バロシュ商会
朝、アレシュがやってきた。とりあえず、無給でもいいので働いてくれるそうだ。
今日は、バロシュ商会へ行くが、まだ文字の読み取りに自信がないので、アレシュに同行してもらう事にした。結火は今日もジョヴァンカのところだ。
バロシュ商会は、カミンスキ家と同じ大通りに面しているので、歩いて5分ほどで着いた。建物の幅はカミンスキ家の半分程度だが、ここも5階建ての立派な建物であった。入口には剣を差した兵士二人が警備をしていたが、波塁と、アレシュが入口まで来ると、愛想良く、「いらっしませ」と挨拶をしてドアを開けてくれた。
中に入ると、受付にいた女性が立ち上がり、「いらっしませ」と挨拶をすると、後ろで机について作業していた10人ほどの人たちも一斉に立ち上がり「いらっしませ」と挨拶をしてきた。勢いに押されて、波塁と、アレシュは戸惑った。
後ろの人たちは、座って作業に戻る。
「ご用件をお伺いします。」受付の女性が、にこやかに話しかけてきた。
「あの、灰の森教会の波塁と言いますが、コンラート・バロシュさんにお会いしたいのですが。」
「バロシュ会長は不在で、三日後に戻る予定です」
(そうか、出直してくるか)
「あの、よろしければご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「はい、コンラート・バロシュさんにお金を借りているのですが、その件でご相談が」
「はい、それでは担当者を呼びますので、そちらにおかけになってお待ちください。」
受付の女性はそう言って、裏に引っ込んだ。波塁と、アレシュは受付の横にある長椅子に座った。
しばらくして、若い男が対応に出てきた。きちんとした身なりをしている。
「おまたせしました、灰の森教会を担当させていただいております、マルツェルと申します。失礼ですが、クレメント・ハラディル様でいらっしゃいますか」
「私は、波塁と申します。今日は代理できました。こちらは、アレシュといいます」
「わかりました、灰の森教会の代表者様もしくは、委任状がなければお手続きできません。今日は状況だけお伝えしますので、持ち帰って代表者様とご相談ください」
マルツェルはそう言って説明を始めた。
灰の森教会は三回に分けて合計金貨30枚を借りている。そのうち初回の金貨5枚について、返済期限が三か月超過している。現在のところ、利息及び遅延利息を合わせると、総額で、34.256となっている。(金貨以下は小数点)教会の土地、建物が担保となっているので、返済の遅延が続くようであれば、競売を行い強制的に徴収する。しかし、教会の土地、建物の資産価値が高いのですぐに競売にはしない。できれば、遅延利息は利率が高いので、借り換えた方が良いということであった。
「ちなみに資産価値はどれくらいですか」
「城壁内の土地は限られている上に結構広いので、約金貨1500枚で見積もっています。当商会では、見積もった資産価値の70%までは無条件で融資できますので、金貨1050枚までであればすぐにお貸しできます。」
(えー、つまり金貨30枚ごときでビビる必要無かったていう事?)
波塁は、急にお金持ちになった気がした。
「帰って教主と相談してまた来ます。」
そう言って波塁とアレシュは、バロシュ商会を出てその足でスラムへ向かった。スラムに入ると、波塁は昨日一日中いたので余裕だったが、アレシュは初めてなのでビビっていた。
クレメントの家に着くと今日も子供たちの元気な声が聞こえてきた。昼食の準備をする者、洗濯物を片づける者、水を汲んで来た幼い子供など、皆生き生きと働いていた。クレメントは、昨日の家の手伝いに出かけており不在だったので、子供たちに呼びに行かせた。
戻ってきたクレメントに経緯を説明して、バロシュ商会へ言ってくれるようお願いしたが、
「俺には分からないから、全部お前に任した。」
といって奥から、ぐちゃぐちゃに書類が詰まっている箱を出してきて、
「これで全部だ、後は好きにしてくれ。それより、お前凄いな本当に治ってるぞ、今朝見回りに行ったら、寝たきりだった爺さんが歩いていたぞ」
それだけいうと、また出かけようとするクレメントを押しとどめて、教主の代理としての委任状だけ書いてもらって町に戻った。
波塁とアレシュはカミンスキ家に戻り、書類の整理に取り掛かかる。教会の権利書や借用書など必要な書類をまとめて再びバロシュ商会へ向かった。
