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兵士たちの帰還

 朝、ラッパの音がグルニチェの街に響いた、領主の帰還だ。

 灰の森教会は、西の城壁の側にあって領主の城からは離れており、帰還する領主一行を見ることができない。このため波塁は、教会の者たちと一緒に大通りの方まで歩いて行った。

 大通りはすごい人でよく見えない、そのため、カミンスキ家へ行って5階の窓から一行の様子を見ることにした。

 行列がやってきた、きちんと整列して進んでいる。先頭は馬に乗った領主のようだ、全身を金属製の鎧で覆い、馬にも装飾した防具が付けられている。その後に騎馬隊が旗を持って進む。その次は、槍の部隊、弓の部隊と続き、最後に馬車が何台も続いている。どうやら負傷者を乗せているようだ。出陣したのは、領主正規兵1200余り、徴兵2000余りそれと、教会連合所属の兵士500弱、全体で3700名程。このうち、戦死者、負傷者はどのくらいいるのだろう。

 負傷者はいくつかの病院に分散して送られるようなので、波塁は病院へ行って治療を行ってみることにした。まずは一番大きなアストリウス正教会の病院だ。

 この世界での医療は発達しておらず、出来るのはけがの治療や薬草の処方程度で、病気を治療するというよりは症状を緩和し苦しみを和らげる事を主にしており、そのために魔法を使って痛みを取るようなことは日常的に行われている。

 波塁が病院に着いたとき、まだ負傷者は運ばれていなかった。まず院長に許可を求めるため所在を聞いたが、受け入れ準備でそれどころでは無い様であった。いろいろ聞いてまわりながらやっと見つけた院長は、廊下を早足で移動中であった。歩きながら奇跡で治療を手伝いたいとの話をしたら、

「患者が助かるなら、奇跡でも魔法でも何でも使ってくれ」

 といって周りに指示を出しながら、行ってしまった。

 それからすぐ、負傷者が搬入され始めた。従軍医師が、重症度に応じて対処方法の指示を出している。病室が足りないので、廊下、ロビーなどどんどん運びこまれてくる。戦地で応急手当てをしているが、医療器具は十分でないため服の切れはしで止血したもの、骨折した足に矢を束ねて添え木にしたものなど外して、治療を行っている。

 波塁は、治療の妨げにならないように注意を払いながら、全員に、神へ治療の祈りを捧げたのだった。負傷者は三つの病院に分かれて収容されていたので、すべて回り終えたときには夜になっていた。


 波塁が教会に帰ってきたことを確認し、レナータは自宅に戻った。

(あれ、明かりがついている。夫が帰って来たのか)胸が高鳴る。

 自宅の扉を開けると、夫が食卓の椅子に腰かけてパンを食べていた。振り返った夫の顔は、ひげが伸び薄汚れていたが懐かしく、

「おかえりなさい、ハヴェル」

 思わず飛びついて抱きしめた。涙があふれてくる。ハヴェルはキョトンとして、

「おまえ、え、え、どうして、病気治ったのか」

 といったが、レナータはただ頷くのみ。夫に風呂に入るよう促し、レナータは夕食を作り始めた。

 風呂から出てひげをそった夫は以前と変わりなかった。二人で食卓を囲み、この1年間のお互いを語りあった。

 ハヴェルは、久しぶりに自宅のベッドの感触を味わった。

(もう5カ月になるか)

 まさか妻が戻ってきているなんて、


 翌日昼下がり、街道を進む兵士の一団があった。街道沿いにはたくさんの人が集まっている。

 騎馬が20あまり、歩兵が400名ほど、馬車が数台、隊列は乱れていた。先頭付近の一騎が隊列の後方まで進みながら、整列するよう指示を出した。

「タルシェフ村の者は前に出て整列。タルシェフ村の者は整列。」

 隊列の中から、ばらばらと歩兵が集まってきて一〇〇名程の隊列を作って並ぶ、馬車の中から下ろした負傷者を、並んだ隊列の後ろの方に連れていく。肩を預けているもの、担架に乗せられている者もいる。

