4,名誉‐プライド‐
なんかもう当分書きたくないというくらい疲れました
「よしっ!」
平日の昼休み。このタイミングで犀解高校の内部生用ウェブページに公開されたシャリバランキングをスマホでチェックし、思わず声が出る。前回よりもランクが10以上も上昇した現状なら、次はトップ10を狙えるかもしれない。
「ずいぶんうれしそうだな」
「おお、ムート」
後ろからムートが声をかけられて、反射的に画面を隠す。さっきまで席にいなかったのでどこに行ったのかと思っていたが、左手につかんでいるパンの入った小さなビニール袋で合点がいった。
「購買行ってたんだな。いねえからどこ行ったのかと思った」
「そうかい。それより、なにか良いことでもあったのか?」
「ん、まあ、な」
なんとなくシャリバの成績よくてさ~、とは言い出せなかった。最近あまり戦績が芳しくないムートにわざわざ言うのも、嫌みっぽいし。
「シャリバのランクか?上がったもんな、お前」
「え?」
今なんて言った?俺が座っている前の席に腰を下ろしたムートは、こともなげに言い放った。別になんとも思っていないのか、それともそういう風に振る舞っているだけなのか。ビニールを破り、取り出したパンをかじるその表情からは、何も読み取れない。
「俺も見たんだよ。さっき、購買で順番待ちしてる時に」
「そっか……。ああ、そうなんだよ。まあ最近調子良いみたいで」
「ふ~ん。頑張った甲斐があるな」
まさか地雷だと警戒していた話題を本人がわざわざ踏み抜いていくとは……。これがほんとのマインスイーパーなのだろうか。とはいえ、ここまで食いつかれると、お前はムート?、と聞き返さないのは逆に不自然なことになってしまう。あまり気を遣われてるとは思わせたくないし、どうしたものか……。
「ま、まだまだ俺にはほど遠いがな」
「え?」
「俺とお前の間には、まだまだ差がある」
「そんな、卑下する必要なんて無いぜ……?」
「ま、せいぜい精進することだな」
何言ってんだこいつ。まさか、ついに現実を受け入れられなくなったのか?それで自分に都合の良い妄想を?
何というか、哀れなやつだな……。少し残酷な気もしたが、やはり、現実を教えてやるべきだろう。友達として。あと、なんか言い方がちょっとムカついたし。
「なあ、ムート?お前、シャリバの話してんだよな?」
「?当たり前だろ。お前がランキング見て浮かれてたからその話題になったんじゃねえか」
「あのさ。もう一度さ、ゆっくり見直してみた方が良いんじゃないか?その~、ランキングを」
「なんで?」
「なんでって……そりゃ~なんつーか。“現実を見られてないやつ”がいるから?ここに」
「……あ~なるほどね。受け入れられてないってことか。ああいいぜ、もう一度見てみるか」
もうよせよ……そんなに強がるな。無理に笑うな。そんなことしたって虚しくなるだけだろ……。
これ以上自分を傷つけるなよ。
「お前のランクは14。前回が25だったから、かなりの上昇だな。で、俺はというと……」
もうやめるんだ、ムート。どんなに探したって、そこにお前の名前は……
「はい、1位!ま~こんなモンよ」
「は?」
……ほんとに1位だ。どうなってんだ?前回から調子悪そうにしてたのに。てっきり下位ランクだと思ってたんだが。
「お前、前回ランク外だったよな?」
「ああ。正直、あれはキツかった。だがもうスランプは抜けた。完全に復活だ」
なんだそりゃ。でも……そうか。もう調子を取り戻したんだな。
「そっか、よかったよ。正直言うと、心配してたんだ。お前のこと」
「!」
「なんか思い詰めてなければ良いなとは思ってたんだ。口には出せなかったけど。でも、ほんとよかったよ、立ち直ってくれて」
「アスカ……」
なんだか拍子抜けだが、よかったよかった。これでようやく、俺は俺のことに集中できそうだ。
「なんか、悪いな。気にかけてもらって。ありがとう」
「気にすんなって!あ、でも1位だからって安心すんなよ?すぐに俺が脅かしてやるからな」
「あ、ああ。望むところだぜ……」
「?」
なんか歯切れ悪いな……。まだ何か気になってることでもあんのか?
