたちの世話をしています」

 ハンナは、40才ぐらいだろうか、食糧事情が悪いとは思えないような体形で、丸い顔をほころばせながら、波塁へ話しかけてきた。

「ハンナこの人に言葉は通じないの、わたしが代わりの伝えるわ」イレナはそう言うと、

〈このひとはハンナ、私と一緒にここに住んでいます。実は、食べ物が底をついたので、2人で村を回ってきました、ハンナはこの村、わたしは隣村を〉

「ハンナそれより食べ物を恵んでもらえた」

 ハンナは布の包みを開きテーブル上の籠の中にパン2つとリンゴ1つを入れた。

「ごめんなさい、私の方はこれだけ」と、芋の入った袋を差し出してイレナは答えた。


 今日の晩御飯どうしよう。

 ハンナは波塁の方へパンとリンゴをさしだした。

「どうせ全員が食べられないのであれば、せめてお客様に食べていただくのが良いわね」

 そのとき、奥のドアの方で物音がした、波塁は振り向いて、物音がした方を見てみると4,5人の子供たちがこちらを窺っている。

 子供たちは5~6才だろうか、痩せているのでもっと上かもしれない。

〈イレナ、子供たちには十分な食事が与えられていないようだね、不作で村の食料が不足しているのかな〉

〈いいえ、収穫は十分なのですが戦争への供出、働き手の従軍また、疫病の流行などが影響しているのです〉

 イレナは子供たちの方を見ながら、

〈ここの子供の大半は、戦争と、疫病によって孤児になった者たちです。そして、今日の晩御飯はこれだけなのです〉

 テーブルの上に置かれたパンを見やりながら、イレナはどうしようもない現実にため息をついた。


 このとき、波塁の心に以前聞いた声が響いた。

《タスケヨ、タスケヨ、奇跡を使え》

 波塁は戸惑った、奇跡を使う?、自分はキリスト教徒ではないので、よく知らないがイエス・キリストが食べ物を増やしたという奇跡は聞いたことがある。

 ひょっとしてそれか、

(食べ物を増やすことができるんですか?)と聞いてみたが答えはない。

 しかし、波塁は、不思議と出来そうな気がしてイレナに声をかけた。

〈イレナ、このパンは私がいただきます。しかしみんなで食べたいので、子供たち全員をここに呼んでもらえますか〉

 イレナは困惑した、全員分のパンがないのにいったいどうやって。

 その時突然イレナは、不思議な安心感に心が満たされて、困惑した気持ちが消えうせた。

〈わかりました子供たちを呼んでまいります〉

 と答えて奥のドアから出て行った。


 子供たちが集まってくるのに合わせて、留守にしている教主の父であるヤクブも現れた。ヤクブは先代の教主で今は引退している。70歳くらいだろうか、眼は白く濁り、子供たちに手をひかれゆっくりと歩いてきて席についた。