 整列した隊列の前に先頭の騎馬がやってきて、ねぎらいの言葉をかける。そして、

「解散」

 の言葉と共に隊列は緩み、仲間同士で握手したり、抱き合ったりして無事を喜び合う。その100名余りの歩兵を残して、隊列はまた街道を進んでいく。隊列が過ぎ去ったあと、街道のそばで見守っていた人たちが兵士に駆け寄り、街道は人でごった返した。

 ヤクブは、ヘンリクを見つけて駆け寄る。ヘンリクはヤクブを見て驚き、

「父さん、目が見えるのですか」

「いろいろあってな、帰ってから詳しく話すよ」

 ハンナもやってくる。

(ああ、やっと帰ってきた。)


 ああ懐かしい教会だ、戦争の間に冬が過ぎ春になった。ヘンリクは風呂に入り、新しい教主の服に着替えて礼拝所に向かっている。子供たちが寄ってきて前に進めなくなった。みんな笑顔で元気そうだ、食べ物が十分であるか気にかけていたので安心した。

 礼拝堂で、祈りをささげた後、ヤクブ、ハンナに留守の間の報告を受けた。

(奇跡を行う、波塁様とはどのようなお方であろう。我々の信仰心に応えて、神が遣わしたのであろうか)

 子供たち、それから新しくユリアもそろって、久しぶりに教会で夕食をとった。

ハンナは、ヘンリクに元気がないように感じた。特にふさぎ込んでいるわけでもないが、前のように快活に笑って子供たちと話をする事はなかった。

(今はお疲れのことだし、すぐに元気になられるはず)


 夜みんなが寝静まった後、ヘンリクは礼拝堂へ向かった。祭壇のろうそくに火をともし祈りを捧げようとしていた。

 灰の森教会は、大聖教会連合には属していない。このため、教会として兵を出して戦いに行くことはないのだが、戦いで死んだ者を弔うため従軍する。ヘンリクは、今度の戦争もいつもと同じように従軍し、死者の弔いに加え、けがの応急手当てや食事の支度などを行った。灰の森教会は殺人を認めないため、いかなる命令であっても戦闘には参加しない。自分の命の危機が迫っても相手を殺すことは許されないので武器は所持しない。


 ヘンリク達の部隊は、砦で孤立する他国への援軍として森の中を進んでいた。味方は100名程の部隊で、半数が物資の運搬にあたっている。冬の森は寒く、夜は氷点下になった。敵のサンラジャールは南の国で雪など降らないが、この寒さを苦にせず、森の中から少人数で奇襲を仕掛け次々に味方がやられていく。砦が見える岩の上まで来たとき、80名まで減っていた。

 ここまで来ればあと10分もあれば付くだろう。全員に安ど感が広がった。急いで砦まで向かおうと思って駆け足になり、隊列が縦に伸びたところに、左右の森から敵が挟み撃ちを掛けてきた。

 部隊は大混乱に落ちいった。

 次々に倒される味方、ヘンリクは足を矢で射られ歩けなくなっている兵士に肩を貸して、砦に向かって逃げ込もうとした。

 あともう少しと思った時、衝撃が走って二人とも地面に倒れ込んだ。サンラジャールの大きな男が体当たりをして二人を押し倒したのであった。振り向くと黒いシルエットが両刃斧を両手で構え、一緒に倒れた兵士に向かって振り下ろすところであった。とっさに、ヘンリクは兵士が所持していた剣を握って、黒いシルエットの男に向かって突き刺した。

 男の動きが止まり、剣を持つ手に温かいものを感じた。剣から手を放すと男はうつぶせに倒れた。


 今でも目を瞑るとその光景がよみがえる。剣を持つ手に感じた血の温かさ。黒い教主の服に残った黒い大きなしみ。

(ああ、神はお許しくださるだろうか)

 静かな礼拝堂で一人祈りを捧げるのであった。


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