「なあムー」
「俺、次の授業の準備するわ」
「あ……」
行っちまった。なんだろう、なんか違和感があるけど……まあいいか。俺も準備しとこ。
「3組所属、馬波夢有人。彼だな、今回の1位は」
「ええ、そのようですね」
「ふむ……なるほど」
「……」
「なるほどな。なるほどなるほど」
「……」
「ふむふむ。なるほど」
「……聞いてほしいんですか?何を考えてるのか」
「フ、どうだろうな」
「はあ~。彼がなんだと言うんです?蓮ストン会長」
「うん、倉ロワくん、妙だとは思わないか?」
「妙、ですか」
「ああ。前回のランキングでのランクは圏外。上位50名にも入っていない」
「それが今回はいきなり1位へ……ですか。しかし、調べたところに寄ると彼は元々成績優秀な生徒でした。ポテンシャルは秘めていた訳ですから、別段おかしなことではないかと思いますが」
「ああ、その通りだ。彼が道を踏み外していないならば、な」
「何か確証でも?」
「この画像を見たまえ」
「これは……以前行われた試合形式によるテストのものですね」
「そう。これはその時の実際の映像から切り抜いたものだ。ここに移る馬波夢有人の手札に注目だ」
「……特に目立つ物は無いように見受けられます」
「パッと見ただけなら、その通りだ。次にこれを見るんだ」
「これは……馬波夢有人のデッキリストですか」
「ああ。ちなみにこれは今見せた試合の数十分前に提出されたものである、というのを念頭に置いて見てみてくれ」
「試合前!?だって、彼の手札には……」
「気づいたか。そう。馬波夢有人はデッキリストには記載の無いカードを手札に持っていた」
「そんな馬鹿な……生成を行ったというのですか、不正に」
「だろうな。学校内でもクラフターとしての資格を持っているのはごくわずかであり、その誰もが試合前に生徒、及び試験監督を務める教員との接触を禁じられている」
「しかし……そんなことが可能なのでしょうか……?」
「どうだろうな。私も確証を持って話しているわけではない。だからこそ、この件については慎重に対応していく必要がある」
「どうなさるおつもりです?」
「すぐにわかるさ。手は打ってある」
「おし、授業終わり~。つーわけで帰ろうぜムート」
「ああ」
サクッと身支度を済ませて、席を立つ。すでに準備を終えて待っていたムートと並んで教室を出るべく、ドアへと向かう。そして廊下へと出
「ちょっと待ちなよ」
る前に呼び止められた。黒髪のショートヘア女子。確かこいつは隣のクラスの……
「江藤井桜花。なんか用か?」
「????誰と勘違いしてるのか知らないけど、アタシ布里戸ね?布里戸ネネ」
「あっ……すみません……」
どや顔で言ったら人違いだったんだが。めちゃくちゃ恥ずかしいんだが。
「あ~、で用があるのは君じゃなくて……そっちの彼」
「なるほど。1位である俺に挑もうと言うことか」
「さっすが1位!話が早くて助かるよ」
「?知り合いか?ムート」
「いや、知り合いじゃない。が、知らないやつでもない」
「なんだそりゃ」
「布里戸ネネはランキング2位の生徒の名前だ」
「へえ~……って2位?この人が?」
「そ。アタシ、2位ィ~」
ニッと歯を見せ、右手でピースを掲げてくる布里戸。やばい、苦手かもこういう人。
「大方、俺の実力が本物なのか見に来た、というところか?」
「確かめさせてほしいんだよね。君の実力が“本物”なのか、さ」
「良いだろう。アリーナへ向かうぞ」
え?今から試合すんの?
