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7,なし‐パート2‐

あらすじ

 偽造カードの使用を疑われているのは、ムートだった。真実を見極めるため、観察を続けるアスカたちだったが……。


  「ムート……」


 目的を果たした俺は、すぐさま椅子から降りた。どういうことだ? ムートは何故ここにいるんだ。

それに……


  「どうやら、知り合いだったみたいね」

  「ああ……」

  「……そのお知り合いのほうよ。臭いがするの」


 こいつの話が本当だったとしたら、ムートは偽造カードの使用、すなわちイカサマをしているということになる。だけど、一体何のために? いや、というより。


  「なあ、やっぱりお前の勘違いってことはないのか」

  「それはないわ。だって、確かに感じるもの」

  「あいつがそんなことをするとは思えないって言うか……」


 あいつはいつだって正々堂々勝負する。勝利は自分の努力の結果。敗北は自分の未熟さ。勝利のためには努力を惜しまない男ではある。

 けど、同時に、ルールは遵守するやつでもある。いつだって正しくあり続けて、伸び悩んで苦しんだ時期もあった。それでもまた調子を戻して、ついには学校代表で大会に出場するくらいにまでなったんだ。


  「やっぱり、俺はあいつを信じるよ。あいつがするはずない」

  「……そう」


 彼女は眉をぴくっと動かし、目を細めた。なんだか悲しそうな顔に見える。同情のつもりだろうが、そんなものはいらない。その後、うつむいて目を閉じたかと思うと、今度は人混みの先に視線を向ける。


  「彼、思い詰めてる様子はなかった? 例えば、絶対勝ちたい、とか」

  「それは」


 さっきの授業中、たしかに、そんなことを口にしていた。信頼にほころびが生じる。


  「それか、奇妙なアプリがスマホに入ってたりとか」

  「!?」


 決定的だ。頭でそう理解する部分と、否定する部分とが内なる争いを始める。決着などつくはずもないのに。


  「自分に対して厳格な人でも、こういうものに手を染めるケースは少なくない」

  「それでも、信じたい。あいつを疑う気にはなれないんだ……」

  「そう。もう少し見ていればわかる。今、彼は手札に持ってるから」

  「持ってるって……」


 何を? なんて、聞くまでもなかった。自信が次第にしぼみ始めた。それは、自分の意識が彼女の言葉を肯定しつつある証拠のように感じられた。植物のツタが体に絡みついているような、圧迫感を覚える。体が少しも動かない。


  「たのむよムート……」


 すがるように小声で訴える。皮肉にもムートの次の行動は、真逆の証明を果たした。



  「俺は《かぎ爪のワイバーン》を召喚」

  「なっ!」


 目の前が真っ暗になったように感じる。俺が驚いたのとほぼ同時に、また大きな歓声が上がった。だが、そんなものは全く耳に入ってこない。

何も見えず、聞こえない状態の俺が馳せていたのは、いつかの会話だった。



………………


  「終わりだな。全クリーチャーで攻撃」

  「うわあああ!……なんてな。相手ターン中にマナが2以上ある場合、《ディープ・フォグ》を発動できる!」

  「なに!? そんなカードをデッキに?」

  「おう。何もなきゃ、《ディープ・フォグ》の効果で、このターンの戦闘ダメージをすべて0にする」

  「対応は……ない」

  「そっか。んじゃターンもらって、こっちも全員で攻撃(フルパン)。なんもなきゃ勝ち」

  「……負けだ」

  「よっしゃ~久しぶりに勝ったぜ~」


放課後の教室は、普段とは打って変わって物静かだ。残っているのは俺たちだけ。シャリバしてるのも俺たちだけ。だからどれだけ騒いでも良い。まあ、忘れ物取りに来たヤツとかが来たら悲惨だが。特に、俺らみたいな普段おとなしいヤツは特に。


  「まさかそんな使いどころのないカードに負けるとはな」

 

 敗北のショックからか、背もたれに体を預け、ひっくり返ったように天井を見上げていたムートは上体を起こしたかと思うと、ベアトラップのように身を乗り出してきた。

 口をついて出たのは、素直な感想だろう。そうとう驚いたようで、こちらもやった甲斐があったと言うものだ。


  「へへ、油断大敵だな。とはいっても、普通警戒しないだろうし、しょうがねえって」

  「……」


 黙り込んでしまった。相当悔しかったんだろう。が、負けは素直に認めるべきだと思う。

とはいえ、多少のフォローくらいは……してやらんでもないか。


  「ま、まあ、惜しかったよな」

  「……」


 めんどくせ~~!! こいつ負けるたびにこんな風になんのかよ。そんなんじゃやってらんないぜ?

と言っても良いが、言わない。そういう勇気みたいなものはない。


  「あ~、まあ、あれだな。《かぎ爪のワイバーン》でもありゃひっくり返ってたかもな~。結局のところ、カードなんて資産ゲーだしな~! あっはっは」

  「なんだよそれ」

  「へ?」


 なんか怒らせるようなこと言ったか? てか、なんでここまで気使ってやらなきゃいけないんだよ……。


  「だから、なんだその《かぎ爪のワイバーン》ってのは」

  「あ、あーそいうこと」


 紛らわしいんだよおまえ。こんなおっかねえ顔してなきゃぶちギレて応戦するとこだぜ。


  「《かぎ爪のワイバーン》ってのは、ドラゴンが与えるダメージをすべて効果ダメージに置換する能力と、効果ダメージを+1する能力持ったドラゴンだよ」

  「そんなカードがあったのか!」

  「まあ、結構古いプロモーションカードらしいから、なかなかお目にかかることはないんだと」


 俺も古い雑誌読んでて偶然存在を知ったって感じだし。

  

  「へえ……」

  「まあ、俺も見たことないし、そもそもどっかで売られてるなんて情報もねえし、あんま現実的ではないよな。それだったらもっと手近なカードで対策打てそうだし」

  「そう……だな」


 ……


 あのときのあいつ……そういえばずいぶんと気のない返事をしていた。まさか、あのときすでに……?

わからない。こんなこと、本人にしか分かりようがないことだ。今いえるのは、ワイバーンがとても貴重なカードだということ。


  「すげええ!! マジのワイバーンだ!!」

  「うそだろおい!! 世界に何枚あんだよあれ!?」



周りの熱狂で意識が呼び戻される。ムートのヤツがあんな貴重なカードを入手できる訳がない。

やっぱり、あいつは……。


  「アスカ。あのカード……」

  「……認めるよ。あれは間違いなく、偽造カードだ」


 興奮で二、三度は温度が上がっているであろう空間で、俺たち二人は冷め切っていた。

何故だ、ムート。なんで偽造カードを? なんで……


  「いけ。クリーチャーで攻撃!」


 なんでそんなに楽しそうなんだよ。


  「アスカ」

  「……」

  「落ち込んでるところ悪いけど、着いてきて。あなたなら、彼を正すことができる」

  「! 正す?」


 正すだって? 今からなら、あいつに偽造をやめさせられるってことか?


  「あなたならできる。そして、あなたにしかできないことでもある」

  「君は、誰なんだ? 一体……」

  「私はルカ。倉部(ぐらぶ)ルカ。あなたに救ってもらいに来たの」 


 


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