 目が見えていないのは明らかだった。

〈わたしは、ヤクブと申します。ようこそおいで頂きました。何もおもてなしできませんが、雨露をしのぐことはできますので、ゆっくりして行ってください〉

 ヤクブはいきなり思念で話しかけてきた。

〈ありがとうございます。ご厚意に甘えます〉

 子供たちは、波塁の方を気にしながらそれぞれ席についた。しかし、テーブルに晩御飯はない。

 最後にイレナが席について、全員そろったことを告げてきたが、4人ほど足りない。

〈4人は病のためここには来られません〉イレナが答えた。

 子供たちは、波塁に注目して、静かにしている。


 波塁はイレナに思念で語りかけた。

〈イレナ、私の言うことを皆に伝えてもらえますか〉

〈全員目を閉じてください、神に祈りを捧げます〉

「目を閉じてください、神に祈りを捧げます」

 イレナがそう言うと、全員目を閉じ、両手を組んで頭を下げた。

〈普遍なる神の愛を具現化し、神の子に祝福を〉

 波塁がこのように言うと、全員が春の日の温かさに包まれ、幸福感に満たされた。

〈目を開けてください〉

「目を開けてください」イレナが言う。

 目をあけるとそこには、籠から溢れんばかりのパンと山積みになったリンゴ、暖炉の横の大鍋にはなみなみとスープが満たされていた。

 大人も子供も目を見開き何が起きたのか理解できず、唖然としていた。

 波塁自身も驚き、改めて神に感謝の祈りをささげた。

〈さあ、神からの贈り物です、遠慮なく頂戴しましょう〉

「さあ、神からの贈り物です、遠慮なく頂戴しましょう」

 イレナがそう言うと、子供たちからは歓声が上がり、先を争ってパンにかじりついた。

 イレナ、ハンナは感動して涙を流していた。2人とも神に感謝を述べるとともに、ヤクブへ状況を説明した。

 ヤクブは波塁へ思念で語りかけた。

〈あなた様は・・・一体、まさか、預言者様では・・・〉

〈私は、預言者ではありません、人助けをするよう使命を受けたただの人間です〉

 ヤクブは、光を失った目を涙であふれさせながら感謝の気持ちを伝えた。

 次に波塁は、ヤクブの方に向き直ると、左手でヤクブの目を押さえ

〈神よこの者に再び光を〉

 波塁が祈りをささげると、波塁の手から、光が出たようにイレナには見えた。


 ヤクブは目の奥が熱くなった。

 ヤクブは、波塁の手が自分の顔から離れるのを感じて、ゆっくりと瞼を開ける。すると、真っ白な光に圧倒された。

 しばらくすると、こちらを見つめる見知らぬ男の顔、懐かしいハンナ、イレナの顔、子供たちの笑顔が飛び込んできた。

 なんと、これが神の御業か!、いままで生きていてよかった、奇跡を体験できるとは。ヤクブは感動して言葉が出なかった。

 ハンナとイレナは、続いての奇跡に驚きが隠せずしばらく唖然としていたが、やがてヤクブの手を取って喜びを分かち合った。

 パンに夢中になっていた子供たちもすぐに気づいて、大騒ぎになった。


 イレナは、スープを注いで回っていた。波塁の皿に注ごうとすると、波塁はそれを手で制し、

〈奇跡は、自分のためには使うことはできません、そのため私はハンナが苦労して手に入れたこのパンをいただくのです〉と答えた。

 そして、楽しい夕食が終わり、子供たちは、神に祈りをささげ、波塁に感謝のお礼の言葉をかけて部屋へ戻って行った。


〈次はここへ来ることが出来なかった子供たちですね、病の子供のところに案内してください〉

 波塁はイレナへ向かってそう語りかけた。

 ヤクブへの奇跡を目の当たりにしたので、イレナの顔は輝いた。


 イレナと波塁は、食堂から外に出た。雪が風に舞って服の中まで吹き込んでくる。イレナは左手で、コートの首元をギュッと握り、右手にはランプを持って足元を照らしながら別の建物へ案内した。

 建物の中に入るとすぐに、イレナはランプからろうそくへ火を移した。外よりは暖かいものの冷えこんだ廊下であった。

 すぐ右手のドアを開けると、あかあかと暖炉の火が燃えているのが目に入った。この部屋は暖かい。そして、静かだ。暖炉の薪がはじける音だけが響いている。この部屋には、4人の子供が寝ているのだが、寝息すら聞こえない。こちらに気づくこともなく寝入っているようだ。

 入口近くは、5才ぐらいの女の子が寝ており見かけは普通であったが、その隣の男の子は赤い発疹が顔中に広がって、ひどく汗をかいており発熱していることが窺えた。

 反対側には男の子2人が寝ていた。一人はやはり赤い発疹が出ており、もう一人は発疹が赤黒くなり肌も土気色でかなり進行していることが窺える。

〈この病気にかかると、まず発熱し、赤い発疹が出て、やがて発疹が黒くなって死んでいきます。発熱の段階で、治るものも半分くらいいますが、赤い発疹が出始めるとほとんど死んでしまいます。触るとうつるようなので、お手を触れないようお気をつけください〉

 イレナは自分の知っている範囲で説明した。

〈イレナこの子の名前は何と言いますか?〉

 最も重症と思われる子供に近づいて波塁は聞いた。

〈カミルです〉

 波塁は、カミルの額に手をおいて、

〈カミル今までよく頑張りましたね、神よ、カミルへ祝福をお与えください〉

 波塁の手より、あたたかな光が溢れ出し、カミルの顔を明るく照らした。

 波塁は、他の三名にも同様に祝福を与えたが、みな眠っており外見上変化は見られなかった。

〈これ以上できることはありません、後は神のみ心次第です〉

 波塁はそう言って、部屋を出ようとしたが、イレナはそれを制し、水盆を差出し波塁へ手を洗うよう促した。

 イレナは食堂へ戻りながら、波塁のしたことについて考えていた。

 ヤクブはすぐ見えるようになった。しかし、子供たちに変化は見られなかった。

(どうして違うんだろう、明日になったらよくなっているのかな。よくわからない、まあ、いいわ、いまは奇跡を信じましょう)


 食堂へ戻ると、ヤクブとハンナが待っていた。

〈如何でしょうか〉ヤクブが話しかけてきた。

〈できることはやりましたが、まだ分りません。明日また様子を見てみましょう〉

ヤクブとハンナは、波塁の方を向いてひざまずき、

〈今日はわれらを御救いくださいましてありがとうございました。是非、今後ともお導きを〉

とヤクブは思念で語りかけた。

 波塁は、跪いて祈るように語る二人に驚いて、

〈先ほども申しましたように、私はただの人間です。そのようなことはおやめください〉

 と言って、二人を立ち上がるように促した。

〈私も今日起きたことには驚いているのです、私自身これからどうすべきか考えてみますので、明日また相談させてください〉

 波塁がこのように言うと、ヤクブとハンナは、感謝の言葉を述べながら食堂を出て自室へ向かった。

 イレナは、波塁を部屋に案内した。質素な作りの部屋には、ベッドと机のみがあった。高い位置に窓が付いているのだが、月明かりなどなく、窓の外には闇が広がっている。

〈お恥ずかしいのですが、このような部屋しかありません。どうかご容赦を。差し出がましいようですが、修道士が着る衣服を用意いました、その、あまりに寒そうなお姿なので〉