「ええ……。俺先帰って良い?」
「ダメダメ。君には立会人になってもらわなきゃ」
「安心しろアスカ。そう時間をかけるつもりはない。これっぽっちもな」
「わかったよ……」
お前にそのつもりが無くたって、アリーナの使用申請には結構時間かかるだろ……。頭に血上りすぎだって。
結局1時間かかった。
「ルールはBO1の1本先取。異論は無いよね?」
「ああ」
「じゃ、早速……」
「「よろしくお願いします」」
ムートLP20 VS ネネLP20
ずいぶんと待たされてしまったが、ようやく試合が始まった。始まるまでが長すぎて俺はもう完全にどうでもよくなってしまったが、あいつら二人は待たされている間も集中を維持し続けていた。
試合が始まったのを見届けて、わきにある階段から上に上がる。見下ろせばすぐ二人が視界に入る位置に腰を下ろし、あぐらをかいた。
正直アリーナとは言っても、それほどの広さはない。そもそも、ここを使ってシャリバをするのは試験期間くらいなもんだし、雨の日なんかは第二体育館として運動部に使われる始末だ。
シャリバはeスポーツ、スポーツという分野に含まれる競技ではあるが、それほど広い場所を必要としない。なんと言ってもカードゲームだし。
じゃあなんでわざわざここに来たかというと、簡単だ。データなら不正に細工することができるが、リアルのカードはそれができない。カードのデータを読み込んだ投影映写機が、それに対応する映像をプレイヤーの網膜に直接届ける。
すると、実際にクリーチャーが目の前にいるように見えたりする。不正に作られたカードだとそうはいかない。
つまり、不正ができない真剣勝負をしたいやつがアリーナを使うというわけだ。そこまでこだわらないやつは使わない。
「てかまだ終わんねえのかよ」
もう始まってから結構経ってると思うんだが。ちょっと今どうなってるか見てみるか。
シャリバは網膜に映像を投影することで視認できる。つまり、離れた場所にいるやつはその映像を見ることができない。現に俺の目には二人が何もない空間を挟んで向かい合っている様にしか見えていない。俺も二人が見ている物を見るには、手持ちの端末から投影映写機に接続してストリーミングで見るほか無い。
これがまた非常に面倒。いい加減、空中に映像を投影できるようにならんか?ホログラムみたいに。ならんか?そうか。
お、つながったか。どれどれ、戦局は……。
後攻30ターン目 ターンプレイヤー ネネ
「やるな……」
ムートLP8
「君もね。でも、そろそろ終わりにしないとね。ドロー!」
ネネLP12
「よし、《剣姫・アシュレイ》!」
「!」
呼び出されたのは鎧に身を包んだ、麗しいブロンド髪の女エルフ……なのだろうか。俺のスマホだと盤面の画像しか見られない。格安スマホではスペックが足りない。
「アシュレイは【疾風】により、場に出たターンに攻撃できる!アシュレイで《竜の呼び手》を攻撃!」
「!?プレイヤーではなくクリーチャーを?」
「アシュレイの効果!クリーチャーを戦闘破壊したとき、貫通ダメージを相手に与える!アシュレイのパワーは5!よって《竜の呼び手》のタフネス2から超過した3点のダメージ!」
「これが狙いか……!」
「まだまだ!アシュレイの効果、【レベルアップ】起動!すべてのダメージが回復し、ステータスに+2/+2修正を加える!」
「何だと!?」
ムートLP5
おいおい負けそうじゃんあいつ。ここからひっくり返せんのかよ。このターンで7/7のアシュレイを処理できないと負けだし、たとえ処理できたとしても2枚目を握られてたら終わりだ。
「決着が付きそうですね……会長」
「ここで彼がどう動くかだ……」
「さあ~どうする?サレンダーでもしてみる?」
「ほざけよ……俺の、ターン!」
「!」
ジジジ……
ん?なんか今一瞬画面がおかしくなったか?
「!会長!今のは!?」
「これではっきりしたな……」
「……」
「君、何を引いた?」
「……お前を打ち負かすカードさ」
「へえ……」
「俺が引いたのは《不死鳥の庭園》!俺の手札のカードは、このターンの間俺とお前のLP差の分だけコストが軽減される!」
「!てことは、12-5で7か!……てことは!」
「俺は手札から《常勝将軍フォーテ》2体をノーコストで場に出す!」
「!?【疾風】持ちを2体同時に!?」
「終わりだ!フォーテ2体で攻撃!」
「ぐっ!」
ネネLP0
「すげーよ、ムート!さすが1位だ……!」
気持ちがすっかり高ぶった俺は、一目散にムートの元へ駆けつけ、賛辞を送ることにした。