バロシュ商会で再びマルツェルと話し合って、これからの活動資金などを踏まえ、金貨500枚を新たに借りることにした。利息は年利20%で、返済期限は1年後。金貨500枚から、今まで借り入れた金貨34枚あまりは返済され、手持ちに50枚ほど残し、残り、金貨400枚余りは預金することにした。預金しても利息は付かないが、他の都市に行った時金を引き出すことができる。道中盗難の恐れがないため、商人から兵士まで広く利用しているようだ。
あとは、滞納している税金の支払いを済ませば、教会は再開できる。税金支払いの手続きはアレシュに任せてカミンスキ家へ戻った。
カミンスキ家では結火が待っていた。報告したい事があるという。
「転送魔法が使えるようになりました」
結火は、嬉しそうに報告してきた。褒めて欲しそうだったので
「え、本当に、凄いですね、さすが竜の一族きっての天才と呼ばれただけの事はありますね」
と、大げさに褒めてやったら、ちょっとドヤ顔が気になるが嬉しそうにしていた。実際、本当に凄い、魔法の才能があるものでも何十年とかかるようなことをジョヴァンカは言っていた。ただし、結火の場合、理論ではなくスキルでやってしまうので、他の人の参考にはならない。
早速、グルニチェのジョヴァンカの部屋から、ジョヴァンカの家まで結火の魔法で転送した。
着くとジョヴァンカがいきなり話しかけてきて、
「結火はやっぱり凄いね、今までの長年の理論が覆るんじゃないかという気がする。すごくワクワクするね、結火のように寝なくて済めばどんなに良いだろうか、ほんと時間が惜しいよ」
波塁は、身の回りの世話をするものを置いたらどうかという提案をした。ジョヴァンカはこの家に人を入れるのを嫌っていたので、しばらく思案していたが、秘密を絶対に守れると確信できたら、置いても良いということになった。
波塁は、転送魔法ができる人を増やしたいと思っていた。そのため、見込みのあるものを探してきてここに連れてこようと考えたのだった。
翌日アレシュがやってきた。昨日税金の納付を行ったので、明後日の朝差押えの解除を行うということだった。やっと、明後日からグルニチェでの活動が開始できる。波塁はアレシュに、クレメントへの連絡を頼み、結火と共にタルシェフ村へ行くことにした。
タルシェフ村への転送は行った事がないので、一旦、ジョヴァンカの家に行って、ジョヴァンカの案内でタルシェフ村へ転送を行った。タルシェフ村の転送先は、町はずれの納屋の二階にあった。以前は、牛馬の飼料を保管するために利用していたようだが、民家からかなり離れているので現在は利用されていない。このため、教会まで歩いて30分以上かかった。
一週間ぶりに教会に帰ってきた。寄付も順調で経営は大丈夫そうだ、信仰心も高まっているようで、前回の日曜礼拝は満員になったそうだ。
波塁は、ジョヴァンカと結火について、二人とも魔法で教会を手伝ってくれるとだけ紹介しておいた。これからの活動予定を説明した後、礼拝堂の地下にグルニチェとジョヴァンカの家への転送用の魔方陣を書いた。
食堂に、波塁、結火、ジョヴァンカ、ヤクブ、ハンナ、イレナで集まって、個別の指示を行った。
ヤクブについては、このまま引き続き信者を導く役割をしてもらい、グルニチェのクレメント教主へのフォローをお願いした。ハンナとイレナについては、ここでの孤児の世話を引き続き続けた上で、グルニチェでの孤児受け入れの際の手助けと、ユリアの受け入れをお願いした。そして、レナータについては波塁の秘書をお願いした。
全員が了解したあと、レナータだけ残ってもらって、波塁が話始めた。
「レナータさんには、教会が安定して存続できる仕組みを考えてほしいとお願いしましたが、グルニチェの町に行ってみて、いろいろな可能性を感じたのです。ですから、私の秘書として様々な経験を積んでいけば、そのアイデアが得られるのではないかと思います」
結火の事を含め波塁はすべてをレナータに話した。
レナータは、自分の想像を超えること、理解不能なことが多くて戸惑った。
「わからない事はそのままにして、先に進みましょう。そのうち分かってきます」
波塁ら三人は礼拝堂の地下に行き、波塁と結火はグルニチェに、ジョヴァンカは自分の家にそれぞれ転送で帰って行った。