 イレナはこのように言って部屋を出て行った。


 波塁は一人になって考えた。

 【奇跡】が起きた。いや、起こした。

 食べ物を出しただけでなく、治療まで。

 なんか自分じゃ無かった気がする。誰かに操られて。

 子供たち助かるかな、これでよかったのか?、これからどうすれば?

(こりゃアドバイスが欲しいな)

 波塁はそう呟くと、ベットの上で正座をして、

〈神よ、いろいろお教え頂きたいことがあるのですが、質問させていただくことは可能でしょうか〉

 とお祈りをし、しばらくじっとしていた。部屋は静まり返っており物音一つしない。自らの呼吸音のみが聞こえる。

 波塁は修行の日々を思い出していた。毎朝4時に起き、すぐに坐禅を行う。しばらくするといろいろな思いや、考えが消えて無音になる。

 いわゆる無の境地に至っていたのか分からないが、時間の流れが止まったように感じ、また、終わった後はすっきりとした気持ちになれるのであった。坐禅と祈りは似ているが、坐禅は無になることであり、祈りは気持ちを神に伝える行為であり、随分違っている。

 30分ぐらいしても何の答えも得られなかったので、あきらめて寝ることにした。


 波塁はベッドに入り、明かりを消した。窓の外の闇が、室内にまで侵入してきて真っ暗になった。

(そう言えば、奇跡は自分のためには使えないと言っていたな、だから質問できないのかも)

 などと考え事をしていたら、

《もしもーし、もしもし、聞こえますか》

《もしもーし、もしもーし》

 波塁の心に語りかけてきた。

(え、あなたは、あの時の声の主?)

《いやいや違いますよ、ぜんぜん感じが違うでしょ、僕は下っ端です。あの声のお方は、かなり上位の方で簡単には話しできないのです。上位の方は波動が高いので、あなたと会話するためには2名は間に入って波動を下げないといけません。前回お話ししたときは、私ともう一名間に入ることでようやく会話することができたんです》

 声の主は、一気に語りかけてきた。

 波塁は戸惑いながら聞いた。

〈いろいろ聞きたいことがあるのですが、昨日の声の主へお取次ぎ願えないでしょうか〉

《今日は無理だと思いますが、希望はお伝えします、では、これで》

 それっきり、声は聞こえなくなった。


 翌朝波塁は目を覚ますと、昨日の食堂へ向かった。

 食堂では、イレナが掃除をしていた。

 波塁に気づくと、すぐに近くまでやってきて片膝をついて跪き、

〈おはようございます、波塁様〉イレナは思念で呼びかけた。

 大仰な挨拶に、波塁は戸惑い

〈おはようございます、いや、普通にしてください、どうぞ立ち上がって〉

 とあわてて手を差しのべた。

 昨日の奇跡を目の当たりにしたため、波塁は聖人のように思われているのであった。

 しばらくすると、子供たちの話し声が聞こえてきた。ハンナが子供たちを連れて食堂へやってくる。

 ハンナが小さな女の子と手をつないでいる。その子供の方を見ながら、

「エミリアこのお方がお救いくださったのですお礼を言いなさい」

「ありがとうございます」エミリアは恥ずかしそうにそう言った。

「一番軽かったエミリアは全快しました。ほかの三人もぶつぶつが消えて熱が下がっています、しばらくすれば起きられるようになると思います」

 ハンナがそう言うと、子供たちは歓声を上げた。

 イレナはそのことを、思念で波塁に伝えた。

 波塁は一連のやり取りが理解できないことから、

(やはり早く言葉を覚えたほうがよさそうだ)と思った。

 この後ヤクブもやってきて、昨日のスープの残りで朝食をとった。

 食事の後大人だけになって、波塁は語りかけた。

〈ひとつお願いがあります。私は預言者でも聖人でもありません。ですから、普通に接してください。私は、奇跡を神から託されてきました。そして、奇跡を行ったのは昨日が初めてなのです。ですから、奇跡は私の力ではなく、原理も全く分かっていませんので、どんな場面で奇跡が起こせるのか、また、奇跡の効果が必ず表れるものかもわかりません。まずは、昨日のように病人の治療に奇跡を使ってみようと思います。皆さんの知っている範囲で病人のいる家を教えてください。治るかどうかわかりませんが家を訪ねてみたいと思います〉

 イレナは、ハンナにこのことを伝えた。


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