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新町建設

 クレメントの新町建設構想は、グルニチェの商人の間でも話題になっていた。限界が見えている城内での商売が、新町によって広がるというチャンスは商売人にとって見逃せない。クレメントの構想は、スラムより少し離れた場所に、グルニチェからの道路をひいて、その終点に、灰の森教会を建設する。そしてその道路沿いに商店、宿屋などを配置し、その後ろに、集合住宅を建設するというものだ。

 スラムの者たちは、商店などの雇用や、領主から借り受けた農地などで働くことで、収入を得る事を考えているが、病気などで働けないものもいるし、怠惰で働くことを嫌がるものも多い。この点を解決することがクレメントの仕事と思っていたので、イレナと共に度々スラムに入って、イレナは治療を、クレメントは勤労意欲を持たせるための教育を行っている。

 クレメントは、イレナを見て感心していた。どんな汚いところでもどんどん入って行って、治療を行っている。それだけでなく親身になって話を聞いてやり、なんとか役に立ちたいという気持ちで接している。

 クレメントは、イレナに惚れていた。不器用なクレメントは単刀直入に、

「私と結婚してほしい。この新町の教会が完成したら、一番に二人の結婚式を挙げたい。」

 クレメントのいきなりの申し出に、イレナは驚いたものの、

「わかりました、私でよろしければ」と答えた。

 他の教会では、聖職者に結婚を認めないところもあるが、灰の森教会では逆に奨励していた。結婚をすることで様々な経験ができるという事がその理由だが、特に子供ができると、無償の愛を与える経験ができる。ここが灰の森教会のスタートラインで、ここから、無償の愛の範囲を広げ、より多くの者を救う事に価値を置いている。


 レナータは新町建設にも関わり始めて多忙になったため、メイドを雇って家事をやってもらっていた。夫よりも帰りが遅くなり、帰ると夫が寝ている時もある。自然と会話も少なくなってきた。

 その日レナータは、クレメントを探していた。礼拝堂まで行ってみると、今日もスラムに出かけていることが分かった。

(今日は来客の予定があるのに)

 灰の森教会を訪れる者も増え、収入も安定し、使用人に給料も支払えるようになった。今日も昼間から何人も訪れて祈りを捧げている。

(自由奔放に活動するのは良いが、予定ぐらい事前に伝えてほしいものだ)

 祈りを捧げている人たちを見ながら、そのように思っていた時、夫の姿を見つけた。後方隅の席に座って祈りを捧げている。兵士を治療したおかげで訪れる兵士も増えているが、元々殺人はいかなる状況でも認めない灰の森教会の教義と兵士は相いれないはず。

 レナータはこの場で声をかけるのをやめ、帰ってから話を聞こうと思い早めに帰宅した。

 レナータが帰宅したとき、ハヴェルはすでに家にいた。レナータは、今日ハヴェルが教会で祈りを捧げていたことの理由を聞いた。

 ハヴェルは、困惑した顔でしばらく黙った後、

「君の病気を治した神に、聞いてみたい事があってね」

「神は何と答えられたの」

「いや、何も・・・」

 ハヴェルはため息をひとつついてから、すべてを話した。

 やっぱり。一度も見舞いに来なかったこと、家に帰ってからも一度も抱いてくれなかったことなど。なにかあるなとは思っていた。

「君を裏切ってしまって申し訳ない」

「それでどうしたいの、その女のところへ行くつもり」

「自分でもわからない、だから今日教会へ・・・」

 レナータは終わったと思った。人の気持ちなんて絶対変えられない。やるだけ無駄。考えれば腹が立つので、忘れて寝る事にした。


 結局二人は離婚することになり、レナータは灰の森教会の宿舎に引っ越すことになった。その後、義母や義父が何度か訪ねてきて、謝罪だの、慰謝料だのいろいろ言ってきたが、早く前に進みたかったので全部断った。


 その頃、結火とジョヴァンカがやってきた。結火の全身実体化に成功したらしい。なんでも禁忌とされている召喚魔法の古い本を見つけてきて応用したようだ。触った感じは肉体そのものなので、もうどこに連れて行っても安心だ。ただし、多くのエネルギーを使うため回復の時間が必要とのこと。昼間肉体化して、夜解放すれば回復するらしいので問題なさそうだ。


 波塁は、神の恩恵をもっと広げるため、この地方で一番の大都会であるヴォルツホーヘンへ向かう事を考えていた。ヴォルツホーヘンは人口50万の大都会で、アレクシス・ヴォルツホーヘン王の居城がある。王から参戦の要請があれば、周辺諸侯は従わなければならない力関係にあり、グルニチェもその一つだ。グルニチェから街道を西に、馬車で4日間かかる距離にあり、その街道沿いには、数十の村と、いくつかの灰の森教会がある。その最も西にある灰の森教会がヴォルツホーヘンにある。

 この最も西にあるヴォルツホーヘンの灰の森教会を拠点に出来れば、街道沿いの村への布教に効率が良いと考えた。当然、ヴォルツホーヘンへは転送できるようにする予定だ。

 結火の肉体化ができるようになったため、波塁と結火で向かう事にした。

 後は、レナータだよりになるが、彼女も多忙なため、クレメントがスラムからマクシムという男を連れてきた。ある国で会計士として勤めていたが、国の金を横領したことがばれて、家族財産すべて失って追放されたらしい。かなり優秀とのことだが、金を扱わせて大丈夫だろうか不安が残る。クレメントが保証するので心配するなとの事だったので、レナータの下につけて様子を見る事にした。それから、アレシュもレナータの下につけて手伝わせるようにしたので大丈夫だろう。


 いよいよ、ヴォルツホーヘンへ出発する。波塁、結火、ヘンリクの三名で出かける。無用なトラブルを避けるため波塁と結火はよくある商人の格好で、夫婦という事にした。ヘンリクはいつもの教主の格好だ。波塁、結火はそのままヴォルツホーヘンへ向かうが、ヘンリクは街道にある灰の森教会を回って、治癒の力を使う事で再建していくことにした。


 早朝のグルニチェを馬車で出発した。新緑の薄い緑が朝日に輝いてまぶしい。馬車の窓から、木々の香りと気持ちの良い風が流れ込んでくる。馬車は順調に進み、予定通り夕方にはサレトに到着した。

 サレトに着くと様子がおかしい、たくさんの兵士が警備をしている。馬車を降りるときにもいろいろ質問された。

 宿屋に着くと、大変な事件が起こっていた。宿屋のおやじが言うには、

 三週間ほど前、鍛冶屋のおやじが隣町の宿屋夫婦を殺したらしい。目撃者によると、「おれの息子をひどい目にあわせやがって」と言っていたようだ。確かに以前、鍛冶屋の息子がその宿屋で働いていたらしいが、もう何年も前の話なんで、いまさらどうしてかわからない。鍛冶屋のおやじもひどいアル中だったので意味が無いのかもしれないが。

 これだけならまだ良かったんだが、一週間後、鍛冶屋のおやじが殺人の罪で公開処刑された。死ぬ直前に、「おれは無実だ、おれは死んでもこの恨み忘れんぞ、悪魔となって甦り、お前たちに災いをもたらしてやる」と言って死んだ次の日から、殺人事件が次々に起こっている。動機もよく分からないし、それぞれの事件に関連性が無いので、いつ自分たちが当事者になるのか分からなくて、皆びくびくしながら暮らしている。


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